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柳川 達郎 院長プロフィール
1973年に東京都世田谷区で生まれる。1998年に昭和大学を卒業し、昭和大学消化器内科教室に入局し、昭和大学病院で研修を行う。研修終了後も昭和大学病院に勤務する。2002年に昭和大学大学院を修了後、NTT東日本関東病院に勤務する。2004年に関東労災病院に勤務を経て、2005年にNTT東日本関東病院に勤務する。2007年に昭和大学病院に消化器内科助教として勤務する。2011年に東京都世田谷区に野沢3丁目内科を開院する。日本肝臓学会専門医、日本消化器病学会専門医、日本内科学会認定内科医、日本医師会認定産業医など。
東京都世田谷区の野沢3丁目内科は東急東横線の学芸大学駅から徒歩10分の場所にある。駒沢通りと環状7号線が交差する駒沢陸橋交差点に程近いため、バスのアクセスも良好である。柳川達郎院長はこの地で生まれ育ち、実家を改築しての開業に踏み切った。専門は消化器内科で、これまで大学病院などの第一線で肝臓がんの治療を中心に取り組んできた。しかし、開業前に「心」を診ることの重要性に気付き、心療内科を学んだという。したがって、消化器内科という強みに加え、心療内科の内容も加味した全人的医療を目指す開業となった。クリニックの診療理念も「野沢3丁目内科に関わる皆さんに、心と身体の健康を実感した、安心と笑顔を提供すること」とし、「身体のみならず、心も診る総合医として地域に貢献していきたい」と語る。
今月は野沢3丁目内科の柳川達郎院長にお話を伺った。
開業に至るまで
◆ 医師を目指された経緯について、お聞かせください。
祖父が医師で、千葉県で開業していました。また、父は企業で研究開発を行っていた研究者で、私も高校では理系クラスに入り、理工学部を目指そうと思っていました。ところが、浪人時代に「研究開発の仕事は人の役に立てるものを開発したとしても、実際に役に立つまでにはタイムラグがあるが、医師という職業は目の前の人にダイレクトに貢献できるのではないか」と考え、医学部へと方針転換しました。祖父の姿を見ていたことも医師という選択肢を選んだ一つのきっかけでしょうね。
◆ 大学時代の思い出をお聞かせください。
昭和大学では最初の1年間は富士吉田市のキャンパスで過ごし、医学部、歯学部、薬学部の全員が寮生活を送ります。皆で過ごすうちにかけがえのない仲間ができ、同期の絆が深まりました。今から思いますと、得難い経験でしたね。
その後は東京都内のキャンパスに移り、実家から電車通学をしていました。家から近い大学ですので、地元という親近感がありました。私は高校時代からラグビーをしており、大学でも6年生まで続けました。ポジションはスクラムハーフです。クラブ活動では仲間と寝食をともにしますし、仲間同士の垣根もなく、今も財産ですね。練習をハードにやって、夜はハードに飲み会をするという日々でした(笑)。
◆ どのような基準で消化器内科を専門として選ばれたのですか。
様々な臓器を診られるということと、胃カメラや超音波など、内科では最も手を使う科であることが魅力でした。手技を研鑽していきたいという希望を強く持っていました。
開業の契機・理由
◆ 勤務医時代を振り返って、いかがですか。
消化器内科を選び、専門性の高い病院で専門性のある仕事をさせていただけました。私は肝臓がんが専門だったのですが、とても遣り甲斐がありましたね。ただ、技術を研鑽する過程の中で、専門に偏ってしまい、総合的に診ることが難しくなっているのではないかという不安もありました。
◆ 開業を決心された理由について、お聞かせください。
医学部を目指すにあたっては「多くの患者さんにダイレクトに貢献していきたい」というのが志望理由でしたし、いずれは開業したいという気持ちを持っていました。勤務医時代に目指してきた専門医から総合医へと立場を変え、ジェネラルなプライマリケアに力を入れようと思ったことが開業を決心した理由です。医師人生の残りの20年から30年を生まれ育った地で過ごしたいと考えました。これまで培ってきた専門性は財産ですし、地域の皆さんにスペシャリティを持って貢献したかったのです。
◆ 医局を辞められるのは大変ではなかったですか。
開業する1年前に教授にお話ししたところ、「応援する」と非常に快く言ってくださり、嬉しかったですね。私の夢に付き合ってくださった教授には今も感謝しています。一方で、私がリーダーを務めていたチームは後輩が引き継いでくれています。今も週に1度は顔を出していますし、良好な関係が続いています。
◆ 開業地を選ばれるにあたって、どんなことを考えましたか。
