白金高輪海老根ウィメンズクリニック
海老根真由美 院長プロフィール
1970年に福島県福島市で生まれる。1997年に埼玉医科大学を卒業後、埼玉医科大学総合医療センター産婦人科で臨床研修を行う。1999年に埼玉医科大学大学院に入学する。2003年4月に埼玉医科大学総合医療センター非常勤医員を経て、2003年10月にさいたま赤十字病院産婦人科に勤務する。2004年に埼玉医科大学総合医療センター産婦人科学講座助手、埼玉医科大学総合医療センター総合周産期母子医療センター母体胎児部門病棟医長を経て、2005年に埼玉医科大学総合医療センター総合周産期母子医療センター母体胎児部門講師に就任する。2008年に埼玉医科大学総合医療センター総合周産期母子医療センター母体胎児部門非常勤講師を経て、2011年に順天堂大学産科婦人科非常勤准教授に就任する。また、新宿レディースクリニック、虎ノ門とうまクリニック、バリューHRビルクリニック、医療法人社団翠宏会たじま医院、東京レディースクリニック、池袋レディースクリニック、パークサイド広尾レディースクリニック、アーバンハイツクリニックに勤務する。現在も順天堂大学産婦人科非常勤准教授、埼玉医科大学産婦人科非常勤講師、埼玉医科短期大学非常勤講師、国士舘大学スポーツ学科非常勤講師を兼任する。2013年6月に東京都港区に白金高輪海老根ウィメンズクリニックを開業する。日本産科婦人科学会専門医、日本周産期メンタルヘルス研究会理事など。日本母性衛生学会、日本周産期・新生児学会にも所属する。
東京都港区高輪は国の指定文化財である泉岳寺をはじめとして、多くの寺社が点在する街である。2000年に白金高輪駅が完成し、東京メトロ南北線と都営地下鉄三田線が通ったことで利便性が向上した。近年は桜田通りという通称で親しまれている国道1号線沿いにタワーマンションが林立している。
白金高輪海老根ウィメンズクリニックは白金高輪駅の2番出口から徒歩1分の場所に2013年に開業したクリニックである。海老根真由美院長は埼玉医科大学総合医療センターの総合周産期母子医療センターでキャリアを積み、周産期メンタルヘルス研究にも関わってきた。開業後も一般婦人科のみならず、周産期カウンセリングやベビーマッサージ、産後整体、母親学級、両親学級など、多岐に渡る診療内容を提供している。
今月は白金高輪海老根ウィメンズクリニックの海老根真由美院長にお話を伺った。
開業に至るまで
◆ 医師を目指された経緯をお聞かせください。
私は小さい頃からアトピー性皮膚炎がひどく、痒くて眠れない日も少なくありませんでした。病院に通っても良くならないので、病院や医師に恨みもありましたね。母が食事や生活習慣を変えようと頑張ってくれたお蔭で、中学、高校の頃には症状は落ち着いていました。高校生になって、将来の進路を考えるときに、母から「医療に恨みがあるなら、自分でやったら」と言われたことが大きかったですね。私も人としっかり向き合える仕事をしたいという希望がありましたし、患者としての経験がある私だからこそ、患者さんの目線により近いところで仕事ができるのではないかと思いました。
◆ 大学時代はどのような学生でしたか。
国試対策委員を務めていました。当時の埼玉医科大学は国家試験合格率があまり高くなかったので、皆で合格できたらいいなというつもりで取り組んでいたんです。私は2浪して入ったこともあり、リーダーシップを取りやすかったのかもしれません。埼玉医科大学の学生はほとんどが親元を離れて一人暮らしをしますが、地域の方々から優しくしていただいていますし、大学の中もおっとりした雰囲気でしたね。
◆ 大学時代はどんなご趣味をお持ちでしたか。
特に趣味はなかったですが、思い出としてはベルリン自由大学に短期留学したことが挙げられます。ベルリン自由大学では神経内科を学びました。外国の積極的な医学生に大変刺激を受けました。
◆ 専門を産婦人科に決めたのはどんな理由からですか。
もともと小児科医になりたくて、4年生のときに実習にも行ったのですが、小児科は神経、呼吸器、循環器など、細かく専門分野と分かれていますし、扱う範囲が広いので、あまりピンと来なかったんですね。一方で、木下勝之教授、竹田省准教授のいらっしゃる産婦人科は講義がとても楽しかったんです。お二人ともジェントルマンで、魅力がありましたね。当時は心臓外科と並んで忙しい科だと言われていましたし、女性医師もほとんどいませんでした。私が入局した頃に女性用の当直室ができたんです。当時の産婦人科は女性医師が5%しかいなかったんですよ。今は産婦人科専門医の受験生の70%ですから、かなり状況は変わってきましたね。
