クリニックの窓教えて、開業医のホント

バックナンバーはコチラ

豊洲キュービックガーデン 神津クリニック

神津 隆弘 院長

神津 隆弘 院長プロフィール

 1966年に東京都中央区に生まれる。1991年に東邦大学を卒業後、東邦大学医学部付属大橋病院(現東邦大学医療センター大橋病院)で研修医となる。1993年に東邦大学医学部内科学第三講座の研究生となる。1996年に国立がんセンター中央病院内視鏡部常勤医師となる。2004年に国立がんセンターがん予防・検診研究センター室長に就任し、国立がんセンター中央病院内視鏡部の勤務も兼ねる。2008年に横田胃腸科内科、日本橋大三クリニックに勤務を経て、2012年に東京都江東区に神津クリニックを開業する。


◆ その他経歴

日本消化器内視鏡学会専門医、日本消化器病学会専門医、日本内科学会認定医など。日本消化器がん検診学会、日本癌学会、日本大腸肛門病学会、日本大腸検査学会に所属する。

 東京都江東区豊洲は1923年の関東大震災の瓦礫処理で埋め立てられたことから形成され、工業地として発展してきた。石川島播磨重工業などの工場、新東京火力発電所などのほかに、関係者向けの商店、社宅などもあったという。また、日本初のコンビニエンスストアとも言われるセブンイレブン日本法人の一号店や、当時、珍しかったスポーツクラブのドゥ・スポーツプラザが設置された場所としても知られている。
 その後、東京メトロ有楽町線が開通したことを受け、豊洲センタービルなどのオフィスビルの建設が盛んとなり、マンションの建設ラッシュも見られるなど、かつての工業地から商業地や住宅地への移行が進んでいる街である。近年はゆりかもめの駅もでき、お台場方面へのアクセスにも恵まれている。
 神津クリニックは豊洲駅から徒歩3分の場所に2012年2月に開業したばかりのクリニックである。神津隆弘院長は国立がんセンター中央病院に長く勤務し、消化器内科の第一線で活躍してきた。開業を見据えて、クリニックで研鑽を積んだのち、小さい頃を過ごした豊洲に内視鏡検査や治療を中心としたクリニックを開業した。
 今月は神津クリニックの神津院長にお話を伺った。


開業に至るまで

病院風景 ◆ 医師を目指された経緯をお聞かせください。
 祖父母、父が医師で、祖父母の前の代も医師という環境で育ちました。祖父母は長野県に住んでおり、祖父は呼吸器内科が専門で、祖母はいわゆる田舎の町医者をやっていました。父は聖路加国際病院の産婦人科医で、明石町に住んでいたこともあるんです。家系図で確認すると私は医師家系の7代目にあたりますので、私にはそういうDNAが組み込まれているのではないでしょうか(笑)。父や祖父母が患者さんに喜んでいただいたり、感謝の言葉を頂戴している姿を見て、素晴らしい仕事だなと改めて実感するようになりました。

◆ 大学時代はどのような学生でしたか。
 バスケットボール部に入り、色々な意味で部活動中心の毎日でした。先輩方からは部活動だけでなく、「この先生の授業はこんな勉強をした方がいいよ」など、勉強の仕方まで教わりましたね。運動することよりも得るものが多かったです。医師になってからも縦の繋がりがあり、後輩とも強い繋がりが残っています。

◆ 大学時代はどんなご趣味をお持ちでしたか。
 部活動メインの生活でしたので、趣味というほどの趣味はなかったですね。

◆ 東邦大学第三内科に入局された経緯をお聞かせください。
 私は父がずっと目標で、父を超えるように頑張りたいと思っていたんです。父は産婦人科医なので、外科、内分泌、内科、精神科領域にも詳しく、一度に二つの命を預かるわけですから小児科にも精通しています。しかし、ほとんどの患者さんが女性なんですね。私は父と異なり、老若男女の患者さんに関わりたいと考えました。そこで、当時の第三内科に入局を決めました。

◆ 当時の東邦大学第三内科はどういう教室だったのですか。
 当時では珍しく、現在のスーパーローテートのような研修ができる教室だということが魅力でした。メインは循環器と消化器なのですが、麻酔科やICUをローテートさせていただきましたし、腎臓内科に関しても、しっかりトレーニングできました。一般的な内科講座と違い、人の命を預かる使命感を持つために学んでおくべき最低限のことを研修できたのが良かったと思っています。

