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最先端の癌治療と研究は、大きな病院や大学で行うもの。小さなクリニックにはとても無理――そんな固定観念を打ち破るのが、白山通りクリニックだ。
「開業したら、研究は無理だという考え方は、もう、変わらなければいけないと思います。これまでは、研究や施設等やハードにお金がかかったけれど、今は、研究室もミクロ化、ナノ化が進み、テーブルひとつでできるようになってきたのです。当クリニックにも充分な研究施設がありますから、面白いアイデアがあれば、開業されている方でも、いつでも共同研究ができる」
逆に、入院施設はない。
「通院、あるいは在宅で、地方の患者さんも受け付けています。情報化が進むと、遠隔地の患者さんでも、治療が受けられるようになる。距離の壁がなくなってしまうんですね。遠隔地に住んでいても、最先端の治療が受けられる。それも、こんな小さなクリニックで実現できる時代になったんです」
入院用のベッドが不要なのは、浸襲性の低い治療法で効果を上げているからでもある。
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「医学の進歩で、癌細胞だけをワンポイント攻撃する方法もできました。けれど、それだけで健康が取り戻せるかというと、ちょっと違うんです。下手をすると、戦いには勝ったけれど、復興のめどがつかないイラクのようなことになる。癌だけを専門にしていると、忘れがちな点です」
間違いの原因を取り除けば、結果は自動的に修正されるはずだという思考法は、近代西洋科学の真髄だ。しかし、漢方薬の第一人者でもある丁宗鐵氏にとって、医療とは、個々の病気の治療で完了するものではなく、健康の実現を目指すものであるらしい。
「浸襲が加わった後の、からだ全体の立て直しには、東洋医学の方が優れている面がある。これは、使う薬剤など、ハードの問題ではなくて、タイミングや使い方の、ソフトの部分なんです。しかし、不定愁訴など、精神的要因の大きな病気ならともかく、器質的なものの治療は西洋医学にかなわないという思い込みが、漢方をやっている人にもありまして。普通、癌などには手を出したがらないんですね」
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それが、どうして癌の治療と研究にかかわることになったのだろうか。
「漢方薬の効き目を科学的にはっきりさせるには、免疫学が一番良いのではないかと考えたんです。アメリカのスローンケタリング記念癌研究所に留学したのにも、その目的があった。免疫学の最先端をやっているがんセンターには、医学生時代からしょっちゅうお邪魔していました。そこで、関根暉彬先生(元国立がんセンター研究所共通実験室室長。現リンフォテック代表取締役社長)と意気投合したんです」
その関根氏が、後に活性化リンパ球治療を手がけることになる。
「当初は、なかなか効果が出なかったんですよ。けれど、一人だけ、やけに効いた人がいる。良く話しを聞くと、漢方を使っていたんですね。医者には内緒で(笑)。
また、内田温士先生(京大放射線生物研究所教授・故)も、免疫活性化による治療を研究されていたのですが、そこでも、漢方と組み合わせると効き目が違うと言い始めた」
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その効果は一般にも認められつつあるが、LAK療法など、他のリンパ球療法と混同する医師も多い。エビデンスに基づいた治療を行うため、研究と発表も不可欠だ。そのため、シンポジウムの開催などにも積極的な点も、このクリニックの特徴だろう。
「良い意味でのグローバル化、情報化が進めば情報が行きかうスピードで、治療技術も進んで行きます。新しい流れですが、決して珍しくはない」
調整方法や品質管理なども統一されておらず、未だ、保健診療にはなっていない。この点も、今後の課題だろう。
「今までの医療は、国家管理です。国が決めるから、日本とアメリカでは薬も違う。医師も薬剤師も、当然国家免許が必要です。アメリカのベテラン医師でも、国が違えば自由に診療できるわけではない。縦も横も、国家管理でがんじがらめです。
ところが、こういう治療法が出てくると、その枠が外れてくる。日本の保健診療の中では、まだ混合診療は認められていませんが、これをきっかけに認められるようになれば、開業にも、新しい可能性が開けてくるんじゃないかと思います」
まさに、新しい医学の流れと言えるのではないだろうか。 |
(終わり) |
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