クリニックの窓教えて、開業医のホント

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全1800戸のニュータウンで、ホームドクター的な役割を担う

ふじもと小児クリニック




院長 藤本 昌敏氏

少子化傾向が続く今、厚生労働省の実施したアンケートでは、医学生の小児科希望は全体の10%弱との結果が出ている。そのために若い医者が増えずに、病院勤務の小児科医は激務に耐えているのが現状だ。また小児科は薬剤を使う量が少なく、診療に手間も時間もかかるので、採算性の低さから小児科を休診、廃止する病院が増えている。反面、昔以上に親が一人の子どもに手間をかける傾向も見逃せない。今回は、大学病院の勤務医を辞めて開業したふじもと小児クリニックを訪問した。



 ■開業前後

 院長は藤本昌敏氏。1977年に慶應義塾大学を卒業、小児科に入局。82年山梨大学医学部小児科学、その後、米国ジョンスホプキンス大学付属病院小児内分泌科へ留学する。帰国後は91年から04年6月まで聖マリアンナ医科大学小児科で診療、研究、教育に携わる。開業準備は03年3月に始めて、約1年半を費やす。2004年9月3日、横浜市金沢区のニュータウン"レイディアントシティ 横濱 ル・グランブルー"内に「ふじもと小児クリニック」をオープンした。

「52歳となり大学病院にいれば、いずれ定年がやってきます。自分の中で、専門的な勉強はやり遂げた感がありましたから、医師としての後半の人生を『診療・研究・教育』の使命を担う大学病院から、子どもたちの身近で診療を中心に行いたいと考えて開業を決意しました」



クリニック外観


クリニックのある棟

 クリニックは京浜急行金沢文庫駅からバスに乗って、レイディアントシティカルティエ5前で下車。道路の反対側にあるカルティエ6の一階にある。マンション販売会社は、ニュータウン内に建設するビルに医療施設を入れたいと、横浜市医師会に医師の推薦を依頼。横浜医師会の公募に対して、書類審査や面接を経て藤本院長が選ばれたという、レアケースだ。
すでに建設場所が決まっていたマンション内の開業に応募した理由を伺ってみた。

「普通、患者さん個人を診ることができても、患者さんの背景にある環境はあまりよくわからないものです。その分、ニュータウン内のクリニックだと、患者さんの多くがその場所に住んでいるので、どの棟に住んでいて、どういう生活しているかわかりますよね。いわゆるホームドクター的な役割を担えるという点が魅力でした。反面、クリニックと自宅が離れているので、私が年を重ねていったときは通いきれるかという心配もありましたが・・・」

 開業の決定が03年3月で、クリニックの入ったマンション棟の完成は04年8月と、約1年半かかっている。その間、藤本院長は大学病院で多忙な毎日を過ごしながら、内装を決めるだけでも1年ほど検討を重ねたという。患者さん向けの広告は特に行っていない。現在の入居数は約1000戸だが、最終的に1800戸の入居、人口が7000人くらいになりそうなので、宣伝する必要を感じていないからだ。
ホームページを開くと、目に飛び込んでくる病院のロゴマークは、藤本院長のお子さまが幼い頃、父の日に書いたものをデザイン化したものだ。また院内の各設備がカラー写真で紹介されている。優しくて温かい印象のホームページは、ニュータウン以外の場所から来院を考えている患者にとって安心感を与えるものとなっている。
こうして04年9月3日にオープンした。

「街の景観を損ねてはいけないので、クリニックの表看板も小さく、道路に看板を設置することもできません。そのため患者さんは開院当初、マンションの居住者がほとんどで、多少不安がありました。しかし今は口コミでマンションの外からも患者さんが増えてきていますね」

標榜科目は小児科だが、訪れる患者さんはニュータウンならではの特徴があるという。

「この街に住む皆さんにとっては、"あかひげ先生"的な存在なのか、いろいろな患者さんがきますね。通常、手をけがしたとか、腕を骨折したかもしれない場合は、お子さんであっても、外科や整形外科に連れて行くと思います。でもここの皆さんは、"とりあえず、あのクリニックにいこう"という感じですね。院内のプレイコーナーで遊びたいのか、おなかが痛いとやってきて、「どうしたの?」と聞くと「もう治った」なんて話もあります(笑)。家から外のクリニックにいくとなると、着替えて車に乗せてと大変なのでしょうけど、マンションの内なので通りかかったからついでによった、なんてこともありますね。またお父さんが一緒にくるケースも多くて、家族全員の顔が見える、ホームドクターという立場になりつつあります」

 



クリニック入口
 ■クリニックの内容


受付

 クリニックのあるマンション棟・カルティエ6には、ふじもと小児クリニックと内科、そして調剤薬局がある。クリニックの入り口は、一般患者用と、はしか、水ぼうそうなどの感染症患者を診る特診室に直接入れる2カ所。
内装はイエローを基調にして、優しく心が癒させる色使いだ。クリニック内をできるだけ明るくするために、窓面を多くとっている。

