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駅前ショッピングモール内に開業

いしい内科クリニック




院長  石井 伴房 氏

 大阪府堺市南部から和泉市にかけて広がる泉北ニュータウンは昭和40年代に開発された住宅街で約15万人が生活している。ニュータウンの中心を泉北高速鉄道が縦断し、難波まで約30分のアクセスである。

 ニュータウンの完成とともに医療センターも整備され、多くの医院やクリニックが開業したが、その初代院長たちも60代から70代となり閉院するところも見られるなど「世代交代」の時期にさしかかってきた。

 今月ご紹介する「いしい内科クリニック」の石井伴房院長はそういった時代の波に乗り、このニュータウンに開業した好例といえよう。 場所は泉北高速鉄道光明池駅前の「コムボックス光明池」(和泉市室堂町)というショッピングモール1Fである。このモールは昨年4月にオープンし、その後7月1日に「いしい内科クリニック」も開業した。



 ■開業前後

 石井院長は1956年に大阪府堺市で生まれ、徳島大学に学んだ。卒業後は大阪市立大学第二内科教室に入局する。この選択について「やはり大阪に戻りたいという思いがありました。それに当時の徳島では、本ひとつ買うにも労力が必要で・・新聞の書評を読んで購入してみたいという本があっても、書店に行くと売られていなかったり(笑)」と振り返る。当時、知り合いの先生に第二内科を紹介してもらって入局の運びとなった。

 第二内科教室では糖尿病が専攻となる。石井院長は大阪市立大学附属病院、大阪掖済会病院、白鷺病院に勤務した。その後、大阪府立身体障害者センターに6年間、統合した大阪市立総合医療センター内科に10年勤めた。総合医療センターでは臨床スポーツ医学科部長・代謝内分泌内科副部長・医療情報部副部長という要職に就き、多忙な日々を過ごした。

今から4年ほど前のある日、医局のデスクの上にリンクスタッフからの挨拶状が置いてあり、見ると新規開業の案内である。石井院長は、すぐにエントリーカードに記入し、物件の紹介を待つことになった。

「総合医療センターは大阪市の管轄ですから60歳で定年となります。今は70歳でも完全にリタイアしてしまうには早い年齢でしょう。まだまだ元気に働ける60歳で、仕事を辞める気はありませんでした。かといって60歳を過ぎてからも勤務医として働くとなると、非常勤でしか働けないケースがほとんどです。非常勤だと経済的にも安定しない。こういうことから開業への決心がつきました。」

 




クリニック受付



クリニック待合室

 その後、総合医療センター医療情報部で、院内のコンピューターシステムを更新する業務が始まった。その業務には2年ほどの期間を要するということでしばらくはリンクスタッフからの物件紹介を見合わせていた。

一昨年3月にシステム更新も無事終了した。そして11月にリンクスタッフから現在地の物件が提示された。総合医療センターは大阪市都島区にあり、石井院長は自動車で通勤されていたが、ご自宅がある堺市から朝の混雑時には1時間30分ほどの通勤時間がかかっていた。それで開業地は堺市か和泉市というご自宅の周辺を希望していたところ、その物件はご自宅と同じ最寄駅の光明池駅前で、駅から徒歩5分足らず、かつご自宅からも自転車で5分もかからず、しかも新築のショッピングモールの中ということで即決されたという。

「光明池にはもう10年以上も住んでいて、土地勘もありましたし、人の流れも分かっていましたからね。こういう住宅街では人の流れが全て駅に向かっているわけですから駅前という立地条件は非常にありがたかったです。また、このニュータウンに最初からある医院やクリニックの先生たちも高齢となられ、私のところへも患者さんが集まりやすいかなと思いました。」

 設計にあたっては「よりシンプルに」を心がけたという。

「クリニックですから、きれいなことばかりではありません。汚いと思われることもあるわけです。そういう汚いことも設計によって汚くないように見せることができるわけですから、そういう面を重視しました。汚いクリニックには患者さんは来たがらないでしょう。」

スタッフ集めはリンクスタッフの開業支援サービスを利用した。新聞の折込広告内に募集告知を出したところ、200通を超える応募があった。駅前、新築というのがスタッフ側にも魅力に思えたようだ。書類で看護師8人、受付6人を選考し、面接を行った。

「面接では今の若い子のような喋り方をしない、しっかりと、きっちりと話すことができることを重要視しました。」
その結果、看護師3人、受付2人の採用が決定した。
勤務と並行しての開業準備は大変だったと振り返る。様々な書類を公的機関に提出するなど、全ての準備が石井院長にとって初めてのことである。さらに石井院長には「院内処方」というこだわりがあった。

