クリニックの窓教えて、開業医のホント

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― 医療法人二心会 うだがわクリニック ―
理事長 宇田川宏

 
医院長 昭和の終わり頃、往診をする医者はほとんどいなくなった。手間と時間がかかるからだ。この点は、在宅医療の必要性が叫ばれる今でも、あまり変化はない。
「12時に午前中の診療が終わり、午後は3時からです。そのあいだ、3時間を往診に当てていますが、一日に3~4人が限度ですね。4人の日には、車で移動しながらサンドイッチとかで済ませたりしてます(笑)」

うだがわクリニックは、ヤオコーマーケットシティ・所沢のなかにある。ロケーションの集客力を考えれば、往診までする経営上の必要があるとは思えない。実際、来院患者は、去年(2002年)の開業時の15人程度から始まり、12月には平均50人と、充分な水準に達しているのだ。
「けれど、往診が必要な人がいるんですから。他人がやらない分、だれかがやらないといけない」

まだ35才という若さのエネルギーもあるが、それ以上に大きいのが、スタッフの力だろう。勤務医時代から夢を語り合った仲の事務長を始めとし、二人の看護婦、検査技師など、総勢十人。医師一人のクリニックとしては例外的な充実ぶりと言えよう。
「大学病院などでは、どうしても待ち時間が長くなりますよね。けれど、地元のクリニックは、行けばすぐ診てもらえるのが一番じゃないかと思うんです。だから、医師は診療に専念できるよう、スタッフは多めにしました。そのおかげで、診療を終えるとすぐに帰れます。予想外の副次効果ですが(笑)」
 
外観 自宅へは、車で1時間の距離だ。そのため、常にそこにいるのが当たり前の自宅開業医とは、往診にも一味違った工夫をしている。
「もちろん、いつでも連絡が取れるように、携帯の番号も知らせています。また、万が一、他の病院へ運ばれたときにも、これまでの病歴や使っている薬など、必要な情報が伝わるよう、手紙にして往診先に置いています。いわば、緊急引き継ぎ用のカルテを出しておくわけです」

開業し、往診の患者を手がけるようになって、考え方もずいぶん変わってきたと言う。
「もともとは、循環器が専門で、カテーテルをやっていたんです。まあ、超急性期の患者さんを診ていたわけです。それが、慢性期の患者さんの御自宅へうかがって、その生活が目に入ってきた。どんなことで困っているのか、目の当たりにするわけですからね」

 

従業員そこで今後、力をいれたいと思っているのが、予防医療の啓蒙だ。
「啓蒙と言うと、ちょっと違うかもしれません。たとえば検診などを、ただなんとなく受けているのではもったいない。検査の結果がどうか、何に気をつけたら良いのか、放っておくとどうなるのかなど、分かりやすく具体的に説明してあげたいですね。それには、急性期を扱った経験が役に立つと思います」

ところで、このクリニックには、往診のほかにもうひとつ、重要な柱がある。小児科だ。これも、手間がかかってもうからないと敬遠されがちな分野である。
「本人がしゃべれないし、母親の精神的ストレスも、とってあげなければいけない。大変なことは多いです」


ヤオコーの川野社長は小児医学奨学財団の設立者でもあり、できれば標榜科目に小児科をいれて欲しいとの申し入れがあった。
「しかし、できれば、という話しですから。やろうと決めたのは、地域での必要性を感じたからです。この近くには団地も多いし、必要としている人が多いのに、小児科が少なかったんです。実際、開業してみると、小児科の患者さんは非常に多いですね」

 
内観宇田川氏自身、幼少時には川崎病で苦しんだ。現在は、6才と3才の、二児の父親でもある。専攻外だという不安はあったが、先輩小児科医の応援もあり、評判は良い。
「一つ誤算だったのは、待合室の広さですね。子供は、親に連れられてきますでしょう? 元気な兄弟もついて来たり(笑)。
それに、僕が以前から診ている循環器の患者さんには、お歳よりも多い。待合室で泣いている子供と一緒だったりすると、口では何も言いませんが、血圧を測るといつもより10くらい高かったりします。
今は、子供用におもちゃを置いた部屋を作ってしのいでいますが、もっときちんと対応したいですね」
 

事務長やりたい事とできる事の狭間でジレンマを感じるのは、だれしもの事だろう。
「若いうちは、自己資金もないし、銀行も貸してくれない。勤務医としての給料だって、開業医としての実績にはなりませんからね。
その一方、患者さんの立場から見て、どんなクリニックや医療が良いのかについて、僕なりに考えていましたし、アイデアもありました。勘違いもありましたが(笑)。
スタッフにきちんとお給料を払えないような状態では、良い医療なんてできない。けれど、自分がやりたいこと、志がなければ、やはり良い医療はできないと思います」

必要としている人の、必要に応える。人を相手とする職業なら当たり前の志が、今、最も求められているのかもしれない。


 


2003.7.1掲載 (C)LinkStaff


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