クリニックの窓教えて、開業医のホント

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かかりつけ良医でありたい

かとうクリニック

 タイトルに注目して欲しい。かかりつけ"医"ではなく、かかりつけ"良医"である。今回登場して頂く「かとうクリニック」の加藤久晴先生は、このかかりつけ"良医"となるために、学生の頃から励んできた。この一文字の差はいったい何を意味するのであろうか?
■開業準備
 
 加藤院長は近畿大学卒業後、循環器内科教室に入局、大学病院で9年、大阪府南部の中核病院で8年半のキャリアを積んでいる。中核病院では医局長を務めたが、現場の人数の減少で夜勤の回数が増加し、さらに、人事制度改革が導入されようとしていた矢先のことであった。薬剤師として薬局を経営する傍ら開業支援等も行っている父上から、開業を突然依頼されたのである。というのは、父上が扱っていた開業物件に、急遽キャンセルがでたからである。

 「その物件は、もともと外科医の方が開業予定で、医師会の聴聞会まで話が進んでいたところだったのです。大家さんもこのまま医院を開業して頂きたいとおっしゃり、医療器具メーカーなどの方々も後押ししてくださったのです。心機一転ですね。ここまで育ててくれた親への恩返しという気持ちも、多分にありました」
 
 クリニックの所在地は大阪府堺市家原寺町。天王寺と和歌山を結ぶJR阪和線津久野駅から徒歩10分足らず、大阪高石線沿いにある。駅周辺には高層のマンションや公団住宅が立ち並び、クリニックの前には家原大池が静かに水を湛える申し分のない環境である。また地名の由来となった家原寺は、奈良時代、医療活動などの福祉事業に尽力した名僧行基の生誕地として知られる。往診を重要視している加藤院長の姿が行基に重なるようだ。
ところが、3ヵ月半の準備期間は予想以上に大変であった。外科向けの開業物件であったため、間取りの変更に融通が利かなかったのである。特に、壁の移動には相当苦労したという。しかし先生は、「半年や1年という期間があったら、余計なことを考えたり、余計なものを買ったりしたのではないかと思うのですよ。短い期間だったからこそ集中して準備できた気がしますね」と、あっさりとしたコメントを残している。
また、スタッフの募集にはあまり苦労はなかった。というのは、あたかも先生のクリニック開業を待ちわびていたかのように、先生の持つ人脈から良い人材が集まったからである。先生は「人に恵まれたというのはこういうことなのでしょうね。開業して4年経ちますが、まだ誰も退職していないのですよ」と満足そうに言う。



■勤務医経験とクリニック運営のつながり

医師会から外科で開業すると一度認められたならば、科を変えての急な開業は認められない。そのため、いまだ医師会へは加入していない。一見逆境のようであるが、加藤院長には屈託が感じられない。しかし、加入していないからといって、特に問題は起きていないという。

 「市民健診を医師会員の医療機関で受けられた方でも、何か異常があれば私どもで診ています。ただし、健診業務などはどこよりも安くしたりして、利益を上げようと考えてはいけないと思っています。当院で心電図を丁寧に見てあげると、患者さんは非常に喜ばれます。お金がかかっても次は私どもに来てくださるのですよ」

 開業医として多忙な日々を送っているにもかかわらず、勉強会なども積極的に参加している。例えば、週に1回近大付属病院に行ったり、友人の整形外科や外科クリニックの手伝いをしたりしているのである。

 
 その際、外科や整形外科の医師に心電図の読み方などをアドバイスしながら、膝の水を抜く際の手技といった応急処置の仕方を教わったりしています。中核病院時代に救急を担当していたときには、医局長として患者さんとほかの科の調整役を務めていました。それが今、クリニック運営にあたって大変役立っています」

 
■「かかりつけ良医」として

 昨今「かかりつけ医」の存在がクローズアップされているが、加藤院長はこれを「かかりつけ良医」という言葉に変えている。これは、学生時代、お世話になった教授の「名医と言われる医者は何かしら仲間に迷惑をかけているものだ。まず、自分の能力に合わせて、良心的に患者さんの話を何でも聞く良医になりなさい」というアドバイスに起因している。

 そのときにはこの言葉はよく分からなかったが、仕事をして初めてこの言葉が実感として理解できたという。それは、決して難しい言葉を使って患者さんに説明したりしない姿勢に現れているであろう。

