クリニックの窓教えて、開業医のホント

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  「街のお医者さん」でありたい
-「パラシュート開業」スタイル


石田クリニック

「医師になってから、開業を考えたことはなかったのですが」と、院長の石田英文先生は過去を振り返る。開業する予定がなかった先生が、どうして開業したのだろうか?どのような開業をしたのだろうか?
今回の「クリニックの窓」は、競艇場で有名な住之江公園(大阪府大阪市住之江区)にも近い石田クリニックにお邪魔してみた。

    
 ■開業前後


石田先生

 石田先生は神戸大学を1982年に卒業し、同大医学部第一外科に入局、主に近畿圏内に所在する医局の関連病院を中心に勤務してきた。勤務医生活21年の最後の5年は、奈良県の民間病院で院長として過した。要職にあるとはいえ、患者さんからクレーム―当直医や院内スタッフに対してのものが特に多かったという―の対応に追われる毎日。朝礼で当直担当者からの報告を受ける時などは、いつも緊張感を強いられたという。その後理事長を兼務することになり、理事会、銀行や行政との関わりなど、医師としての業務以外のことに多忙を極め、一医師としての充実感が徐々に薄れていった。さらに、神戸市北区の自宅から病院まで車で片道1時間半、その走行距離は150キロを越えており、肉体的な疲労も徐々に蓄積していった。
その後、医療法人の医療に対する考え方と、自身のそれが大幅に異なっていくとともに、患者さんにより密接した医療に携わりたいとの思いが強くなった。そこで、2003年3月に退職を決意したとのことである。このとき医局から関連病院勤務のオファーもあったが、非常勤で勤務しながら開業準備を進めたという。

 開業物件を探すために、「e-doctor」の開業物件ページにアクセスしたのが2003年9月。それと同時に、リンク医療総合研究所(Medical Research Institute, Ltd. 以下、MRIと略)で開業支援を行っていることを知った。


>開業担当者の視点

先生が希望する物件は、近隣に競合物件がないのは当然のこと、自宅に近い大阪・神戸間(以後、阪神間と略)の駅前というものであった。それに沿って診療圏調査を行ったところ、阪神間の駅前で希望条件に合致するところは皆無であることが判明。そこで、大阪市住之江区新北島の物件を紹介した。
その物件はマンションの1階部分で、もともとはスーパーマーケットであった。スーパーの閉店後、半分ほどはコンビニエンスストアになり、残り半分の47坪は空いていた。先生の希望地とはかなり離れた場所であるが、阪神高速湾岸線を使え
ば、自宅からは車で35分の距離である。また、大阪市営ニュートラムの駅から徒歩1分の立地で、「駅前」という希望条件もクリアしていた。何よりも半径500m以内の診療圏には競合物件がないこと、そしてその中には4000人の人口があること、隣の調剤薬局がクリニックの開業を希望していたことなど、好条件が重なった。先生はこの物件に大変満足し、即座に決定したという。
開業担当者は「とにかく、通勤圏内で競合医院がないという物件を探すのが大変でした。でも、なんとかそれをクリアする物件を探せたことで、先生が目指される診療を可能にするお手伝いができたかと思います」とのコメントを残している。

 すぐ上のお兄様が設計事務所を開いていることから、クリニックの設計や施工に関しては何も心配することはなかった。お兄様もクリニックを手がけるのは初めてであったそうだが、弟の提案を広く受け入れてくれたという。
先生は「ホテルのような」という形容にこだわりを持っていたので、内装はベージュ色でまとめられた。また、各地の病院勤務経験から「トイレが狭くて汚いところはイメージが悪い」という印象があり、バリアフリーで車椅子のまま入れる広いトイレも実現した。待合室には間接照明をとり入れたので、柔らかい光が温かみを演出し、医院に来ているという独特の恐怖感を取り除いてくれる。また、リハビリ室には、大学時代に美術のサークルに所属していたという先生が、自ら絵筆を取った油絵が飾られている。

「今は忙しくてなかなか絵を描く時間がありませんが、昔はよく描いていましたね。開業して飾る場所ができて、やっと日の目を見ましたよ(笑)」

 こうして開業したのは2004年2月1日。「e-doctor」にアクセスしてから5ヶ月という短い準備期間であった。開院のお知らせは、新聞各紙への折込広告や内覧会などで行ったという。

