クリニックの窓教えて、開業医のホント

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ゆうクリニック

渡邉 慶太 院長

稲畠 勇仁(ゆうじ) 院長プロフィール

 1962年に東京都江戸川区で生まれる。1987年に東京医科大学を卒業後、東京医科大学整形外科学教室に入局する。東京医科大学病院、信濃医療福祉センター、東京医科大学八王子医療センター、戸田中央総合病院、社会保険蒲田総合病院、木村病院、樺島病院、佐々総合病院などに勤務する。2009年に東京都港区麻布十番にゆうクリニックを開業する。2011年4月にゆうクリニックを現在地に移転する。日本整形外科学会専門医、日本整形外科学会認定脊椎脊髄病医・運動器リハビリテーション医・スポーツ医、日本脊椎脊髄病学会指導医、身体障害認定医(肢体不自由)など。

 東京都港区麻布十番は下町の風情のある地区であるが、六本木ヒルズへのアクセスが良く、麻布十番商店街は大きな賑わいを見せている。
 ゆうクリニックは多目的広場であるパティオ十番を通る雑式通り沿いに位置するクリニックで、2009年に開業した。東京メトロ南北線、東京都営地下鉄大江戸線の麻布十番駅から徒歩3分ほどと恵まれた立地であるが、ゆうクリニックの特徴は整形外科の訪問診療にある。病院に通院したくても、介助者がいなかったり、痛みが強かったりという理由で通院が困難な方を対象に、整形外科診療を行っている。
 今月はゆうクリニックの稲畠勇仁(ゆうじ)院長にお話を伺った。

開業に至るまで

◆ 医師を目指された経緯をお聞かせください。
 実家は染物工場を経営していましたが、父はもともと医師になりたかったそうなんです。でも、長男だから家業を継いだんですね。そういう話を伯母たちから聞かされて、「あなたは次男なんだし、医学部を目指してみたら」と勧められたことが大きかったです。最初はそこまでの使命感があって、医師を目指したわけではありませんでした(笑)。


◆ 大学時代はどのような学生でしたか。
 ゴルフ部に入っていました。部員の中には小さい頃からお父さんとラウンドしていたというような人もいましたが、私は全くの初心者でした。彼らに追いつこうと、真面目にトレーニングや練習をしていました。最初は大変でしたが、ゴルフ自体は楽しいですし、いい大学生活を過ごせました。


◆ 大学時代はどんなご趣味をお持ちでしたか。
 車に乗ることですね。子どもの頃に実家の会社の配達の車に乗せてもらって、下町を回るのが好きだったんですよ。大学生になって、自分で運転するようになったら、もっと楽しくなりましたね。彼女でもない人を送り迎えしていたり、「元祖アッシーくん」だったと思います(笑)。


◆ 専門を決められた経緯をお聞かせください。
 学生時代にポリクリで整形外科を回ったときに、4、5学年上の先生たちが皆さん、背が高く、かっこよくて、イケメン揃いだったんです(笑)。ゴルフ部の先輩で優秀な方も整形外科にいらして、勧めてくださったのもきっかけです。その先輩から「患者さんが亡くならない診療科だよ」と言われたことが決定的でしたね。今は在宅医療を行っていますから、シビアな状況を目の当たりにしていますが、当時の整形外科はまだ内科や外科の医師に比べれば、患者さんの死に向き合うことのない診療科でした。


◆ 母校の医局を選ばれたのはどうしてですか。
 新宿という都心部にある大学病院ですし、多くの疾患を学べそうだという理由です。東京医科大学は「体育会系」や「武道系」と言われていました(笑)。1年上なだけで、先輩方は非常に威厳があるんです。そういう先輩方からお誘いを受けたことも大きかったですね。


◆ 当時の整形外科はどんな診療科でしたか。
 整形外科の患者さんは今は高齢者が主体ですが、当時の患者層は若かったんですよ。元気な方がたまたま怪我をして、来院するという患者さんばかりでした。小児の患者さんも多く、小児病棟にもよく行っていましたね。小児の変形矯正や股関節脱臼など、長く入院するケースもあります。おむつを替えながら、ギブスをしたり、子どもの患者さんとはすっかり仲良くなりましたよ。


◆ 信濃医療福祉センターでも勤務されていますね。
 信濃医療福祉センターでは肢体不自由児の治療を学びました。院内学級もありますので、子どもさんは病院に通うのではなく、病院内で生活をしているんです。そういう子どもさんの姿から考えさせられることが多かったですね。


◆ かなり転勤が多かったのですね。
 医局のローテーションで、半年間や1年間ずつ、色々な病院に行きました。戸田中央総合病院の今の理事長は大学の先輩でもありますし、先代の理事長時代から大学の派遣先なのです。外傷が多く、非常に厳しい環境でしたが、勉強になる病院でした。


◆ 勤務医時代を振り返って、いかがですか。
 様々な特徴を持つ、様々な病院に勤務することができ、勉強させていただけた日々でした。外傷、腫瘍、手、足など、それぞれに強みのある医師がおられる病院を回りましたので、一通りのことはできるようになりました。専門は脊椎外科で他大学の先生からも学びました。