 「その患者さんが一番喜んでもらえる治療、その人その人に合った治療をしていきたいと思っています。医者は裁判官ではありません。がんでも治療したくない人はいるのです。そういう患者さんの気持ちを尊重したい、それが名医ではなく良医の努めです」

 開業直後、外来患者数は一日平均30人弱であったが、3ヵ月後には30人を、4ヶ月後には40人を、半年後には60人を越えた。現在では午前に80人から90人、午後には30人前後と、快調に増患している。特に増患対策は行っておらず、現在電柱看板を2本、あとは津久野駅のホームに看板を1枚出している程度である。しかし、クリニックのこれ以上の発展については、少々控えめな姿勢を見せた。

 「もっとも、これ以上の患者さんは診られないですね。患者さんを『さばく』診療だけはしたくないのです。それでは重大な疾病を見逃したりするなど、十分な診療ができるとは思えません。今と同じようなペースでじっくり腰を据えてやりたいと思っています」

 
 病診連携については、堺市内の馬場記念病院と提携し、在宅診療にも力を入れている。週2日は往診の時間を設けている。さらに、患者さんからの電話があれば夜に赴くこともあるという。また、インターネットも駆使し、全国のどのような地域でどのような病気が流行しているのか、この薬はどのようなものかということなどを、患者さんと一緒に確認している。このような活動は、特に若い患者さんの間で好評のようだ。

さて、開業は念頭になかったという加藤院長ではあるが、開業してよかったと実感するのはどのような点であろうか。

 「やはり、患者さんのペースが基本ですが、自分のペースで働けるということです。また、自分の雇いたい人を雇ってそのメンバーと働くことで責任感が強くなったこともあります」
 
 同時に、先生は「ある程度稼いで、従業員に給料を払えたらそれでよいのではないでしょうか」とおおらかに構えている。この余裕は、救命センターに勤務していたとき、一生懸命に働くあまり過労でそのセンターに入院してしまった体験から出てくるものであろうか。ともかくもクリニック経営が順調な今、夢について尋ねた。

 「開業当初は軌道に乗せるのが目標でした。それはクリアーしましたし、患者さんの数については今のペースで十分です。また、理学療法士などのスタッフも充実させないといけません。<夢>については、何を<夢>とするのか悩んでいるところです」


■開業を目指す先生に向けて
 最後に、これから開業を考えていらっしゃる先生にアドバイスをお願いした。先生自身、開業にあたって様々なアドバイスを受けていたそうである。しかしながら、どれ一つとして役に立たなかったと苦笑いした。先生の勤務医時代の経験、クリニック経営を通して得たののが、以下の3点のアドバイスであろうか。

① 患者さんに一生懸命、誠意をみせること
② 手を抜かないこと 
③ 会話の大切さに気付くこと

 先生自身は、特に③を重要視しているようである。それに関して言えば、昨今の社会事情を考えると、特に若手の医師の中には苦手に感じる人も少なくないと思われる。それでは、最後に先生の言葉で締めくくらせてもらおう。

 「医師の中には会話が苦手な人もいます。私は医師相手に苦労していた親を見てきたことが大きいですね。患者さんときちんとコミュニケーションをとって、信頼関係を築いていけるように努めています」
 
 
★加藤院長のタイムスケジュール★勤務医時代
            
★加藤院長のタイムスケジュール★開業後
8:10通勤 通勤時間が短縮されたので、子どもたちとの朝食が楽しみです。
14:00往診 週2回の往診がないときは、週1回近大病院へ。病診連携先の病院へ紹介患者を訪ねる。月2回、和泉市の整形外科へ。月1回、大阪市平野区の外科へ。その他、雑務を行います。
 
★クリニック平面図★
  
 
かとうクリニック
院長 加藤 久晴
住所 〒593-8304
大阪府堺市家原寺町1-13-11
医療設備 内ホルター心電図・ホルター血圧計・エルゴメータ運動負荷心電図・レントゲン
標榜科目 内科・循環器科・リハビリテーション科
延べ床面積 98坪
物件形態 賃貸戸建て
スタッフ数 12名
開業資金 2,500万円
 
 
開業支援・経営支援に関するお問い合わせはこちら
TEL:03-3401-8907(リンク医療総合研究所まで) 
FAX:03-3401-8884
e-mail:ke@linkstaff.co.jp
URL:http://www.linksouken.jp/


(終わり)
 


2004.1.1掲載 (C)LinkStaff


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