クリニックの窓教えて、開業医のホント

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仁友クリニック

 東京都中野区本町は中野区のほぼ中央部に位置し、神田川に接している。一戸建てのほか、マンションやアパートも多い住宅地であり、若者の姿も見られるエリアである。しかし、新宿駅に近いこともあって、中野坂上駅の交差点付近は2000年頃から再開発が進み、ハーモニースクエアなどの高層ビルが立ち並ぶオフィス街へと変わりつつある。
 仁友クリニックは東京メトロ丸ノ内線、東京都営地下鉄大江戸線の中野坂上駅から徒歩2分の場所にある。前身は1960年に杉原德彦院長のお祖父様である杉原仁彦先生が気管支喘息に特化して設立した国際仁友病院であり、2005年に建て替えた際、仁友クリニックとなった。現在も日本全国から毎月2,000人近い患者さんが来院している。
 今月は仁友クリニックの杉原德彦院長にお話を伺った。

杉原 德彦 院長

杉原 德彦 院長プロフィール

1967年に東京都港区で生まれる。1994年に杏林大学を卒業後、杏林大学呼吸器内科に入局し、杏林大学病院で研修する。1996年に杏林大学大学院に進学する。大学院修了後に東京都立府中病院(現 東京都立多摩総合医療センター)呼吸器科に勤務する。2001年に杏林大学病院に勤務する。2004年に東京都中野区の仁友クリニックに副院長として勤務する。2005年10月に仁友クリニックの院長に就任する。


日本内科学会認定医、日本アレルギー学会専門医、日本感染症学会ICD、日本体育協会公認スポーツドクター、全日本スキー連盟アンチドーピング委員など。

開業に至るまで

◆ 医師を目指された経緯をお聞かせください。
 私の家は代々の医師家系で、私で17代目になります。この地で呼吸器内科のクリニックを開業したのは祖父で、このクリニックの院長としては3代目です。しかし、医師を目指すにあたっては葛藤があり、高校のときは文系クラスにいました。大学の付属高校でしたので、系列の大学にも進学が決まっていたのです。ところが、高校時代に所属していたスキー部で大怪我をして、高校を卒業した春休みに手術やリハビリを受けるという経験をしたのが転機になりましたね。病院に入院し、自分が患者になったことで、改めて医師はいい仕事だと気づいたのです。そこで、医師を目指すことになり、予備校に通い始めました。


◆ 大学時代はどのような学生でしたか。
 医師を目指すと言っていたわりには勉強をせず、遊んでばかりいました。小さい頃からスキーをしていたので、大学でもスキー部に入り、競技スキーに打ち込みました。東医体にも出ていましたが、北海道や東北の大学にはまるで勝てなかったですね(笑)。


◆ 大学時代はどんなご趣味をお持ちでしたか。
 自転車に乗るのが好きで、今で言うところのロードバイクに乗って、楽しんでいました。それから高校時代からの趣味程度ですがDJもしていました。


◆ 専攻を呼吸器内科に決められたのはいつですか。
 国家試験に受かって、医局に入局する直前に決めました。実家のクリニックの影響もありますが、大学時代に呼吸器内科の成績が悪くなかったことも理由の一つです。しかし、あとから気づいたことですが、呼吸器内科領域には分からないことが多く残されており、試験で問われる内容が少なかっただけだったのです(笑)。医師になってから、これは大変な分野なのだと思い知らされました。


◆ 研修後はすぐに大学院に進学されたのですね。
 私としては臨床に打ち込んで、専門医を取得したいという思いもあったのですが、大学院への進学は父の希望も大きかったのです。「継承したら、人を使う立場になるのだから、学位を取っておいた方がいい」と言われましたね。ただ、大学院に進学してみると、基礎的な学問に興味が出てきましたので、進学して良かったです。


◆ 都立病院にも勤務されています。
 これは医局人事です。本当は地方の病院に行って、お金を貯めたいと思っていましたが、都立病院になりました(笑)。しかし、都立病院は臨床のレベルが高く、勉強になりました。大学病院は臨床だけでなく、教育や研究も仕事のうちですが、都立病院は臨床に集中できるので、レベルが高くなるのでしょうね。特に呼吸器内科の部長の先生は経験も豊富で、いい勉強をさせていただきました。


◆ 勤務医時代を振り返って、いかがですか。
 勤務医時代を思い起こすと、それはそれで良かったです。勤務医は大変だとよく聞きますが、開業医とは責任感が違いますので、私は楽に感じます(笑)。大きな病院の勤務医は治療に専念できますしね。その治療にしても、開業医となると思うようなことができません。間質性肺炎では大学病院時代はマーカーを3つ検査していましたが、開業後は1つしかできないのです。その1つで考えていかなくてはいけないので、難しさがありますね。