◆ 専門を決める時期はいつだったのですか。
 ローテート後に、循環器か消化器を決めるんです。循環器は高齢の患者さんが多い印象があり、私としてはより広い年齢層の患者さんを診たかったので、消化器を選びました。しかし、当時はまだはっきりとした将来像を持っているわけではありませんでした。

◆ 国立がんセンター中央病院に勤務しようと思われたのはどうしてですか。
 医局人事で「外に出て勉強してこい」と言われ、約1年研修しました。任期が終わったときに大学に戻りました。そうしたら、戻ってすぐに、がんセンターが新棟を建てるので、スタッフの増員を図りたいということでお呼びがかかったんです。そういう経緯でしたが、それから10年弱の間、お世話になりました。ほかの病院の何十年分のがん症例が1年で集まるような病院ですから、多くの症例を経験することができました。

◆ ラクトフェリンの研究もなさっていますね。
 私は研究肌の人間ではないのですが、たまたま、津田洋幸先生からオファーをいただいたのがきっかけです。動物実験でもいい結果が出ていましたし、ヒトに対しても良好な結果を得られました。ラクトフェリンは健康食品として商品化されていますが、含まれる量が多いと、用量依存で良い結果になります。ポリープの発育を抑制し、特に若い女性に効果があることを突き止めました。

◆ 横田胃腸科内科、日本橋大三クリニックにいらしたのはどうしてですか。
 2004年から2008年まで、がんセンター内の人事異動で、がん予防・検診研究センターで仕事をしていたのですが、私がやりたかったのは内視鏡の技術を活かして患者さんに還元することでした。しかし、予防・検診センターでは色々な制約があり、1日の件数が少なかったのです。脂の乗り切った、折角の時期を終えてしまうのは勿体ないですし、クリニックで症例を積んで、将来的には開業しようと考えるようになりました。
 そこで、内視鏡を得意にしているクリニックに勤務しようと思い、知り合いに群馬県館林市の横田胃腸科内科を紹介していただきました。そして、横田胃腸科内科に週4日、日本橋大三クリニックに週1日の勤務を始めたんです。日本橋大三クリニックの院長は斉藤大三先生です。第二の親父と思っています(笑)。

◆ 勤務医時代を振り返っていかがですか。
 多くの師に出会えたことに感謝しています。がんセンターでは斉藤先生のほか、現在、静岡県立がんセンターの副院長になられた小野裕之先生、銀座の藤井隆広クリニックの藤井先生など、超一流の先生方に学べました。研究の仕方、仕事の仕方など、勤務医時代に勉強させていただいたことは今の糧になっています。がんセンターでご一緒した先生方とは今、プライベートでも仲良くさせていただいています。


開業の契機・理由

病院風景 ◆ 開業を決心された理由をお聞かせください。
 内視鏡をやっていきたかったので、がんセンターにいた頃から漠然と開業を考えていました。ただ、早く開業しすぎると、もっと学会発表したかった、深く狭い勉強もしたかったという後悔が残りそうでしたし、逆に勤務医を続けても思い描ける未来像に不安がありましたので、45歳を目途に開業しようと決心したんです。
 勤務医ではどうしても自分が思い描く医療とは違ったスタイルで妥協していかなければなりません。自分の理想を実現するためにはどういう開業をしたらいいのかということは横田胃腸科内科にいる頃に固まってきました。

◆ どういう準備から始めたのですか。
 開業の2年程前から、物件を借りたら、どのぐらいのお金がかかるのかといったようなことを調べ始めました。そして、場所の選定を始めていったんです。横田胃腸科内科へは車で往復3時間かけて通勤していました。3時間掛ける200日(週4日勤務)ですと、24時間掛ける25日とほぼ同じですから、1年のうちほぼ1カ月間運転していたことになります(笑)。これでは時間が勿体ないと思い、自宅のある江東区近隣で探すことにしました。まだ、子どもも小さいですし、震災などがあった場合に自宅と職場が近いと、家族も安心できますしね。

◆ 豊洲を開業地に選んだのはどうしてですか。
 小さい頃に豊洲のスイミングスクールに通っていたことがあり、造船所のあった時代から知っているんです。最近は開発が進み、高層住宅や色々な商業施設やオフィスが立ち並ぶようになりましたし、新しいエリアとして注目を集めています。しかし、その割に内視鏡を気軽に受けることができるクリニックは少ないんですね。そこで、私が開業して、地域の皆様のお役に立ちたいと思いました。

