空梅雨を思わせるような強い日差しの中、今回取材に伺ったのは大阪府池田市に平成12年3月に開業した東保脳神経外科。阪急梅田駅から宝塚線急行に乗って15分ほどの石橋駅から車で5分とアクセスも良い。伊丹空港からも車で15分とかからないという。 十数台は収容できる駐車場の先、半円形が印象的でその赤みがかった外壁のタイルが空の青さと調和している。1階の待合室は採光もよく、半円に沿って黄色のソファが配されて洒落た感じを受ける。 |
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お訪ねした時、東保 肇院長はまだ診察中であり、先にスタッフの方に院内を案内していただいた。1階は診療室、処置室のほかMRIやX線などの検査関係で占められ、2階部分はリハビリテーション室にその半分近いスペースが割かれている。3階に病室(19床)が充てられていて、明るく開放的な造りである。敷地面積270坪、延べ床面積330坪とクリニックとしては大きな部類に入る。現在、1日外来患者数は70名前後で、最高で120名近くに達しているという。これら外来患者と入院患者を日夜、東保院長は診療している。一通り院内を拝見した後、1階の応接室にてインタビューが始まった。 診断名ウイリス動脈輪閉塞症。1950年代に日本人によって発見され、現在でも日本人の発症が最も多く、その発生頻度は10万人に0.3人とされている。厚労省が行っている特定疾患治療研究事業(医療費公費負担制度)に該当する疾患である。その血管撮影の所見がタバコの煙のもやもやした様子に似ているため「もやもや病」とも呼ばれ、こちらの方が一般的になっていて海外でもmoyamoya diseaseで通じるという。この難病の治療のため、東北から九州沖縄まで、全国から患者が訪れる東保脳神経外科を紹介します。 |
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昭和54年3月、京都大学医学部を卒業した東保院長は、同大老年科へ入局しその後、麻酔科へと転科。その転機は国立循環器病センター内科において、救命救急の現場で勤務した頃におとずれた。搬送される患者を手術して、命は助かっても中には高次機能障害を背負い生きていかねばならない患者もいる。「手術は自分でなくてもできるもの、しかしその後の患者さんのケアはどうなる・・・」。壁にあたった思いがしたという。センター勤務の後、京都府立医科大学脳神経外科を経て大阪脳神経外科病院へ。ここで東保院長は院長職まで務めた。 | |||||||||||||||||||
開業を考えるようになったのは平成8年頃。大阪脳神経外科病院でも救急患者を診る日々、 「手術後、患者さんはまた社会へと出ていくわけですが、センター勤務から続く何か吹っ切れないわだかまりがあった。治ったとはいえ、すぐに社会復帰できるわけではないですからね。医学的にみて手術はうまくいったかもしれないが、本当の意味で治ったわけではない。まだ自分にできることがあるのではないか? と考えた。結果を見れば私も患者さんも不満です。つまり心の平安を得ていない」。そこで考え、行きついたことが"心のケア"をすることだったという。手術してからも継続して悩み事を聞いたりアドバイスをしたりすることによって救われるのではないかと。「病院で実践しようと考えたが、細かなケアをしたくても結局は雇われている身なので、実現することができない。それなら開業し自分の思いを理解してもらえるスタッフと共にやっていこうと思ったわけです」。 |
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開業にあたっては捨てるものも多かった。設備的に大きな手術ができないので、医師として技術を発揮することができない場合もある。「脳神経外科医としては残念ですが、一医師として得るものも多い。開業して良かったと思っています」と満足そうに語る。 現在、全国規模で患者が訪れる。もやもや病の治療についてインターネットで検索し調べての来院が半数にのぼるからだ。また池田市には脳神経外科を標榜する病医院がないこともあって近隣からの患者も多い。開業は成功といって良いのではないか。 |
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スタッフへの教育だが「東保脳神経外科はあくまで自分たちの夢を実現する踏み台と考えてくれ」と話しているという。このことを常に反復して伝え、徹底している。それが自分自身の考え方の確認になり修正もできるわけだ。 「手術に臨む際もスタッフに『私の動きを常に見ておくように』と言っています。極端に言えば人間は正しくないので疑えということです。けして信用していないのではない。人間は過ちを犯すものだから、チェックを怠ってはいけないのです」。この成果が昨年60件の手術例で後遺症がゼロという結果として現れている。 |
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また勤務医、開業医を問わず、陥りやすい意識のズレに関しても「自分が良いと思うから患者さんも良いに違いないと思うのは間違っている」と強調する。「患者さんのニーズを聞くことが重要です。クレームがあった時に聞く耳を持つ。できそうで、なかなかできないものです」。 もやもや病はその発症の半数が10歳未満の子どもだ。当然、東保脳神経外科へ治療に来る子どもも多い。東保院長によれば、子どもは医師や看護婦などスタッフのことを一番良くわかっているという。「当院に来る子どもたちに、もやもや病などの治療では痛いこともするし厳しく注意もします。だが子どもは叱られることを嫌がっているわけではない。むしろ自分を保護してくれて間違ったことをしたら怒ってくれることを期待している。自分にとって、ただ単に甘やかしているのか、あるいは自分のことを思って厳しくしているのかをすぐに判断できる。子どもは言葉一つにしても敏感です、子どもの目ほど正しいものはないし、怖い」。子どもを見ていればスタッフの良し悪しまでがわかるという。 |
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麻酔科に籍があったとき先輩から「5分で食事は済ませろ」と教え込まれたこともあり、食事の時間は今でも5分ほど。2階で寝泊りする毎日で帰宅も月に1~2度できれば良いほうだ。そんな多忙な中でも睡眠時間などを削り、勉強や読書に時間を割いている。今回の取材でも、話はナポレオン・ヒルやカーネギー、旧日本軍の組織、孫子や三国志まで様々な話題におよびその多彩で豊富な知識が伺えた。時間があったら? との問いに「もっと本を読みたい。一番教えられたのは歴史本です」との返事。本年7月に東保脳神経外科は医療法人孔明会となった。「三国志の諸葛孔明からですね?」と聞くと頷く東保院長。 最近、ロビン・ウィリアムス主演の映画「パッチアダムス」を観る機会があったという。医大に入学した中年男が、笑いこそ最良の薬と信じて道化となり治療費無料の病院を作り上げていく実話だ。「やりたいことは、これだ」と思ったという。東保院長が日本のパッチアダムスになる日が楽しみになった。 |
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2001.9.1掲載 (C)LinkStaff |