クリニックの窓教えて、開業医のホント

バックナンバーはコチラ


-岩下悦郎消化器内科クリニック-
埼玉県所沢市

 どれだけ深く専門の研究していても、"いざ開業"となれば、一人でも多くの患者さんが来院するようにと、できるだけ多くの科目を標榜し、看板に掲げたくなるのは人情ではないだろうか。
「私のところは、いわば、オートクチュールです」
と語る岩下悦郎院長の考えはまったくの逆だ。医院名は『岩下悦郎消化器内科クリニック』と、専門科目をはっきり打ち出している。フルネームを入れたことから、
「ここでは、診察も治療も、すべて私の責任」
という明確な意思が見てとれる。

 

 
 西武新宿線の航空公園駅近くに、平成10年に開業して4年目を迎える。現在の来院者数は一日平均30~50人程で推移しているが、 「きちんと診察して、結果を患者さんに説明する時間を考えれば、このあたりの人数が限度です。これで十分生活できているし、さらに患者数を増やしたいとは思いません。むしろ、良心に恥ずることなく一日を終えて、おいしくお酒が飲めるほうが幸せです」 と、笑顔に屈託がない。


来院数だけを見れば、内科のクリニックとしてはいささか少なく思えるかもしれない。しかし、そのバックボーンには大学レベルの診断と治療を、開業医らしく、患者の事情に応じて小回りのきく体制で行う、という目標と自負がある。

 

  昭和61年、防衛医科大学校卒業と同時に同大第2内科に入局。以後、消化管グループに属して内視鏡診断学と炎症性腸疾患についての研鑚を重ねた。内視鏡診断の腕前は、他病院の医師が自ら検診を受けに来院することでもその確かさが判る。そして炎症性腸疾患については、たとえばクローン病のような、いまだ原因の解明されない慢性的疾患への取り組みを続けている。また、治療に顆粒吸着療法、白血球除去療法を採り入れている開業医は、日本全国を見ても、ごくわずかだろう。




 もうひとつの特徴は、インフォームド・コンセントを貫いている点だ。そこには、難病に取り組んできた医師ならではの問題意識がある。
「あるとき、『難病を抱えているのだから、出産はあきらめなさい』と、主治医に言われていた患者さんが来院されたので、『きちんとケアすれば大丈夫です、がんばりましょう』と、励ましたが、結局、高齢での初産になるからと、諦めてしまわれた。多分、その主治医は、『うちではそこまで保証できないよ』という意味で言ったのでしょう。けれど、医療はどんどん進歩しているし、自分では無理でもほかの医師ならケアできるかもしれない。そこまで選択肢を広げて、患者さんにとってベストになることを、患者さんと一緒に考えなければいけない。医師の一言で人生が変わってしまうことも多いのです」。

 
 しかし、患者にとって医学用語は難しく、医師と患者では立場が違う。この壁を乗り越えて通じる言葉がなければ、一緒に考えることなどできはしない。そこで、治療実績を成功例の紹介ではなく、このクリニックで実施した結果を、"成功・効果なし・再発"に分けて、実数とパーセントで表示しホームページ上でも公開している。 「話の取っ掛かりとしては、これが一番わかりやすいですからね」。

 採血の結果はもちろん、画像、病理結果も渡す。その資料を持ってほかの医師に相談するのもOKだ。
「これからは、インフォームド・コンセントから一歩進んで、インフォームド・チョイスの時代になると思います。つまり、患者さんが情報を集めて、医師を選ぶ時代になる。複数の医師から意見を聞くのも当たり前になっていくはずです。きちんとエビデンスの出せる診察は、当然の前提になる」。

 

 そのときに選ばれるのは、どんな医師か。その答えはおそらく、すでに出ている。それぞれの患者が、一人一人の事情にしたがって、別々の理想像を思い浮かべるに違いない、ということ。どれほど理想的な医師でも、あらゆる患者の理想に一人で応えるのは不可能だということだ。だからこそ、それぞれの理想に近い選択ができるように、インフォームド・チョイスへと進まなければならない。
「正直に出した当院の実績を見て不満な人は、最初からここへは来ない。逆に、数字を見てから来る人は、すでに私と一緒に考えるための第一歩を踏み出している、とも言えます。結局、隠し立てをしないほうが、医師にとっても良いのです」。

 

  医師の精神衛生にとっては、難病と取り組むより、"完治しましたさようなら"のほうが良いかもしれない。それでも良心に恥じることなく、おいしくお酒がいただける秘訣は、確かな診断力に裏打ちされた、隠し立てすることのない自然体にあるのかもしれない。
 
 
 
岩下悦郎消化器内科クリニック
住所 〒359-1114 
埼玉県所沢市北有楽町24-10
標榜科目 消化器内科 胃腸科 一般内科 (小児科)
医療設備 レントゲン、心電図、超音波診断機、内視鏡、顆粒吸着療法用血液循環装置
延べ床面積 25坪
物件形態 ビル診
スタッフ数
常勤医師: 1名
看護師
(非常勤):
2名
受付事務: 非常勤4名
開業資金 1,800万円
ホームページアドレス http://www11.u-page.so-net.ne.jp/sk9/etsuro-i/

2002.8.1掲載 (C)LinkStaff



【クリニックの窓バックナンバーリストへ】

 
リンク医療総合研究所 非常勤で働きながら開業準備