日々の健康上の問題に総合的に対処できる「家庭医」を目指して
黒須 譲 院長プロフィール
1960年、米国テキサス州で生まれる。日本のアメリカンスクールを卒業後、米国スタンフォード大学へ進学(数学科修士)。1986年にエール大学医学部を卒業し、UCLA付属医療センター麻酔学教室助教授等を経て、カリフォルニア州で1992年、麻酔科開業。2001年に帰国し、中垣医院の院長に就任。東京ミッドタウンクリニック副院長を経て、2009年2月にプライマリーケア東京クリニックを開業する。米国医師免許、日本医師免許、米国麻酔専門医、麻酔科標榜医、BLS、ACLS認定。
アメリカでは病気になると、まずプライマリーケアを行うファミリードクターの診察を受けるのが一般的である。必要であれば専門医のところに送られるが、ほとんどの治療はファミリードクターのクリニックで受けられる。一方、日本では症状によって、内科や整形外科、耳鼻科とそれぞれの科の病院に行くため、健康状態を総合的に把握する医師がどこにも存在しないということが起こってしまう。
日本人医師の父とアメリカ人の母の間に生まれ、海外で教育を受けた黒須院長は、患者さんの日々の健康上の問題に総合的に対処できる、アメリカ式の「家庭医」を目指して、東京の下北沢で開業した。日本に在住する外国人や地域の日本人に頼りにされる存在だ。
アメリカでの開業
黒須院長のお祖父様は耳鼻科の開業医で、お父様は東邦大学麻酔科の教授だった。黒須院長はそのお父様とアメリカ人のお母様の間にテキサス州で生まれ、その半年後、日本に来て、高校まで東京で過ごす。高校卒業後はアメリカのスタンフォード大学数学科に入学し、1年生の終わり頃に医学部進学を決心した。
「アメリカは医学部には、まず4年制の大学を卒業しないと入学できないので、スタンフォード大学で修士まで取ってから、エール大学の医学部に入り、1986年に卒業しました。」
大学を出た後は、UCLA付属医療センターの麻酔科レジデント、麻酔学教室助教授などを経て、1992年にサンディエゴで開業した。
「日本にはあまりない形態ですが、アメリカだと麻酔科医もいわゆる『開業』をし、病院で手術の麻酔をかける仕事をします。病院に雇われているのではなく、麻酔をかけて、その料金を患者さんの保険会社に請求し、報酬を得るという形ですね。」
クリニックのような施設はなく、事務所を設けて、専用の秘書が請求書の発行などを行う。また、麻酔科医のグループに属し、交代で当直を行ったり、休みが取れるようなシステムを作っていた。
麻酔科に進んだのは、やはりお父様の影響が最も大きいという。
「アメリカでは麻酔科医は、働く量を比較的コントロールしやすく、その割りに収入が悪くないので、ライフスタイルとしては良いとされていました。そんなこともこの道に進んだ理由の一つです。」
東京での開業前後
黒須院長はサンディエゴで仕事をしながら勉強し、日本の医師免許も取得した。2001年に帰国して、奥様の実家である名古屋市の中垣医院で院長を勤めた。その後、東京のミッドタウンクリニックの副院長を経て、2009年2月に世田谷区の下北沢でプライマリーケア東京クリニックを開業する。
黒須院長は東京に移る前から開業を考えてはいたが、いい物件が見つからず、具体的に動き出したのは開業の半年ほど前からだという。コンサルティング事業を行っている医薬品会社のアドバイスも得て、準備を進めた。
「自分のバックグラウンドから、外国人の治療を考えていたのですが、外国人が多い港区には既にそうしたクリニックがいくつかあり、物件の値段も高かったんですね。そこで別の場所を探したところ、代々木上原に外国人のコミュニティーがあることが分かったんです。そのため、代々木上原や自宅からも近い下北沢で開業することに決めました。」開業の資金は医療機器のリース代も含めて約6000万円で、国民生活金融公庫とリース会社からのローンなどで調達した。PR方法としてはオープン前に新聞折込と電柱広告、内覧会を催した。クリニックのホームページは黒須院長自身で作成したそうだ。
クリニックの面積は約33坪で、病院の内装を手がける建築事務所に依頼し、改装を行った。ビルの3階の光が差し込むロビーには、アメリカの画家、ロックウェルが描いた家庭医の絵が飾られている。
「アメリカンスタイルを取り入れたかったので、診察室は最低でも2つ欲しいと思っていました。アメリカでは普通、先に患者さんを部屋に通し、看護師が血圧などを測った後、医者が入ってきて診察します。医師が診察室から診察室に移動し、患者さんの部屋にお邪魔するといった感じですね。」
そのほかのこだわりとしては、プライバシーに配慮して、診察室をカーテンなどで仕切るのではなく、ドアがきちんと閉まるようにした。また、待合室は温かみのある塗り壁にして、患者さんがリラックスできる音楽を流している。
開業してから1年が経つが、患者数は当初の1日5人から、半年後には16人、現在は20人から40人の間を行き来している。
「増患対策としては、外国人向けの雑誌やサイトに広告を出したり、情報を載せてもらいました。また、各国の大使館や英会話スクールなどにパンフレットを送ったりしています。」
現在の患者さんは6~7割が欧米を中心とした外国人で、残りが日本人となっている。子どもから高齢者まで診ているが、大人は30~50代の比較的若い層が多いという。
クリニックの内容と特徴
