クリニックの窓教えて、開業医のホント

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いなぎ整形外科内科

 東京都稲城市は多摩川右岸に位置し、JR南武線、京王相模原線などで新宿まで30分とアクセス良好ながら、南山と呼ばれる多摩丘陵には豊かな自然が残っている街である。1970年代以降、日本住宅公団(現 独立行政法人都市再生機構)による多摩ニュータウン建設が進んだほか、京王相模原線や小田急多摩線の沿線開発も伴って人口が急増し、2017年現在は9万人を超える人口となっている。古くからナシやブドウの産地であるが、サッカーJリーグの東京ヴェルディのホームタウンの一つとしても知られている。
 いなぎ整形外科内科はJR南武線の稲城長沼駅から徒歩2分、稲城商店街(ペアリーロード)の一角にある。稲城長沼駅は快速停車駅であり、時間帯によっては始発や終点となるなど、利便性が高い。いなぎ整形外科内科はこの地で25年に渡って開業していた高橋整形外科を継承する形で2017年4月に医療法人社団八千代会がいなぎ整形外科内科として開業したクリニックである。2018年11月に来田(くるた)吉弘院長が着任し、新しい体制となった。
 今月はいなぎ整形外科内科の来田吉弘院長にお話を伺った。

来田 吉弘 院長

来田 吉弘 院長プロフィール

 1962年に兵庫県神戸市で生まれる。1989年に東京大学を卒業後、東京大学医学部附属病院麻酔科で研修医となる。1990年に東京大学医学部附属病院整形外科で研修医となる。1990年に佐久市立国保浅間総合病院で研修医となる。1991年に武蔵野赤十字病院整形外科、1993年に東京都立多摩老人医療センター(現 多摩北部医療センター)リハビリテーション科に勤務を経て、1994年に国保旭中央病院整形外科に主任医員として勤務する。1998年に広島大学歯学部口腔生化学教室に文部教官助手として勤務する。1999年にJR東京総合病院に整形外科医長として勤務する。2000年に東京大学医学部附属病院分院に助手(医局長)として着任する。2001年に東京大学医学部附属病院整形外科に医員として勤務する。2002年に中田病院整形外科に勤務する。2003年に東京大学大学院を修了する。2004年に東京都新宿区に神楽坂整形外科医院を開業する。2010年に医療法人社団神楽坂整形外科医院を開設する。2018年9月に神楽坂整形外科医院を退職する。2018年11月にいなぎ整形外科内科に院長として着任する。
日本整形外科学会認定医など。

開業に至るまで

◆ 医師を目指された経緯をお聞かせください。
 中学、高校と陸上部に入っていましたが、中学2年生のときに腰を痛めてしまい、経過が芳しくなく、練習できない状態になりました。そこで、スポーツ整形外科に通院を始めたのがきっかけで、整形外科に興味が湧いたのです。ですから、「医師になりたい」の前に「整形外科医になりたい」という感じでしたね。


◆ 大学時代はどのような学生でしたか。
 大学でも陸上部に入りましたが、腰痛がきちんと治っていなかったので、騙し騙しでしたね。短距離、やり投げ、砲丸投げをしていました。東医体にも出ていましたよ。


◆ 大学時代はどんなご趣味をお持ちでしたか。
 特になかったです。勉強をほどほどに頑張っていました(笑)。


◆ 専攻を整形外科に決められたのはいつですか。
 中学の頃の経験もあり、大学に入学するときから、ぼんやりと頭の中にあったのです。整形外科だと決断するきっかけもなく、そのまま選びました。そして母校に残って、研修医となりました。


◆ 東大で研修されたのですね。
 東大の整形外科に入局しましたから、最初は東大病院の麻酔科で研修し、次に整形外科での研修となりました。そして、2年目に長野県の佐久市立国保浅間総合病院で研修を行いました。


◆ 色々な病院に勤務されています。
 東大の整形外科は多くの医局員が様々な関連病院に勤務しています。先輩方の専門分野も多彩ですので、色々な病院に勤務することで、専門の異なった先輩方から教えていただけるんですね。そのため、各分野を幅広く研修できるシステムになっていました。


