東京都清瀬市、西武池袋線清瀬駅北口を出てわずか1分。地図で確かめる前に「武蔵野クリニック」の看板が目に飛び込んでくる。その手前には今年10月にオープンしたばかりの「へるすぴあ武蔵野」がある。こちらは下村理事長が自由診療を行うために開設。扉をくぐると、そこは医院というよりはエステティックサロンを連想させるような、高級感溢れる落ち着いた受付スペース。こちらの一室で、開業の経緯、医院運営上の理念等についてお話を伺った。 |
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●「武蔵野クリニック」開業 |
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下村院長は平成5年まで順天堂大学医学部付属順天堂医院外科に在籍された後、思いっきり臨床を行う為、清瀬市の中核病院に勤務する。そして平成11年に「武蔵野クリニック」を開業された。
開業を考えてからの行動は早かったという。
勤めていた中核病院で副院長として、サテライト構想(病院周辺に分院を展開)を実現すべく動いていたが、先生自身の考えや理想を実行に移す為にはサテライトではなく自分自身で開業することを決意。地域の患者さんとの関係上、開業地は清瀬に決定。清瀬でも患者さんの利便性を考慮し、清瀬駅北口という立地は第一条件だったという。その場所に良い物件がすぐに見つかったことから、決意後3ヶ月ほどでオープンにこぎつけた。
先生は当時の事を「前の病院の診療を続けながらですから、開業準備に動ける時間も限られていました。無理をして自分で動こうとすると患者さんにも迷惑をかけますしね。いろいろな意味で簡単ではありませんでした。それに当時は、貸し渋りの一番厳しかった時期ですしね」と述懐する。
限られた時間の中で先生御自身が奔走するとともに、たまたま知人の医療コンサルタントにも手伝ってもらうことが出来た。また、当初は「在宅/一般」という形で共同経営も考えたそうだが、出資金や役割、利益の分配などをイーブンに分担する難しさから、最終的には先生一人で立ち上げることになった。
開業当初は一日の平均外来患者数は2、30人のスタートだったが、今では毎日120人余りの外来患者を抱える。医院が忙しくなるに連れ、スタッフ管理について考えるところも出てきた。「経理・労務を院長が兼ねるということには無理がある」と、三年目くらいから感じ始めたという。経理の方を気に掛けていては、院長としての職務にも支障が出かねない。結果、診療所でありながら事務長のポストを設けることにした。
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「院長業務は楽になりましたよ。スタッフにとっても、院長には言いにくいことでも事務長になら言えるようです。この三年、スタッフの異動もありません」
定着率の高さは、患者様にとってだけでなく、働く側にも心地良いクリニックである証だ。
多忙を極める毎日だが、「勤務医時代より忙しくなられたでしょう」との質問には、「いやぁ、今の方が楽ですよ」と答える。「勤務医は当直がありますし、不規則ですからね。オンコール体制ですし。それに比べれば、今は夜に寝られますし、寝れば起こされることはありませんから」冗談めかして語る院長の表情には、患者様と近く接しながら地域医療に尽くす充実感と余裕が伺える。
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【クリニック受付 患者様の受付⇒診察⇒会計での
待ち時間短縮のため電子カルテシステムを導入している。】 |
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●方針Ⅰ、Ⅱ(かかりつけ医、IT化)
下村院長は、「武蔵野クリニック」の特徴として、次の三つを挙げている。
一つは、かかりつけ医であること。いつでもどんな患者様でも気軽に受診できる診療所、院長曰く「駅前のコンビニクリニック」を目指している。「いつでも、どんな患者さんでも受診できるような医療を心掛けています。その為にかかりつけ医として、色々な科を広く浅く知っていなければなりません。そこで必要になってくるのが病診連携です。私はオープンシステムを採用している病院と連携して、その病院で手術室を使っています。また、開業医が集まりそれぞれの専門を生かせるようなネットワーク作りも考えています。」
次に掲げるのがIT化。将来性や、ビル内診療所というロケーションからくるスペース上の問題等を鑑み、開業当初から電子カルテなどを導入した。もちろん、個人情報の保護などにも十全に留意している。
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【待合室には患者様に少しでも快適にお待ちいただけるようにBGMにはクラシックを流し、空気殺菌脱臭装置を24時間作動させています。
また、写真集や絵本、お花や観葉植物をおいて リラックスできる空間作りに努めています。 】 |
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●方針Ⅲ(治験)
