クリニックの窓教えて、開業医のホント

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-用賀ヒルサイド皮膚科-
東京都世田谷区

渋谷から東急新玉川・田園都市線に乗って10分少々という立地に加え、近年、グルメやファッション関連などの人気スポットとして注目を集めている街『用賀』。その駅前ビルに平成12年8月開業したのが、今回ご紹介する用賀ヒルサイド皮膚科だ。

世田谷区は東京都23区のうち、唯一人口が80万人を超えるマンモス区。またクリニックだけで600を優に超える都内有数の激戦区でもある。そのうち、皮膚科を標榜するクリニックが40あまり。
初めてこの物件を見たのは平成12年のゴールデンウィークの頃。それから3ヶ月後の開業ということになる。「開業のために1年くらいリサーチして、結局まだ開業していない人もいます。私はまったく逆のパターンで、パッと見て決めてしまいました」

「早い決断でしたね」の問いに「性格的にずっと考えていることができなくて、いつも決めてから考えるほうです。その分、後から後悔することもありますけどね」と答えてくれたのが同院の鈴木稚子院長。用賀での開業も、その時までまったく考えておらず、開業を決めた際も、離れて暮らす両親に後から電話で伝えたという。「両親は医者ではないので、『開業する』ということの意味や大変さが、わかっていなかったようです」

特に誰かに相談することもなく、開業する時に、初めて周囲に皮膚科を標榜するクリニックが多いことを知ったという。
 
鈴木院長は東京慈恵会医科大学医学部を平成6年に卒業し、同大学病院皮膚科へ入局。平成9年から3年間、国立大蔵病院皮膚科にて勤務した。幼少時に小児科通っていたことがあり、その主治医が女医で「とても素敵な方だったので、それが影響していたのかもしれません」と、医師を志した動機について語る。

皮膚科の場合、他科と比べて「大病院で診る疾患」「クリニックで診る疾患」とでは、かなり差異があるという。大学に入るまでは、それほどまでにクリニックでの診療との差があるとは思わなかったが「大学病院では珍しい症例や皮膚がんをメインに扱いますし、入院患者さんも全身に及ぶ疾患であることも珍しくありません。日常よく目にするアトピー性皮膚炎やにきびなどは、皮膚科学的に診ればたいした疾患ではないとされています。でも当の本人にとっては重要なことです。そうした疾患を診ていきたいと思っていたので、結果としてクリニックでの開業を志向するようになりました」

にきびやシミは医師側から見て「気にしなくてもいい」とされるケースが多いが、当の本人からすれば重要な問題なことがある。女性であれば、なおさらだ。そうした気持ちを汲んであげたい。女性であるから理解できるし、治して差し上げたい。鈴木院長の開業への思いは固まっていった。
生まれ育ったのが成城であったことから、用賀という街も馴染み深く、土地カンがあったので親しみもあった。そんな時、用事で用賀を訪れた際、駅前のビルに「空き」の文字を見つけた。「こんなに駅前なんだ」と、その前までは誰にも開業したいという考えを打ち明けていなかったが、物件を見てすぐ決めたという。

開業に際しては、業者に相談せず医療機器も従来自分で使用していたものを選んで導入した。レーザーは勤務医時代に使っていたが、毎年新機種が発売されるのですぐに旧式となるため導入はしていない。「何もわからないうちに開業したので、恥ずかしい話ですが国民健康保険と社会保険との違いさえもわかりませんでした。税理士さんに言われるままに関係書類を提出していましたが、社会保険に加入していなかったのではないかと思ってしまい、役所に電話をすると『加入していないと開業はできないはずですが・・』と言われてしまったこともありました」。今では笑って話せる話です、と当時を振り返る。 設計に際して要望したのはバリアフリーと院内の動線を伝えた程度。何枚かの図面の中から選んだものが形となった。
当初は1日の外来患者数が10人に満たない日々が続いたが、現在は通常で80人平均と順調に患者も増えている。

診療は、月火木が11時から19時(1日平均70~80人)、金土日祝が14時までで(50~60人)、水曜日を休診日としている。11時からの診療開始について「自分自身が夜型人間ということもありますが、仕事帰りのサラリーマンやOLさんがギリギリ飛び込んで来られるので決めました」。一人の患者にかける時間も初診患者や十分な説明が必要と思われる患者には十分に時間をかけている。話し合いの中で原因を探っていくことが不可欠と考えている。