◆ 大学院で研究されたのはどんなことですか。
 大学院に行くことや研究テーマに関しては教授と相談のうえで、決めました。私のテーマは成長軟骨の研究でした。途中で国内留学という形で広島大学に行ったのですが、広島大学のポストに空きが出たので、大学院を休学して、助手になりました。


◆ その後のご勤務歴について、お聞かせください。
 埼玉県加須市の中田病院に勤務したり、珍しいところでは関東少年院や府中刑務所に勤務したこともあります。また、神楽坂に整形外科のクリニックを開業した経験もあります。


◆ 勤務医時代を振り返って、いかがですか。
 多くの患者さん、多くの先輩方に恵まれ、多くのことを勉強させていただいた日々でした。非常に充実した勤務医生活だったと思っています。


開業の契機・理由

◆ 開業の動機をお聞かせください。
 ご紹介をいただき、ご縁を感じて、こちらに来ることになりました。


◆ 開業地をどのように選ばれたのですか。
 この場所では25年に渡り、高橋整形外科を開業されていたのですが、高橋先生が引退されることになり、その跡を医療法人社団八千代会が継承したのです。私はご紹介を受け、院長として着任しました。


◆ 開業地の第一印象はいかがでしたか。
 稲城長沼駅に近いのは患者さんにとって利便性が高いでしょうし、いいと思いました。しかし、駅の周辺は寂しいなと感じました(笑)。


◆ 八千代会では継承にあたり、マーケティングをなさいましたか。
 何もしていません。カルテも高橋整形外科から引き継ぎましたし、患者さんもそれなりにいらしていました。ただ、高橋整形外科の閉院からいなぎ整形外科内科の開業までは1カ月ほど空いてしまったので、少し患者さんが減りました。開業後に前の院長先生が着任するまでは非常勤医師だけで外来をしており、大変だったようですが、今は高橋整形外科時代の患者さんも戻ってこられたり、新規の方もいらしているので、増患しています。


◆ 開業までに、ご苦労された点はどんなことですか。
 苦労は何もなかったですね。


◆ 医師会には入りましたか。
 入っていません。これから入る予定もありません。


◆ 開業当初はどのようなスタッフ構成でしたか。
 看護師が常勤2人、非常勤2人、理学療法士は全て常勤で3人、放射線技師が常勤1人、非常勤1人という体制でした。それから物療アシスタントが4人、事務スタッフが6人いましたので、割と多めでした。現在も同じ構成です。


◆ 医療設備については、いかがでしょうか。
 レントゲンと物療のリハビリ機器ぐらいです。これらはそのまま高橋整形外科から引き継いでいます。電子カルテはありません。今後も紙カルテのままで良いと考えています。


◆ 設計や内装のこだわりについて、お聞かせください。
 高橋整形外科のままで、何も改装していません。使い勝手もいいですね。処置室だった場所を第二診察室として、曜日によっては2診体制としています。


クリニックについて

◆ 診療内容をお聞かせください。
 整形外科のみを標榜しています。整形外科は膝、首、腰などの痛み、肩こり、腱鞘炎などの日常的な不調を診ているほか、骨折、脱臼、捻挫、肉離れ、打撲などの外傷やスポーツ障害も診ています。また、にんにく注射やプラセンタ注射なども行っています。


◆ 再生医療のPRP治療もなさっていますね。
 PRPとはPlatelet Rich Plasmaの略で、多血小板血漿療法のことです。血液中の血小板には組織修復を促進する成長因子やサイトカインなどの分子が多く含まれています。患者さんの血液を約52cc採取し、血小板を濃縮した血漿を作り、これを患部に注射します。これらの分子が組織再生や創傷治癒を促進させるので、変形性膝関節炎などの痛みが軽くなるんですね。ニューヨーク・ヤンキースの田中将大選手が右肘の靭帯損傷に対して、この治療を行ったことで、一般にも知られるようになってきました。しかし、私どもでは膝関節を中心に行っています。


