クリニックの窓教えて、開業医のホント

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独自の診療スタイルで「元気の出る外来」を作る

医療法人社団 健人会 横倉クリニック
    
    



院長 横倉 恒雄 氏

体に良い食物や体操などが、雑誌やテレビで数限りなく紹介される昨今。長者番付では健康食品メーカーの社長が上位に入るなど、現代社会に生きる人々は健康について常に関心を払い続けているようだ。しかし、このような状況を見て、「世の中で行われているのは『健康教育』でなく、『健康脅迫』ですよ。だいたい、健康に良いから運動をするとして、それを一生続けられると思いますか。できないですよね。結局、運動できないことがストレスになってしまう」と言い切る横倉恒雄氏(57)。氏が院長を務める「横倉クリニック」は、独自の診療スタイルとインテリアで、訪れる患者を驚かせてやまない。


 ■開業前後

 横倉氏は日本大学を1971年に卒業、その後慶應大学に入局している。1977年、脳下垂体ホルモンに関する研究で学位を取得した後、東京都済生会中央病院に勤務し始めた。
充実した勤務医生活を送っていたが、患者と向き合ううちに、「薬や処置などで症状は良くなっても、患者さんは元気に、健康になれるのだろうか。そもそも健康とは何だろうか」という疑問を持つようになった。色々と考えた結果、健康とは「人間の持つ五感、すなわち、脳の本来持つ機能が正常に働いている状態である」とし、ストレスがその働きを妨げているとの結論に至る。そこで、できるだけストレスを小さくして脳が正常に働くようにすれば、人は「健康」になれるのではないかと思いついた。
1990年、この考えを実践するために、済生会中央病院内で日本初の「健康外来」を開設する。同外来で、氏は病状を診るだけでなく、その生活や行動、精神面などにも注意を払って、「健康」となれるようにアドバイスした。同じような考えを九州大学教授の藤野武彦氏が実践していることを知って、交流を始めたのもこの頃だ。



クリニックの入り口。
待合室は右奥に広がっている。


クリニック周辺の風景。
應義塾大学の東門が近い。

 しかし、当時は年間12人という少ない外来患者数、また「認めてくれたのは、当時の済生会中央病院院長と聖路加国際病院院長の日野原重明先生、藤野教授の3名だけ」という斬新的な外来であったため、難色を示す医師も少なくなかった。そこで、周囲に自らの考えを知らせることに労力を使うならば、それを全部患者に注ぎたいと開業を決意した。
オープンまでの期間は半年。物件探しから資金調達まで、「自分のしたいことができると思うと、開業準備が楽しくてしかたがなかった」という。青山など様々な物件をあたったが、結局、済生会中央病院に近い現在地を選んだ。設計は、クリニックを手がけるのは初めてだったという横倉氏の高校時代の友人が担当。「今までにないクリニックを開きたい」という氏の希望にそって、この横倉クリニックを作り上げた。

 こうして1998年9月にオープン、開院当初は多くの人が訪ねてきた。しかし半年後、経営状態が危機に陥る。知人のアドバイスに従って人件費を見直したり、賃貸料を改定してもらったりして乗り越えたが、ちょうどその頃、テレビで横倉クリニックが紹介された。それがきっかけで、患者が押し寄せてきたのである。ホームページについては「見て欲しくない人が見るかも知れない」と迷ったが、開業から2年後に開設した。以来、ホームページを見て、遠くから訪ねてくる患者も少なくない。






毎日更新されている「院長の独り言」(上)。「院長の独り言」のバックナンバー。黒い表紙は「患者の独り言」ノート(下)。

 標榜科目が婦人科・内科のため、患者の男女比は7対3程度。下は摂食障害に悩む中学生から、上は90才ぐらいの婦人まで。ビジネス街の中心にあるため、キャリアウーマンも少なくない。彼女たちの多くが目指すのは、「肥満治療外来」と「アロマ外来」(完全予約制)だ。「肥満治療外来」は、藤野氏が開発した「BOOCS法」をもとに行われ、成功率97.7パーセントを謳っている。また、月に数回開かれている「アロマ外来」も大人気だ。