同世代の女性患者が多いのでは、と思い質問してみると、年代は問わず来院しており、高齢者から赤ちゃんまでと幅広い、との答え。男女比としては6:4ほどで、大半が口コミによる来院とのことだ。
 
勤務医時代、同じ皮膚科のクリニックでも男性の医師では化粧品についての知識が少ないと感じたという。それに対し、同性ゆえわかるのが強みだ。基礎化粧品を間違えて使っている患者も多く、適切なアドバイスで快癒することが多いという。

近年、皮膚疾患も診断がしっかりと確定できるようになり、以前はアトピーと診断されなかった疾患もアトピーであるとわかるようになった。「今までは『ただの湿疹だろう』ぐらいにしか思わず、自分がアトピーだと知る人も少なかったようですね」

ステロイドの使用についても「ストロングからマイルドまで、ステロイドはその強さに幅があります。アトピーの方でしたら一生付き合っていかなくてはならない場合が多い。一番低いマイルドでも顔などに塗布するのであれば、四分の一程度に濃度を下げて調剤します」。皮膚科医院の院外処方の普及率は、他科に比べ比較的高く三分の一に達しているとされている。それでも鈴木院長が院内処方にこだわるのは患者と話し合い、その症状に合わせて調合することで、一人一人にオーダーメード的に対応したいためだ。

「皮膚科は女医に合っている科目だと思います。例えば電話をしながら料理を作るなど、一度にいくつかのことを行うのは女性の能力だと思います。私も診察室で患者さんを診ながら、看護婦さんが処置している様子に気を配ることができます。一度に3、4人の患者さんが診察室にいることもめずらしくありませんが、自然と目が行き届きます。気がついた点などあれば、後でスタッフに指導もしています」とスタッフの教育も自然と身についてきた。

「私自身も患者さんにやさしく対応することを心がけています。愛想が悪いと人間は誰しも嫌な気分になります。待たせてしまっていたら、まず謝るようにしていますし、どんなに疲れていても笑顔を絶やさずがモットーです」。 今後の方向性だが「その場で考える性質なので将来のことは、まだ何も考えていません。実は直感的に医者になろうと決めて医学部を受験したぐらいです。家を引っ越す時も一回見て決めるといったタイプです。将来、良いと思ったことがあれば即実行するかもしれませんね」

皮膚科は泌尿器科から派生して、まだ50年ほどの歴史しか持たない科ゆえ、新しい治療法が次々と生まれている。大学病院などから離れるとその知識も古くなっていくもの。それを防ぐために、今でも前勤務先である大蔵病院の臨床研究部に籍を置き、研究を続けているという。「開業すると日々の診療に追われて、新しい治療法などを学ぶことをしなくなっていくものです。そうしたことのないように、新しいものを取り入れていきたい」

院長としての日々の診療と違い、一研究員として過ごす時間は非常に貴重だ。「新しい治療法に接する時など刺激を受けます」。海外の医学文献もよく目を通すという。「日本は医薬品が許可を受けるまでが非常に厳しいので、海外で使用されている薬の3割程度しか実際に使われていません。常に情報をチェックしています」

1日のスケジュールを見てもわかるが、完全な夜型といえる。「勤務医時代は早起きがつらかった。それで週末に10時間以上、寝だめをしていました」という鈴木院長。同世代の医師から開業について相談を受けることがあるのでは、と伺ってみると「さすがにまだそれはありません。私自身まだこれから勉強していくことがたくさんあります」と照れながら答えてくれた。
用賀ヒルサイド皮膚科
住所 〒158-0097 
東京都世田谷区用賀4-4-8 第二福島ビル5階
標榜科目 皮膚科、アレルギー科
医療設備 無影灯(スタンド゙型)、拡大鏡、エレクトロ、紫外線照射器
延べ床面積 20坪
物件形態 ビル診
スタッフ数 常勤医師:1名、看護師4名、医療事務受付3名
開業資金 4,000万円

2001.11.1掲載 (C)LinkStaff



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