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竹尾 浩紀 院長プロフィール
1969年に鳥取県米子市で生まれ、愛媛県松山市など中国、四国地方で育つ。1996年に防衛医科大学を卒業し、防衛医科大学校病院で研修医となる。1998年に自衛隊中央病院内科の研修医を経て、1999年に航空自衛隊奥尻基地医務室に衛生小隊長として着任する。2000年に自衛隊中央病院内科で専門研修を行う。また、国立がんセンター細胞増殖因子研究部の研究員を務める。2003年に国際連合兵力引き離し監視軍(UNDOF)medical officerを経て、2004年に自衛隊中央病院内科兼航空自衛隊目黒幹部学校内科医官に就任する。同時に日本大学大学院グローバルビジネス学院経営学修士課程に入学する。2006年に航空自衛隊小松基地に衛生隊長として着任する。2007年に厚生労働省健康局生活習慣病対策課にたばこ対策専門官として着任する。2008年に自衛隊中央病院内科に医長として着任を経て、2010年に航空幕僚幹部首席衛生官付となる。2011年に東京都世田谷区にたけおクリニックを開院する。日本内科学会専門医、日本糖尿病学会指導医など。
東京都世田谷区のたけおクリニックは東急田園都市線、東急世田谷線の三軒茶屋駅から徒歩1分の好立地にある。竹尾浩紀院長の専門は糖尿病で、開業地から程近い自衛隊中央病院に10年もの間、勤務していた。しかし、勤務地の近くの開業を決意し、2011年4月にたけおクリニックを開院する。最近は風邪などのプライマリケア中心での開業か、専門に特化した開業かに二極化する傾向があるが、竹尾院長は迷わず後者の道を選択し、地域の糖尿病患者さんの期待に応えている。「『信頼』がキーワードだ」と語る竹尾院長に、開業を決心した理由、勤務先の病院の近隣で開業することの意義などについて、伺ってきた。
開業に至るまで
◆ 医師を目指された経緯について、お聞かせください。
本心は他学部を志望していました。父が精神科医ですし、兄も父の同門です。今から25年前の地方の医師の世界では子弟を国公立大学の医学部に行かせるよう教育することが最も自然だったと思います。ですから、自然の流れで医学部を受験し、医者になっていたというのが一番正直なところですね。
◆ 大学時代はどのような学生でしたか
高校生からハンドボールをしていました。それもあり、大学でも5年生までハンドボールをしていました。他方、勉学は全くと言っていいほどしていませんでしたね(笑)。父はよく「国試に受かればいいんだ」と言ってくれていました。それを言い訳に、本当に勉強しない駄目な学生でした(笑)。
◆ どのような基準で糖尿病を専門として選ばれたのですか。
大学5年のときに決めました。患者数がこれからも増えることや治療中断が許されないことが決め手になりました。実際のところ、糖尿病臨床はドロップアウトとの戦いでもあるのですが、学生風情にはそこまで分かりませんでした(笑)。ただ、母親に精神科医になりたいと言ったときに、「精神科だけはやめて」と言われたことは今でも覚えています。母はそんな話をしたことを忘れているようですが、「家族4人中3人が精神科医は嫌だ」と思っていたみたいです(笑)。
開業の契機・理由
◆ ずっと国家公務員でいらしたんですよね。
行政の施策などにも興味がありましたので、やり甲斐のある仕事でした。いわゆる軍隊のトップの人たちの統率力やキャリア官僚の優秀さを目の当たりにできたことはいい経験でしたね。震災のあとの奥尻島にも赴任し、レーダーサイトのスタッフの健康管理だけでなく、奥尻町健康保険病院にも支援に行くなど、へき地医療も行いました。
◆ 開業を決心された理由について、お聞かせください。
厚生労働省に出向したときに、省内の雑誌の巻頭言に「厚労省は大和なり」という一文を見付けました。厚生労働省のような巨大な組織を戦艦大和に見立て、「大きな船はまっすぐ進む力を持っているが、曲がり始めると止めることができない」と書いてあったんですね。年金問題や税制改革にしても、コンプリートするまでには30年はかかるでしょうし、正しいことをしようとしても圧倒的な慣性の前では非常に時間がかかるということを改めて感じて、官僚組織を上がっていき管理職となるよりも臨床医として生きたいと思うようになりました。
◆ 開業地を選ばれるにあたって、どんなことを考えましたか。
大きな組織では年齢の上昇とともに臨床現場から離れ、段々と管理業務が増えていきます。私自身は幸せなことに、足掛け10年以上の間、世田谷の500床病院で外来をさせていただいていました。しかし、次回の転勤異動を受け入れた場合、それらの患者さんたちをもう二度と診察させていただける機会は持てないことが分かっていました。そこで色々と悩みましたが、私自身は「患者さんがいなければ医者ではない」と考えていましたので、異動を断りました。私にとっての患者さんはその病院で長く拝見させていただいていた患者さんたちにほかなりません。そのため、彼ら、彼女らとともに医療を続けようと考え、近くで開業しようという決断に至りました。
◆ 勤務先の近くで開業することの意義をもう少し詳しく聞かせていただけますか。