 ■クリニック経営

 今回の開業を、院長は「パラシュート開業」と呼ぶ。「パラシュート開業」とは、何らかの地縁や血縁があるところではなく、自身とほとんど関係のない土地で開業することである。
そうなると、地域の医師会との関わりも気になるところである。先生は内科で開業する計画であったところ、医師会から「内科より外科を標榜しては」との話があり、幾度となく話し合いがもたれた。最終的に、日本消化器病学会と消化器内視鏡学会の専門医であるということで了解が得られ、内科・消化器科・リハビリテーション科を標榜することに決めた。

「クリニックの施工現場を見学していたとき、通りすがりの方から『先生、腰が痛いんですが、ここで診てくれるんですか?』とか、『待たずに内視鏡で検査してもらえるんですか?』と、声を掛けられました。標榜科目というものは、医師会に対してでなく、地域の皆さんに対して、クリニックとして提供できるサービスを示すというもので、それが本来のあるべき姿なのだという思いを強くしました」

 また、患者さんから「リハビリは器械だけですか?マッサージもしてもらいたいんです」という要望があり、リハビリのスタッフも確保した。

「マッサージを提供しているクリニックには、ここから500メートルほど歩いて住之江公園の方まで行かなければなりませんでした。マッサージを必要としている患者さんは500メートルも歩けないわけですから、その希望に添う努力をしました。人件費は先行投資ですね。風邪や腹痛になったときに、またお役に立てればと思っています」

    

 このような柔軟な対応も、提案から決定まで稟議が欠かせなかった大病院とは異なり、院長の「胸先三寸」で行える。この点も開業医の魅力だと語る。
その反面、様々な雑務があるのも事実である。その点、先生はMRIの経営支援を受けて、難なくこなしている。スタッフ集めもそのひとつである。まず、看護師、事務を2名ずつ募集する旨の折込広告を出したところ、すぐに充足した。クリニックの場合、夜診の時間に勤務できる看護師を確保することが難しいとよく言われるが、住之江公園や南港東など、近隣に住む看護師から応募が複数あったという。現在、先生と税理士が二人三脚でスタッフの労務管理を行っている。

 外科医としてキャリアを積んできた院長が、自身のスキルを活かすために特化したいのが内視鏡である。大病院のような待ち時間が必要とせず、気軽に受診できるようにしたいという願いから始めた。近隣で内視鏡を導入しているクリニックは少なく、患者さんにも好評である。検査の結果、治療が困難な場合は南大阪病院、住吉市民病院へ紹介するという病診連携の体制も万全である。現在、病院側も紹介率を上げることが至上命題となっており、持ちつ持たれつの良好な関係になっている。

「患者さんの8割が大病院に行かなくてもよい病気なんです。大きな病院に行くということは、優秀な医師がいたとしても、あの待ち時間では一日仕事です。競合のないところを選んだというのも、結局、患者さんをお待たせしたくなかったからなんですね。これからも『街のお医者さん』に徹していきたいと思っています」

 



■開業に向けてのアドバイス

「たしかに、クリニックに必要なのは『広く浅く』の家庭医だと思いますが、自分の専門については十分なスキルと知識が必要ではないしょうか。それがクリニックの『売り』にもなりますしね。
また、自分ができることの中で、患者さんの要望を柔軟に取り入れていくことが重要だと思います。患者さんの立場にたって、どのようなことが自分のクリニックに求められているのか、よく観察して考えていく必要があります。
あと、開業にあたって的確なアドバイスをくれる人が周囲にいたのは心強かったですね。また、兄がクリニックを協力してくれるなど、今までに築いた人脈が役に立ったと思います。」

 
 
★石田先生タイムスケジュール★
 
勤務医時代
開業後
            
            
★クリニック平面図
            
            
            
            
            
石田クリニック
院長 石田 英文
住所 〒559-0024
大阪府大阪市住之江区新北島7-1-53
医療設備 最新透視台、内視鏡(オリンパス)、ウォーターベッド
標榜科目 内科、消化器科、リハビリテーション科
延べ床面積 47坪
物件形態 ビル診
スタッフ数 4名
開業資金 4000万円
 

開業支援・経営支援に関するお問い合わせはこちら
TEL:03-3401-8907(リンク医療総合研究所まで) 
FAX:03-3401-8884
e-mail:ke@linkstaff.co.jp
URL:http://www.linksouken.jp/



(終わり)
 


 2004.5.1掲載 (C)LinkStaff


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