クリニックの窓教えて、開業医のホント

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患者さんと自然に向きあう
―力を抜いた開業スタイル―


たきうら医院

 待合室で待っていたところ、淡いピンクの白衣で先生は現れた。一瞬の緊張の後、「いいよいいよ、上がって」と、驚くほど親しみ易い態度で迎えてくれた。
こちらの心を簡単にほぐしてしまう、大変気さくな滝浦先生が営むたきうら医院は、東京都八王子市内の閑静な住宅街にある。帝京大学が隣接し、子どもから老人まで幅広い患者さんが来院する。今回は、たきうら医院の開業に至る経緯などについて伺った。
    
   
■開業準備
「別に何も大変じゃなかったですよ」

開業の苦労を尋ねると、意外なほど簡潔な答えが返ってきた。
滝浦先生は富山医科大学を卒業し、その後一年ほど大学に残ってから東京に戻った。出向という形で、都内の総合病院や大学病院に勤務した。
開業を考えたのは、父上の営む小児科医院に勤務し始めてからである。週の前半はこの医院で、水曜の夜に移動して、後半は茨城県ひたちなか市の老健施設で診療を行う。そんなハードな生活が二年半ほど続いていたという。収入に不満はなかったが、まとまった休暇がとれず、子どもと過ごす時間もほとんどない。ふと「このまま10年20年と続いてもいいのか」という疑問が湧き上がってきた。父上の診療所を譲り受けるという話もあったが、一向に進展しない。そこで自力での開業を考えたのだが、資金はあまり多くなく、何から始めてよいのかもわからなかった。そのような折、リンク医療総合研究所(Medical Research Institute, Ltd.以下MRIと略)からのダイレクトメールが目に飛び込んだ。「別に開業できなくても、何かの参考になればよいか」という軽い気分で返信したという。
 先生の依頼を受けて、MRIの開業担当者が考慮したのは、いかに出費を抑えて開業するかということであった。この場合、いわゆる「居抜き継承物件」が最適である。この形態では、内装や備え付けの医療機器などをそのまま受け継ぐことが可能となり、結果として、他の開業形態よりも出費を抑えることができる。しかしその形態であっても、開業後の運営資金のことを考えると、資金不足は否めない。また、自己資金を出し切ってしまうことにも不安があった。そこで、開業担当者が問題解決のためにアドバイスをしたところ、その後は、先生の言葉を借りれば「あれよあれよ、という間に話が進んで開業できた」とのことである。
次に、医院の立地。以前この地にあった医院は、地域の患者さんから広い支持を得ていたという。このため、当物件が医院経営に最適なのはどのような診療圏調査よりも明らかであった。また、場所そのものは、先生にとって「自宅から自転車で来られる距離なので、昼食を自宅で食べられる時もある」というほど、好都合であった。
「先生に薦められるのはこの物件しかないと思って、これのみを先生に紹介した」と、担当者は力をこめて語っている。
 結局、先生のお問い合わせが2003年1月、担当者がコンサルティングを開始したのが3月、夏前には物件が決定して10月に開業という早さであった。
月日が経つのは早く、開業してはや3ヶ月が過ぎた。開院した当時を振り返りながら先生は言う。

「それでも開業してよかったですよ。収入について心配することもありましたが、上司からのプレッシャーもない。何よりも、家族との時間が充分持てるようになったのがうれしいです」

また、奥様の助力にも触れておく。奥様は先生が父上の医院に勤務していた頃、その事務を担当していたということもあり、医院経営の知識がある。そのため、開業直前にはただならぬ量の仕事をこなしたとのことである。開業後も先生や他のスタッフと共に、たきうら医院を盛り上げるために励んでいる。
 
 
■クリニック経営




「経営については、どのようになっているのか、正直なところさっぱりわかりませんね」

本院は、リンクの経営支援を積極的に活用している。それについても「奥様の方がご利用しているから、そちらの方がよく知っているよ」と、やはりユーモアを交える。経営支援担当者は、「先生が経営面を気にせず、診療に100パーセント専念できる環境を作るのが私達の仕事ですからね」と、笑う。
先生とスタッフのやり取りは終始にぎやかだ。子どもやその母親達と接する時と同様に、笑みを絶やさない。奥様も含めて5名のスタッフが働くたきうら医院だが、彼女達からも、先生はとても接し易く見えているようである。この様子を見ながらMRI担当者は、「スタッフが抜けないことを第一に、フォローをしています。一般の会社でもそうでしょうが、人の集まりがクリニックを造ります。小規模な組織ならば、より一層一人一人の重みがありますから、なおさら気を遣わなければなりません」と言う。
 人間関係の風通しが良ければ、組織維持も健全になる、ということだろう。

増患対策等はまだ行っていないが、それでも開院当初1日30名程度であった外来患者数は、現在約50名に増えたという。本医院が所在する地域には公団住宅などがあり、今後とも増患が見込めると考えられる。
 