 広めにとった待合室には、藤本院長の「家でTVを長時間見ている子どもが多いので、クリニックでもTVをみせるのは望ましくないと思い、あえてTVは置いていません。」という思いから、プレイコーナーにヨーロッパ製の木のおもちゃを中心に揃え、絵本も充実して置かれている。今では、仮病を使ってまで遊びに来る子どもがいるという。
待ち時間短縮のために、携帯電話による順番取り予約システムを採用。診察券を持っていれば、携帯電話から診療順番の予約を受付して順番を確保できる上、どこにいても待ち時間の確認が可能だ。

「最近開業した先生から教えてもらいました。一度携帯電話に登録すれば次回からは簡単に予約でき、混み具合を知ることができます。長時間、子どもを待たせておくのは大変ですし、感染予防の点からもこの予約システムを皆さんに早く認知してもらって、もっと活用してほしいですね」



プレイコーナー

 待合室で待っている間に、風邪などに感染しないように、ロスナイの換気システムを導入して感染予防に配慮。トイレは広々として清潔感が漂っている。駐車場はニュータウン外から訪れる患者さんのために、隣の内科と合わせて9台も確保されている。
さらに藤本院長の心遣いは患者さん向けだけはない。

「クリニックの運営はスタッフの力が大きいですし、ニュータウン内のため、スタッフが休憩時間に外でくつろぐことが難しいので、ゆったり休憩できるスタッフルームを作りました」



処置室

 小児を診察するにあたり、気をつけている点を伺ってみた。

「こちらが構えないで、子供の目線で、時には診察室に置いてあるおもちゃで遊ばせながら診療しています。お母さんには話しやすい環境を心がけ、こちらから一方的に話すことがないようにしていますね。本当はもっとひとりひとりに時間をかけたいのですが・・・時間的に無理なときは、(家が近いですから)お昼休み時間にきてもらえるように頼んだり、外来診察後、こちらから電話をかけたりもしています。」

 小児科医が足りないと言われているが・・・

「小児科医は、年間400人弱増えていますが、女性の先生が多く、10年たつと、その4割近くが結婚、子育てを理由に辞めていきます。そのため小児科医は慢性的に不足しています。そこで女性医師が子育てを終えたら、復帰できるようなシステムが必要であると思っています」

小児救急については、どのようにお考えなのだろうか?

「どこでも大変な状況ですね。昔は内科の先生が診てくださって成り立っていましたが、今はご両親が小児科の専門性を求めてきていますね。『小児科医でないと不安だ』と、小児科医が当直している病院にかけつけてしまいます。小児科医が急に増える可能性はないので、小児救急は将来、センター化する方向になると思います。横浜市は現在、小児救急の拠点が、中区、都筑区、泉区にあるのですが、今後は金沢区にも造る予定で話し合っているそうです」

 少子化社会になって、親が子ども一人にかける思い入れが強くなる傾向にあると思うが、そのあたりはどうなのだろうか?

「そうですね。今、小児科の専門性が問われていると思いますね。次代を担う子どもの健全な育成という意味でも、小児専門医による総合的な医療が求められていると思います」

 勤務医から開業して、プライベートの時間の過ごし方はどう変化したのだろうか?

「9月開院で、夏休みがとれなかったのでゆっくりしたいのですが、なかなか・・・。水曜と日曜が休診ですが、連休ではないので、遠くまで出かけられません。映画をみたり、犬と散歩したりして過ごしています。大学病院のときは、まとまった休みがとりやすかったですが・・・。クリニックが落ち着いたらドライブしたいですね。これから冬に向かって忙しくなるので、しばらくは体を休めるしかないかなと思っています」

開業して2ヶ月が経ち、今後の展望について伺ってみた。

「少子化傾向にある今、お母さんが子育てしやすい環境になるように、診療だけでなく、育児支援にも積極的に取り組んでいきたいと考えています。若いお母さんがひとりで悩まずに、クリニックに来ることで楽しんで子育てができるようになってもらいたいですね。医療的なことは私が担当しますが、育児の問題については専門スタッフを雇って、アドバイスする場所を確保していきたいと思います」



特診室入口
 ■開業に向けてのアドバイス

「病院勤務の若い先生は、勤務環境が厳しい状況におかれていますが、『それなら開業しよう』という現実逃避の理由で、開業してほしくないなと思っています。たとえば大学にいるなら、自分のやりたい勉強をある程度納得いくところまでやってから、違う道を目指しても遅くないと思います。
また小児科を志望する医学生が少なくなって、ますます小児科医が減ってしまう現状は何とかしないといけないでしょう。少子化社会ですが、小児科の専門性が問われる時代なので、ニーズは大変多いです。
開業時期については、私の場合はクリニックビルの引き渡しが8月中旬だったので、9月3日に開院しました。これがもし、11月に開院していたら、風邪やインフルエンザの患者さんが押し寄せて大変なことになったのかもと思います。内科系のクリニックの開業は、冬まである程度、時間に余裕がある時期に行った方が良いと思いますね」




タイムスケジュール
クリニック平面図



ふじもと小児クリニック
院長 藤本 昌敏 氏
住所 〒236-0043
神奈川県横浜市金沢区大川7-6-126
医療設備 自動血球計数CRP測定装置
延べ床面積 約42坪
物件形態 ビル診
スタッフ数 受付2名・看護師1名・看護助手1名
開業資金 社外秘
HP http://www.rcy-quartier6.gc-broad.net/~fujimoto-cc/


(終わり)
2004.12.1掲載 (C)LinkStaff

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