菅原脳神経外科クリニック
東京都八王子市万町はJR八王子駅の南側に広がる住宅街で、町の南北を国道16号線が通っている。国道16号線は首都圏を環状に結ぶ、数少ない道路であり、日中の交通量は非常に多い。かつての八王子街道、神奈川往還であり、江戸後期から明治期には八王子で集荷した絹を横浜まで運ぶなど、「絹の道」として知られていた。
菅原脳神経外科クリニックはその万町の国道16号線沿いに展開する八王子クリニックビレッジ内に2015年に開業したクリニックである。「サイレントスキャン」の技術を取り入れたGE社のMRIを完備し、「検査結果をその日のうちに」をモットーに診察を行っている。
今月は菅原脳神経外科クリニックの菅原道仁院長にお話を伺った。
菅原 道仁 院長プロフィール
1970年に埼玉県川越市で生まれる。1997年に杏林大学を卒業後、国立国際医療研究センター病院脳神経外科で研修を行う。1999年に国立病院東京災害医療センター(現 災害医療センター)救命救急科に勤務する。2000年に北原脳神経外科病院(現 北原国際病院)に勤務する。2004年に北原脳神経外科病院診療部長に就任する。2007年に北原脳神経外科病院副院長に就任する。2010年に北原ライフサポートクリニック院長に就任する。2012年に日本健康教育振興協会会長に就任する。2014年に四谷メディカルクリニック院長に就任する。2015年6月に東京都八王子市万町に菅原脳神経外科クリニックを開業する
日本脳神経外科学会専門医、日本体育協会公認スポーツドクター、日本抗加齢医学会専門医など。
開業に至るまで
◆ 医師を目指された経緯をお聞かせください。
父が脳神経外科の医師なので、その影響が大きかったですね。でも、私は高校時代は文系クラスにいたんです。文系の大学に行って、広告代理店に勤めたいと思っていました(笑)。そこで父が「医師は人から感謝の言葉をいただける、いい仕事だ」と言ってくれて、私も医師を目指すことにしました。予備校で浪人するときに理系に変わりましたので、大変でしたが、医師への道を開いてくれた父には感謝しています。
◆ 大学時代はどのような学生でしたか。
勉強はそこそこで、部活動に励んでいました。ラグビー部とアイスホッケー部を掛け持ちしていたんです。アイスホッケーでは練習に使えるリンクを借りられるのは夜中や早朝ですから、ラグビーとは時間が被らず、掛け持ち可能なんです。ラグビーのポジションはスクラムハーフで、東医体などにも出場していました。そんなに強くはありませんでしたが、体力がつきましたね。今もOB戦があれば、顔を出しています。
◆ 大学時代はどんなご趣味をお持ちでしたか。
部活動メインの生活でしたので、趣味と言えるものはなかったです。夏休みも合宿などに追われていました。
◆ 専攻を脳神経外科に決められたのはなぜですか。
手術に興味があったので、外科系とは決めていたのですが、脳神経外科にしたのは父の影響があったからです。国家試験の直後に決めました。
◆ 研修を国立国際医療研究センター病院でなさったのはどうしてですか。
予備校時代の友達から国立国際医療研究センター病院を受験すると聞いたんです。彼とは大学は違ったのですが、研修を一緒にしたいと思ったので、私も受験しました(笑)。母校の大学病院の脳神経外科には何人も入局しましたが、国立国際医療研究センター病院の脳神経外科の研修医は私だけでした。国立国際医療研究センター病院の脳神経外科自体、久しぶりの研修医だったそうです。母校だと部活動の先輩や知っている先生につい甘えてしまいそうだったので、誰も知らない外部の病院で研修するのは私には良かったです。
◆ 国立国際医療研究センター病院でどのような研修をなさったのですか。
多くの上司がいる中で、たった一人の研修医として、多くの患者さんを診るチャンスをいただき、症例数が豊富な環境で腕を磨くことができました。一人は大変だと言われていましたが、その分、他科の指導医の先生方も気にかけてくださったんです。優秀で、かつ人当たりの良い先生方が揃っておられましたね。ちょうど、その頃、国立国際医療研究センター病院は救急科を新設し、研修医の募集も始めたんです。私も救急で研修させていただき、他科の研修医よりも多くの経験を積みました。
