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国際「診」善クリニック ―世界の人々に向けた開業―

赤坂田中クリニック




院長 田中 次郎 氏

東京は港区赤坂。高層ビルが建ち並び、昼間人口が10万人ほどになるオフィス街の代表格だ。日本企業のみならず外資系企業のオフィスが数多く所在し、そこで働く外国人は街の風景に違和感なく馴染んでいる。東京メトロ赤坂見附駅から歩くこと3分、賑やかな通りから少し入ると、今回紹介する赤坂田中クリニックの入るビルが見える。院長の田中次郎先生(48)はペトロの名を持つクリスチャンで、3ヶ国語を理解する「国際派」ドクター。日本人、外国人と区別することなく、鷹揚な物腰とフレンドリーな語り口で接するのが印象深い。無国籍の香り漂うこの界隈にこそふさわしいドクターではないか。



 ■開業前後

「海外滞在中はもちろん、今まで多くの外国人の方々にお世話になりました。診療を通じてその恩返しをすることで、『国際親善』になればよいと思っています」

 先生のお父様は朝霞厚生病院の開設者(現名誉理事長)。さらに親戚にもドクターが多く、医療には大変なじみがあったといえよう。また、高校時代には日本における外国人医療の先駆的存在であるDr.アグゼノフと知り合ってその影響を受けたように、ドクターになるのは自然の成り行きであった。日本大学医学部を1982年に卒業後、慶応大学での研修等を経て都立病院で勤務、1995年には朝霞厚生病院の副院長に就任した。診療に研究に多忙を極める中、「組織が大きいと自分の目指す医療を行うのが難しくなる。自分の特技である語学を生かして開業したい」と考えるようになった。そこで、診療を通じてプライマリケアのスキルを磨きながら、開業準備を始めたのである。ほとんど全てを1人で行わなければならない状況の中で、「開業するからには、土地に根付いて這いつくばってでも頑張らなくては」との思いを強くしたという。

 こうして赤坂田中クリニックを開院したのが、2002年7月のことである。標榜科目は内科・整形外科。クリニックのあるビルが建てられる前は、先生のご実家があった。そのため以前から地域とのつながりはあったが、近隣に5千枚ほどの開院案内を配布し、改めてその存在をアピールした。



赤坂田中クリニックが所在する東海赤坂ビル。
このビルが建てられる前は、先生の実家があった。


このドアを開けると赤坂田中クリニック。ドアの上には通称である
「AKASAKA INTERNATIONAL CLINIC」と書かれている。
 ■クリニックの内容


院長先生およびスタッフ一同

 このクリニック最大の特徴は、英語とスペイン語を自由自在に操る田中先生をはじめとして、フィリピンやブラジル出身の外国人スタッフが、やはり外国人患者のケアをしていることだろう。田中先生が患者やスタッフと英語でやりとりしている姿は日常的で、もはやクリニック内は「小さな外国」といっても過言ではない。

スタッフ募集は老舗の英字新聞や東京の英語タウン誌で行った。彼らは通訳や医療補助として活躍しているが、本国で医療に従事していたスタッフもいるので大変心強い。例えば、日本語が十分でない患者を総合病院に紹介する場合、スタッフが付き添ってその病状や検査内容を的確に通訳することが可能だ。なお、このクリニックでは「マイノリティ」となる日本人スタッフも、米軍基地内の医療施設や医療系NGOで勤務経験があるなど、やはり外国人とのコミュニケーションに躊躇はないようだ。

 スタッフのマネージメントについては、言語面はもちろんのこと、精神面で苦労している言葉は聞かれない。先生は幼い頃に約2年間スペインへ留学していたこともあり、外国文化に慣れ親しんでいるからだろう。しかし、外国人労働者ということで法律的な問題は生じないのだろうか。

「日系人や日系人を妻に持つ人など、日本の在留資格が問題なく取得できる人を選んで採用しています。そのため、就労ビザなどについて問題はありません」

一方、患者の方もバラエティーに富んでいる。その多くは近隣の大使館や外資系の生命保険会社、または証券会社などで働く外国人で、最も多いのがアメリカ人やイギリス人、その次にフィリピン人やメキシコ人、スペイン人などが続く。また、周辺に所在する有名ホテルからの往診依頼―やはり外国人宿泊客が相手である―も少なくない。外国人に対する診療と日本人対するそれは、どのように異なるのだろうか?



