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―吉村医院―
愛知県岡崎市

医院長 人生の中で最もドラマティックで感動的な瞬間"お産"をどのように迎えたいか。少子化が定着し、一生に一、二度あるかどうかのイベントとなった妊娠と出産。最近では高級ホ テル並みの部屋、フルコースの料理、豪華な出産祝いといった高級感を謳った産院が増えているが、反面、出産日もあらかじめ決まっている管理された出産といえる。
今回ご紹介する吉村医院には、できるだけ自然な形で出産をしたいと望む妊婦たちが、県内ばかりか、県外からも評判を聞きつけ来院し、しかもリピート率も高いという。その人気の秘密をさぐってみた。

愛知県岡崎市のJR岡崎駅から5分ほど歩き、坂道を登ると白壁の本院が見えてくる。一見すると一般の産院と変わらない吉村医院だが、まるでタイムスリップしたかのような、今では珍しい日本様式の木造建物『お産の家』が隣接し、裏手には江戸時代の民家を移築した『古屋(ふるや)』が、青々と茂った木洩れ日の中から姿を現す。「お産とは女性の文化である」と言う吉村 正院長の言葉を体感したかのような空間がそこにはある。
 「本当は芸術家か天文学者になりたかった」と語る吉村院長だが、作務衣で取材に応じていただいた姿は、医師というよりも芸術家と言ったほうが自然だ。「外科医だった父親にイヤイヤ医者にさせられた」と笑うが、父親が倒れたのがきっかけで産科医として開業。当初は麻酔分娩、計画分娩など、今と正反対のことを行っていた。それが現在の自然分娩に至ったのは、医師主導の「産まされるお産」に矛盾を感じ、気持が良く、感動的で美しいお産をさせてあげたいという思いの表れ。
吉村院長いわく、「誰かに影響を受けたわけでもなく、それこそ自然な流れ」というわけだ。「お産を医療として見てはいけない。我々はどのようなお産をしたいのかを聞き、それをお手伝いするだけです」
医師が主導になりがちな現代の出産において、ここでは妊婦が主役となって、人それぞれのドラマ(お産)が生まれているのだ。
 
 その舞台となる本院では、外来・入院・出産が行われており、併設している 『お産の家』では心の底からリラックスできる空間として、和室での分娩のほかに、檜風呂での水中出産も希望できる。いずれも家族同伴が可能で、出産直後はすぐに母子が一緒になり、愛情をそそいでいる。「苦しんで生むことにより、また、生まれた子供をすぐに、そばにおくことで本能的な愛情が生まれる。最近はこのバランスが崩れていて、幼児虐待などの社会問題が起こる。ここじゃ考えられんことだ」という院長の言葉に納得させられる。 院長が難産傾向の人に、20年ほど前から勧めているものに「古屋」での労働がある。「昔は産婆さんや、地域の人々が素手で取り上げていたが、ほとんどが安産だった。その理由は当時の暮らしのスタイルに隠されており、自然に安産できるからだを作るために」とはじめたものだ。薪割り、水汲み、雑巾がけなどの家事労働を、同じく難産傾向の妊婦たちと行う。妊婦は多くの不安を抱え、出産後も慣れない育児に戸惑う人が多いと聞くが、「古屋」での労働や、近所の山に出かける「ピクニック」は、体を動かすことだけが目的ではなく、情報交換の場として、お互いの不安や悩みを和らげる効果もあるのだ。
 
 『お産の家』や『古屋』といった"昔ながら"の古きよきイメージが感じられる吉村医院だが、実は現代医療をベースとした安全性の中で、妊娠中から出産・育児までトータル的なケアを行う、一歩先を行くまったく新しい形のお産なのである。

また、「将来、お産の家の隣にホスピスをつくりたい」と、構想を語る吉村院長。「生と死がふれあうことで、命を見つめなおすことができるのではないか」という、実現が待たれる。
 取材前、以前、吉村医院で出産を経験した母親が吉村院長のもとを訪れ、談笑しているのを見受けた。

吉村院長はじめ、スタッフ全員の暖かなまなざしが安心と安らぎを与え、人をひきつける。いろいろな意味で「ふるさと」と呼べる場所がここにはある。
 
 
吉村医院
住所 〒444-0834
愛知県岡崎市柱町東荒子123
標榜科目 産科・婦人科
医療設備 分娩室、和室分娩室、手術室、病室(洋室 8/和室 3)、お産の家(民家風分娩施設(和室病室 3))、超音波診断装置 2台
延べ床面積 本院 鉄筋コンクリート造3階建(建築面積:122坪、延べ面積:333坪)
お産の家 木造2階建(延べ面積:152坪)
物件形態 一戸建て
スタッフ数
院長  
常勤医師 1名
非常勤医師 1名
婦長  
助産婦

8名

看護婦 2名
事務長 1名
事務 5名
古屋担当 1名
厨房 5名
清掃 1名
託児担当 お産OGのみなさん
広報・企画担当 1名
数えきれないボランティア、医院を盛りたてて下さる方々

<病院配置図>
 
<タイムスケジュール>~院長のある1日
  4:50起床
自宅から数十分のところにある里山まで車でいき、一人で1~1.5時間散歩 (これは院長のエネルギー、哲学的、宗教的思索、気付きの源です。どんなに疲れていても大雨がふっていない限りでかけます。懐かしい田園風景の広がる美しいとこ ろです、早朝はだれもいない)

8:30~
朝食(薪でたいたご飯、味噌汁、漬け物、中心の伝統食。これもエネルギーの源)

9:00~9:30
待合い室にてスタッフ&外来の方合同の朝礼

9:30~14:30
午前診(9:30~12:30)が一応決まっている時間ですが、ひとりひとり丁寧に診察するのでかならず延びます。ひとり1時間になることもすくなくない)

14:30~
病棟、古屋などをまわる (スタッフ、妊婦さん、OGのママ、そこら中から声がかかりますのでもっと長引くことも)

15:30~
昼食(薪でたいたご飯、味噌汁、漬け物、中心の伝統食、焼魚や煮魚、煮物和え物 などもあったり)食事の後、少し昼寝

17:00~19:00
午後診(17:00~18:30が一応決まっている時間ですが、これまた丁寧に診察するのでかならず延びます)

19:00~20:30
研修生に講義(ほぼ毎日、全国から研修の助産婦さん(このごろはお医者さんも)が来られるので、講義がシステムに厳密に含まれている訳ではありませんが、話してあげたくなってしまうのです、話しはじめたらすぐには終らない)

20:30~
夕食(薪でたいたご飯、味噌汁、漬け物、中心の伝統食、焼魚や煮魚、煮物和え物などがある)

21:30~
一度就寝

これから朝まで、お産が毎晩あります。 難しいお産の方がある時など結局眠られず ほとんど1時間おきに病棟を訪れたりしして長い睡眠はとれないでいる状態です。
     

 

2002.9.15掲載 (C)LinkStaff


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