■診療にあたって
 たきうら医院の標榜科目は内科と小児科である。土・日曜日も診療しており、平日多忙な患者さんに配慮しているだけでなく、症状の変化し易い子どもも忘れていない。お話を伺っている最中も、突然小児の急患が訪れた。そのためインタビューを一時中断して、先生は診察を始めた。地域の診療所では、当然このようなことは日常茶飯事である。もっとも、「別に大変じゃないよ」と、こちらも事も無げな返答である。
滝浦先生自身は、もともと消化器内科が専門である。しかし、父上が小児科医であったこともあり、小児アレルギーの症例で有名な病院に6年通って研鑚を積んでいる。子どもと接する時の先生を見ていると、いかにも小児科医らしい温かみに満ちている。
だが、「子どもと接する時に気をつけていることは?」と尋ねても、「別にないよ」と、まるで構えたところがない。「子どもは好き」と語る先生だが、子ども相手だからといって特別に意識することはないようだ。

「ただですね、小児科というのはお母さんのことをよく考えないといけません。お母さんというのは、『どんな先生が出てくるのだろう』と、子ども以上に不安な気持ちで医院を訪れるのです。お母さんに安心して頂かなければ、地元の方の信頼を得ることはできません。地域の人々に対してしっかり接するということが、このような診療所では一番大切なのです。
そのためには、わかり易い言葉で話す必要があります。医者同士の会話ではないのですから、当たり前のように専門用語を出すようでは困ります。人が読めない字を書いて『読めない方が悪い』という態度では、受け入れられるわけがありません。言い方は悪いですが、むしろ『素人言葉』を使った方がいいのですよ」

 こんな「心掛け」も、先生自身、実はほとんど意識していないという。再び無理にお尋ねして、得た回答である。御自身はいたって自然体である。そんな姿勢が、地域の方にも親しまれているのだろう。
平易な言葉で話せるためには、相応の努力も当然必要となる。それが、勉強会や学会等への積極的な参加であろう。

「『知識に貪欲である』ということは大事ですね。技術が大切な外科と違って、内科というのは知識が命です。常に新しい情報を取り入れ、勉強し続けなければなりません。昨日も肺がんの勉強会に出席してきたところです。
例えば、抗生物質などは、耐性菌ができてしまって古いものが有効ではない場合があります。いつも最新の知識を入れておかなければなりません。
開業医は気軽に同僚に相談したりできませんから、そういうプレッシャーに打ち勝つ意味でも、勉強会等に出かけることは大切です。

 
 
■開業を目指す先生に向けて

 最後に、開業を目指す先生にアドバイスを求めた。

「勤務医の先生が開業する時には、つい今まで経験していない経営のことに目が向いてしまいます。そういったことももちろん大切ですが、医師の仕事はあくまで診療です。
ですから、早い段階からあれこれ考えるより、『まずは実力を付けておけ』と言いたいです。クリニックには、色々な患者さんが来られます。頼れるのは自分1人、という状況で対応しなければならないのですから、診断能力を磨いておかなければなりません。『情報に貪欲であれ』というのも、そのようなことです。
また、地域の診療所にとっては『患者さんに知識を提供する』ということも一つの使命です。単に治療ということではなく、ゆっくりとわかり易く病気や症状について説明することが求められます。今は患者さんも情報が豊富ですから、お互いに納得した医療を進める必要がありますからね。この点からも、勉強を怠らず、きちんと本業で力をつけておくことが、とても大切です」

どのような話題でも冗談めかして語るのは、やはり余裕の成せる技である。しかし、地域医療に向き合うその姿勢は、真剣そのものと言わざるをえない。

 
 
★滝浦先生タイムスケジュール★
 
開業前
 
開業後
★水は17:00~21:00の間移動
(茨城県のひたちなか市へ)
★木・金・土は茨城県ひたちなか市の老健施設に勤務
 
★医院は火曜と第2・5日曜と祝日が休み。
★土8:30~17:00まで外来(昼休み無し)
★日8:30~14:00まで外来(昼休み無し)
 
 
 今回の「クリニックの窓」は若干趣向を変えてみましたが、いかがでしたでしょうか?今後も、リンク医療総合研究所で開業をお手伝いさせて頂いたクリニックを紹介する予定です。どうぞよろしくお願い申し上げます。
            
            
            





【大塚帝京大学駅前】

たきうら医院
院長 滝浦 文明
住所 〒192-0352  東京都八王子市大塚224-1
医療設備 レントゲン、心電図
標榜科目 内科・小児科
延べ床面積 30.4坪
物件形態 居抜き継承物件
スタッフ数 5名
開業資金 2,000万円
HP http://www.takiura-clinic.com/
 
 
開業支援・経営支援に関するお問い合わせはこちら
TEL:03-3401-8907(リンク医療総合研究所まで) 
FAX:03-3401-8884
e-mail:ke@linkstaff.co.jp
URL:http://www.linksouken.jp/



(終わり)
2004.2.1掲載 (C)LinkStaff

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リンク医療総合研究所 非常勤で働きながら開業準備