祖父母の代から住んでいる実家を改装して開業する以外の選択肢はなかったです。この場所があったからこその開業ですし、この場所で開業できないなら諦めていたかもしれません。私が生まれ育った、この場所を継承しつつ、ご近所の方たちにいい医療を提供したいと思ったのです。
◆ 開業にあたってのコンセプトをお聞かせください。
私どもの診療理念でもありますが、「野沢3丁目内科に関わる皆さんに、心と身体の健康を実感した、安心と笑顔を提供すること」です。この中の「皆さん」は患者さんだけでなく、患者さんのご家族やスタッフ、スタッフの家族も入っていますし、私や私自身の家族も含まれています。誰もが犠牲になることなく、私どもに関わる全ての対象者が平等に心と身体の健康を実感し、安心して、さらには笑顔になれるようなクリニックにしていきたいと思っています。
◆ 開業準備でどんなことに苦労されましたか。
設計ですね。四つ角に立地していますので、認知性や動線の確保を考えることが難しかったです。地域にうまく溶け込むためにはネオンの広告などは出せないですし、しかしながら視認性も重要ですので、アールをうまく使う設計にしようと考えました。何社もの住宅メーカーの人に話を聞き、最終的にとある大手住宅メーカーの医院併用住宅を選びました。
◆ 内装などのこだわりはどんなところにあるのでしょうか。
患者さんの動線やスタッフの動線を有機的に捉えたことです。色使いとしては、診療スペースは緑と木の色を基調にしています。患者さんが休憩されるスペースは温かみのある色合いにしています。
◆ スタッフの採用に関してはいかがでしたか。
情報誌に広告を出しました。看護師の応募は少なかったので、いい人に巡り会えて良かったです。事務スタッフはアイデムから多くの方が応募してくださり、まず書類審査のうえで面接を行いました。その頃、税理士さんから社会保険労務士さんをご紹介いただいていたのですが、その社労士さんと一緒に面接を行ったんですね。私では聞けないような質問をしてくださったり、客観的な視座をいただけて、非常に勉強になりました。事務スタッフは受付も行いますので、人柄重視で選考しました。
◆ 開業資金について、お聞かせいただけますか。
住居部分を除けば、3000万円ぐらいでしょうか。お世話になった住宅メーカーはローンなどの対応に慣れていますし、医療機器選びにも専門のスタッフがいて、お世話になりました。電子カルテ、内視鏡、エコー、レントゲン、心電図などはリースで揃えました。
◆ 内覧会などもなさいましたか。
5月10日に開院でしたので、5月8日に行いました。天気の良い日曜日だったのが良かったのか、約100人の方がお越しになったので、有り難かったですね。内覧会を告知するA4サイズの折り込みチラシを入れ、クリニックのリーフレットのポスティングも行いました。
クリニックについて
◆ 経営理念をお教えください。
消化器内科医としての専門性と心療内科の知識を持って、全人的に患者さんを診ることで地域に貢献することです。患者さんの状態を見極め、必要であれば大きな病院に送るという病診連携も手厚く行っています。
◆ どのような病院と病診連携をなさっていますか。
以前の勤務先である昭和大学病院、NTT東日本関東病院、関東労災病院のほか、東京医療センター、東急病院などです。どの病院も近いですので、患者さんからは喜ばれています。私としても知っている先生方に手術などをお願いできるので、以前の勤務先の近くで開業できたのは幸運でしたね。
◆ 診療内容をお聞かせください。
開業にあたっての医療理念である「野沢3丁目内科に関わる皆さんに、心と身体の健康を実感した、安心と笑顔を提供すること」のもと、3つの特色で理念を追求しています。特色の1つ目は消化器内科の専門医であり、大病院と同じように胃カメラ、エコー、レントゲン、心電図、血液検査が可能だということです。2つ目は皆さんの心と身体のかかりつけ医であるということです。うつや不安障害、不眠症などの心療内科診療を行っているほか、生活習慣病相談や健康診断、漢方薬治療、予防接種をお受けしています。3つ目は皆さんとのコミュニケーションを大切にすることです。病院との連携を積極的に行いながら、医師と患者さんの関係を良好に築くために努力しています。
◆ 開業にあたって、心療内科を勉強されたケースは珍しいですね。
勤務医時代、血液検査やCT検査をして、GOTやGPTが正常であったり、がんが見つからなければ、「良かったですね。3カ月後にまたいらしてください」というようなことが多く、全体像を診ない医療に疑問がありました。その疑問から患者さんは心のある人間なのだと気付き、鎌倉市にある信愛クリニックの井出広幸先生から専門的なトレーニングを受けることにしたのです。これは米国内科学会の教育プログラムで、井出先生は惜しみなく教えてくださいました。
