フロッギーズクリニック
池上 恭司 院長プロフィール
1961年に東京都世田谷区で生まれる。1986年に筑波大学を卒業し、日本赤十字社医療センターで研修を行う。1989年に青少年健康センター北の丸クリニックに勤務する。1992年に筑波大学大学院を修了する。1995年に理化学研究所に産業医として勤務する。1997年に医療法人清風会豊和麗病院(現 ホスピタル坂東)院長代理を務める。2002年10月に東京都世田谷区にフロッギーズクリニックを開業すると同時に、世田谷福祉センター嘱託医となる。
日本精神神経学会専門医・指導医、精神保健指定医、精神保健判定医など。
世田谷ティーズヒルは東急田園都市線の三軒茶屋駅から徒歩10分の明薬通り沿いに位置する大規模コミュニティである。明治薬科大学の跡地である総面積約2万6000平方メートルの広大な敷地の中にUR都市機構のアクティ三軒茶屋やハウス・ソラーナといった住居棟ブロックや施設棟ブロックが配置されている。明薬通りは広い歩道が特徴の通りで、三軒茶屋駅と目黒駅を結ぶバスが頻繁に往来している。
フロッギーズクリニックは世田谷ティーズヒル生活支援棟に入居するクリニックで、2002年に開業した。フロッギーズクリニックは池上恭司院長の「身体的ケアのうえにメンタルヘルスケアがある」という方針のもとで、内科、小児科、皮膚科、耳鼻咽喉科、眼科、心療内科、精神科など診療科目にこだわらない診療を行っている。また、デイケアやナイトケアも併設している。
今月はフロッギーズクリニックの池上恭司院長にお話を伺った。
開業に至るまで
◆ 医師を目指された経緯をお聞かせください。
身内に医師がいる環境ではなかったですし、どうしても医師になりたいという願望もありませんでしたが、中学生の頃に折角、勉強するのであれば専門性を活かせる仕事をしよう、そして専門性を高めていける職業に就きたいと考えたことがきっかけです。
◆ 大学時代はどのような学生でしたか。
実家を離れ、筑波に住んでいました。勉強よりも趣味を優先させていた大学生活でしたので、もっと時間を有効に使えばよかったと後悔もしています。勉強もすべきでしたね(笑)。
◆ 大学時代はどんなご趣味をお持ちでしたか。
自然の中を歩くトレッキングや山登り、スキーといったアウトドアでの趣味が主ですね。スキーは国内のみならず、スイスやフランスといった海外でも滑りましたよ。クラブでの活動ではなく、友人たちと自由気ままに楽しんでいた感じです。
◆ 大学卒業後に日本赤十字社医療センターを研修先に選ばれたのはなぜですか。
今はスーパーローテートでの初期研修が義務付けられていますが、我々の頃はそうではありませんでした。しかし、私は身体的な疾患とメンタルヘルスケアを分離して扱うべきではないと思っていたので、スーパーローテートの研修をしたかったのです。当時の日赤医療センターはスーパーローテートの研修を行っており、全国から研修医を募集していました。私は日赤医療センターで学生時代には診られなかったようなことを学び、技術を取得しようと思ったんです。今の若い先生方と同じようなコースで基本的なことを勉強できたのは良かったですね。
◆ 日本赤十字社医療センターの研修ではどんなことが役に立ちましたか。
精神科以外でしたら、内科、小児科、麻酔科の研修ですね。特に麻酔科で手技を学べたのは有り難かったです。身体のケアができないとそれ以上のことはできないですから、身体のケアを理解したうえで、メンタルケアに取り組もうと思っていました。
◆ 専門を精神科に決められた経緯をお聞かせください。
学生時代から興味があり、視野に入れていました。母校の医局にも出入りしていましたね。しかし、当時の医療の中で精神科はあまり重きを置かれていませんでした。ニーズは間違いなく高いのに、身体的ケアと別々に動いているのはおかしいと思っていたんです。身体的ケアとメンタルヘルスケアの融合はなされていない分野でしたので、卒業当初からやってみたいと考えていました。日赤医療センターでは身体的ケアを中心に研修しながら、精神科医療に関しては母校の医局の勉強会に参加していました。