開業の契機・理由

◆ 開業の動機をお聞かせください。
 最後に勤務した佐々総合病院は地元密着の病院で、要介護になっても介護の方の車に乗せてもらって、わざわざ通院していらっしゃる方も少なくありませんでした。そこで、整形外科の訪問診療を行うのはどうかと思ったのが開業のきっかけです。また、私自身も体力の衰えを感じ、一日がかりの脊椎手術などは辛い状況だったこともありますね。


◆ 整形外科の訪問診療は珍しいですが、不安はありませんでしたか。
 整形外科で開業するとなると大きなクリニックになってしまいます。一人の医師に対して、大勢の患者さんがいらしていて、リハビリのスタッフなどもいます。でも、そのクリニックにすら行けなくて、困っている患者さんはいらっしゃるのではないかと思いましたし、実際にニーズもありました。
 私は車の運転が好きですし、23区内でしたら、ほとんどの道が頭に入っていることもあって、そういう面での不安はなかったですね。また、23区内には東京医大のOBの先生方が開業しているクリニックが多いことも心強かったです。


◆ 開業地はどのように選ばれたのですか。
 訪問診療はクリニックの場所から半径16キロ以内と定められていますので、東京タワーの近くで開業すれば、23区内がほとんどカバーできることに気がついたんです。最初は自宅のある杉並区でも良かったのですが、やはり23区内をエリアにしたいと考え、東京タワーの近くで探しました。虎ノ門の汐見坂や三田の潮見坂などの地名から分かるように、昔は海が見えたそうですし、NHKも愛宕山から発信していたわけですから、東京タワー近辺はやはり東京の中心なんですよね。


◆ 開業地の第一印象はいかがでしたか。
 最初は鳥居坂下交差点の近くのビルで開業したのですが、ビルの工事をすることになったので、現在の物件に移ってきたのです。麻布十番の駅や駐車場からも近いですし、第一印象は良かったですね。窓から東京タワーの頭だけが望めることも気に入っています(笑)。


◆ 開業するまでにご苦労された点はどんなことですか。
 整形外科の訪問診療というものが認知されていなかったことです。患者さんはもちろんのこと、勤務医の先生方にも、ケアマネージャーさんにも知られていませんでしたね。私としてはニーズがあるという確信があったのですが、困っている方を探すことが大変でした。


◆ どのように認知を広めていかれたのですか。
 これまで勤務していた東京医科大学病院や戸田中央総合病院のみならず、お世話になった先生方がおられる東京都立大塚病院、厚生中央病院、東邦大学医療センター大橋病院、昭和大学病院などに挨拶に行きました。また、近くの六本木で開業されている那須整形外科医院やむすび葉クリニックからも患者さんを紹介していただきました。那須整形外科医院の那須耀夫院長は大学の先輩でもありますし、むすび葉クリニックは大規模に在宅医療をされていますので、有り難かったです。
 それから介護関係ですね。港区、目黒区、品川区、杉並区の地域包括支援センターや訪問看護ステーションなどに挨拶に行き、ケアマネージャーさんにパンフレットを渡して、患者さんの紹介をお願いしました。


◆ 当初はどういったスタッフ構成でしたか。
 私のほかは事務のスタッフが一人だけです。最初は一緒に訪問先に伺い、パソコンへの入力や会計を行っていたのですが、患者さんが増えてきて、捌ききれなくなったので、今は訪問先には私一人で伺っています。事務スタッフはクリニックに常駐して、レセコンに入力するなどの事務を行っています。


◆ 医療設備については、いかがでしょうか。
 注射やコルセット、ギブスなどを揃えています。当初は高齢の患者さんにニーズがあると予想していましたが、意外に若い方からのご依頼もあります。若い患者さんはインターネットで調べて、電話をくださるんですね。ぎっくり腰になった一人暮らしの女性が救急車を呼ぶのは恥ずかしいということで、私が伺ったら、「来てくれて嬉しかったです。安心しました」と言われたこともあります。


◆ 設計や内装のこだわりについて、お聞かせください。
 私どもの入居前はネイルサロンが入居していたそうで、綺麗な状態でしたし、特に手を加えてはいません。外来にはあまり力を入れておらず、以前、手術した患者さんがいらっしゃる程度ですね。

クリニックについて

◆ 診療内容をお聞かせください。
 一般的な整形外科診療のほか、各種消炎鎮痛処置、ブロック注射、ヒアルロン酸などの関節注射、PG製剤注射、他院で撮影した画像診断、各種装具処方、投薬処方、運動療法指導、採血、尿検査などを行っています。


◆ 装具の処方もなさっているんですね。
 装具作成会社と提携していて、病院に行かないと作れないような腰のコルセットなどを作っています。訪問診療先に義肢装具士と同行し、その場で型を取っています。