◆ 開業するまでにご苦労された点はどんなことですか。
 物件がなかなか見つからなかったことですね。私は上部のみならず、下部内視鏡も得意にしていて、開業するときは下部内視鏡も必ずやりたいと思っていましたが、下部もするとなると、広めのスペースが必要なのです。そこで、やっと、この豊洲キュービックガーデンを紹介していただきました。
 しかし、大きなビルですから、法人などのきちんとしたところでないと契約対象としてみなしていただけないという雰囲気がありました(笑)。横田胃腸科内科には開業の計画と退職の意志を伝えていましたので、退職してから開業まで空白の時期ができてしまうことが不安でしたね。無理であれば、ほかの場所を探しつつ、どこかの病院に勤務医としてお世話になることも検討していました。

◆ 物件の申し込みから決定まで、どのぐらい待機されたのですか。
 借りられるかどうかが分かるのに3カ月ぐらい待ちましたよ。したがって、開業日も当初の予定から4カ月、遅れてしまいました。ただ、横田院長のご好意で、10月の退職予定を2カ月程、延ばしていただき、非常勤で勤務を続けることができました。開業前の1カ月は準備に追われましたので、週に1回、日本橋大三クリニックだけの勤務にしました。

病院風景◆ 設計は大変でしたか。
 レイアウトの原案は横田院長のお兄さんである横田歯科クリニックの横田善夫院長から頂き、複数の医療機関で内視鏡検査室のオープニングやリニューアルに関わった経験を活かしました。そこで、がんセンターの検診センター、日本橋大三クリニック、リニューアル後の横田胃腸科内科の良いとこ取りをした感じです(笑)。どうしたら、最小限のスペースで内視鏡を使いやすいのか、スタッフや患者さんの動線をどうすべきか、工夫を凝らしてあります。
 リカバリー室も5室、設けました。洋服店の更衣室を大きくしたようなイメージですが、セパレートにしたので、点滴にも使えますし、患者さんの更衣室も兼ねています。患者さん用のシャワー室も備えました。

◆ 内装の工夫について、お聞かせください。
 保険診療ではありますが、患者さんに「綺麗なところに来られて、得したな」と思っていただけるような雰囲気にしたいと考えていました。当初は重厚感のある雰囲気だったのですが、妻から「重厚感があると重苦しくて、女性は来づらいよ」とアドバイスされ、私と妻とデザイナーさんの案を融合させて作り上げました。結果として、とても満足しています。

◆ 医療設備については、いかがでしょうか。
 上部、下部の内視鏡のほかはエコーや心電図など、一般的なものを揃えました。健康診断の方も見据え、身長、体重、視力、聴力の検査機器なども置いています。

◆ スタッフ集めは苦労されませんでしたか。
 開業コンサルタントに求人の広告や面接も代行していただきました。意外に多くの応募がありましたよ。いわゆる落下傘型の開業ですので、患者さんの数が全く読めず、どれだけのスタッフを雇用すればいいのか、悩みました。多くのスタッフを雇用しても、患者さんがいらっしゃらなかったら、給料も払えませんからね。開業して3カ月ですが、午前中が少し忙しくなってきましたので、午前中は1人増員することを計画しています。


クリニックについて

病院風景 ◆ 診療内容をお聞かせください。
 検診異常、生活習慣病、風邪、花粉症なども幅広く診ていますし、予防接種も行っています。
 豊洲は高層マンションが林立しており、お子さんが小さいニューファミリーが多く住んでいます。私どもでは小児は診ず、中学生以上が対象なのですが、お母さんが風邪や腹痛になり、お子さん連れで来院される方も多いですね。近隣のオフィスからも風邪や腹痛でいらっしゃっています。
 上部内視鏡は予約不要で、当日、検査を行えることが特徴です。胃カメラ検査がゼロの日もまだありますが、多いと5、6人いらっしゃいますよ。習熟が難しいため、クリニックレベルでは珍しい下部内視鏡も、お蔭様で予想を超える患者さんにいらしていただいています。開業医の先輩方に「最初は大変」と聞いていましたが、先輩方がおっしゃっていた数字よりは多いというところでしょうか。

◆ どのような診療方針をお持ちですか。
 中学生以上の方々を診ますが、より専門的な診療が必要だと判断した時には迷わず紹介状を書くようにしていますし、患者さんからリクエストされた薬には対応することも心がけています。
 また、親御さんの診療を待つ子どもさんが退屈しないようにキッズコーナーも設けて、ビデオを流しています。
 患者さんの待ち時間解消のためにiチケットも導入しましたが、まだ患者さんの数が多くはないので、単に順番を知らせるカードとしてしか、活用できていません。

