クリニックの窓教えて、開業医のホント

バックナンバーはコチラ

患者のニーズにマッチした高付加価値の医療を提供

久住 英二 院長

久住 英二 院長プロフィール

 エキュート立川はJR中央線立川駅構内にある商業施設である。カフェやファッション、食品などの店が並ぶビルの中にナビタスクリニック立川はある。平日は受付が夜9時までで、土曜も夕方5時までオープンしている。「会社や学校を休まずに、帰りに気軽に立ち寄れる診療所があったら」という患者さんのニーズを汲み上げ、付加価値の高い医療を提供する。内科、小児科などに加え、女性内科、貧血外来なども設置し、トラベルクリニックではワクチンの同時接種を行うなど、様々な患者さんからの要望に沿った診療を行っている。東京大学医科学研究所の研究員として、国の医療政策に提言も行っている久住英二院長に、医院経営などについて話を聞いた。

 1973年、新潟県に生まれる。1999年に新潟大学を卒業後、虎の門病院内科の研修医、血液内科の医員を経て、2005年より東京大学医科学研究所・探索医療ヒューマンネットワークシステム部門客員研究員となる。2008年6月に「ナビタスクリニック立川」を開設し、現在に至る。
 日本内科学会認定・内科認定医、日本血液学会認定・血液専門医、日本旅行医学会・認定医、Certificate in Travel Health, the International Society of Travel Medicine、日本臨床腫瘍学会、American Society of Hematology


開業前後

病院風景

 久住院長は新潟大学医学部を卒業後、虎の門病院に勤務した。2005年からは東京大学医科学研究所探索医療ヒューマンネットワークシステム部門(現在は名称変更し、先端医療社会コミュニケーション部門)に客員研究員として所属し、医療ガバナンス研究をおこなっていた。そのときに関わったのがJR新宿駅西口駅前にオープンした「コラボクリニック新宿」だ。この診療所は東京大学でのインターカレッジのゼミで、講師の呼びかけに応じて、東京大学、東京藝術大学、早稲田大学、東京女子大学などの学生が創設し、コンビニエンスストアのように気軽に立ち寄れるクリニックとしてマスコミにも取り上げられ、話題になった。

 「医療機関はユーザーさんからすると昼間しか受診できないし、土曜は昼までと非常に不便なのですが、業界側としては『具合が悪ければ、会社など休んで来ればいいではないか』という考えでした。そんな中、『便利な医療機関を創ろう』という動きが起こり、会社帰りに受診しやすい新宿西口の駅前で、夕方6時から9時まで3時間診療を行う診療所が開設されました。」

 ここで手伝いをするうち、「駅の中でクリニックを出せるスペースがあるので、診療所を開かないか」という話が舞い込んだ。そこで、1年以上の準備期間を経て、2008年6月にJR東日本立川駅構内の商業施設「エキュート立川」4階にクリニックをオープンする。

 「『開業ありき』ではなく、医療提供体制が市場のニーズにマッチしていないという状況がベースにあり、それを改善するための試みとして、診療所を開設しました。」
病院風景
 医院の形態は内科や小児科、皮膚科、女性内科など8人のドクターを集め、これから主流になると思われる「グループ・プラクティス」という形をとった。これはクリニックモールとは異なり、運営自体は1つで、8人の医師が複数の診療科を担当する。開業資金は施設作りに1億3000万円、運営資金やそのほかに5000万円ほどかかっている。

 「なぜ、これらの診療科を選んだかと言うと、まず小児科は今、非常にニーズが高いからです。また、クリニックの入っているエキュートは働く女性を応援するというコンセプトでつくられています。施設を運営する株式会社JR東日本ステーションリテイリングからも『女性がかかりやすいクリニックをつくってほしい』という要望があったので、女性の方が気にされる肌に関する診療科や、男性の医師が苦手という方も安心して受診できる女性内科などを設けました。」

 ?開業時のPRの方法としては、ホームページをつくってSEO(Search Engine Optimization)対策に力を入れ、検索サイトでの検索結果の上位にサイトが表示されるよう工夫した。受診者の認知方法としては、ほとんどが口コミかネット検索、エキュート内の掲示、駅ホームの看板を見て来た患者さんだという。

 月間の来院数は開業初月が350人強、4カ月後が2000人、1年5カ月後は4500人と伸び、開業してから2年3カ月の累積の患者数は2万2000人となった。


クリニックの内容と特徴

 ナビタスクリニック立川は、JR東日本中央線立川駅の改札を出てすぐの商業施設であるエキュート立川の中にあり、仕事や学校の帰りに気軽に立ち寄れる場所にある。予約時間が近づくと、予約システムにより携帯電話に連絡が入るため、患者さんは待ち時間にカフェで寛いだり、買い物をすることも可能だ。

 診療受付時間は平日が夜9時までで、土曜は夕方5時までオープンしている。診療科は内科、小児科、皮膚科、女性内科、トラベルクリニック、貧血外来であり、B型肝炎、子宮頸がんなど各種のワクチン接種にも力を入れている。

