今回ご紹介するクリニックは、平成12年8月4日の開業。まだ1年も経ってはいない。とはいえ現在、一日の患者数が平均100名を超えているという。整形外科の場合、その損益分岐点が一日70~80名とされていることを考えれば、この開業、成功といえるのではないだろうか。
もんなか整形外科はJR京葉線越中島駅より徒歩2分、地下鉄東西線門前仲町駅からも徒歩8分あまりの所にあるビル診である。「今何とかうまくいっているのは、一番目に周辺に整形外科がなかったこと。二番目に学校に囲まれ、その間に従業員200~300人クラスの会社が軒を連ねていたこと。つまり住宅地とは違い昼間の人口が多い。開業前に3年間勤務していた昭和大学附属豊洲病院と近く、病診連携がとれているのも大きい。そして院内の造りと私の方針が受け入れられたことかな」と語る佐藤芳貞院長に、院内の中心にあたる診察室でお話を伺った。クリニックの造り自体が、院長の理念を実現しているケースである。 |
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佐藤院長は埼玉医科大学を平成4年に卒業し、昭和大学病院整形外科へ入局。8年間の勤務医生活を経て現在の地に開業した。37歳だった。医師になった頃はこのまま勤務医を続けていてもよかったと考えていた。開業するとなれば当然リスクも負うことになり、あえて開業しなくてもいいと思っていた。
その気持ちが途中で変わった。敷かれたレールの上を進んでいる自分が見えたのだという。未来の自分が想像できてしまったことに気づいたのだ。加えて、勤務医として月に取れる休みが一日では、家族サービスもままならない。40歳を目前にして、身体も若い頃に比べ無理がきかなくなった。「この生活は続けられない、未来設計も見えている」と考えたとき、歯科医院を開業していた今は亡き父のことが浮かんだという。肩を押された気がした。「意外に手術に対する未練がなかった。それよりおじいちゃんやおばあちゃんと話をして地域医療をすることが自分の性に合っていた。それに自分の目指す医療をするには最終的には開業しないとできない」。以前から物療の有効性を考えていたが専門の施設というと少ない。自分としては保存療法を追究してみたかった、と語る。
もんなか整形外科の床面積は28坪あまり。平面図にもあるように、その設計はユニークだ。設計にあたり注文したのは、採光も含めた明るい造りであること、狭さを補う効率の良い設計の2点。コンペ形式でいくつかの図面を取り寄せた中に、自分の目指す医療を平面図で見せてくれた一枚があった。佐藤院長の考えを最も反映しているのが診察室だ。居ながらにして院内を把握できるようになっている。「レントゲンもすぐ隣だし、処置・点滴室はパーテーションで区切ってあるだけだから気軽に声をかけられる。診察の合間にはリハビリ室のドアを開けて中の様子を見るようにしています」。院長が見ていることに患者さんが気づけばよいのだという。「ただ患者さんが来て牽引して帰ったのでは良くならない。生意気かもしれないが、私が治療中の患者さんを確認していることが患者さんにとっての安心感につながる」。気軽に開けて声を掛け合うので、患者さんからは"どこでもドア"と呼ばれているという。「整形外科を30坪以下で開業しようとは誰も思わないでしょう。うちの特徴は狭いのが欠点だが、長所でもある」。狭いスペースを逆に利用して診療に活かした設計に感心させられた。 |
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「この内装も治療方針です」という内装は、オレンジ色を基調としていて、天井も調度品も同系色で統一されている。「患者さんの反応はどうしたか?」と伺ってみると「ビックリされますよ。病院じゃないみたいって」と笑う。平面図の出来に満足だった佐藤院長は、内装など全てをデザイナーに任せた。「医院のイメージカラーは?」と聞かれたので「オレンジで」と言って出来た、もんなか整形外科。だが、しっかりとした考えに裏打ちされている。昇り降りを考えて、一階での開業にこだわり、加えてバリアフリーにしたのはお年寄りのため。明るくしたのはみんなのため。そして造りを派手にしたのは若い層の患者を念頭においての考えだ。またBGMにはハワイアンなどの曲を院内に流している。開業当初の花輪も全部ハイビスカスだったという。
最も気をつけていることは、患者さんにリラックスしてもらうこと。もんなか整形外科に行ったら気分が明るくなって帰っていった、となってもらいたい。それにはどうすればいいか? 佐藤院長が出した答えの一つがこの内装だ。「きれいで明るく、何か楽しそうなのが良い。軽くてチャラチャラした医院ではダメ。絶妙のバランスを取らないと軽くみられてしまいます。ゆえに患者さんとの話は聞き流さない。まじめに話し説明する。そこで初めてバランスが取れる。一歩間違うと信用できない医者に見られる」と、あくまでシビアだ。
「7時30分までに来院してもらえば診療します。昼間働いている人が安心して通って治療を受けられるような診療をしたかった」。その人の腕や腰を治すということは、その人の生活を維持することになる。患者にとって何がベストであるかを考えることが重要。そこにはサービス精神が根本になければいけないと強調する。佐藤院長の理念がそこに凝縮している。
佐藤院長は診療中もカジュアルな服で通している。これもリラックスしてもらいたいとの気持ちの現れ。だが、開業当初は白衣を着ていたという。軽く見られることへの怖さがあった。「正直、気弱な部分があった」と言い、それが学位証などの院内掲示をしている理由だと語る。「この造りは医院なのか」と問われないか・・・と。ある時「今日も、もんなかのハワイに行って来るよ」と言って通院しているおばあちゃんがいることを知った。「これはいける」と思ったという。それをきっかけに白衣を脱いだが、不安なのは40~60代の男性患者の反応だ。どう思われるか、その不安が診察室の壁に白衣を掛けさせている。だが、白衣がなくなる日は近いと思う。白衣を脱ぎたかった佐藤院長。脱げなかった白衣を患者さんが脱がしてくれた。 |
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