◆ 病診連携については、いかがですか。
 私どもの検査で、既に何人かの患者さんのがんを発見しました。連携先は悪性疾患の場合は国立がん研究センター中央病院や癌研有明病院にお願いできますし、一般の疾患や循環器疾患、外科的な適応を診るために昭和大学附属豊洲病院、聖路加国際病院にもお願いしています。

病院風景 ◆ 経営理念をお教えください。
 クリニックの入り口にキリンのオブジェを置いています。キリンは英語でGIRAFFEですが、消化器内視鏡のGastro-Intestinal Endoscopy、Relax、Accurate、Fast、Fineの頭文字を並べていくと、GIRAFFEになるんですね。リラックスして、正確で、迅速に、高品質の消化器内視鏡検査を受けていただきたいと願っています。私は背が高いので、私のイメージとキリンも重なるのかなと思っています(笑)。

◆ スタッフ教育はどのようにされていますか。
 毎朝、朝礼を欠かさず行い、情報の共有に努めていますが、もともと経験のあるスタッフを採用していますので、特に「こうしなければいけない」という教育はしていません。ただ、私がやりにくいという状況は避けたいので、私のやり方を伝えるようにしています。

◆ 増患対策について、どのようなことをなされていますか。
 開業前に新聞の折り込みチラシで告知をしましたが、開業後はホームページですね。また、私どもは晴海通りから少し入ったところにありますので、晴海通りに看板を出しています。ビルの規約が厳しく、クリニック前に置き看板を置けないのが残念なのですが、ビルがガラス張りですので、キリンのオブジェが外からも見えて、良い目印になっているみたいです。
 地域密着を志していますので、地域のタウン誌にも広告を出稿しています。看板にしろ、タウン誌にしろ、ホームページへ誘導できるようにしていますし、実際に患者さんに伺うと、広告を見たあとで必ずホームページをチェックされているようですね。


開業に向けてのアドバイス

 開業に踏み切りたい理由の一つに生活の背景もあるのでしょうが、勤務医が嫌だから開業するというのはよくないですね。勤務医時代に頑張ったことは開業後のセールスポイントになります。私は内視鏡やラクトフェリンの研究をやってきましたが、やっているときはたいしたことをしているわけではないと思っていました。しかし、開業にあたって、クリニックのホームページ用に経歴を書いてみると、やっぱり頑張っていたんだなと感じました。苦しいと思っていても、絶対に糧になりますから、勤務医時代の仕事はきちんとやっておくほうがいいですね。
 開業に関する情報は氾濫していますが、一人で何もかもを行うのはとても無理なので、専門分野はコンサルタントに任せることも必要です。ただし、コンサルタントはしっかりとしたところを見極めてください。


プライベートの過ごし方(開業後)

 今は火曜日に日本橋大三クリニックに勤務し、その他の曜日も土日を含めて診療ですので、祝日しか休みがない状態です。しかし、休みの日には子どもが喜びそうなところを事前にチェックしておいて、連れていっています。子どもは小学5年生、1年生、幼稚園の年長と3人いますが、そろそろ一番上の子は友達と遊ぶ方が楽しくなってくるでしょうから、できるだけ楽しい時間を子どもと共有できたらと思っています。


タイムスケジュール

タイムスケジュール

クリニック平面図

平面図

クリニック概要

豊洲キュービックガーデン 神津クリニック
  院長 神津 隆弘
  住所 〒135-0061
東京都江東区豊洲3-2-3
豊洲キュービックガーデン1階
  医療設備 上部、下部内視鏡、腹部超音波、デジタルレントゲン、電子カルテ、心電計、超音波洗浄機、滅菌機、聴力計
  スタッフ 7人(院長、非常勤看護師4人、常勤受付2人)
  物件形態 ビル診
  延べ床面積 約50坪
  敷地面積 約50坪
  外来患者/日の変遷 開業当初 10名→3カ月後 15~20名
  URL http://kozu-clinic.com/

2012.06.01 掲載 (C)LinkStaff

バックナンバーはコチラ

リンク医療総合研究所 非常勤で働きながら開業準備

おすすめ求人

  • 矯正医官
  • A CLINIC GINZA
  • フォーシーズンズ美容皮膚科クリニック
  • 長野県医師紹介センター