◆ 母校に入局されたのはどうしてですか。
当時は本院である埼玉医科大学病院と、川越にある埼玉医科大学総合医療センターを選べたのですが、お二人の先生がいらっしゃる総合医療センターで勉強させていただくことになりました。
◆ 総合周産期母子医療センターの病棟医長までなさったのですね。
総合周産期母子医療センターは重症の患者さんが多く、病棟医長時代は3カ月に1日、休めるかどうかで、まるで病院に住んでいるみたいでした。週末当直も月に2、3回ありましたしね。2007年に第一子を出産したときに、病棟医長との両立はできないと考え、非常勤にしていただきました。「病棟医長をやった人がたかが出産、育児で辞めるのか」とも言われましたが、出産、育児はそのように軽視すべきことではないと思います。
◆ 順天堂大学医学部附属順天堂医院に移られたのはどうしてですか。
恩師である竹田先生が順天堂の主任教授になられたので、下の子どもが1歳になったときに臨床現場にもどるため「順天堂で働きたい」と申し出たんです。今も産後メンタルケアの専門外来と「育ママ外来」という助産師外来をお手伝いしています。
◆ 勤務医時代を振り返って、いかがですか。
産婦人科の現場は厳しく、疲弊していると思います。そんな中で、私は患者さんのベビーを自分の子どものような気持ちで診るという生活を10年、続けました。自分の子どもが入る隙がないぐらい、エネルギーを注いだ勤務医生活でしたね。
開業の契機・理由
◆ 開業の動機をお聞かせください。
小さい子どもが2人いて、産婦人科の勤務医を続けるのは難しいです。色々な医療施設の非常勤医師を務めていましたが、一方で自分のしたい診療がありましたし、人に迷惑をかけないで医師を続けるためには開業をしようと考えたんです。非常勤医師をやっていたのは開業医になるための練習ではなく、常勤医師としての勤務が無理なだけなのです。大学人として戻ることができないのであれば、リスクを人に担保させず、自分で取れる開業医になることを決めました。幸いなことに、私のしたい医療に対して社会からのニーズがあったというのも大きいです。
◆ 開業にあたってはどんなことをメインにしようと考えていらっしゃったのですか。
開業コンサルタントの方は他院との差別化が重要とおっしゃっていましたが、私としてはできることは何でもしたいと考えていました。大学は重症の患者さんが多いのは確かですし、重症の患者さんを助けるのは当然の責務ですが、メンタルヘルスケアや虐待といった症例も実は少なくないんです。帝王切開になった産婦さんが「出産を失敗した」とか、「私は駄目なんだ」と落ち込むこともあります。しかし、産科医療は忙しいので、落ち込んでいるママたちが捨て置かれてしまいがちになりますし、そういうママたちを受け入れるスペースもないんですね。そこで、私は総合周産期母子医療センターで助産師さんや臨床心理士さんとメンタル外来を行っていました。そのため、開業にあたっても、悩みを打ち明けてもらえる場を作りたかったですね。子どもたちを連れてくることができて、週末も診察が受けられるクリニックで女性支援をしたいと思いました。週末も診療することに関しては検査会社の業務やスタッフの確保を心配しましたが、なんとかスムーズにクリアできました。
◆ 開業地はどのように決められたのですか。
子どもが通っていた幼稚園の近くであり、かつ駅の近くであることが条件でしたので、選択肢が多かったわけではありません。診療圏も考慮しませんでした。
◆ 開業地をご覧になっての第一印象はいかがでしたか。
この場所は以前は歯科が入居していたのですが、たまたま空いていたので幸運でした。今から思いますと、認知性が高く、競合がなく、住宅街ゆえにママ世代が多く、日本赤十字社医療センターや愛育病院までタクシーですぐですから、緊急性があるときもフォローしていただけるなど、いいこと尽くめでしたね。
◆ マーケティングはなさいましたか。
ある程度は行いましたが、競合がないのが良かったですね。地価が高いエリアですから、ペイするかどうかが心配でした。
◆ 開業までに、ご苦労された点はどんなことですか。
特に苦労はありませんでした。スタッフに関しても、「こういう産婦人科を今から開業します」と言って確保するのは困難だと思いますが、ほかで一緒にやっていたメンバーが快く協力してくれましたから、恵まれていました。ほかの医療施設でトレーニングを終えているうえに、私のしたい医療を分かってくれているのは有り難いですね。