◆ 効果が高いのですか。
 膝が痛い方には効果がありますね。若い方もいらっしゃっています。ヒアルロン酸の痛み止めだと打っている間はいいのですが、長続きしません。しかし、PRPは1回目の注射後も効果がなくならず、そのまま2回目の注射をすることで、効果を上乗せすることができるんです。膝を荒っぽく使わない限りは効果が消えません。ただ、医療施設がこの治療を行うにあたっては手続きが必要になりますので、まだ行っている医療施設は少なく、私どもにも全国から患者さんが通院されています。効果が実感できるので、私自身もPRP治療を提供することを楽しみにしています。


◆ どういった方針のもとで、診療なさっているのですか。
 正確な診断、分かりやすい説明、丁寧な接遇に尽きると考えています。


◆ 患者さんの層はいかがですか。
 高齢の方が7割を占めます。続いて、子どもさんですね。それからサラリーマンやOLの方々です。


◆ どのような内容の検診を行っていらっしゃいますか。
 行っていません。


◆ 病診連携については、いかがですか。
 今のところは稲城市立病院をご紹介することがほとんどです。整形外科の先生方とは顔見知りですし、非常にお世話になり、良くしていただいています。


◆ 経営理念をお教えください。
 経営の数字的なことにとらわれず、患者さんに満足して帰っていただくことです。患者さんが満足されれば、経営はあとからついてくると信じています。


◆ スタッフ教育はどのようにされていますか。
 毎日の朝礼ではその日の予定や注意事項を確認しています。ミーティングは月に1回です。各部署から問題点を挙げてもらい、より良いクリニックにするために話し合っています。私は着任したばかりですので、まだあまり発言していません(笑)。しかし、ミーティングは大事ですね。気持ちを新たにして取り組んでいこうとする契機になっています。


◆ 増患対策について、どのようなことをなさっていますか。
 ホームページぐらいです。電柱広告や駅の看板などにも出していません。今、通院してくださっている患者さんを大切に、かつしっかり拝見することで、口コミによる増患ができればいいと思っています。患者さんは一般的な治療ですとご近所の方が多く、PRP療法には全国からいらっしゃいます。今後はホームページをより充実させるなど、ウェブ対策の強化も検討しています。


開業に向けてのアドバイス

 開業すると、午前も午後も外来です。手術はできません。したがって、外来が苦痛で、手術の方が好きという方には向かないでしょう。勤務医時代の患者さんは病院の名前に惹かれて来院されますが、開業医のところへは開業医の顔を見に来るのです。人間的なお付き合いが要求されますね。開業するにあたってはこうした点をわきまえて、踏み切ってほしいです。

プライベートの過ごし方(開業後)

 野球と競馬をテレビで見るのが趣味です。野球はソフトバンクホークスのファンです。南海ホークス時代からのファンなんですよ。今は上林誠知選手に注目しています。競馬は馬券を買うことはないのですが、馬そのものが好きで、テレビで楽しんでいます。

タイムスケジュール

タイムスケジュール

クリニック平面図

平面図
いなぎ整形外科内科
  院長 来田 吉弘
  住所 〒206-0802
東京都稲城市東長沼453
  医療設備 レントゲン、ウォーターベッド、スーパーライザー、干渉波、SSP、牽引装置など。
  スタッフ 26人(院長、非常勤医師5人、常勤看護師2人、非常勤看護師2人、常勤理学療法士3人、常勤放射線技師1人、非常勤放射線技師1人、常勤物療アシスタント1人、非常勤物療アシスタント3人、常勤事務2人、非常勤事務5人)
  物件形態 戸建て
  延べ面積 約248.58m²(1階131.94m²、2階116.64m²)
  敷地面積 約316.91m²
  開業資金 0円
  外来患者/日の変遷 開業当初80人 → 3カ月後90人 → 6カ月後100人 → 現在110人
  URL http://inagi.strikingly.com/

2019.01.01 掲載 ©LinkStaff

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