◆ 当時の国立病院東京災害医療センターにも勤務されたのですね。
国立国際医療研究センター病院の上司のかつての上司でいらしたのが北原茂実先生だったのです。北原先生から北原脳神経外科病院のアルバイトに誘っていただくうちに、常勤医師として勤務することになったのですが、その前に研修という形で東京災害医療センターに三次救急を勉強しに行ったのです。1年間の研修を経て、北原脳神経外科病院に入職しました。
◆ 北原脳神経外科病院での勤務はいかがでしたか。
北原脳神経外科病院は救急から治療、リハビリ、在宅という流れをモットーにしているので、私には最適の環境でした。大学病院などの大病院には限界があり、手術後は退院とならざるをえません。脳神経外科医がリハビリに関わることがないんですね。しかし、北原脳神経外科病院は私立病院ですから、リハビリが充実しており、私もリハビリをしっかり学ぶことができました。また、中国でのクリニックの立ち上げも経験し、医療の仕組みや小さな組織での経営感覚を理解しました。
◆ クリニックの院長職もなさったのですね。
JR八王子駅の南口の再開発があり、その一角に北原ライフサポートクリニックを立ち上げることになったので、院長として携わったんです。そこで手術や治療も大事ですが、予防も必要だと痛感しました。そして、私の興味も患者さんへの教育へとシフトしていきました。
◆ 勤務医時代を振り返って、いかがですか。
充実した毎日でした。しかし、救急医療を救うためにはどうしたらいいのか、救急医療をどう改善させていけたらいいのかを考える中で、患者さんのメディカルリテラシーを高めていかなくてはいけないと気づいたのです。株のことを何も知らずに証券会社に行く人はいません。でも、病気のことを何も知らずに病院に来る患者さんは非常に多く、これが外来が混雑する一因になっています。救急車で運ばれたり、倒れてからはじめて学ぶのではなく、転ばぬ先の杖をつかせてあげたいと思うようになりました。
開業の契機・理由
◆ 開業の動機をお聞かせください。
2012年に日本健康教育振興協会の会長に就任し、患者さんへの教育を行ってきたのですが、次のステージとして、自分の理想のクリニックを開きたいと思ったのが動機です。日本の救急医療を救う道は2つあります。1つは救急病院、救急医といった受け皿を増やすことです。もう1つは利用者を減らすことです。それには「医育」が必要なのです。「煙草やお酒は良くない」や「捻挫とはこういう怪我だ」といったことを学校教育などで伝えていければ、患者さんへの教育が進みます。そうすれば、本当に必要な人が救急医療を受けることができ、たらい回しなどという事態もなくなると考えました。
◆ 開業地をどのように選ばれたのですか。
開業地には強いこだわりはなく、どこでも良かったんです。その中で、八王子市は固定費があまりかからないこと、長く勤務していたので慣れていること、北原グループとの関係も良好であるため、連携できることが魅力でした。人口も60万人と多く、大学病院も2つあり、二次救急の病院も豊富にありますから、需要が見込めそうでした。また、八王子はJR中央線、横浜線、八高線、京王線、中央自動車道、圏央道、国道16号線が通っている交通の要衝であることも惹かれました。
開業にあたってはMRIを導入したいと考えていました。MRIは10トン近い重量がありますから、ビル診には不向きです。戸建てで、ある程度の広さのあるところを求めていたところ、この八王子クリニックビレッジを紹介されたのです。
◆ 開業地の第一印象はいかがでしたか。
戸建てですし、ビレッジですから、駐車場も確保できているので、印象は良かったですね。戸建てだと窓を多くとることができ、明るくなります。八王子駅からは徒歩8分ほどの距離がありますが、利便性よりも明るい雰囲気を重視しました。
◆ 開業にあたって、マーケティングはなさいましたか。
