クリニックの窓教えて、開業医のホント

バックナンバーはコチラ

産婦人科クリニックさくら

桜井 明弘 院長

桜井 明弘 院長プロフィール

1970年に群馬県高崎市で生まれる。1994年に順天堂大学を卒業し、順天堂大学産婦人科教室に入局する。順天堂大学医学部附属順天堂医院で研修ののち、1996年に順天堂大学大学院に進学し、在籍中に東京女子医科大学第二生理学教室に国内留学を行う。大学院修了後は順天堂大学医学部附属浦安病院、越谷市立病院での勤務を経て、2001年に賛育会病院に勤務する。研究面では精子由来の卵活性化因子を研究し、日本受精着床学会から「世界体外受精会議記念賞」を受賞する。2006年に東京女子医科大学第二生理学教室主催の国際シンポジウムで講演を行う。2007年4月に横浜市青葉区に産婦人科クリニックさくらを開業する。日本産婦人科学会専門医、日本産婦人科内視鏡学会技術認定医など。

 神奈川県横浜市青葉区のたまプラーザ駅周辺は多摩田園都市の中心地である。1960年以降に東急電鉄による土地区画整理事業で造成された街だが、国内で初めて住民による建築協定が作られるなど、美しい景観を維持している。2005年には住まいのまちなみコンクールで「住まいのまちなみ賞」を受賞した。近年ではたまプラーザテラスなどの商業施設が再開発され、東急田園都市線のたまプラーザ駅もターミナル駅としての整備が行われた。
 産婦人科クリニックさくらは東急田園都市線たまプラーザ駅南口から徒歩2分ほどのメディカルモールたまプラーザに2007年に開業したクリニックである。コンセプトは「カラダに優しく、妊娠後にも優しく、こころに優しく」で、不妊治療を専門にしている。
 今月は産婦人科クリニックさくらの桜井明弘院長にお話を伺った。

開業に至るまで

◆ 医師を目指された経緯をお聞かせください。
 幼少期に医療ドラマなどを見て、人の生命を救う医師の仕事は崇高だと漠然と感じていました。でも医師という職業に就ける人は医師の子弟だけだと勘違いしていたんです(笑)。私の父は経営者で、医師ではありませんでしたが、医師を目指していたこともあったそうです。高校の頃に父に進路を相談したときに、父が「医師になりたいのであれば準備はできている」と言い、自分の夢を託してくれました。


◆ 大学時代はどのような学生でしたか。
 勉強を真面目にやっていた、普通の医学生でしたよ。順天堂大学は部活動が盛んで、皆、何かの部に入っていました。私はバドミントン部に入りましたが、練習はかなりハードでしたね。体力づくりには最適なスポーツだったと思います。


◆ 大学時代はどんなご趣味をお持ちでしたか。
 読書や映画鑑賞ですね。今は仕事が趣味です。


◆ 専門を産婦人科に決めたのはどんな理由からですか。
 もともと手術に興味があり、外科系の診療科を考えていました。人様の病気をメスで切り取るというのは分かりやすい遣り甲斐ですし、花形である外科医に憧れていたんです。それで外科か、脳神経外科かで迷っていたのですが、卒業間際になって産婦人科の魅力に気づきました。外科系でありながら、内科的な要素も大きいですし、何より出産があります。病気の方だけでなく、正常な方の妊娠や分娩に立ち会えるというのは産婦人科の醍醐味だと思いました。


◆ 母校に入局されたのはどうしてですか。
 当時は母校に残るのが当たり前の風潮でしたので、そのまま入局しました。ちょうど桑原慶紀教授が着任された頃で、新しい医局に生まれ変わって上り調子な雰囲気だったんです。長い間、同じ教授がいらっしゃる医局はどうしても体制が固定化されがちですが、新しい教授のもとでは勢いが出てくるんですね。いい医局に入れたと思っています。


