最近、小児科を志す医師の減少が各メディアでも頻繁に取り上げられるようになった。少子化が定着した今、親が子供一人に対して手をかけることは多くなっている。反面「診療報酬が低い」「手がかかる」などの理由で病医院における小児科の縮小・廃止傾向には歯止めがかからない。厚生労働省の実施したアンケートでは、進路を決めている医学部生の内、小児科希望は全体の10%弱との結果が出ている。内科、外科希望者の40%とは大きな開きだ。当然、小児科医院の開業も少ないという。そのような中、今回は平成10年4月に開業した小児科クリニックをご紹介する。JR中央線阿佐ヶ谷駅から徒歩10分少々。阿佐ヶ谷、高円寺、新高円寺の各駅のほぼ中間に位置する住宅街に開院したセキこどもクリニックである。開業して丸3年。「白衣を着ないのは小児科医としての鉄則ですよ」と、一貫して小児科医として歩んできた関 兼英院長に、小児科クリニック盛業のポイントなどを伺った。 |
|
関院長は医師の家庭ではなかったが、父の趣味であるヨットを通じて多くの医師と知遇を得たことが影響して医師の道へと向かわせた。「高校生になってから本格的に勉強して医学部に進学しました」。日本大学医学部を卒業後、駿河台日大病院小児科にて研修。埼玉県立小児医療センター新生児科レジデント、静岡県立こども病院レジデントを経て、昭和62年、駿河台日大病院に戻り小児科医として勤務した。その後、日本大学附属稲取病院小児科勤務、平成6年に銚子市立総合病院小児科医長となり、3年前に現在の地で開業した。
医師は研修医時代、将来どの科目に進むかを模索しながら研修する。関院長は当初から「自分に向いている科目は内科系」と感じていた。その頃、すでに子供の減少が世間で叫ばれていた中で「内科に進む人はやはり多いです。それでも元々子供好きだったこともあって深く勉強してみたいと思い、今日まできました。まあ、何とかやり通しています」と笑って小児科医を志した動機を話してくれた。
実家のある信濃町での開業を考えていたが、父の事業の関係で断念。将来、実家へ戻って開業するか、と漠然と考えていた関院長も自ら住居と共に開業物件を探さねばならなくなり、開業2年前から本格的に計画を始めたという。そんな中、ちょうど物件が出た。母の実家が杉並区という関係で縁があったのかもしれない。小中学校も近接していることもあり決断。開業にあたって児童数や病院数など、さほど気にも留めていなかったという。現在、1日の患者数は40~50名で開業当初は20名ほど。「ほとんど口コミでしょう」との答え。この地の特色としては古くからの地主が多いという。親が地主なので、その所有するマンションに住んでいる夫婦や家族が患者となる。新興住宅地とは違い祖父、曽祖父の代からの住民だ。年配者の口コミも効果も大きいとのこと。町内会、神社の祭りに積極的に参加し、近所の神社の氏子青年会にも入会している。「地元のお祭りにも参加し神輿も担ぐ、縁日もプロに依頼するのでなく自分たちで露店を出す。費用も3分の1ぐらいですみますし、祭りといえば子供ですから」と認知活動にも積極的だ。
|
|
|
|
|
診療の理念は大学病院、総合病院での医療と変わらない医療内容を提供すること。特に口頭での懇切丁寧な説明は欠かせない。「ときには親御さんに選択もしていただきます。『苦いが良く効く薬だけど、いいですか?』と聞いたり、必要な薬は出すが、それ以外は希望によっては出さない。風邪などは極端に言えば薬を飲まなくても安静にして寝ていれば治る。しかし軽い症状でも心配して来院されるのは私も子を持つ身なので理解できます。言葉も選びます。薬が必要ないと思った時でも『薬を出しておきましたよ』ではいけない。『予備で出しますが、症状によって使い分けてください。持っていれば安心でしょう?』と言うように、細かい部分に気を配っています」。病診連携も川崎病のような難病であれば別だが、近所の病院で治療が可能と診断すれば、親の意見を聞いて希望に沿った場所の病院を紹介するという。「医者の常識は世間の非常識だと思っています。親の身になって考えれば設備はあるが遠方の病院へ送ることなどできない。通うだけでも時間とお金がかかります」。患者さんと接するときの態度には慎重であるべきとも語る。「勤務医時代のような態度ではいけません。思っていなくても患者さんは敏感に感じ取る。根底からそういった意識を壊していかないと失敗します」。関院長も開業の2年ほど前からその意識を持って患者さんと接することを心がけ、患者さんが不満に思ったことを覚えておき現在の診療に活かしている。
開業して良かったことについて関院長は「金銭面では勤務医であったならこの住居兼用のクリニックを建てることができなかったでしょう。また精神面では理想としていた地域に密着した診療ができている」と現在の心境を話してくれた。外で歩いていると患者だった子供たちから声をかけられるようになったことが何よりの報酬だ。ビル診で通いでも良いが、小児科ではクリニックと住居が同じであったほうが良いですとも付け加えた。他科はさておき、小児科を標榜していると突然の来院がどうしてもある。「電話なら一向に構いませんが、お風呂に入っている時に来られるとちょっとね」と笑う関院長。現在の充実感が見て取れたような気がした。 |
|
|