北原グループに勤務していたので、八王子市の医療については詳しかったこともあって、マーケティングは全くしていません。MRIを所有している医療機関がどこにあるのかぐらいは自分で調べました。ビレッジ内は循環器科、皮膚科、歯科が既に開業していましたが、今も良いお付き合いをさせていただいています。特に八王子循環器クリニックとは診診連携が活発です。
◆ 開業までに、ご苦労された点はどんなことですか。
スタッフ集めです。求人広告や口コミに頼りました。スタッフが集まってからは教育に力を入れました。事務スタッフに医療知識はもちろん、笑顔の大切さを伝えていきました。私の理想は「患者さんが入った瞬間に治るクリニック」なんです。レストランでも最初の接客で味の印象が変わるように、辛い思いで来院された患者さんを明るくお迎えしたいものです。「治す」ことが診断よりも大事です。そののちに診断が確定すればいいんです。そこで待合室には草木を置いたり、アロマオイルを炊いたりしています。また、清潔感を重視しており、ゴミを臭いなく処理したり、化粧室を綺麗にしておくことにも気を配っています。
◆ 医師会には入りましたか。
八王子市医師会に入りました。予備校時代の友人が入会していましたし、開業医の友人が多いので、スムーズに入れました。
◆ 開業当初はどのようなスタッフ構成でしたか。
常勤は放射線技師が1人、事務スタッフが4人です。看護師は非常勤が3人で、交代制にしました。また受付を主に担当する事務スタッフ2人も非常勤でした。
私どもはいわゆる駅前クリニックではないので、勤務後の患者さんはそこまで多くないと見込み、勤務時間を8時間としたのです。これ以上の時間に外来を行うとなると、スタッフはシフト制になります。そうすると1.5倍の人員が必要になりますので、私どもの理念が皆に伝わりにくいのではと思いました。診療時間とスタッフのクオリティはトレードオフですね。ただ、将来的には診療時間を伸ばさざるをえないかもしれません。
◆ 医療設備については、いかがでしょうか。
MRI、CT、画像システムビューワー、電子カルテなどを導入しました。北原ライフサポートクリニックの立ち上げに関わっていましたので、医療設備の導入の経験が活きましたね。大病院に勤務していると機械のみならず、消耗品の購入の仕方も分からなかったと思います。開業医を目指すにあたっては私立や個人の中小病院で勤務しておくとメリットが大きいです。
◆ 設計や内装のこだわりについて、お聞かせください。
設計は友人の設計士にお願いしました。MRIの搬入もありましたから、外装が変更可能になりましたので、窓を増やし、吹き抜けを高くしました。これで待合室がさらに明るくなりましたね。バリアフリーで、スタッフの動線が短くなるようにコンパクトな作りにしています。診察室も3室を完備しました。
スタッフルームを広くして、スタッフが働きやすい環境を整えています。丸の内や青山で働いてみたい若い女性が多い中で、私どもを選んでくれたスタッフには彼女たちが自慢に思えるような、友達から「恵まれているね」と言ってもらえるような職場環境でありたいと考えたからです。スタッフルームは講演を行うなど、教育にも使えるようにしています。
クリニックについて
◆ 診療内容をお聞かせください。
メインである頭痛、めまい、物忘れのほか、認知症、生活習慣病、頭部外傷などを診ています。専門外来としては動脈硬化外来、退院後外来、頭部外傷、アンチエイジング外来、画像診断外来を行っています。アンチエイジングに関しては美容というよりも予防ですね。脳卒中の手術をした方に血圧やコレステロールといった内科的なアドバイスを送っています。救急で働いていた経験から、アフターケアが大事だと思っています。入院は病院にお願いしますが、私どもでは退院後外来を充実させています。また、CTやMRIも可能な重装備型のクリニックとして、検査もカバーしながら、二次救急病院の負担の軽減に努めています。
◆ どういった方針のもとで、診療なさっているのですか。
「検査結果をその日のうちに」がモットーです。大病院だと検査の予約に行く、検査に行く、3日後に結果を聞きに行くなど、3回ほど通院しなくてはいけないことが少なくありません。私どもではその日のうちに結果もお伝えしています。