井出先生も消化器内科医なので、「胃が痛い」という患者さんを診るわけです。ところが、胃薬を出して終わるのではなく、胃の痛みにどんな背景があるのかということを探るんですね。仕事のことを尋ねたり、「眠れていますか」と聞いたりして、患者さんからの信号をキャッチされます。私も身体だけでなく、心も診ることで、私どもの理念である安心と、そして笑顔になっていただければと思っています。
◆ そのほか、クリニックの特徴があれば教えてください。
肝臓を専門にしてきましたので、C型慢性肝炎の治療を行っています。血液検査やエコーのあと、治療に入ります。治療の目標は肝硬変への進行や肝がんの発生予防ですので、インターフェロン療法を第一に考慮しますが、これは絶対的なものではありません。副作用への対応策も十分に整えて、患者さんとともに頑張るという姿勢で取り組んでいます。
◆ 患者さんはどのような方が多いですか。
胃カメラや血液検査の患者さんが3割から4割、プライマリケアの患者さんが6割から7割といったところです。最近、隣に東急ストアができ、駐車場もありますので、これからは買い物の前後に来院される患者さんが多くなるのではと思っています。
◆ スタッフ教育はどのようにされていますか。
これも井出先生からの教えなのですが、やり方と在り方は違うということを伝えています。やり方は単なるhow toですが、在り方はto beです。なぜ、このクリニックが存在しているのかという存在理由を考えれば、なぜ掃除をしなくてはいけないのかということも分かってきます。一方で、私がスタッフを信じて、愛することも大事です。あれだけの多くの方の中から選考したのですから、愛情を持って接するのは当たり前のことですね。
◆ 増患対策について、どのようなことをされていますか。
今はホームページと電柱広告がメインです。電柱広告は1年契約で、クリニックの半径100メートルに20本ほど出稿していますが、契約終了後で、かつ損益分岐点を超えたら、なるべく早く撤退したいと考えています。ホームページは更新を頻繁にしていることに加えて、フェイスブックと連動していることが特徴でしょうか。フェイスブックはアップのしやすさと、SEOが独特なので認知性が高い点がいいですね。実名が基本ですから、信頼できますし、医療機関には向いていると思います。もっと流行ってくれば面白いでしょう。またツイッターとの連動させており、ホームページからツイッターやフェイスブックに、ツイッターやフェイスブックからホームページへとリンクしています。もともとウェブに興味があったのですが、これからも知識を深めていきたいですね。
院長のプライベート
◆ ご趣味について、お聞かせください。
大学時代にしていたラグビーも今は観戦するだけになりましたが、今年はワールドカップがあるので、楽しみにしているところです。これで、もっとラグビー人口が増えるといいですね。勤務医時代は武蔵小山に住んでいて、勤務先の病院までは徒歩で通勤していましたが、開業して自宅とクリニックが同じ場所になり、全く歩かなくなってしまいましたので、最近は身体を動かすためにランニングをしています。ランニングだと一人でできますしね(笑)。10数年ぶりにこの場所に戻ってきたわけですが、良かったことの一つは駒沢公園の存在です。朝から走りに行っていくことがいい息抜きになっています。
開業に向けてのアドバイス
開業に対する思いが全てではないでしょうか。資金や開業地選びは後からついてくるものでしょう。思いを強く持てば実現します。ただ、大学病院の勤務が辛いとか、経済的に苦しいとか、当直が嫌だというようなネガティブな理由ではなく、ポジティブに考えてください。どれだけ地域に根付いていきたいのか、どれだけ本気なのか、どれだけ夢を持っているのか、どう成功させようかという熱い思いがあれば、競合や資金、診療圏調査の結果などは問題にならないはずです。私自身もそうであってほしいと期待しています(笑)。
タイムスケジュール
クリニック平面図
クリニック概要
野沢3丁目内科 |
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院長 | 柳川 達郎 | |
住所 | 〒154-0003 世田谷区野沢3丁目1-16 |
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医療設備 | 電子カルテ、内視鏡、エコー、レントゲン、心電図、AEDなど | |
スタッフ | 4名(院長、看護師1人、事務2人) | |
物件形態 | 戸建 | |
延べ床面積 | 約30坪 | |
敷地面積 | 約50坪 | |
開業資金 | 約3,000万円(住居部分を含まず) | |
外来患者/日の変遷 | 開業当初 10名→2カ月後 20名 | |
URL | http://www.nozawa3.jp/ |