 内科では、通常の診療に加えて、漢方を併用して診療しており、冷え性や慢性頭痛、胃腸虚弱などの患者に漢方エキス製剤を処方し、健康保険も適応される。小児科の18時以降の夜間診療は、働いている母親が家に帰って子どもの発熱に気づいても、すぐに受診ができるような体制だ。皮膚科はアトピー性皮膚炎など一般的な治療のほかに、内科や小児科の医師と協力し、幅広い皮膚疾患や内臓の異常に伴う皮膚病変に対する治療にも対応している。

 女性内科では、女性医師による内科全般の診療をプライバシーに配慮して個室で行う。

 「女性内科は風邪から女性に多い甲状腺疾患、月経痛や月経前症候群、更年期障害などを対象とし、漢方薬などを使って治療することが多いですね。男性の医師に話しにくい悩みなども相談できるので、好評をいただいています。」

 また、貧血外来では女性がなりやすい貧血を、血液内科では骨髄異形成症候群、本態性血小板血症、多発性骨髄腫、特発性血小板減少性紫斑病、慢性骨髄性白血病、慢性リンパ性白血病などの血液疾患の診療、抗がん剤治療後の発熱などにも対応している。

 多摩地区では唯一のトラベルクリニックも設けていて、海外渡航者に対する予防接種や医学的なアドバイスを行っている。

 「トラベルクリニックを始めたのはワクチンギャップに関心があったからです。予防接種はどこでもできますが、当院では国内では販売されていないワクチンに関しても、個人輸入をして提供しています。またワクチンは『1種類ずつ打ちましょう』と勧められることが多いのですが、1カ月後に海外に渡航する人には間に合わないことが多いです。当院では、免疫のない状態での渡航より、同時接種のリスクの方が低いと考え、同時接種を積極的におこなっています。渡航前の準備で忙しい方々からは好評をいただいています。」

 このように、様々な面で患者さんのニーズを考え、患者さんの立場に立った診療を行うということをモットーとしている。


院長のプライベート

病院風景

 息抜きは、たまの休みに子どもと遊んだりすることですね。読書と音楽鑑賞が趣味で、通勤電車の中で本を読んだり、勉強したりします。イヤホンは耳が悪くなるので、音楽は電車では聴きません。耳は商売道具ですからね。家からクリニックまで1時間ほどかかりますが、結構、その時間が気分転換になっていますね。また、今も東京大学医科学研究所の客員研究員を続けていますし、出身の新潟の地方紙である新潟日報に連載記事を書いたり、医療政策提言をしています。


開業に向けてのアドバイス

 今後は人口が減って、必然的にコンパクトシティ化が進みます。ですから、郊外での立地は十分な検討が必要だと思います。今後、一層都市部への人口集積が進みますので、開業するのであれば人口集積地がいいでしょう。
 現在、65歳以上の高齢者が年間100万人ずつ純増している状態です。それに合わせて病床を整備することは不可能ですから、在宅医療の必要性は増します、コンパクトシティ化と合わせて、駅前に高齢者住宅が作られ、そこでまとめて診ることになるでしょう。在宅医療で1日10軒回ればペイするという状況は長く続きません。特別な診療に収益を依存すると、制度が変わったときに立ちゆかなくなる可能性があります。風邪や慢性疾患の治療など、いわゆる一般的な外来診療で経営が成り立つようにした方がいいでしょう。
 クリニックモールは、粗製乱造され、うまくいっていないところが多いようです。最大の弱点は、1軒、2軒と抜けていったときに、全体的に廃れたイメージになることです。そのため、開業するならクリニックモールより、単独開業の方がリスクが少ないのではないでしょうか。
 また、医業の大前提として、社会に役立つという、パブリックマインドを忘れてはいけないと思います。当院では、人の遣り繰りは楽ではありませんが、夜間診療をおこない、周囲の病院の「コンビニ受診」を減らすことに貢献しています。結果として、受診された方が、夜に通常の診療が受けられるという付加価値を高く評価してくださっています。時間外加算の500円の負担(自己負担は150円)で、1000円以上のバリューを感じてもらえていることが、多くのご支持をいただいている理由と考えています。

病院風景

タイムスケジュール

タイムスケジュール

クリニック平面図

平面図

クリニック概要

ナビタスクリニック立川

  院長 久住 英二
  住所 〒190-0023
立川市柴崎町3丁目1-1 エキュート立川4F
  医療設備 超音波・X線・心電図・スパイロメーター・アプノモニター
  物件形態 商業施設(テナント)
  延べ床面積 75坪
  開業資金 13,000万円
  URL http://www.navitasclinic.jp/

2010.10.01.掲載 (C)LinkStaff

バックナンバーはコチラ

リンク医療総合研究所 非常勤で働きながら開業準備

おすすめ求人

  • 矯正医官
  • A CLINIC GINZA
  • フォーシーズンズ美容皮膚科クリニック
  • 長野県医師紹介センター