開業の契機・理由

◆ 継承の動機をお聞かせください。
 そろそろ継承しようという時期に、このクリニックを建て替えることになったのです。同じ場所での建て替えですから、建て替え中は近くのビルをお借りして、ビル診での診療を行うことになりました。私はそのビル診時代に入職したのですが、当時はまだ父が院長で、私が副院長でした。1年後に新しい建物ができ、そのタイミングで院長に就任しました。


◆ お祖父様はどうしてこの地を開業地とされたのですか。
 それが全く分からないのです(笑)。祖父の出身地も違いますし、私もこの近くで育ったわけではありません。しかし、院長になってからはこの近くに住んでいます。


◆ では先生が開業地を改めてご覧になったときの印象はいかがでしたか。
 中野坂上駅から徒歩2分ですし、山手通りから入ってすぐですから、立地は素晴らしいと感じました。中野坂上駅は以前は丸ノ内線しか通っていなかったのですが、現在は大江戸線も通っており、六本木や麻布十番などの都心にも一本で行くことができます。電車でのアクセスが非常に良いですから、車が不要になりましたね。


◆ 継承にあたり、マーケティングをなさいましたか。
 全くしていません。この地で50年に渡って開業していますから、特に集患が必要ないのです。むしろ、この付近で呼吸器内科の開業を希望されている方がマーケティングをして、「仁友さんがあるから」という理由で諦めておられるようです(笑)。


◆ 継承までに、ご苦労された点はどんなことですか。
 継承の時点よりも今の方が苦労しています。お蔭様で患者さんは長く通っておられる方もいらっしゃいますし、スタッフの離職率も低いのですが、この建物を渡されたことそのものが苦労の種です。歴史あるクリニックですし、規模も大きいので、作り上げる苦労よりも維持する苦労を感じています。


◆ 医師会には入りましたか。
 継承するときに中野区医師会に入りました。本当は医師会でのお役目も担わなくてはいけないところですが、あまり活動できていないですね。


◆ 継承当初はどのようなスタッフ構成でしたか。
 看護師が15人、臨床検査技師が2人、放射線技師が1人、事務スタッフが3人です。病棟がありますので、どうしても看護師の数が必要です。


◆ 医療設備については、いかがでしょうか。
 建て替える前から使っているものもありますし、建て替えのときに購入したものもあります。CTや呼吸機能検査機器は私が継承したあとで導入しました。


◆ 設計や内装のこだわりについて、お聞かせください。
 建て替えに関しては父が主導で進めていましたので、私はノータッチなのです。借金だけ、私が払っている状況です(笑)。私が使うようになってみると、使い勝手の悪さを感じることもあります。5階建てで、1階が駐車場、2階が受付、待合室、外来、吸入室、処置室などのあるフロアです。3階と4階が病棟で、病室は約半数が個室となっています。5階には事務室などがあります。


クリニックについて

◆ 診療内容をお聞かせください。
 一般内科、呼吸器内科、アレルギー科、小児科を標榜していますが、9割の患者さんが呼吸器内科です。呼吸器内科での中では特に気管支喘息に特化し、ほかにも慢性閉塞性肺疾患、睡眠時無呼吸症候群、禁煙外来が多いです。一般内科は生活習慣病の診断や治療、アレルギー科はアレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎、食物アレルギーですね。小児科では一般小児科、小児喘息などを診ています。
 喘息の治療自体にはガイドラインがあり、私どももそれに従って治療をしていますが、私が心がけているのは「気道を一括して診る」ことです。気道は一続きなので、副鼻腔炎の治療も行っています。耳鼻咽喉科領域の治療をする呼吸器内科はあまりないようですね。全国から患者さんがいらっしゃいますので、大きな病院で1週間かかる検査を40分で結論を出せるようにしています。
 さらに珍しい治療としては鼻の最奥部のBスポットと呼ばれるところに炎症を鎮める塩化亜鉛を塗布するものがあります。これはもともと東京医科歯科大学耳鼻咽喉科の堀口伸作教授が喘息の治療として始められたものです。堀口教授は私どもで非常勤勤務をなさっており、祖父や父がその治療の教えを受けました。今は堀口教授のお弟子さんたちが行っているに過ぎませんが、咳や痰で悩んでいる方にお勧めできる効果があります。私はこれを「上咽頭処置」と言っていたのですが、あるとき、その場所が「Bスポット」だと知りました。なぜBスポットという名称なのかは分かっていないのですが、父に聞いたら、「昔からそういう名前だった」と言うのです。早く言ってほしかったですね(笑)。それで、私どものホームページにも「Bスポット治療」と出しています。