現在は医療を行うにあたっては難しい時代ですが、医師は患者さんがいらっしゃるから医師でいられるんです。自衛隊中央病院で10年間、外来業務を行い、他の職場で勤務しているときも週に1回は外来勤務をして、主治医として患者さんに関わってきました。しかし、私が行っていた外来のレベルでも、冬場でしたら月に1回は脳梗塞、年に1回は心筋梗塞による死亡、2、3カ月に1回はがんが見つかるようなことは、確率論的に不可避です。大規模病院ですから、担当医の交代もあります。このようなことが、交代直後等に起こればやはり大変なことになる場合もあります。ご家族は黙ってお気持ちもわかります。しかし、10年お付き合いした患者さんでしたら、トラブルになることはありえません。ですから、私が彼らを最後まで拝見させていいただくしかないと思いました。医療には100%の安全や安心はありません。いつの日か人は必ず天に召されるわけですから、ある意味医療は必敗の仕事ともいえます。ではありますが、患者さんとの間に信頼関係ができれば、患者さんが安らかでいられると信じています。
◆ 開業にあたってのコンセプトをお聞かせください。
「糖尿病の全てを完結できる医療機関」です。例えば糖尿病性の三大合併症の全てを30分以内にr/oすることができます。このことは大学病院でも難しいと思います。また、外来での糖尿病教育を継続的に実施できるコースを設営しました。教育入院と同じ効果を目指し、日々研鑽しています。外来インスリン導入のみならず、csiiやcgmも外来で導入しています。
◆ 開業する土地を選んだ理由をお聞かせください。
前職の病院での患者さんを継続的に拝見させていただくためには、その近傍での開業しかありえませんでした。世田谷区には信じられないほどの数多くの競合施設があります。激戦区でしたので、コンサルタントからは埼玉県内で競合の少ないところ、実家のクリニックを継いだ兄からは同じ松山市で開業することを勧められたりもしました。「これでよかったのかな」と考えることもありますが、患者さんのために始めたことです。「儲かる、儲からない」ということはあまり考えていません。とりあえず家族が食べていければとだけ思っていますが、それでさえ時間がかかりそうです。
◆ この場所はどうやって見つけられたのですか。
2年ぐらい探していたところ、たまたま見付けたという感じです。もとは英会話のスクールが入っていたのですが、空き物件になっていました。これからの開業医は何でも診るタイプか専門特化するタイプに二極化していくと考えられますが、私は専門特化型を選びました。専門特化型ですと、都心か駅前の立地が不可欠です。確かに、都心や駅前立地は固定費が高くなりますが、顧客単価も高くなりますので、そこは心配ありませんでした。自衛隊中央病院の近くの駅は東急田園都市線の池尻大橋か三軒茶屋ということになりますが、池尻大橋は目黒区との境で、診療圏が複雑ということもあり、三軒茶屋で探していました。
◆ 開業準備でどんなことが大変でしたか。
特に大変なことはありませんでしたが、強いて言えば、退職を申し出るタイミングが大変だったということでしょうか(笑)。2011年4月1日に開院する予定で、3月10日がスタッフの初出勤日だったんです。ところが、翌日震災があり震災があり、2人のスタッフが帰宅できず、クリニックに泊まる事態となりました。内装も未完成でしたし、クリニックの備品などはスタッフに通販で選んでもらおうと思っていたので、物流が止まってしまったのは辛かったですね。
◆ スタッフの採用に関してはいかがでしたか。
コンサルタント業者に入ってもらっていましたので、かなり手伝ってもらいました。私のスケジュールがタイトだっただけに、コンサルタントに入ってもらうのは「時間をお金で買う」意味でもメリットですね。1つの職種に対して、100人以上の方が履歴書を送ってくださいました。糖尿病療養指導士の資格を持っている臨床検査技師にも来てもらえるなど、優秀なスタッフに恵まれましたね。
◆ 開業資金について、お聞かせいただけますか。
6,000万円ほどでしょうか。自己資金と政策金融公庫からの借り入れです。6,000万円のうち1,000万円が運転資金ですね。血糖値を測定するSMBGという機械は全メーカーから見積もりを取り、卸もリーズナブルなところを探すなど、こういったこともコンサルタントの力を借りました。
◆ 内覧会などもなさいましたか。
3月25日に開催しようと、12日に招待状を発送する予定でしたが、震災のために予定が狂い、結局、21日にお詫びの書状を入れたものを送りました。内覧会を行い、開院も予定通りの4月1日でしたが、立ち上がりは非常に悪かったですね。自粛モードが続き、5月のゴールデンウィークが終わった頃から動きが出てきました。
クリニックについて
◆ 経営理念をお教えください。
キーワードは「信頼」です。医療崩壊が叫ばれて久しいですし、「安心・安全」という言葉をよく聞きます。しかし、医療の現場において絶対の安心や安全などありません。人間に不老不死はありませんので、医療は必敗の職業ともいえます。現場で医療を継続し、立て直す方法は唯一、患者さんとの「信頼」を回復することしかないと考えています。
◆ 治療方針をお聞かせください。
これもやはり「信頼」に尽きますね。
◆ どのような病院と病診連携をなさっていますか。