◆ 母校に入局を決められたのはどうしてですか。
臨床の実地経験を積みながら、研究も行えることが魅力でした。関連病院に行って、多くの症例に当たらせていただきましたね。最後に勤務した豊和麗病院は精神科をベースにした病院ですが、内科も100床あり、私がやっていきたいこととマッチしていました。一般的な身体的ケアの中でメンタルヘルスケアに対応できるという医療は研修医時代から理想としていたことでしたので、とても勉強になりました。身体的ケアとメンタルヘルスを常にセットで考えることが必要だと改めて認識しましたね。
◆ 勤務医時代を振り返って、いかがですか。
独立して開業するとなると一人ですから、経験できないことも多くあります。その意味で、勤務医時代に多くの経験を積み、様々な診療科のことを学べたのはとても良かったです。
開業の契機・理由
◆ 開業の動機をお聞かせください。
継承する物件もないですし、開業志向が強かったわけではありません。ただ、勤務医には開業医とは別の忙しさがあり、やりたいこととやらなくてはいけないこととのギャップができていましたので、やりたいことの自由度を上げるための選択肢の一つとして開業を選びました。開業はある程度の年齢でないと経験が足りませんから、チャレンジできません。かと言って、年齢を重ねてしまうと身体的にもきつくなりますので、タイミングが難しいですね。
◆ 不安はありませんでしたか。
医師は経営者としてのトレーニングを受ける機会がありませんので、その点は不安でした。これは今の医学教育のプアな部分ですね。雇用ですとか、経営者としての責任もありますしね。最低限のルールを認識することは大事だと思います。
◆ 開業地はどのように決められたのですか。
開業にあたってはデイケアやナイトケアを行いたかったので、ある程度のスペースを確保することが絶対的な条件でした。資金的な問題もありましたし、広いテナントを探すのは難しかったですね。そんなときに大学などの跡地の再開発で新しい街づくりを行っているところがあると知り、その中で医療機関の誘致をしているところをいくつかピックアップして、問い合わせを始めたんです。ここは明治薬科大学の跡地で、オーナーはURです。当時はまだ更地で企画の段階でしたが、生活支援棟という居住者との接点としての入口を作る予定があると聞きました。そこで話を進め、プレゼンを行ったところ、採用していただけました。
◆ 開業地をご覧になっての第一印象はいかがでしたか。
閑静な場所だと思いました。メンタルクリニックだけでしたら、駅前などでこじんまりと開業できますが、私は地域の中に溶け込んで、地域の方が来やすく、受診しやすいクリニックにしたかったので、駅前にはこだわらなかったんです。身体的ケアとメンタルヘルスケアが併設でき、テナントとしての面積も広く、内装をこちらの主導で行えるといった理想を兼ね備えていました。
◆ マーケティングはなさいましたか。
一応、行いました。世田谷区ですから競合はそれなりにありますが、URの住宅がバックヤードにできますので800人から900人の人口が見込めそうでした。新しい地域住民が増えるわけですから、既存のクリニックとバッティングせずに済むのが利点でしたね。
◆ 開業するまでにご苦労された点はどんなことですか。
時間的な制約です。勤務しながら開業準備を行うのは時間の活用を考えないといけません。一部の仕事は東京でもしていましたが、メインの仕事や住まいは茨城県内でしたし、開業地との行ったり来たりが大変でしたね。URの住宅が2002年4月に完成するとのことで、開業もそのタイミングに合わせたかったのですが、内装工事に時間がかかったこともあって、半年ほど遅れてしまいました。
◆ 医師会には入りましたか。
