クリニックの窓教えて、開業医のホント

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― たつや整形外科 ―
小島龍也院長
東京都渋谷区
 
 
医院長 医師に求められるのは、医師としての実力だけ、と割り切ることができるだろうか。開業するなら、自営業者としての資質や資産も必要だと考えるのが常識だ。しかし、常識は定理でも法則でもない。
「借金をすれば、利子を払うためにこなさなければならないノルマが決まるでしょう? 僕の場合は、50万円ほど使って内装に手を入れただけ。大学の退職金の範囲内ですね。借金がないから、一日3人診れば黒字になります。それに、僕自身が、あまりお金を必要としない人間ですから」

初期投資と設備は最低限だ。診察室とギブス室はあるが、リハビリ施設も入院用ベッドもない。検査にしても、高価な機器が必要なものは専門の検査会社に委託している。
「すばやい上に信頼性の高い検査をしてくれるところがありますから。ベッドなどの施設にしても、必要なら、使える関連病院はいくらでもあるわけで、自分で設備を持つ必要はない。外来だけやれば良いじゃないかと。まあ、実験というか、挑戦ではありましたね」
 
tasuya01 必要なのは、確かな協力者を見つける目と、医師としての実力だけ。しかし、すべてを自分の患者にする必要はない、一番うまく治せる人が治せば良いのだという割り切りがなければ、ネットワークも派閥や組織の外へは広がりにくい。プロジェクトを請け負う自由業者、フリーランスの価値観があってこその成功だろう。これは同時に、医療の原点に立ち戻った考え方ではないだろうか。
「大きな病院の看護士だと、患者をみている時間より、書類仕事にとられる時間のほうが長かったりしますね。また、本当の名人と呼べる先生が、組織の中では冷遇されていたり。こんな状態が続いて良いわけがない。実際、実力のある人がどんどん独立していますからね。僕も、役所の形式を満足させるために、無意味な書類仕事に時間を費やすのが嫌になりまして」


この視点から見ると、整形外科の得意先と目される交通事故患者も、
「診るのは良いのですが、保険会社のための書類仕事をしていると馬鹿らしくなります。その時間でやりたいことが、他にいくらでもありますから、事務員の揃った病院に任せますよ」
ということになる。
 

tasuya02 しかし、リハビリ室もなしで、どんな治療ができるのだろうか。
「患者さんに、自分の体の正しい使い方やトレーニングの仕方を指導するのです。
僕も最初は、地方の基幹病院で、ホットサージから始めました。そのころは、切らずに治せるんじゃないかと思っても、時間に追われてしまって。100件以上の手術実績が必要となれば、とりあえず切ってしまえという傾向が、さらに強まるんじゃないですかね。
その後、都心に近い病院に移って、今度は、ややこしくなってからの、コースドサージが多くなりました。じっくり時間をかけて治すべき患者さんたちを診たわけです。
もちろん、手術するしかない患者さんもいますが、ほとんどは適切な指導だけで治るんですよ。3週間くらいでかなりの効果が出てくるので、患者さんにとっても、インセンティブがあるんですね」

 
tasuya03 ここには、Jリーグ(当時は実業団サッカー)などでスポーツドクターを務めた経験も生きている。手術で治しても、体を酷使すれば再発する。一見無理をしているように見えても、理にかなった体の使い方をしていれば傷まない。姿勢が悪ければ、長い間にはゆがみ、傷みが生ずる。これを防ぐのは、予防医学の見地からも重要だろう。
「痛い、歩けないで困るのは、あなただけじゃないんだよ、家族が困るんだよって、良く言うんです。死ぬ前の日までで良いから、自分でトイレとお風呂にいけるようにしようね、それが目標だよって」


そのためには、継続的指導が必要だ。
「前回指導したトレーニングの成果を確かめてから、しだいに課題を増やして行きます。一度にいくつものトレーニングを教えても、そうそう実行できるものではないし、第一、覚えられませんから」
 
tasuya04 こういった姿勢に馴染めない患者さんもいる。日々の仕事に追われ、とりあえず鎮痛剤が欲しいというひとに、トレーニングの指導は遠回りに感じられることだろう。
「どれだけ時間をかけて説明しても、うまく飲み込めない人、身につかない人もいますね。ただ、このクリニックに一元の飛び込みでいらっしゃる人はほとんどいないんです。看板も小さいですしね。近頃では、患者さん、知り合いの医師とその家族や病院からの紹介で、ある程度わかって来る人がほとんどです。もう、秘密クラブ寸前ですよ(笑)」

完全予約制にしたおかげで少し患者が減って嬉しい、とは本人の言。
「考え、勉強し、楽しむための自分の時間がなければ意味がないでしょう? 僕の場合、借金をしていないから、いつでも身軽にやめられるし、次のステップへも進める。たとえば、今の日本では、オリジナルな治療法などはなかなか試せない。お役所が仕切ってがんじがらめでは、新しいものは出てきませんからね。そこで、海外に出て、実績を作って日本に持ちかえるという手も考えているんです。実際には、このクリニックを頼りにしてくれる患者さんを放り出すわけにもいかないですけれど」

最後に、若手医師へのメッセージをうかがった。
「医師になる勉強をしたから、必ず医師に成らなければいけないってものでもないと思います。視野を広く持てば、医師としての知識や経験が求められている仕事は、他にもたくさんある。もちろん、医師として使い物にならないからっていうのでは困りますけれど」
(終)


たつや整形外科
住所 〒151-0073
渋谷区笹塚2ー9ー1
標榜科目 整形外科内科
医療設備 机と椅子だけ
延べ床面積 8.5坪
物件形態 義母の歯科医院を改装
スタッフ数 常勤医師1名、医療事務受付1名
開業資金 50万円


院長先生の1日の流れ(勤務時間等)
開業前 帝京大学医学部整形外科外来講師
月; 8時から病棟教授回診。10時から外来(責任者)、午後は脊髄脊椎特別外来、学生指導(ポリクリ)
火; 手術
水; 手術
木; 午前;外来;午後;東大の側彎外来
金; 手術
土; 外来と回診(交代)
日; 休診
  月に1回程度管理当直
 
開業後
月; 8時半出勤。9時から12時まで予約制外来。3時から6時まで予約制外来。
火; 手術
水; 手術
木; 午後休診
金; 手術
土; 休診
日; 休診



2003.2.17掲載 (C)LinkStaff



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