◆ 患者さんの層はいかがですか。
多いのは60代の方々ですが、頭痛やめまいは若い方々が中心です。若い方々はホームページや私の著書をきっかけに来られているようですね。また、生活習慣病や手術後の外来には働き盛りの方々がいらしています。近隣の方だけでなく、遠方からもいらっしゃいます。
◆ どのような内容の健診を行っていらっしゃいますか。
脳ドック、人間ドックを行っています。今後は頭痛、めまい、物忘れで検査をしたい方が増えると有り難いです。また、友人の会社の企業検診もお受けしています。
◆ 病診連携については、いかがですか。
ビレッジ内の八王子消化器病院がまず挙げられます。それから北原国際病院、東京医科大学八王子医療センター、東海大学医学部付属八王子病院ですね。二次救急の病院では清智会記念病院、南多摩病院とも連携しています。
◆ 経営理念をお教えください。
「あなたのためにできることを」をキーワードに、脳にとらわれず、患者さんがお困りのことに対して、最大限のサービスを提供しようと考えています。タクシーを迅速に手配したり、自治体での手続きを伝えたり、「ホームページを見てください」ではなく、親切にお手伝いさせていただいています。
◆ スタッフ教育はどのようにされていますか。
ミーティングも朝礼もしていません。動線を短くしていますから、常にスタッフの顔が見えますので、気づいたことをその都度、伝えています。診療内容についてはいつ質問してもいいと言っていますので、スムーズですね。
◆ 増患対策について、どのようなことをなさっていますか。
ホームページ、看板、新聞の記事下広告、タウン誌への広告などです。八王子は車移動が基本ですから、駅の看板よりは幹線道路の看板の方が有効のようです。私どもでは開業当初は3枚、今は2枚出しています。タウン誌の広告は月に1回、半年ほど継続しましたが、これは反応が良かったです。また、ウェブに記事を書かせていただいたり、著書を出版していることも増患に繋がっているように思います。
開業に向けてのアドバイス
診療技術は専門ですから、確固たるものを持っておくのは当然ですが、診療技術以外のことも早めにチェックしておきましょう。大学病院に勤務されているのであれば、医事課のスタッフに算定や診療報酬について質問したり、医療系以外の友人に接遇について聞いてみることをお勧めします。特に、飲食業を経営している人やホテルマンは接遇のプロですから、参考になる話をしてくれます。開業にあたっては診療技術を学ぶのと並行して、医療以外のことにもアンテナを張っておくと、役に立ちます。
プライベートの過ごし方(開業後)
ゴルフ、映画鑑賞、飲みに行くぐらいでしょうか。最近は出版社の方々やIoTのデバイスの打ち合わせなどで、他業種の皆さんと談論する機会が多いので、新しいアイディアが医療へのヒントになっています。
【菅原院長の著書】
『死ぬまで健康でいられる5つの習慣』講談社
『身近な人に迷惑をかけない死に方』KADOKAWA
『そのお金のムダづかい、やめられます』文響社
『成功の食事法』ポプラ社
『成功する人は心配性』かんき出版
タイムスケジュール
クリニック平面図
菅原脳神経外科クリニック | ||
院長 | 菅原 道仁 | |
住所 | 〒192-0903 東京都八王子市万町175-1 八王子クリニックビレッジ内 |
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医療設備 | MRI、CT、超音波、心電図、脈波検査装置、レントゲン、電子カルテなど。 | |
スタッフ | 13人(院長、非常勤医師1人、常勤看護師1人、非常勤看護師2人、常勤放射線技師2人、非常勤臨床検査技師1人、常勤事務3人、非常勤事務2人) | |
物件形態 | 戸建て | |
延べ面積 | 80坪(1階50坪、2階30坪) | |
敷地面積 | 50坪 | |
開業資金 | 約1億5,000万円 | |
外来患者/日の変遷 | 開業当初20人→3カ月後25人→6カ月後30人→現在45人 | |
URL | https://sugawaraclinic.jp/ |