「開業は一人」で、という考えを改めねばならない。そう思わせるクリニックを今回取材した。西武新宿線小手指駅から徒歩3分弱。国道463号線にほど近く、車35台を収容できる駐車場を持つ鉄筋3階建て二棟からなる彩のクリニック。一見すると病院では? と見間違うほどで、総敷地面積160坪という堂々たる規模を誇っている。
彩のクリニックは平成7年11月開業。順調な経営の中、平成11年12月には新館を増築している。このクリニックは3人の医師による共同経営によって運営されているのだが、本館、新館の土地建物とも借り受けている。地主が自らの土地に建物を建て、貸すという、いわゆる建貸し方式を採っているという。「共同経営ですから、将来のことを考えて不動産などを持たないという方針です」と語る駒崎敏郎院長に、共同経営にあたっての秘訣などを中心にお話を伺った。 |
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駒崎院長は埼玉医科大学出身。「17年ほど勤務していたが、大学病院に勤務するということは研究・診療・教育の3つをこなさねばならない。身体的にも能力的にも限界があると感じ、卒後8年目には開業を考えていました」。開業を志してから5年ほどは物件があれば訪ねて行き、検討を重ねていたという。パートナーである宮本直政医師と杉本秀芳医師の2人だが、駒崎院長と宮本医師が大学の同級生で、宮本医師と杉本医師が小・中・高校を通しての同級生。互いに気心が通じていることが、共同経営にあたっての信頼という土台をつくる。
開業するには、少なくとも自己資金を含め数千万単位の資金が必要とされる。開業医になるための第一のハードルだ。その開業資金が3分の1で済む。資金不足に悩む医師にとって、これは大きなメリットでありリスク分散にもなる。この開業は自己資金がほぼゼロで、すべて借り入れた。その額、1億円。医療機器はすべてリースだが「これからの診療には必要不可欠」という考えから、MRIを導入している。診診連携でMRIでの検査依頼もあり、地域の診療所にとってもなくてはならない存在となっている。
開業にあたり小手指北、南地区の診療圏調査も行いニーズに合うとの結果が出たが、医師会がその標榜科目の多さに注目した。3人の専門科目はそれぞれ異なる。というか、それが持ち味なのだ。
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駒崎院長の専門は外科。日本消化器外科学会認定医を始め、日本消化器内視鏡学会専門医、日本消化器病学会認定医などを取得。杉本医師は神経内科を専門とし、日本内科学会内科専門医を始め、日本神経学会認定医、日本老年医学会認定医、日本神経学会認定医など。宮本医師は循環器科で日本内科学会内科専門医、日本循環器学会循環器専門医、日本超音波学会超音波専門医などを持つ。
「一人で複数の標榜科目を掲げて開業するのはよくあるでしょう? 私たちは3人ですから一人あたり3~4科目としても12科目ぐらいにはなります」。専門科目が互いに異なることによって補完し合うことができる。これも共同経営の強み。結局、標榜科目はそのまま通った。 |
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理念としては掲げるのは地域密着型の総合診療所。入院を必要としない患者についてはすべて治療できることを考え実践している。「昔、肺炎であれば入院治療が必要でした。今は点滴して栄養補給に気をつけていれば治癒します。こういったケースを外来通院で対応する。」通常、頭痛で来院すれば、それが危険であるかを診断しなければならない。鎮痛剤などで様子を見ていては手遅れになる場合もある。彩のクリニックでは原則的に来院したその日の内に診断し治療をするのを目標としている。大学病院でのMRI予約は2週間待ちが普通だ。彩のクリニックでは当日が無理でも2~3日中に行う。診療時間と診断時間の短縮により、専門的な治療が必要と診断されれば、即日紹介することを心がけている。
「これからの開業は地域のニーズに合った診療をしなくてはいけないし、既存の診療所と同じことをやっていてはダメ。たとえば整形外科であれば単科とするのか、あるいは内科と共に標榜するのか。プライマリでやっていくのかを決めて開業するわけですが、専門医は確かに医療を行うにあたって重要だが、専門科目だけで患者さんを増やすのは難しい」。
駒崎院長の専門は外科だが全体の患者数の3パーセント程度であるという。「総合診療所として何でも診る」をコンセプトに3人連携の診療は続く。
共同経営の基本条件は仕事量も同じ、収入も同じにすることが続けていく上で重要。辞める時のことも考えて共同経営に関する契約書も交わしてあるという。70歳ぐらいになった時を考えると患者さんが来なくなるだろうと考えた、という駒崎院長。「いつまで診療を続けることができるのか」が課題になってくる。技術的にもどうしても落ちてくる。「常に勉強していく必要があります。私たち3人は専門医の資格を維持していくことを契約しています。」そのため学会出席も認めている。常に最新の情報に触れ、アンテナを張ることの必要を訴える。開業医となるとどうしても学会へ行けなくなる。それが3人いれば日程の調整もしやすい。駒崎院長は月に一度埼玉医科大学で講師を勤め、杉本医師もリハビリ学校で講師、宮本医師もやはり埼玉医科大学で講師を務めている。スタッフの労務管理は開業当初より統括部長を置くことで、治療に専念できる体制を取っている。3人は毎朝、ミーティングを開いているが、雑談で終わることもしばしばある。しかしその雑談の中にもアイデアも浮かぶこともあるし、診療前の貴重な情報交換ともなっている。
法人名である「三友会」は論語の「益者三友」からとったという。交際して益になる友に三種(正直な友、誠実な友、物知りで賢明な友)ある、という意味だ。
開業当初は1診体制だった。それが3ヵ月後には2診になり3診となった。現在は多い日で6診ということもある。1日20人足らずだった患者数も1ヵ月後には30~40人と増え、現在、平均600人。30倍となった。1+1+1=3以上のものとなって実を結んでいる。 |
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