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医療とともに 地域の「交流ステーション」を

みょうばんクリニック



院長 本田 昇司 氏

 最近、特色ある診療や検査を打ち出した大規模なクリニックが増えている。そういったクリニックの開設に当たっては、当然、必要資金も高額になり、通常の個人クリニック開設とは異なる資金調達の努力が必要となる。例えばクリニックの理念をアピールし、出資者を確保するケースが挙げられるだろう。今回ご紹介する「みょうばんクリニック」はそういったケースに該当する。

みょうばんクリニックは2005年2月、農協共済・別府リハビリテーションセンターの隣接地に開院した。「医療を通じた交流ステーション」を目指し、患者本位の医療サービス提供を志している。
2005年7月から、別府リハビリテーションセンターのセンター長である本田昇司氏(55)が院長を兼任、住民への施設の開放など、地域交流を積極的にすすめている。
「身障者も住民も楽しめる、地域の交流センターとして、『みょうばんクリニック』が役に立てば」と願いを語る。
本田院長は1977年、長崎大医学部卒。専門は消化系内科。県西部浜松医療センター(静岡県)、長崎大学第二内科、国立嬉野病院(現・独立行政法人 国立病院機構 嬉野医療センター)などでの勤務後、1986年大分医科大学(現・大分大学医学部)第2内科に助手として赴任。その後、大分大学保健管理センター助教授を経て、法務省法務技官を務める(法務技官とは、法務省の所轄施設で勤務する、様々な分野の技術職員のこと)。医務官として招かれた本田氏は、大分刑務所・大分少年院で約9年間勤めた。
2001年4月に退官し、別府リハビリセンター(みょうばんクリニックの母体)・センター長に就任した。



 ■ 開業前後

 別府リハビリテーションセンターのセンター長として、本田院長は病床の不足に悩み続けていた。当地区は病院数が多く、増床の許可を得るには絶望的な状況であった。
それでも本田院長はあきらめることなく、何度も行政側に足を運び、増床の認可を求め続けてきた。しかし残念ながら、「保健医療圏内のベッド数がオーバーしている状態で、増床の許可は出せない」という行政のスタンスは変わることがなかったのである。
リハビリセンターでの増床はどうやっても許可が下りないと判断した本田院長は、センターと国道を隔てた隣接地に新しく患者の受け皿を作る方向へと戦略転換した。
「ベッド数が増やせないのは仕方がない。かといって、
30人、40人の患者さんに入院待ちをさせてしまっている状況は放っておけなかった。ここは新たにクリニックで増床することで、一人でも多くの患者さんを受け入れたかったのです」

新たなクリニック設立の意義はそれだけではない。リハビリセンターと相互補完が可能な診療所ができれば、地域住民にとって最高の「かかりつけ医」を提供することができる。本田院長以下、職員は奮い立った。
しかしクリニックの開設への道は遠かった。資金についてはJA共済の出資に頼る以外に方法はなく、共済担当者との交渉が連日連夜おこなわれ、結論の出ない日々が続いた。



ベッドは 関係者の努力の結晶


クリニック 外観
緑が自慢だが、増患には課題も


「JA共済を納得させられる実効性あるプランを、さらに練りこむ必要がある」
本田院長らは、高齢者や障害者の世話をする家族の悩みを徹底的にリサーチした。彼らのためにできること。介護指導や助言、介護用品の紹介、公的サービス申請手続の代行、各種情報提供やその利用方法、、、家族をバックアップする体制のあり方が見えてきた。障害者が地域に溶け込むためのサポートも含め、より良いQOLが得られるサービスプランを提案。
そして2003年春、地域貢献への熱意がついにJA共済を動かし、クリニック設立資金として9億円が出資される。
こうして「みょうばんクリニック」が誕生した。別府リハビリセンター職員の熱意が、困難な状況から道を開いたのである。本田氏は2005年7月から、センター長との兼任で同クリニック院長も勤め、地域の医療・福祉の増進に情熱を燃やしている。