強いて言うなら、どこに、どのぐらいのお金をかけるべきか、運転資金のキープはどのぐらいかといったことが分からなかったことでしょうか。私の場合は開業コンサルタントにお任せしました。やはり、自分のやりたい医療を誰がどうプランニングし、どう実現にもっていけるのかは大事です。開業コンサルタントでも、税理士でも、調剤薬局の開業支援スタッフでもいいので、医療理念を理解してしていただける気の合う人を見つけないといけませんね。
◆ 医師会には入りましたか。
港区医師会に入りましたが、すぐに受け入れていただけました。
◆ 開業当初はどのようなスタッフ構成でしたか。
受付が2人、看護師が常勤1人、非常勤3人でした。その後、非常勤の看護師が2~3人、入職し、ほとんど皆が常勤になってくれました。
◆ 医療設備については、いかがでしょうか。
超音波と電子カルテぐらいですね。ほかの医療機器に関しては、近隣の内科の先生方がお持ちですので、お任せしています。
◆ 設計や内装のこだわりについて、お聞かせください。
敷居の低いクリニックにしたかったんです。港区にふさわしく、ゴージャスな雰囲気にしてしまうと、患者さんが来づらくなります。患者さんは本来は病気なのですから、綺麗にして出かけないといけないと思ってしまわれるのは気の毒です。患者さんが気楽に来てくださるようなクリニックであり、私やスタッフが使いにくくなければ、特にこだわりはありませんでした。私の行いたい医療は助産師さんや臨床心理士さんといったコメディカルワーカーとのチーム医療ですので、4つの診察室を設けました。
クリニックについて
◆ 診療内容をお聞かせください。
専門は産科ですが、産婦人科全般を診ています。一方で、大学病院では大学の中で主流とされていないマイナートラブルも多く診てきましたので、今も役に立っています。大学卒業後に入局したとき、同期が3人いたのですが、1人は不妊治療、1人は腫瘍を専門にすると決めていたので、私が周産期になったんです(笑)。ただ、埼玉県内には産婦人科医が少ないので、私も不妊治療やがん診療にも携わっていました。手術の経験もありますので、開業後も患者さんからのニーズもありますし、小さい手術なら私どもでお受けしています。
具体的には産後ケア、産後うつを含む産後健診、妊婦健診、母親学級や両親学級、周産期カウンセリング、母乳外来のほか、月経に関する症状や子宮内膜症、子宮頸がん、性感染症などの一般婦人科疾患の診断や治療、更年期障害からの症状の治療、思春期外来も行っています。
妊婦健診ではお父様方も歓迎しています。3D、4Dの画像を見せることで、ヴィジュアルによる妻の妊娠を体感をしてほしいと願っています。こういった取り組みから育児支援を開拓して愛着障害を防いでいきたいですね。
◆ どういった方針のもとで、診療なさっているのですか。
患者さんのニーズにできるだけお応えし、断らないことを心がけています。がんの手術など、私どもでできないことは、順天堂大学などの専門病院と速やかに連携して、最前をつくしています。
◆ カウンセリングを重視されていますね。
「聞いてほしい」という患者さんがいらっしゃる限りは聞くことが医療だと思います。混雑しているときに長い時間を取ってさしあげることはできませんが、なるべくお話を伺うようにしています。産後うつなどの周産期カウンセリングは臨床心理士を中心に行っています。
◆ 患者さんの層はいかがですか。
20代から40代までの若い方がほとんどです。
◆ 検診はどのような内容で行っていますか。
港区区民検診のほか、レディースドックを行っています。ブライダルチェックやプレママドックなどの基本セット、STDセット、アンチエイジングセットなどを用意しています。全てを保険診療で賄うのは無理がありますし、患者さんから「ドックをお願いできますか」というニーズも多いんですね。症状がある方、症状が分からない方など、色々な方がいらっしゃいますから、ケースバイケースで対応しています。
◆ 病診連携については、いかがですか。
日本赤十字社医療センター、愛育病院、順天堂大学医学部附属順天堂医院とは周産期セミオープンシステムを利用し、共通ノートを使用しています。また、北里研究所病院や厚生中央病院などとも連携を行っています。がんなどの症例は順天堂大学医学部附属順天堂医院をご紹介することが多いですね。