◆ 研究でも大きな成果を上げられたのですね。
 大学院での研究の成果で、学会で賞をいただけたことは嬉しかったですね。精子と卵子が出会って受精卵になるときに何が起きるのかという、受精のメカニズムについての研究を行っていました。順天堂大学は東京女子医大とコラボレーションしていたので、私も女子医大に国内留学したのですが、全く違う環境でしたので、新鮮でした。女子医大では研究に打ち込み、患者さんを診ることはなく、マウスばかりを見ていましたよ(笑)。


◆ 大学病院や市立病院、民間病院など、色々な病院に勤務なさっていたのですね。
 全て医局人事によるものです。分娩や手術、不妊治療など、産婦人科全般を担当していました。順天堂大学は腹腔鏡手術の第一線にある施設ですので、私も子宮筋腫などの腹腔鏡手術はかなりの症例数を積みました。


◆ 勤務医時代を振り返って、いかがですか。
 忙しかったけれど、楽しかったです。最後の勤務先となった賛育会病院では産婦人科の副部長という立場で、後輩の指導にもあたっていました。白紙に近い状態の医師を教える仕事はとても勉強になりましたね。自分が納得できないことは教えないようにしていました。私は理論家で、理論づけて教えるのですが、その姿勢を後輩からは「分かりやすかった」、「有り難かった」と評価されていました。

開業の契機・理由

◆ 開業の動機をお聞かせください。
 医師になった当初から開業を考えていなかったと言えば嘘になりますね。ただ、時期などを決めていたわけではありません。いつか開業するのかなといった漠然とした予感があったぐらいです。賛育会病院での上司はとても尊敬できる方でしたし、その先生が定年退職を迎えられるまではお仕えしたいとも思っていたのですが、この物件の話を聞いたことで、新たなご縁を感じ、開業が具体化していきました。


◆ 開業にあたっては不妊治療をメインにしようと考えていらっしゃったのですか。
 大学でもずっと不妊治療のグループにいましたし、開業にあたっても不妊治療で勝負しようと思っていました。不妊治療は日進月歩で新しい技術が出てきていますが、大学の中ではしてみたい治療法があっても、私はトップのポジションではありませんから、どうしても組織の縛りがあります。自分の理想通りの治療を行うためにも開業したかったですね。


◆ 開業地はどのように決められたのですか。
 開業地を積極的に探していなかった時期に、この場所の近くに住んでいる義父からこちの物件が医療テナントを募集していると聞いたのがきっかけです。


◆ 開業地をご覧になっての第一印象はいかがでしたか。
 更地でしたが、駅に近くて、いい場所だという印象を受けました。当時はまだ再開発が完成しておらず、田舎の街みたいだったんですよ(笑)。ただ、東急電鉄がショッピングセンターなど、女性にターゲットを絞った街づくりをしていくと聞き、女性が集まる街で産婦人科を開業できるのは恵まれていると思いました。


◆ ほかのクリニックも同時に入居されたのですか。
 同時ですね。皮膚科、歯科、内科、調剤薬局などが入居しています。良かったのは開業前にほかのクリニックと管理会社の間で話し合いの機会を持てたことです。それで開業を告知する広告の出し方や内覧会の内容などを皆で話し合い、管理会社にコーディネートしていただきました。


◆ マーケティングはなさいましたか。
 特にしていません。内科や歯科は診療圏が明確で、2つ隣の駅から患者さんがいらっしゃることはほぼありませんが、産婦人科はそうではありません。産婦人科の患者さんは近所にあるからという理由ではなく、質の高いものを求められますので、遠くからでもいらっしゃいます。私どもの患者さんの過半数はたまプラーザや鷺沼が最寄り駅の方々ですが、東京都内はもちろん、埼玉県や新潟県からも来られています。ご実家が近くということで、ロンドンからもいらっしゃったことがありました。