「五感を刺激して脳を活発化する『五感療法』の一環です。好きな香りは脳を元気にし、脳は体を元気にしてくれますからね」

なお、この外来は単なる癒しや治療ではない。「生きること」をテーマとして活動する、地球レベルの環境NGOと関係があるという。
その他、成功率98パーセントを誇る「楽々禁煙外来」もある。こちらの患者は、会社で肩身の狭い思いをしている愛煙家の男性がほとんどである。


BOOCS法とは:2万人のデータから確立された肥満治療法。ストレスに起因する「脳疲労」が五感の働きを異常にすることを肥満の原因とし、それを解消することによって肥満治療を行う。

 


 ■クリニックの内容




広々とした待合室。 犬のぬいぐるみは氏の自宅にあったもの。

 「この待合室で元気になってもらえば、お金はいりませんよ。カウンセリング室に入ればお金がかりますが」

一見すると、都市のクリニックにありがちなホテルのサロンのような待合室だ。しかし、都内のクリニックの中でも有数の広さというこの待合室は、氏によって徹底的に計算し尽くされている空間でもある。

 たいていの場合、クリニックのドアを開くと待合室が広がり、受付カウンターが見える。しかしこのクリニックは違う。クローゼットと「院長の独り言」が書かれたボードがあるのみ。このような配置は、先生の「待っている方に見られて支払いをしたいですか?それだけでストレスになりますよ」という発想からだ。
およそストレスを与えそうなものは、患者の目に付かないように工夫されている。例えば、受付のカウンターはホテルのそれと同じ高さで、内側は見えない。氏曰く「日本で1番美味しい水を出す」ウォータークーラーも、壁に隠されている。唯一不似合いなのがBOOCS法の解説を流すテレビだが、「情報は脳にストレスを与えるので嫌だったんですけれども、やむを得ず…」と、先生は笑う。
窓枠に置かれた特注の小さなスピーカーは、ハワイアンなどを流してサウンドセラピーを行う。ソファの横にあるテーブルでは、ボランティアのアロマセラピストが「アロマ外来」(完全予約制)を、氏と同じく月に数回開いている。


 
壁に隠れて見えないウォータークーラー


アロマ外来・教室で用いられているオイルは、肌に塗れるほど良質なものである。

 3畳ほどの診察室も氏のアイデアが駆使されている。やはり特注だという緩いカーブをえがいた白い机の上には、パソコンの画面だけが置かれている。氏はこのテーブルを挟んで患者と真正面から向き合い、カルテを書くために横を向くことはない。患者さんとの距離も、リラックスできるように計算されている。たいていのクリニックでは当たり前のカルテ類も、袖机の中に隠されて患者の目には付かない。時計さえも患者の視界に入らないように置かれており、時間を気にすることなく氏と向き合うことができる。

マスコミに取り上げられるなどして有名になったこのクリニック。今後はどのように発展するのだろうか。

「今後は、健康外来をもっと充実させたいですね。具体的には、BOOCSなどに理解のある医師と一緒に、医療にあまり頼らないで、人を生き生きとさせるような新しい外来を作りたいと思っています」

 


■開業に向けてのアドバイス
 

「私は『患者さんを元気にする外来』を作りたくて、開業しました。自分でそう考えて開いたクリニックなので、患者さんと向き合っていて疲れることはないです。だって、患者さんからエネルギーをもらっているぐらいですから。 要は、『自分がやりたいことのできる外来』をつくることです。そのためには、どんな科目でも自分を信じて頑張り、独自の診療スタイルを見つけることではないでしょうか」

 

先生タイムスケジュール
 
クリニック平面図
 

医療法人社団 健人会 横倉クリニック
院長 横倉 恒雄
住所 〒108-0014 東京都港区芝5-13-13
サダカタビル3F
医療設備 内診台・エコー・ベッド
標榜科目 婦人科・内科
延べ床面積 約40坪
物件形態 ビル診
スタッフ数 3名(10名のボランティアスタッフ)
開業資金 4,000万円
HP http://www.kenkogairai.com/

(終わり)
2004.8.1掲載 (C)LinkStaff

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