世田谷区医師会に加入しました。精神科のみの開業でしたら医師会加入は必要ないのかもしれませんが、私どもは小児科も行う予定にしていましたので、予防接種や健診、特定健診などの面から加入しておいた方がいいと考えました。加入していなかったら、単独で行政とやり取りしないといけませんから、煩雑ですしね。加入費用もかかるので兼ね合いは難しいですが、地域の開業医の先生方との繋がりを持てるのはいいことだと思います。
◆ 当初はどのようなスタッフ構成でしたか。
看護師4人、事務系のスタッフが5人、精神保健福祉士2人、心理カウンセラー1人といった構成です。スタッフを集めるのにはさほど苦労はなく、順調でした。
◆ 医療設備については、いかがでしょうか。
大掛かりなものとしてはデイケア、ナイトケア、診療室でしょうか。あとはレントゲンや心電計ぐらいですね。医療設備よりも内装に方向性を持たせることに重きを置いていました。
◆ 設計や内装のこだわりについて、お聞かせください。
クリニックらしさをなくし、リラクゼーションの場所にしたいというこだわりがありました。病院は英語ではホスピタルですが、医療というよりも本来の意味でのホスピタリティを追求したかったんです。長期滞在型ホテルのようにリラックスできるスペースであるというのが今も大事にしているコンセプトです。
またプライバシー保護にもこだわっています。待合室に人が大勢いる状況を避けたかったので、待合室にパーテーションを設けていますし、個室の待合室もあります。
壁などは木目調で、床はバリアフリーにしています。設計士さんと何度も打ち合わせを重ねて仕上げていきましたので、満足のいく設計や内装ですね。
◆ ユニークなクリニック名ですね。
地名や医師名を冠したネーミングは単純ですし、印象に残りやすいネーミングにしたいと思っていて、以前から好きなカエルを使った名称にしました。私は妻からカエルに似ていると言われているんです(笑)。クリニック内にカエルの置物をあちこちに置いていますので、来院された方は「そういうことなんだ」と納得されますね。私の名前を忘れてしまっても、クリニックの名前を覚えてくださっている方が多いんですよ。患者さんからのカエルのプレゼントも増えてきました。
クリニックについて
◆ 診療内容をお聞かせください。
内科、小児科、皮膚科、耳鼻咽喉科、眼科、心療内科、精神科など、診療科目にこだわらない診療を行っています。日常生活上の急病への対応、生活習慣病の指導管理、各種の専門外来、予防医学、禁煙外来、各種の健康診断、骨粗鬆症治療、予防接種、ストレス性障害への対応、デイケア、ナイトケアなど、幅広いですね。
◆ 皮膚科、眼科、耳鼻咽喉科などもカバーされているのですね。
かかりつけ医として診られる範囲で対応しています。拝見して、この程度なら私が診るとか、そうでないなら専門医にお任せするという割り振りを行っていますが、そういった姿勢は開業医として当然なのではないでしょうか。専門外なので診られないという態度は取りたくないですし、このために卒後研修や勤務医時代にトレーニングを積んできたのだと思っています。
◆ 患者さんの層はいかがですか。
0歳児から高齢の方までいらっしゃいますが、高齢者は少なめですね。近隣にお住まいで、定期的に来られる方もいますが、高齢の方々が集まるクリニックではありません。私が専門にしてきたのは青年期や思春期ですから、中心となる患者さんの層は10代から30、40代となっています。
◆ もの忘れ、睡眠障害、不安障害、引きこもりの専門外来もなさっていますね。
開業当初から行っています。心理カウンセラーも在籍していますし、患者さんのみならず、ご家族の方からのご相談もお受けしています。
◆ どのようなデイケアやナイトケアをなさっているのでしょうか。
コミュニケーションをトレーニングしていくには医師と患者さんの1対1の対応では限界があります。グループを使わないと難しいのですが、既存のグループですと患者さんに合わないこともありますので、改めて「クラブフロッギーズ」を立ち上げました。従来の医療機関でのデイケア、ナイトケアの概念を離れています。各種プログラムを用意していますが、参加は自由です。読書や散歩の企画もありますし、ボランティアやアルバイトへの参加も自由です。メンバー同士の対人関係を通じて社会復帰への一歩を踏み出してほしいんですね。グループ療法で得られるものは大きいですし、グループ療法を介してのトレーニングでソーシャルスキルを向上させています。