内科、麻酔科、外科を標榜するクリニックの診療内容は風邪や腹痛、胃痛などの急性的な症状や高血圧等の慢性的な病気、健康診断、怪我や傷の処置、予防接種、HIV抗体検査、経口避妊薬(ピル)の処方、禁煙外来など、幅広い分野をカバーしている。小児から高齢者まで、各国の異なる背景の患者に対応している。
「アメリカではまずプライマリーケアを行うファミリードクターのところで診察を受けるのが一般的で、専門医に診てもらう必要があまりありません。ところが、日本では患者さんがどこの医療機関にも行けるので、様々な科のクリニックで診察を受け、複数の病院から同じ薬を処方されてしまうこともありますよね。そこで、私は患者さんの全体を把握して診察できる、アメリカのかかりつけ医のような役割を果たしたいと思っています。また、薬や検査は必要最低限にし、一人の患者さんにかける時間をできるだけ長くするということも方針の一つに掲げています。」
このほか、特徴的な診療として、麻酔科医の経験を生かしたペインクリニックも行っている。これは頭痛や五十肩、腰痛、座骨神経痛などに対し、神経ブロックの注射や飲み薬で、痛みの軽減を図る治療だ。また、海外旅行や留学前の健康状態のチェック、マラリアなどの予防接種、渡航時に必要な書類、診断書の作成などを行うトラベルクリニックも収益の大きな柱となっている。
「旅行の際の予防接種に対するニーズは思っていたよりも高いようです。検疫所のサイトに予防接種のできる医療機関のリストがあるのですが、そこに掲載されてから毎日のように問い合わせの電話がかかってくるようになりました。」
英語が通じるクリニックということで、口コミで別の地域から来院する外国人が多いが、今後は近隣の患者を増やしていきたいと考えている。また麻酔科医として、がん患者の疼痛管理など、高齢者の在宅医療にも力を入れるつもりだ。
院長のプライベート
アメリカにいた頃は生活に余裕があって、週末はほとんど自由に時間を使えました。平日も麻酔科は早く終わるので、当直がない限り、5時以降に働くことはなかったですね。サンディエゴは海が近く、ビーチに行ったり、テニスをしたりと、スポーツを思い切り楽しんでいました。今は仕事中心の生活で時間がなく、犬の散歩と週に1回のジムが気分転換になっています。
開業に向けてのアドバイス
自分が何をやりたいかをよく考えて、開業された方がいいですね。方向性がなく、漠然と開業しようとしても、医療機器も内装も場所も決めることができません。また、自分だけで開業するのは難しいので、コンサルタントなどの力を借りることになると思いますが、ある程度ポリシーがはっきりしていないと、相手のペースにのまれてしまいます。また、自分のクリニックを持つということは経営者になるわけですから、資金面の知識もつけるようにしておいた方がいいでしょう。
日米の医療事情の違い
Q. アメリカと日本の医療を見てこられたわけですが、どんな違いがあると思われますか。
A. まず、患者さんが求めているものが違いますね。日本は「お医者さんに全てお任せします」という感じで受け身の方が多く、あまり質問もされません。それに比べて、アメリカの平均的な患者さんは病名が何で、どうしてそうなったのか、どのように治療をするのか、どうしてこの検査が必要なのかなど、どんどん質問しますし、ロジカルに説明しないと納得されません。そのため、診察があまり短時間で終わると満足度が低くなってしまうので、一人に時間をかけることになります。
日本の患者さんも本当はきちんと説明をしてほしいのでしょうし、そうした方が最終的に治療もうまくいくでしょう。しかし、クリニックの経営のためにはある程度の患者数を診る必要がありますので、どこでそのバランスをとるかが難しいですね。
Q. 日本では、薬の処方や検査が過剰に行われていると思われますか。
A. そうですね。一般的に、日本の患者さんは薬を出さないと納得しないといった傾向があります。アメリカなど、外国の人は「薬はいらないけど、きちんと説明をしてほしい」という感じで、風邪などで来ても薬を処方しないことも多いです。
Q. 日米には様々な相違があると思いますが、日本の医療はどのような点を改善したら、よくなるでしょうか。
A. 個人でクリニックを運営していると、病院との関係を築くのが難しいので、診療所と病院の連携がもっと強くなればいいと思います。アメリカの開業医は自分の患者さんが病院に入院するとそこに行ってケアをするため、その病院の専門医と毎日顔を合わせます。そうすると、この外科の先生はいい先生で信頼できるといった情報を得るチャンスが多いんですね。専門医との結びつきができれば、専門医が患者さんをクリニックに送ってくれることもあります。日本だと、大きい病院に紹介するとそれっきりになってしまい、そこの専門医をよく知る機会が少ないですね。
また外国のように、最初はプライマリーケアの開業医が診て、必要があれば専門医のところに送るようにして、その人の情報が全て一カ所にまとまっているシステムにした方が治療もうまくいき、無駄も省けるのではないでしょうか。
タイムスケジュール
クリニック平面図
クリニック概要
プライマリーケア東京クリニック |
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院長 | 黒須 譲 氏 | |
住所 | 〒155-0031 東京都世田谷区北沢2-1-16アーバニティ下北沢3F |
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医療設備 | - | |
物件形態 | - | |
延べ床面積 | -坪 | |
開業資金 | -万円 | |
URL | - |