そして三つ目は、治験への積極的協力である。下村院長がクリニックとしての治験参加を考えたのは、大学病院時代の経験による。
「大学の治験では、責任の所在が曖昧なんですよ。治験の話を持ってくるのは教授ですが、実際に担当するのは主に研修医です。誰がまとめるのかもはっきりせず、データの集計に半年や一年かかるということもざらです」
そんな体制への疑問、そして「今後の治験の舞台は大学病院ではなく診療所に移る」との考えから、開業当初から積極的に治験に取り組んできた。
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【診察室】 |
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「これから開業される先生にも、是非治験を担当してもらいたい」と院長は語る。
「大学病院でしか治療できない難病用の薬剤開発も大事ですが、今後ニーズが高いのが生活習慣病など一般的な疾患に対する薬剤の開発です。そう考えると、診療所での治験は間違いなく増えますよ。また、開業するとMRの持ってくるものなど、どうしても情報の経路が限られてきてしまいます。治験をやると、世の中の流れがわかるんですよ。例えば今なら、骨粗鬆症の新薬にどんなものがあり、それがどう効くのか、といったようなことですね。勉強になる、というのが一番にあります」
また、「治験は一般に考えられているほど負担のかかるものではない」ともいう。「SMOと提携しCRCを派遣してもらっている為に、治験もスムーズに行っています。また治験の参加者が長期的に診療に訪れることもあり増患にも繋がり、低リスク・低コストの営業も同時に可能という見方もできます。」 |
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【CT・レントゲン室】 |
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●「へるすぴあ武蔵野」 |
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「武蔵野クリニック」が順調に発展を続ける中、「へるすぴあ武蔵野」を開院されたのが今年の十月だ。
「例えば、癌の見つかった患者さんを、大病院に紹介したとします。残念ながら手の施しようのない状態で、そのまま戻されてしまったとしましょう。ホスピスに送るといっても、その患者さんはまだ元気でお食事もされているんですよ。この状況で、出来ることは何もないのでしょうか。あるいは、お年寄りに『歳のせいだから仕方ないよ』というだけでは、医者の名折れでしょう」
しかし、保険診療で出来ることには限りがある。そこで、保険の適用されない治療法を実践すべく、自由診療による「へるすぴあ武蔵野」を設立。
ここでは、NK療法を中心としたリンパ球療法などの免疫療法、全身骨塩定量測定器やマンモグラフィーを活用した婦人健診、医師の直接の指導・解説によるサプリメント処方、英国式リフレソロジーなど、様々な予防治療が提供されている。
設立して2ヶ月が過ぎた段階で、苦労も少なくないそうだ。
「ちょっと無謀だったかもしれませんね。みんなの意識より三年早かったです(笑)。厳しい広告規制もあり、看板やパンフレットも骨抜きにされてしまう。今後はHPの充実や他サイトとの提携などもやっていかなければと考えています。改革を待っていたらだめですよ。民間からやらないと。」 |
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●開業される先生に向けて |
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最後に、開業を考えている先生に向けてのメッセージを伺った。
「心がけとして、専門一般を問わず、自分の立場をはっきりさせることです」
医療の形態が多様化していくこれから、患者様にいかに近づくか、どういうサービスをどういう形で提供するかが要になる。それらが曖昧なままでは、患者様にとっても診療所の具体像が見えてこない。
「株式会社が参入してくる、という話もありますが、わたしは大賛成ですよ。どんどんやったらいいんです。当然競争は厳しくなるでしょうが、色々とオープンになってはっきりしてくることもあるでしょう。そんな中で、小さな診療所にしかやれないことを考えなければいけないんですよ」 |
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★院長開業後タイムスケジュール★ |
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在宅 2日/W(火・日曜日)★休日(土曜日) |
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(終わり) |
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