「風邪で来院した人ってしんどいでしょう。そういう人に調剤薬局まで行ってもらうのは大変ですから。それからジェネリック薬品を使っていきたいと思いましたし。」
確かに国全体の医療費には限界がある。その限られたパイの中で医療費を抑制していくためのジェネリック薬品の使用には納得できる。
「院外処方だと患者さんの支払い額まではなかなか知ることができません。そうするとつい先発薬を使いがちになります。製薬会社だけが儲かる先発薬の使用を考えるよりは、みんなに等しく広くいい医療を提供していくことが重要だと考えています。」
結果的に薬品の選定にも追われたが、改めて「開業すること」の重みをかみしめて開業の日を待つこととなった。

 ■クリニックの内容

 ショッピングモール内の施設なので、外来の開始時刻はショッピングモールの開店時刻である朝10時に合わせる必要があったが、そのほか特にショッピングモール側から要請されたことはないという。

開業後一ヶ月は平均外来患者数が5人ほどで、現在は20人強であるが、この数字は石井院長にとっては「予想通り」だったという。増患対策としては光明池駅のホームや、駅前の大型マンションから駅に向かう通路に看板を出し、電柱広告を4本出している。 この電柱広告もマンション群から駅への通り道に設置した。市場調査によると、一日平均の内科への需要は500メートル圏内で60人、1キロメートル圏内だと150人ほどであるという。今後はホームページを作成し、さらなる増患に期待するところだ。

和泉市では40歳以上の市民には無料で市民検診を行っている。これは内科の開業医にとって非常に魅力的なシステムとなっている。この市民検診の案内を配布し、そのまま来院につなげていくのが理想であろう。

ショッピングモールの掲示板を自由に使用することができるのも強みである。この冬もインフルエンザの予防接種を告知したところ、瞬く間に予約が入り、用意していたワクチンが全てなくなったという。今後もこの告知スペースを有効活用していきたい。

石井院長は糖尿病の専門医でもあり「糖尿病の治療では、このあたりのどこにも負けません」と言い切る。



クリニック入口

処置室

 また病診連携に関しては、堺市の大阪労災病院と密な連携を保っている。大阪労災病院には医局の先輩が何人か勤務されていることから、連携を依頼したそうだが「非常に良い結果になった」と言う。外来の予約もファクシミリ1枚で行うことができ、その結果も15分足らずで返ってくる。患者さんも待ち時間が短縮されて満足しているようだ。大阪労災病院自体も地域の開業医との連携を重視し、地域医療連絡室を設置している。もし紹介患者の返事が来なければ、その連絡室に連絡を取って確認してもらうことができる。

このほど、院内検査もオープンシステムとなり、MRIやCTの検査も「いしい内科クリニック」からファクシミリで予約可能となった。

救急では、和泉市の咲花病院と連携して、患者さんを紹介している。咲花病院は泉北高速鉄道で1駅隣りの和泉中央にあり、近隣ということもあって患者さんのご家族にも好評のようである。

院内の医療機器も、レントゲン、エコーに加え、ホルター心電図を備えた。これにより30分程度で解析可能となり、患者さんもその間、ショッピングモールに出かけることができるなど「顧客満足」につながっている。また血球計測器、CRP測定器では「疾患の緊急性」を即座に調べることができる。

 診察、治療に関しては、長年のキャリアを生かし、満を持して開業した石井院長であるが、電子カルテの入力にはややとまどいがあったという。ドクターにとってはやはり紙カルテの方が扱いやすく便利なのは否めない。しかし、電子カルテだと受付事務のスタッフや看護師が楽である面が非常に大きい。レセプト業務も省力化でき、いわゆる医療事務に精通していないスタッフを雇用したとしても対処可能となる。結果的に未経験者でも雇用することができ人件費の抑制につながる側面もあるというわけだ。

最後に石井院長に理念をお聞きした。それは大阪市立大学第二内科教室の恩師に教えられた言葉であるという。

「<病気を診るのではなく、人を診る>という言葉を教えられました。特に内科では一番重要であると思います。これを医師の原点として常に患者さんに接していきたいですね。」

 ■開業に向けてのアドバイス

 開業する日からさかのぼって1ヶ月はとても多忙になります。その期間は完全に仕事からは離れておいたほうがいいですね。

そして開業してからですが、勤務していた病院から200人の患者さんを連れてきたとしても、診察日が月に25日で、1日8人、午前午後で4人ずつという計算になります。勤務医時代の外来のイメージを持ったままだと不安になることでしょう。しかし、私の周りで開業して経営が行き詰ってしまった人を見たことはありません。患者数は開業後3年も経てば安定してきますから、真面目に地道にきっちりと仕事をすればよいと思います。増患だけでなく、開業そのものに対しても心配しなくて大丈夫です。




タイムスケジュール
クリニック平面図



いしい内科クリニック
院長 石井 伴房 氏
住所 〒594-1101
大阪府和泉市室堂町824-36コムボックス光明池1F
医療設備 レントゲン、エコー、ホルター心電図、血球計測器、
CRP測定器
延べ床面積 132.13㎡
標榜科目 内科
スタッフ数 看護師3人、受付2人、薬剤師1人
開業資金 約6000万円
HP 計画中


(終わり)
2005.1.1掲載 (C)LinkStaff

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