◆ 病診連携については、いかがですか。
地域内の病院にご紹介することが多いですね。東京医療センター、東邦大学医療センター大橋病院、国立成育医療研究センター病院が中心です。精神科領域でしたら東京都立松沢病院や国立精神・神経医療研究センター病院にもご紹介します。東京都内は大学病院にしろ、専門病院にしろ、判断や診断などの対応が難しいときにご紹介できる医療機関が豊富なので困らないですね。
◆ 経営理念をお教えください。
スタッフによく言うのは「来院される方は当院をご利用いただくゲストだ」ということですね。医師と患者さんですと、どうしても医師が上になりがちですが、相談を受けているスタンスでは色々な問題が起こってしまいますので、あくまでもゲストでないといけません。数あるクリニックの中で私どもを選んでくださったわけですから、そのご期待に応えるためには専門性を高くしておかなくてはいけないとも考えています。
◆ スタッフ教育はどのようにされていますか。
ゲストを大切にということに尽きますね。ご意見をいただく機会は有り難いのですから、クレームにも丁寧に対応するように伝えています。何か問題が起きたときには状況を的確に把握し、スタッフ皆で問題の共有化を図ったうえで、ゲストである患者さんにご理解をいただくようにしています。
◆ 増患対策について、どのようなことをなさっていますか。
ホームページがメインです。地域の中での医療サービスを充実させるために、開業当初は年中無休にしていたのですが、医師一人で行えることは限度があります。今後は医師数を増やし、クリニックの守備範囲を広げることが増患対策になると考えています。
開業に向けてのアドバイス
医療に対する明確な理念を持つことです。自分の実践したい医療と経営者としての理念をしっかり持っておきましょう。医療は一人ではなかなかできないものだというのは勤務医時代から理解できていることですが、開業すると従業員ではなく、総括者として動かないといけません。総括者としてチーム医療をどう実践していくのかを考えることができれば、経営理念も浮かび上がってきますから、うまく軌道に乗せることができると思います。
プライベートの過ごし方(開業後)
勤務医時代に比べると当直や夜間の緊急呼び出しがなくなったので、ストレスは軽減されました。学生時代もトレッキングが趣味でしたが、今も日常から少し離れ、緑の中をトレッキングするのが好きです。開業当初は年中無休を謳っていましたが、年齢的にもやはり無理ですね。休むときは休むようにしています。自分の健康管理をきちんとできないと、人の健康管理はできないですから、当たり前のことを実行しています。
タイムスケジュール
クリニック平面図
クリニック概要
フロッギーズクリニック | ||
院長 | 池上 恭司 | |
住所 | 〒154-0003 東京都世田谷区野沢1-35-8 世田谷ティーズヒル生活支援棟301 |
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医療設備 | デジタルレントゲン、デジタルCR、心電計、電子カルテなど | |
スタッフ | 16人(院長、非常勤看護師4人、心理カウンセラー1人、常勤精神保健福祉士1人、非常勤精神保健福祉士2人、常勤事務1人、非常勤事務4人、経理スタッフ2人) | |
物件形態 | ビル診 | |
延べ面積 | 約304.12㎡ | |
敷地面積 | 約304.12㎡ | |
開業資金 | 約8000万円 | |
外来患者数の変遷 | 開業当初 20人 → 3カ月後 30人 → 6カ月後 40人 → 現在 50人~90人(季節によって変動) | |
URL | http://www.froggies.ne.jp/ |