◆ 開業するまでにご苦労された点はどんなことですか。
 開業のノウハウがなかったことです。医学部に進学した人の4割が開業するのに、医学部の中に開業に関する講座はありません。私も医療に自信はありましたが、経営については分からないことばかりでした。特に労働法規です。勤務医は労働基準法が及ばないところで働いていますからね(笑)。しかし、人を雇うとなると、社会と乖離した専門職であるだけではいけませんので、先輩方のクリニックに見学に伺ったり、開業コンサルタントに聞いたりして、学んでいきました。開業後も色々な方の教えを受けていますし、スタッフも見るに見かねて助けてくれています。


◆ 医師会には入りましたか。
 開業当初から入会しています。私どもはたまプラーザ駅周辺では4軒目の産婦人科なのですが、先行の3軒の先生方も歓迎してくださいましたよ。私どもが不妊治療専門ですので競合しないということと、早くに開業された先生方ばかりでしたので安定経営をなさっていることが理由でしょう。今はさらに1軒、増えていますが、良い関係を築けています。


◆ 当初はどのようなスタッフ構成でしたか。
 医師は私と非常勤の妻の2人で、受付が1人、看護師が1人から2人といった構成でした。勤務先から看護師を引き抜くのは避けたいと思っていましたが、ちょうど退職したばかりの看護師に来てもらえることになり、有り難かったですね。今は看護師の確保が大変ですが、当時はそれほどでもなかったです。


◆ 医療設備については、いかがでしょうか。
 超音波のほかは体外受精のための培養室を完備しました。培養士は今は3人いますが、開業当初は私が外来の合間に行っていました。


◆ 設計や内装のこだわりについて、お聞かせください。
 ビルが全面ガラスになっていますので、ふんだんに入ってくる日光を無駄にせず、うまく取り入れられるような設計にしました。産婦人科はピンクを基調にして、木目を使うところが多いのですが、そのイメージをいい意味で裏切りたいと思い、白や黒、アルミを使って、モダンでクールな雰囲気にしています。内診室を別にし、プライバシーに配慮していることもこだわりです。


クリニックについて

◆ 診療内容をお聞かせください。
 不妊治療を中心に、産婦人科の疾患であれば何でも診ています。ピルの処方や婦人科がん検診なども行っています。分娩は行っておらず、妊娠初期に分娩施設にご紹介をしています。


◆ どういった方針のもとで、診療なさっているのですか。
 不妊治療にしろ、そのほかの産婦人科診療にしろ、患者さんのニーズを拾いながら、患者さんに寄り添う医療を行っています。また、勤務医時代ほどではありませんが、学会にデータを出し、発表することを続けています。不妊治療には答えがなく、スタンダードや普遍的な治療がありません。患者さんの身体は一人一人が違うので、培養室の温度管理、培養器、受精卵を育てるための培養液など、合うことも合わないこともあるんですね。したがって、私どもではオリジナルのデータを集めていますし、ほかの施設で良かったものも取り入れるようにしています。


◆ 2診体制なんですね。
 女性医師はニーズがありますから、ポータルを女性医師に、高度生殖医療などの専門的なところを私にという流れができています。複数の女性医師が在籍していることは私どもの特徴でもありますし、女性医師が女性のかかりつけ医としての存在になってくれているので、助かっています。


◆ 女性健康外来もなさっていますね。
 いわゆる婦人科検診なのですが、がん検診といった大きなものよりも、小さい病気を見逃さないように超音波で検診しようといった外来ですね。健康に関する女性の悩みは世代によって異なります。若いときは生理痛、避妊、性感染症などですし、年齡を重ねてくると子宮筋腫、子宮内膜症、妊娠したいという希望だったりします。また、出産後はどうしても通院していただく機会が減りますので、定期検診を行って、細かいトラブルでも解消しようという狙いです。かかりつけ医としての大事な役割ですね。


◆ 患者さんの層はいかがですか。
 私どもは20代から40代の若い世代の方が多く、50代、60代の方は少ないです。


◆ 検診はどのような内容で行っていますか。
 がん検診などの横浜市の検診をお受けしています。ただ、企業とは契約していません。企業と契約すると、4月は検診ばかりになってしまうんですね。不妊治療の場合は来院患者数が年間を通して変化しませんので、季節性のものは取り込みにくいです。