■ 運営上の課題と対応策

 ハード面では非常に恵まれたスタートを切ることができたが、ソフト面では人手不足が未だに悩みの種だという。スタッフは院長に加え看護師が7人、事務員が2人の計10人。とくにドクターの確保には苦労しており、母体であるリハビリセンターからスタッフを回してのやり繰りが続いている。
本田院長自身も、リハビリセンター長との兼任で負担が大きいが、「安心して任せられる、しっかりした後任の人が見つかるまでは、私が責任を果たしたい」と話す。
外来の患者が増えないことも、大きな悩みの一つだ。1ヶ月の外来患者は開院当初の80人から240~250人ほどに増えてはいるものの、まだまだ不十分である。本田院長にとっての最大の誤算は、設立時の手違いで外来のリハビリができなくなったことであった。
「通所リハビリのリハ室で、入院患者さんのリハビリもできるという設計をしました。介護保険はOKを出していたんです。ところが医療保険のほうが認めてくれなくて、結局、今は外来のリハビリができない状況なんですよ」
理由はスペースの「仕切り」がなかったことである。医療保険の適用基準のひとつに、「医療保険適用の医療スペースと、介護保険適用のスペースを共有しないこと」がある。
両者の間に仕切りがなかったことが「スペースの共有」とみなされ、医療保険の認可が下りなかったのである。
立地条件もまた、外来患者の伸び悩みに影響する。別府市は大分県第二の都市(人口12万)ではあるが、明礬(みょうばん)地区は市街地から遠く北西に離れた高台に位置する。市の中心部から患者を呼び込むうえで、不利であるのは否めない。



グラウンドゴルフ場 鮮やかな芝生が映える


喫茶 「もみじ」
シックな雰囲気と 「だんご汁」が人気

 当面の目標は、1日あたり40名の外来患者の獲得である。本田院長は先を見据え、着実に増患対策を練っている。
患者を呼び込むうえでの最優先課題は、外来リハビリができるようにすることだ
。上記の医療保険の認可基準をクリアするため、すでに一般診療と介護のスペースの完全分離に着手しており、来年の4月には外来リハビリ室が開設される見通しである。また専門外来の充実もすすめており、曜日を決めて循環器科・神経内科を開設、外部から専門医を招いている。
広く住民を呼び込むための環境作りもすすめている。
診療所に併設されている「地域交流センター」では、足湯が楽しめ、気軽に足を運んでもらえるように無料開放している。疲労回復、皮膚病などに効果的といわれる地元の名湯・明礬(みょうばん)温泉を源泉としており、住民の「いこいの場」としてはこの上ない施設だ。
天然芝のグラウンドゴルフ場は8つのコースを設けており、初心者でも気軽に楽しめるようクラブの貸し出しもしている。シックで落ち着いた雰囲気の 喫茶「もみじ」は地元の人々に好評で、郷土料理・だんご汁(300円) は舌がとろけるほどの旨さだ。

 地域のあたたかい交流ステーションとして、クリニックのハード面は整っている。母体のリハビリセンターとはまた一味違う、ほのぼのしたアットホームな雰囲気が来訪者を包む。
「別府市内はもちろん、周辺住民のみなさんにも、『みょうばんクリニック』の存在をご存知ない方がたくさんいらっしゃる。患者さんや地域の皆さんのため、必ずお役に立てるクリニックだと確信しているので、皆さんに来ていただけるようにアピールをしていきたい」
本田院長はイベント・公開講座・ホームページなどを通じて、地域に奉仕し、地域に愛されるクリニックとしての存在をさらに.高めていく構えだ。



