クリニックの窓教えて、開業医のホント

バックナンバーはコチラ

患者さんの求めに応じて院内処方、往診、住宅医療もカバーする2代目院長

深沢 祐之 院長

深沢 祐之 院長プロフィール

東邦大学医学部大学院修了。医学博士、内科認定医、介護支援専門員、産業医、東邦大学非常勤講師、東邦大学医療センター大橋病院情報管理室長。
専門は腎臓内科、循環器内科。

 40年前に現院長のお父上である深沢英氏が開業して以来のつき合いという患者さんが多く、親から子へ、子から孫へと3代にわたって家族の健康管理を付託されているという。1996年に200mほど離れた現在地にクリニックを新築移転し、200平米の敷地内にはデイケアセンターも併設した。診察開始は8時40分からだが、深沢祐之院長は7時30分には玄関を開ける。患者さんが既に待っているからだ。診療を終えた夕刻から取材が始まったが、午後7時過ぎ、深沢院長の携帯に患者さんからの電話が鳴った。「それじゃ、8時頃にいらっしゃい」と声をかける。早朝、深夜を問わず、受診者を断らないのはお父上以来の深沢クリニックの診療方針である。


開業前後

病院風景01

 深沢院長は1990年に東邦大学医学部を卒業後、大学院に進み、消化器、循環器を専門にする東邦大学第3内科に入局した。入局して数年後に、お父上にがんが見つかり、いつかは継がなければと思っていた開業医の道が現実のものになったという。それから、猛然と専門外の勉強と経験を大学で積んだ。

 「時代はEBM全盛ですが、プライマリケア医が診るのはそれ以前の患者さんばかりなんですね。開業医は豊富な臨床経験がものを言うと思ったからです。」

 お父上は一進一退を繰り返しながら、亡くなる前日まで新クリニックの診察室で患者さんを診た。

 「診療が趣味のような人でした。朝早くから患者さんを診て、訪問診療もするんですね。患者さんが待合室にあふれ、玄関がふさがれてしまうんですよ。玄関まで患者さんがいれば、せっかく来院してきた患者さんも帰ってしまいます。だからリニューアルするときには、せめて玄関から受付までの通路は確保したかったんです。」

 新クリニックのレイアウトや設備には深沢院長のアイデアが詰まっている。玄関を挟んで内科用と小児科用の2つの待合室があり、小児科用待合室には子どもたちが遊べるように、可愛いすべり台が配置され、おもちゃやぬいぐるみがあふれる空間となっている。

 「新しいクリニックの図面を書くのは本当に楽しい一時でしたね。」

 深沢院長は結局、大学には15年在籍して、父上が他界したときに正式にクリニックを受け継いだ。

 「新しく開業される先生は大変だと思います。2代目は患者さんを引き継ぎますから、今までの患者さんのニーズに応える診療をしていればなんとかやっていけるものです。父がよかったとおっしゃる患者さんはどうしても離れていきますが、増患対策よりも今までの患者さんを大切にしたい思いの方が強いですね。」

 深沢クリニックのホームページは宣伝の色合いを全く感じさせず、医師の簡単なプロフィールと診療内容が簡潔に記されているだけである。


クリニックの内容・経営方針

病院風景03

 診察時間は午前8時40分から12時30分までと午後1時30分から6時までとなっている。月平均約2000人の患者さんが受診する。深沢院長がクリニックに出るのは毎朝午前7時30分で、既に患者さんが待っているという。診療開始までの1時間に数人の患者さんを診てから1日が始まる。

 「クリニックを受診する患者さんは日常にありふれた急性症状の方がほとんどです。その中から生命予後の悪い疾患を鑑別し、適切な薬物療法を行うのが内科医である私の役目です。内科学は診断学です。正しく診断して適切な薬物療法を行うからこそ、内科医を標榜できるのだと思っています。」

 投薬に関しても、こだわりがある。新しい降圧薬の臓器保護作用が喧伝され、製薬メーカーの売り込みも激しいが、一時のトレンドに流されずに信頼のおける薬剤を使うことを心がけている。

病院風景05  「的確に降圧を図るためには、何種類もある降圧剤の作用機序を知っていなければなりません。ARB、ACE阻害薬、カルシウム拮抗薬など、降圧薬の種類は非常に多いですが、高血圧はまず降圧効果が十分に得られることが第一の条件です。この条件に合った薬剤を適切に処方して、まず降圧を図ることが大切です。」

 検査機器も豊富に揃っている。高度な画像診断装置こそないが、各種血液検査、レントゲン(胸部、腹部)尿、便検査、心電図、超音波検査、感染症迅速診断を随時行い、胃がん、大腸がんの早期発見のために胃カメラ、胃透視、注腸(大腸バリウム検査)検査を行い、循環器領域では12誘導心電図はもとより、負荷心電図も随時行う。また不整脈の診断にはホルター心電図を活用する。



病院風景04  「CRPや血算装置は原価償却がなかなかできませんが、これがあると炎症性疾患の診断が非常に楽です。結果がすぐに出るので、専門の施設を紹介すべきかどうか判断に迷うときには有用性が高いですね。」