◆ 経営理念をお教えください。
今後、医療法人化し、助産院を開業したいと思っています。さらに分娩の取り扱いや病児保育も視野に入れています。現在、産科医療は疲弊していますが、私は患者さんや地域からのニーズがあることに関しては積極的に行っていきたいです。女性のキャリアウーマン化に伴い、出産や育児に関する知識が広まっていないので、私どもでは上のフロアも借り受け、母親学級や両親学級を拡充する予定です。妊娠中の食事や離乳食の教室を行うべく、キッチンなどを作っているところです。母親だけを対象にした教育では間に合わないので、両親に参加してほしいですね。私どもではスタッフが子連れで出勤することを認めていますし、子連れの方を含めて、色々な方が外来にいることも教育に繋がると考えています。多世代の共存するクリニックを、目指しています。
◆ スタッフ教育はどのようにされていますか。
ミーティングを月に1回から2回、行っています。トラブルを共有したり、改善点を話し合ったりもしますし、新しいサービスを行うにあたっての価格設定なども意見を出し合っています。港区はエリアの特性として、自費診療の部分が大きいんですね。価格をあまりに低く設定しますと、スタッフの給与を払えなくなるかもしれませんし、私どもの理念を通せるだけの設定にしていかなくてはいけません。私は医療以外のことに関しては知らないことも多くありますので、スタッフの意見を大事にしています。
◆ 増患対策について、どのようなことをなさっていますか。
私どもはかなり力を入れている方だと思います。開業前は目黒から西麻布あたりまで、3万軒にポスティングを行いましたし、新聞の折込チラシでも告知しました。白金高輪駅に看板を、目黒駅、白金高輪駅にポスターを出稿しているほか、都営三田線の車内広告も行っています。ほかの媒体としては電柱広告を40本、消火栓広告も10カ所ほど行っています。以前はリスティング広告もしていましたが、今はドクターズファイルに出稿しています。『初めてのたまごクラブ』や『妊すぐ』などの取材をお受けしたことも、増患に繋がったかもしれません。
ホームページも7月にリニューアルしました。また、アットリンクという予約システムに入っていますので、マーケティングに有効なデータを入手できています。
開業に向けてのアドバイス
これまで何をしてきて、開業後にそれをどうしていきたいのかというヴィジョンを持てば、開業の場所やサイズは自ずと決まってきます。今までやってきたことを開業後にするのであれば、苦にすることなくできますし、自分がしたい診療ならなおさらできるでしょう。私の場合は児童虐待についての講演をしたりしてきましたので、開業後も行政とタイアップした形での仕事を行えています。しかし、新しい機械を入れたり、これまでしてこなかった診療に取り組むのは難しいですね。不安なエリアには入り込めませんから、自分がやってきたことを開業後にどう伸ばしていくかを考えていきましょう。
プライベートの過ごし方(開業後)
子育て中ですので、子どもと遊ぶぐらいですね。日頃はあまり手をかけられず、夫や両親、妹に見てもらっています。子育てに関しては何が正しいのか分からないですし、程度やバランスが難しいですね。
タイムスケジュール
クリニック平面図
クリニック概要
白金高輪海老根ウィメンズクリニック | ||
院長 | 海老根 真由美 | |
住所 | 〒108-0074 東京都港区高輪1-2-17 高輪梶ビル5F |
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医療設備 | 超音波、精液検査、遠心分離器、Dダイマー測定器、電子カルテなど。 | |
スタッフ | 17人 (院長、非常勤医師1人、常勤助産師2人、常勤看護師1人、非常勤看護師3人、非常勤保健師1人、非常勤臨床心理士1人、非常勤薬剤師1人、非常勤管理栄養士1人、非常勤整体師1人、常勤事務1人、非常勤事務3人) |
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物件形態 | ビル診 | |
延べ面積 | 約40.8坪 | |
敷地面積 | 約40.8坪 | |
開業資金 | 約5500万円 | |
外来患者数の変遷 | 開業当初10人→3カ月後18人→6カ月後30人→現在46人(平日は40人、週末は60人~70人) | |
URL | http://www.ebine-womens-clinic.com/ |