- はまだ産婦人科 - 和歌山県和歌山市 |
|||||||||||||||||
今回取材に伺ったのは2月中旬。温暖な和歌山県とはいえ、やはり寒い。だが空は青く澄み渡り、清涼感さえ感じさせる。JR阪和線の紀伊駅から車で国道24号線へ向かって5分ほど行くと、一際大きく空の青さにマッチした白い建物、はまだ産婦人科が見えてくる。第二期工事で増築したという「コ」の字をした回廊が印象的だ。玄関ドアはセキュリティが掛けられていて、部外者の立ち入りを防ぎ、デリケートさが要求される院内での患者の安心感につながっている。院内は採光を十分に採り入れており、大変明るい。「ここは調整区域なので高い建物が建つこともないので、今後もこの明るさと開放感は変わらないと思います」と、濱田寛子院長は笑って出迎えてくれた。 はまだ産婦人科は平成9年12月開業。今年で4年目となる。開業当初、6床だったベッド数も平成10年10月に増築工事をして14床とした。しかし入院待ちの患者が引きも切らず、院長室も開放し、現在ベッド数は18床となっている。県下一の分娩数を誇るというこの盛況を今後も確固たるものにすべく、隣の敷地では平成13年7月完成予定の小児科「オリーブ医院」が急ピッチで工事中だ。 濱田院長は和歌山県立医科大学を卒業後、同大学附属病院に入局。その後、国民健康保険組合野上厚生総合病院で産婦人科医長として2年間の勤務を経て、和歌山市島で開業した。濱田院長は神戸の出身だが、開業にあたり地元に戻る考えはなかったという。「出身大学で研修して、ある程度患者さんを掴んでいたので、和歌山から離れてまで開業するというリスクは冒せません」。今では新規の患者が大半でリピーターも多いという。「開業して丸3年。2人目を出産した方もいますし3人目という方もいます」。月平均の出産数は40~50人。1日1~2人だが、最高で6人を取り上げたこともあるとのこと。 さらに開業地選定について「患者さんが来るだろうという位置に建てるのが基本だと思います」と明快に語る。和歌山県内の中でも、はまだ産婦人科に近い岩出町を中心に大阪市のベッドタウン化が進み、県内唯一の人口増加地域となっている。そこから伸びる国道24号線などの幹線道路が集まる場所で開業したのだ。ごく当たり前のことだが、最も重要な事項といえる。 開業をした理由について濱田院長は「新たな目標が欲しかった」と語る。努力の末、平成6年に学位を取ったが、思っていたほど「うれしくなかった」という。次なる目標が見つからず落ち込んでいた院長に「それだったら開業しかないね」と勧めたのが、友人で助産婦だった山本真由美部長だった。それ以来、二人三脚で頑張り、今日に至っている。濱田院長にとって唯一無二のパートナーだ。はまだ産婦人科では週2回のマタニティービクスやベビービクスを実施しているが、山本部長がインストラクター免許を取得して指導にあたるなどサポートに努めている。 濱田院長が病院経営の参考となればと入会した"経営者会"も助けとなった。会員との会話やセミナーを講習することで経営の基本を学び、異業種の人たちとの交流は非常に刺激を受ける。「銀行融資の企画書も自分で作りましたし、経営的なことは一般の医師よりも勉強したと思います」と力強く語る。
はまだ産婦人科のスタッフはすべて女性。院内の色調はピンク系に統一されている。調度品もすべて院長が選んでいるが「ベッドや机などいろいろ選んだりするのは楽しいですね。結婚を10回した感じ」と笑う。とはいえ、予算にも限りがある。今でこそ高価な調度品が揃っているが、開業当初は大半が通販で購入した。いかに見栄えよく見せるかが腕の見せ所だ。「開業して最初の患者さんから『なんて素敵な』と言われた時は嬉しかった」。 開業当初のコストを削れるところは思いきって削り、それでいて演出効果を考慮して、病室などをディスプレーする。「まず第一印象」と語る濱田院長の言う通り、患者である女性の心を掴み、ひいてはリピーターとして再び来院する。女性ならではの感覚が発揮され、良い結果に結びついている。 従業員教育の際などは、経営者としての厳しい目が要求される瞬間だ。「うちは患者様とお呼びしていますし、扱いを丁寧にするよう指導を徹底させています」。就業規則に「啓蒙的立場にいることを自覚する」ことを挙げ、「女性として皆から憧れられるように、素敵に見られるように」と指導をしているとのこと。 当然、医療体制も充実を図っている。和歌山で最初に新生児聴力検査を導入したのもその一つだ。乳幼児の聴力に障害が発見されても早期にケアするとコミュニケーションに遅れがないという。発見が第一だ。開始して1年半経つが、この検査が口コミで広がり、聾学校の先生の取材を受けるまでになった。その縁で講演も依頼されているという。「安心感を提供するものを取り入れないとサービスにはなりません」と基本経営方針を語る。 分娩をするのであれば贅沢をしたいのが妊婦さんの心理だという。それを踏まえた上で、院内での高級な食事やエステも一つの手段だが、それよりも「医学的なサービスをしたい」と考える濱田院長。「贅沢するより安心を買いたい」と思うのが患者の本音だ。この患者本位の姿勢も伝わり患者が患者を呼ぶ。開業して常に心がけていることは「患者に同調し、その言葉を受け入れる。受容することが大切です。開業して失敗する人はこのことが理解できていない」と濱田院長。開業して一番良かったのは? と伺うと「自分のしたい医療ができるようになりました」との返事。周産期医療から生育医療へと向かう中、ライフサイクル全体で捉える医療を目指した経営をするべく、日々まい進している。取材を通じ、濱田院長からも、院内からもひたむきで清潔、風通しのよい印象を受けた。
|
|||||||||||||||||
2001.3.1掲載 (C)LinkStaff | |||||||||||||||||