◆ 病診連携については、いかがですか。
 このエリアはご紹介できる病院が多く、恵まれていますね。昭和大学横浜市北部病院、昭和大学藤が丘病院、聖マリアンナ医科大学病院、帝京大学医学部附属溝口病院、横浜総合病院などにご紹介しています。婦人科の場合はご紹介しても手術が必要なく、フォローアップで大丈夫な場合もありますので、逆紹介も少なくありません。
 分娩の場合はリスクに応じて大きな病院をご紹介することもありますが、基本的にはご希望を優先しています。


◆ 経営理念をお教えください。
 開業した以上は私や家族が食べていけることよりも、スタッフが食べていけるような経営を心がけなくてはいけません。長く勤めているスタッフには昇給させたいですし、そのための蓄えも必要です。スタッフが路頭に迷わない程度の利潤を確保したいですね(笑)。


◆ スタッフ教育はどのようにされていますか。
 院内で不定期の勉強会を開いています。不妊治療ではホルモンの動態を分からないといけませんので、そういった内容の勉強会が中心ですね。看護師や培養士などのスタッフ向けの学会にも積極的に参加を促していますし、スタッフにも学会発表の場数を踏ませています。また、近隣のクリニックで開催される接遇の勉強会にも全員で参加しています。


◆ 増患対策について、どのようなことをなさっていますか。
 ホームページのほか、スマートフォン用のホームページやフェイスブックを利用して、患者さんの利便性を高めています。しかしながら、多くの患者さんにいらしていただいているので、これ以上の増患があればサービスが低下しますから、特に増患対策はしていません。医療機関はあまり広告を打つべきではないと思いますしね。
 不妊治療の場合は妊娠されれば、クリニックの成績が上がったということですし、口コミで広まっていきますね。ただ、ブログは開業前から書いており、情報発信に努めています。

開業に向けてのアドバイス

 診療科によって開業の仕方には違いがありますが、共通していることとしては仕事が苦である方は開業しない方がいいということですね。開業するのであれば、自信を持って勝負することのできる、強力な武器が必要です。私の場合は不妊治療とブログなどでの発信力がありました。婦人科であっても、美容外科の機器を揃えて開業されるところもありますが、機器はコストも高いですし、トラブルが起きて大問題に繋がるケースもありますので、付け焼き刃的な知識だけで取り組むのではなく、本当に勉強しないといけません。患者さんからのニーズと自分の強みをいかに合致させるかが大事なのではないでしょうか。

プライベートの過ごし方(開業後)

 仕事が好きで、全く苦ではないですし、趣味を超えることはないですね。しかし、平日は飲みに行くこともありますし、スタッフとの食事会も行っています。家庭では子どもたちと遊ぶ時間を大切にしています。

タイムスケジュール

タイムスケジュール

クリニック平面図

平面図

クリニック概要

産婦人科クリニックさくら
  院長 桜井明弘
  住所 〒225-0003
神奈川県横浜市青葉区新石川3-15-16 メディカルモールたまプラーザ2F
  医療設備 超音波、培養室、電子カルテなど
  スタッフ 21人(院長、非常勤医師5人、常勤看護師3人、非常勤看護師5人、培養士3人、常勤事務2人、非常勤事務2人)
  物件形態 ビル診
  延べ面積 約50坪
  敷地面積 約50坪
  開業資金 約7000万円
  外来患者数の変遷 開業当初20人→3カ月後30人→6カ月後40人→現在120人
  URL http://www.cl-sacra.com/

2014.02.01 掲載 (C)LinkStaff

バックナンバーはコチラ

リンク医療総合研究所 非常勤で働きながら開業準備

おすすめ求人

  • 矯正医官
  • A CLINIC GINZA
  • フォーシーズンズ美容皮膚科クリニック
  • 長野県医師紹介センター