◆ 訪問診療の意義はどんなところにありますか。
 患者さんご本人はもちろん、ご家族の方の負担も軽減していることでしょうか。神奈川県に住んでいる娘さんが毎週、東京のお母さんを車で病院に連れて行き、お母さんを連れて帰ったあとで、ご自宅に戻られていたのですが、私が訪問診療に伺うようになったので、その負担が減ったと喜んでいただきました。そして、お母さんも再び歩けるようになり、私も嬉しかったですね。
 自宅で転倒して背骨を骨折した患者さんが医師に「家で寝ていれば治る」と言われ、3カ月間、寝ていたら、本当に起き上がれなくなった人もいます。在宅できちんと治療することで、介護を受けなくて済むんです。訪問診療は内科の医師が中心ですが、整形外科で訪問診療を行うことの意義は要介護者を減らすことにもあると思います。


◆ 在宅医療はどのような流れで行われているのでしょうか。
 病院やクリニック、ケアマネージャーからの連絡がまずあります。今のところ、病院やクリニックが2割、ケアマネージャーが4割、ケアマネージャーから教えてもらったというご家族からが3割、インターネット経由が1割という割合ですね。患者さんのお孫さん世代はインターネット経由のようです。連絡を受けて、訪問診療に伺います。そこで、病状が分からない方には病院をご紹介しますし、背骨の骨折でしたらMRIが撮れる施設をご紹介したりします。他院で撮った画像を診ることもありますし、ポータブルエコーは私も持っていきますので、四肢の骨折はすぐに判断できます。
 内科的な疾患は内科の在宅医と連携したり内科系の医療施設をご紹介しますし、私どもは整形外科の病気で要介護になりそうな方を中心に診ています。


◆ セカンドオピニオンもなさっていますね。
 日本脊椎脊髄病学会の指導医でもありますから、特に脊椎疾患に対して行っています。病院では時間の制約もありゆっくり話すことができないのですが、在宅だと検査がほとんどできないかわりに患者さんの話をじっくりと聞くことが出来ます。


◆ 在宅医療の難しさはどんなところにありますか。
 人はそれぞれ違う環境で暮らしているということですね。同じ高齢者でも、お城のような豪邸でお姫様のように暮らしている方もいれば、六本木駅のすぐ近くとは思えないような古いアパートに一人暮らしをしている方やご夫婦揃って認知症が急速に進行している方々もいます。また、ペットを飼っているお宅では清潔操作が難しいですね。処置するときに、ネコが寄ってきたら感染のリスクがありますので、膝の硬膜外注射などは避けています。


◆ 病診連携については、いかがですか。
 東京医科大学病院、国際医療福祉大学三田病院、林外科病院、東邦大学医療センター大橋病院、厚生中央病院が中心です。診診連携としては那須整形外科医院、むすび葉クリニックなどですね。


◆ 経営理念をお教えください。
 起業理念は「人が喜ぶことをする。それで自分も幸せになる。巡り巡って自分に返ってくる」、「喜ばされた人よりも喜ばせた人の方が幸せになる」です。
 また、「ゆうクリニックの目的」は「『医療』で見過ごされている人、本来『医療』で診るべき人を『介護』ではなく『医療』として診る。自分たちの存在を認めてくれる人、存在を感謝してくれる人に対して許す限りどこまでも行き、適正な医療を適正な価格で提供する」です。


◆ スタッフ教育はどのようにされていますか。
 私どものスタッフは事務が中心で、接客は電話応対ぐらいなんです。したがって、教育はマニュアルを覚えてもらう程度ですね。レセコンを入れていますので、かなり負担は減っていると思います。


◆ 増患対策について、どのようなことをなさっていますか。
 ホームページのほかは地元のフリーマガジンである『六本木・麻布案内』に広告を出稿しています。また、ホームページを制作してもらった企業の関係で、杉並区で電柱広告を行っています。

開業に向けてのアドバイス

 私はあまり考えずに開業してしまったので、準備期間を長く取って、計画をよく練られることをお勧めします。私は2カ月しかなく、コンサルタントに依頼する余裕もありませんでした。開業にあたっては小さく展開して、小さく利益を出すシステムがいいと思います。

プライベートの過ごし方(開業後)

 熱帯魚が好きで、クリニックでも飼育しています。特にビーシュリンプが好きなんですよ。生まれたては2ミリほどしかなく、かわいいんです。8尾から100尾ほどにまで繁殖させたのですが、暑さでかなり死んでしまったんです。そこで、暑さ対策のため、私が出勤するよりも早い時間からクーラーを入れてやって、過保護に育てています(笑)。
 それからサッカー観戦も好きですね。ヨーロッパのチャンピオンズリーグなどを観ています。また、今年こそはゴルフを再開したいと思っているところです。

タイムスケジュール

タイムスケジュール

クリニック平面図

平面図

クリニック概要

ゆうクリニック
  院長 稲畠 勇仁
  住所 〒106-0045
東京都港区麻布十番2-3-12-704
  医療設備 血液検査、尿検査、細菌培養検査、ポータブル心電図、ポータブル超音波、注射用器具一式など
  スタッフ 3人(院長、非常勤事務2人)
  物件形態 ビル診
  延べ面積 約23平米
  敷地面積 約23平米
  開業資金 約200万円
  在宅患者数の変遷 開業当初 3人 → 3カ月後 50人 → 6カ月後 50人 → 現在 62人
  URL http://www.seikeioushin.com/

2013.08.01 掲載 (C)LinkStaff

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