受 付
 ■ クリニックの内容

 診察科目は内科・消化器科・循環器科・神経内科・リハビリテーション科。ベッドは19床である。
施設は「診療所」と「地域交流センター」からなり、別府リハビリセンターと隣接して建てられたことで、同センターとの連絡・連携が可能なのも大きな強みだ。医療設備はX線撮影装置(一般撮影)、内視鏡、心電図、超音波と充実している。
 高度な機器によるハイテク医療もさることながら、本田院長は患者の病へ科学的にメスを入れるだけでは満足しない。
中学3年の時、ネフローゼを発症した本田院長は病院漬けの高校生活を送り、病と闘う子供たちと入院生活を共にした。彼らは外で元気に駆け回る同世代の子供たちを、病院のベランダから寂しそうに眺めていた。
そんな子供たちの姿を見て、医学を志した本田院長。心を癒す環境としてのクリニックの役目を、何よりも大切にしている。




自慢のフル設備


ロビー
光あふれる空間が人々を包む

 患者の心のケアを重視する姿勢は、内装へのこだわりにも現れている。
「全体の設計として、とにかく明るいイメージで患者さんを包んであげる、そんなクリニックにしたかったんですよ」
19床のうち、3人部屋が2室、残りは個室となっている。窓からの朝日を浴びられるように全室が造られており、テラスから一望できる別府湾はまさに絶景である。
また、患者が退院しても、みょうばんクリニックの医療は終わらない。社会復帰した患者へのアフターフォローにも万全を期しており、居宅介護支援事業で計画的な福祉サービスの利用をサポートしている。また、障害者生活支援センターでは、在宅生活への支援はもちろん、福祉制度の申請代行やレクリエーション企画、地域住民向けの公開講座など、多彩な中身が用意されている。
患者への生涯にわたるケアを通じて、地域における在宅障害者の交流拠点を確立するのがクリニックの根本理念であり、自身の入院体験から医師を志した本田院長の願いでもある。



 ■ 開業に向けてのアドバイス

 本田院長は開業をめざす医師に対し、熱意は大いに評価するが、厳しい現実も直視した上で踏み切ってほしいと話す。
「我々はJAが出資してくれているので借金はないんですが、借金があると大変です。開院してから困らないように、事前の見通しをしっかり立ててほしい。
何よりも、開業する地域にどんな医療ニーズがあるかをしっかり調査した上で、それに応じた病院の体制を考えるべきでしょう」

 また、入院患者を受け入れる場合の責任の重さも、十分覚悟しておくべきだという。
「例えば、私が『みょうばんクリニック』の院長をしてくれる人を探していても、『入院患者がいなければ引き受けても良い』という人はいるんです。
つまり、入院患者を抱えるというのはそれだけ大変なこと。24時間・365日拘束されて、いつ呼び出しがかかるかわからない。私自身、今の身分ではもう、お酒も飲めないですから(笑)」





先生タイムスケジュール

「外に出るときはゴルフとか。それでもコースに出る機会はあまりなくて、年間10回ほどでしょうか。医師会のコンペとJAグループのコンペぐらいですね」
健康法という意味では、ゴルフよりも週に一度の水泳だという。
「今年の4月からスクールに通っています。55歳になって、はじめて泳げるようになったんですよ(笑)」
スポーツが趣味の本田院長、休日もさぞアクティブに体を動かしているかと思ったが、
「休みの日はほとんど家でゴロゴロしてますね」
家族は妻に子供が3人。長男は医学部に在学中で、父の歩んだ道に続いている。


クリニック平面図

1F (拡大図)                         2F (拡大図)




みょうばんクリニック
院長 本田 昇司 氏
住所 〒874-0843
大分県別府市明礬5組の2
医療設備 X線撮影装置(一般撮影)、内視鏡、心電図、超音波
延べ床面積 2467.95 ㎡
物件形態 ビル 地上2階
スタッフ数 院長、看護師7人、事務員2人
開業資金 9億円
HP http://www.brc.or.jp/clinic3/clin-index.htm

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(終わり)
2005.1.1掲載 (C)LinkStaff

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