机の上に並べられた英語新聞及び英語雑誌
多くの外国人が訪れることをもの語っている。


リハビリ室が存在しないので広々としており、
贅沢な空間の使い方をしている

「やはり、文化などの違いは大きいですね。例えば、中東諸国やパキスタンの患者さんには保守的なイスラム教徒の方が少なくありません。特に女性の場合、注射も部屋の隅で目立たないようにしたり、服の上から聴診器をあてたりと、できるだけ相手の文化的背景を尊重するように心掛けています。

また、1人の患者さんと接する間は30分から1時間ぐらいで、決して短くないです。それは、日本人よりも外国人の患者さんの方が質問をよくするから。結局、それらの質問に対して十分に説明するので、必然的に時間がかかるのです。また、患者さんの国で使われている薬について尋ねられることが多いのも特徴的ですね」

 現在、増患対策としてはビルの入口に置かれている看板のほか、ホームページを開設している程度である。しかし、先生およびスタッフの協力のもとに作成されたこのホームページは、凄いの一言に尽きるだろう。なんと日本語や英語は当然のこと、スペイン語、タガログ語、ポルトガル語にも対応しているのだ。このようなホームページを持っているのは、日本ではこの赤坂田中クリニックのみではないか。なお、先生自身はこのホームページに飽き足ることなく、フランス語の案内も追加したいと意気込んでいる。

 クリニック外での活動も盛んだ。現在、クリニックの院長として診療にあたる傍ら、朝霞厚生病院でも理事長を務め、さらに、慶応大学ではEM-Xについて研究を行っている。このEM-Xとは、EM(下記参照)を米ヌカや海草で発酵処理し、抽出・精製した強力な抗酸化物質(飲料)で、もともとは先生のお父様が熱心に研究を重ねてきた。クリニックの患者さんに直接販売することは特にないが、ホームページを通して、外国からの問い合わせが徐々に増えているという。

EMとは:人体に有用な微生物(=Effective Micro-organisms)
を天然の糖蜜で複合培養した液体で、その技術は琉球大学農学部
教授比嘉照夫博士によって開発された。



EM-X


同フロアの別室に置かれている牽引器。
リハビリ用器械はこれのみと、いたってシンプル。

 外国に留学するドクターも増えている昨今であるが、そのようなドクターが先生のように言語を活かして開業することも、珍しくなくなるかもしれない。それと同時に、外国人がコ・メディカルとして日本人と同じように働く日もそう遠くはないだろう。このような状況の中で、クリニックはどのように発展していくのだろうか。

「ホテルの往診依頼や患者さんの紹介、それと生命保険会社の診査などが、今よりもっと増えるとよいですね。また、中南米の日系人やフィリピン人など特定のコミュニティ内でクリニックの名が広まれば、より多くの方に来ていただけるでしょう。そのための対策は特に考えていませんが、誠実な診療を行えば、おのずから患者さんは集まってくると信じています」

 

 ■開業に向けてのアドバイス

「まず、『重装備』はお薦めしません。例えば、私の専門は放射線診断科ですが、レントゲンすら持っていません。このクリニックの周辺には、MRIやCT等の設備を持つ病院やクリニックが山ほどあるからです。そのようなところにお願いすれば、無駄なコストはかかりません。

また、ドクターが郊外に出て開業する傾向が強まっているようですが、たしかに、都会の真中にあるクリニックにいらっしゃる患者さんは決して多くない。このような状況で生き残るためには、プライマリケアができるのは当然のこと、そのクリニックにしかない"売り"が絶対に必要となるでしょう」




○○○○○○


先生タイムスケジュール


クリニック平面図



赤坂田中クリニック
院長 田中 次郎
住所 〒107-0052
東京都港区赤坂3-16-11 東海赤坂ビル3階
医療設備 心電図、エコー、低周波・マイクロ波治療装置
標榜科目 内科・整形外科
延べ床面積 131.8㎡(約40坪)
スタッフ数 5名(日本人2、フィリピン人2、ブラジル人1)
開業資金 約5000万円
HP http://www.e-doctor.ne.jp/aic/index.htm


開業支援・経営支援に関するお問い合わせはこちら
TEL:03-3401-8907(リンク医療総合研究所まで) FAX:03-3401-8884
e-mail:ke@linkstaff.co.jp URL:http://www.linksouken.jp/
(終わり)
2004.06.1掲載 (C)LinkStaff

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