自衛隊中央病院で指導医を務めていましたので、指導医仲間のいる東京医療センターや関東中央病院、合同の勉強会を行っていた三宿病院などとは今も連携しています。今後、私どもの主催で、糖尿病療養指導士の勉強会を行おうと考えていますので、連携先がさらに増えていくことを期待しています。
◆ 患者さんはどのような方が多いですか。
以前からの患者さんに加え、新規の患者さんもいらっしゃいますし、大規模病院からの紹介患者さんもいらっしゃいますよ。
◆ 診療に関して、工夫をされていることはありますか。
24時間、血糖値を測れるCGMという機械を導入していますが、これを外来で使っているのは東京では私を含めて3人だけなんですね。保険外ですし、ペイバックしないということで敬遠されているようですが、この機械のご案内を城南3区と田園都市線沿線の全専門医に郵送しました。私はこの機械に動産保険を掛けるなどのスキームを作っています。こういった取り組みについては以前、MBAを取得するためのコースに通ったことが役に立っています。このスキームを私だけで独占する気は全くありませんので、来年の糖尿病学会で発表し、保険を掛ける機械の台数を増やせていけたらと考えています。台数が増えれば、保険料も安くなりますからね。
◆ そのほか、クリニックの特徴があれば教えてください。
糖尿病の三大合併症に関して、腎臓やアルブミンなどの検査を行っていますが、大学病院のような大病院では半日かかるところを、私どもでは30分で済ませることができます。機械の性能が良いことももちろんですが、スタッフのトレーニングをきちんと行っていることがその理由でしょうか。また、糖尿病の教育入院に関してですが、アメリカでは90年代に止めていますし、先進国の中でも止めようという動きが出ています。忙しいビジネスマンが2週間も仕事を休めないですからね。そこで、私どもでは教育入院に代わるコースを糖尿病療養指導士と組み立て、好評をいただいています。これは医療費の抑制という観点からも意味があると思います。
◆ スタッフ教育はどのようにされていますか。
どうしてもOJTになってしまいますが、採用の段階から臨床系コメディカルには講演会などの勉強の場に積極的に行く人を採用しました。そして、その費用をクリニックで持つことによって、研鑽をお願いしています。
また、情緒的な側面として、5Sの徹底と相手の立場に立つことをいつも心掛けるようにお願いしています。特に問題があった場合に「なぜそうなったか」、「患者さんはどう思ったか」と考えるように伝え、困ったときはリッツカールトンホテルのホスピタリティを参考にさせていただいています。
◆ 増患対策についてどうようなことをされていますか。
広告としては、駅前立地を活かし、大きな看板を設営しています。開院前のマーケティング立案時もこれを主体として考えていました。もちろん、サイトの上位表示も維持しています。また、外来CGMなどの先端的医療を行い、逆に病院の先生方にもDMしています。
さらに一部は自由診療にウイングを広げ、ED治療のみならず、ダイエット外来なども行い、別建ての広告を展開しています。一方、駅広告や看板などの費用対効果の不明なものは行っていません。
基本的には不特定多数の患者さんにアプローチはせず、固定患者さんを大切にする戦術を多く行い、糖尿病というドメインに特化した戦略を採っています。
院長のプライベート
◆ ご趣味について、お聞かせください。
元来、無趣味な人間であり、唯一の趣味は子どもたちと遊ぶことです。最近、帰る時間が遅くなりがちで、家族には申し訳ないと思っています。開業してから同じ場所で過ごす時間が本当に長いので、「空気を変えること」に努めています。ですから、たまに休みが取れると、家族を連れて無理矢理にでもできるだけ遠くに遊びに行こうとしています。あとは夜ひとりで飲むビールでしょうか。
開業に向けてのアドバイス
都心などの競合が多数ある場所でされる場合、ある程度の見込み患者数と当初1、2年のランニングコストを確保する必要がありますね。サービス競争化している一面もありますので、「外来好き、患者さんが好き」でなければなかなか続けられないことだと思います。
また医療以外の多くの場面で自分一人で考えて決断する、あるいは頑張り抜くという場面がありますので、多様な経験と胆力が必要とされるのではないのでしょうか。
タイムスケジュール
クリニック平面図
クリニック概要
たけおクリニック |
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院長 | 竹尾 浩紀 | |
住所 | 〒154-0004 世田谷区太子堂4-22-7 森住ビル3F |
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医療設備 | 電子カルテ、心電図、血液・尿分析装置、無散瞳眼底カメラ、CGM等 | |
スタッフ | 6名(院長、看護師2人、臨床検査技師兼糖尿病療養指導士1人、事務2人) | |
物件形態 | ビル診 | |
延べ床面積 | 約40坪 | |
開業資金 | 約6,000万円 | |
URL | http://www.takeo-clinic.com/ |
2011.07.01.掲載 (C)LinkStaff