◆ どういった方針のもとで、診療なさっているのですか。
 医療の答えは常に患者さんの中にあるということです。本に書いてあることが全てではありません。良くならない患者さんがいらっしゃれば、その原因や理由を見つけ出して、良くしてさしあげたいです。原因や理由が分かれば、長引いていた咳が2、3日で治まったり、3年間苦しんでいたことが2週間で改善されたりもします。


◆ 患者さんの層はいかがですか。
 高齢の患者さんがそこまで多いわけではありませんが、それでも半数近くを占めています。子どもさんは2割ぐらいですね。私どもは專門に特化していますので、患者さんがかなり遠くからもいらっしゃいます。北海道や福岡県からの患者さんも来られましたし、ニューヨークからいらしたこともありますよ。ニューヨーク在住の日本人の方でしたが、咳を診てくれる医師はいないかとほかの医師にお尋ねになったところ、私どもを紹介されたのだそうです。もちろん、すぐに治してさしあげました。


◆ どのような内容の健診を行っていらっしゃいますか。
 外来の患者さんが多いので、検診も健診もなかなかできないのです。中野区の健診や雇入れ時の健診などをお受けするぐらいです。これからお隣りの幼稚園の園医も務めることになっています。


◆ 入院設備もあるのですね。
 祖父の頃から入院設備を完備しています。当時は治療法が今ほど良くなかったので、入院が必要な患者さんが多かったようです。今は治療法が改善されたこともあり、入院の目的は療養や社会的入院などに変わっています。給食に関しては、私どもにも厨房があるのですが、業者に委託しています。最近は給食業者の人員不足が顕著になっており、入院設備があることの大変さを感じています。


◆ 病診連携については、いかがですか。
 近くの東京医科大学病院、東京女子医科大学病院、慶應義塾大学病院が多いですね。国立国際医療研究センター病院、JR東京総合病院、東京警察病院、立正佼成会附属佼成病院などにご紹介することもあります。


◆ 経営理念をお教えください。
 いい医療を心がけ、きちんとした対応をすれば、人は集まりますし、患者さんもいらっしゃいます。色気を持って何かをやろうとしても、そこまで経営にプラスにならないので、時間がかかりますが、地道にやっていくのが一番ですね。派手な宣伝も一切いらないと思います。


◆ スタッフ教育はどのようにされていますか。
 全員が一度に集まることは難しく、力が入った教育は行っていませんし、朝礼もしていないです。情報の共有は連絡帳や回覧板を使っています。ただ、看護師など、職種ごとに話し合いの機会を持って、問題の解決を図るようにしています。


◆ 増患対策について、どのようなことをなさっていますか。
 ホームページだけです。最近はブログもなかなか書けていません。電柱広告や駅での看板広告もしていません。


開業に向けてのアドバイス

 どこで開業するかによって、変わってきます。都市部で開業するなら、40件から50件の競合があります。そこで差をつけるなら専門性が大切です。サービスや接遇はどこも頑張っているので、差がつかないのです。そこで専門性に特化し、大学病院で治せないような人を治せるぐらいでないといけません。ただし、自分に分からないことがあれば、すぐに身を引くことが必要です。患者さんを手放したくないと思って、抱え込まないようにしましょう。一方で、郊外や地方で開業するなら、何でも診る姿勢が求められます。

プライベートの過ごし方(開業後)

 月の半分は病棟に泊まっているので、今は趣味などないですね。休日も近くに出かけるぐらいです。夏休みも取れません。でも、私は仕事が好きなので、休みがなくても大丈夫です。遊びが大好きな人は遣り甲斐のある仕事を見つけていないだけなのではないかと思っています(笑)。

タイムスケジュール

タイムスケジュール

クリニック平面図

平面図
仁友クリニック
  院長 杉原 德彦
  住所 〒164-0012
東京都中野区本町2-45-10
  医療設備 CT、NPPV、アレルギー検査装置、レントゲン、超音波、呼吸機能検査、心電図、人工呼吸器、電子カルテなど。
  スタッフ 31人(院長、理事長、非常勤医師4人、外来常勤看護師3人、外来非常勤看護師2人、病棟常勤看護師8人、病棟非常勤看護師2人、常勤看護助手2人、常勤検査技師1人、非常勤検査技師1人、非常勤放射線技師1人、常勤事務2人、非常勤事務3人)
  物件形態 戸建て
  延べ面積 約300坪
  敷地面積 約100坪
  開業資金 0円
  外来患者/日の変遷 継承当初80人→3カ月後90人→6カ月後100人→現在150人
  URL http://jinyu.or.jp/

2018.03.01 掲載 (C)LinkStaff

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