 新規開業の場合、導入するかどうか迷う検査装置の一つであるが、長い目で見れば導入しておくべき装置だと深沢院長は言う。
 内科を受診する患者さんはやはり高齢者が多い。往診は週2回だが、手が空いているときに訪問診療の依頼があれば駆けつける。

 「がん末期の患者さんには在宅で疼痛管理も行います。ご高齢で食事が喉を通らない方がいらっしゃいましたが、最後は皮下に注射して水分を補給しました。そうすると意識が戻り、最後は眠るがごとく亡くなられました。」

病院風景06  行政が在宅医療を推進する中で、開業医の訪問診療は地域の在宅医療を支える重要な柱である。今後、ますます需要が高まる分野だ。その一方で、狭心症や心筋梗塞の患者も受診する。血管内治療やバイパス術ができる施設に搬送するまでの20分ほどの間に適切な処置を行う。

 「一人しか医師がいなかったらとてもできません。私どもには3人の常勤医がいるからこそできることですね。」

 母上が小児科を担当し、深沢院長と大学時代の同級生で、今では公私両面のパートナーである千香子先生が内科を担当する。そのほか、非常勤で週1回ずつ内科医と小児科医が診察室に入る。常勤の看護師は3人、非常勤の看護師が数名在籍している。


病院風景07  「患者さんが最も多くなるのが2月から3月にかけてで、内科開業医の繁忙期ですね。流感の患者さんが増えますので、この時期の患者さんを一人でも多く診察することが経営的にも重要です。」

 深沢クリニックの特筆すべき特徴の一つは院内処方であろう。院外処方全盛のこの時代に院内処方にこだわる理由の一つは、小さな子どもを抱えたお母さんが薬局まで行って調剤してもらう煩雑さを考えてのことだという。薬価差益がほとんどなくなり、院内処方はクリニックにとってはむしろ重荷になるが、患者ニーズにこだわる深沢院長は院内処方を続けている。

 「私どもで使っている薬の在庫が外の薬局にないからでもあります。また、近くには薬局が全くと言っていいほどありません。患者さんにとっての利便性を考えたら、院内処方を続けざるをえないんですね。」

 43歳の深沢院長は後継者を育てるにはまだ若いが、思春期を迎えた子どもたちには「医師免許を取ってから、好きなことをやっても遅くはない」と、ご自身が父上から諭された言葉をかけているという。

 「それでも、彼らがどういう道を進むかは全く分かりません(笑)。」


地域の医療環境

 深沢クリニックの近くには深沢院長の母校でもある東邦大学医療センター大橋病院があり、少し足を伸ばせば国立東京医療センターがある。少ない患者情報から的確に診断して、専門治療が必要な場合は最寄りの専門医療機関を紹介する。プライマリケアを担う開業医の守備範囲は広い。深沢院長の診療姿勢にはどのような症状の患者が受診しても対応できる総合医としての専門家との自負が伺える。


院長のプライベート

 スポーツ以外の趣味は何でも一通りやりました。午後10時ぐらいから午前1時ぐらいまでが私の時間です。いつも何かやりながら寝てしまうんです(笑)。ただ、やはり仕事は気になりますね。難しい症例に遭遇して、いくつか検査を行って、病気を見つけたときは開業医としての喜びがあります。年間何十例もあるわけではありませんが、難しい病気の診断をつけられたときは嬉しいですね。


開業に向けてのアドバイス

病院風景02

 専門にこだわらず、何でも診ることが大切です。専門分野であれば、自分で最後まで診たいという気持ちも分かりますが、CKDのように増悪と寛解を繰り返すような慢性疾患の患者さんを多く抱えるのは経営的には難しくなるでしょう。開業医は患者さんを治して評価されるものです。がんを早期発見して、患者さんから喜ばれることもありますが、発見した医師より治療をして治した医師がもてはやされます。その意味ではプライマリケアの重要性がもっと評価されてもいいはずですが、社会的に評価されるよりも患者さんに喜ばれる診療を心がけることが大切です。

 最近は訪問診療も時間外診療もしない開業医が増えていますが、できれば在宅医療にかかわった方が経営的にもうまくいくのではないでしょうか。在宅医療のニーズは今後ますます高まりますから、労を厭わず、在宅医療で患者さんのニーズに応えることが開業医に求められる時代になってきていると思います。



タイムスケジュール

タイムスケジュール

クリニック平面図

平面図

クリニック概要

医療法人社団英寿会 深沢クリニック

  院長 深沢 祐之 氏
  住所 〒154-0016
世田谷区弦巻2-39-3
  医療設備 レントゲン、心電図、超音波、胃カメラ
  物件形態 -
  延べ床面積 60.5坪
  開業資金 -万円
  URL http://www.fukazawa-clinic.or.jp/
地図

2009.11.01.掲載 (C)LinkStaff

バックナンバーはコチラ

リンク医療総合研究所 非常勤で働きながら開業準備

おすすめ求人

  • 矯正医官
  • A CLINIC GINZA
  • フォーシーズンズ美容皮膚科クリニック
  • 長野県医師紹介センター