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充実した設備と年中無休で新しい地域医療を

南谷クリニック
 



南谷 直人 院長

大阪府豊中市は大阪市の北隣りに位置し、人口約40万人の都市である。市内には約360軒の医院、クリニックがあるが、日曜診療を行う初めてのクリニックが1995年に誕生した。この南谷クリニックは大学病院にも引けをとらない充実した検査機器を持ち、1日平均300人以上の外来患者を数えている。
今回は南谷クリニックの南谷直人院長にお話を伺った。

南谷院長は1950年、鹿児島県阿久根市出身で、1977年神戸大学医学部を卒業後、神戸大学医学部第三内科に入局した。神経内分泌を専門とし、1984年から3年間、米国ボストンのタフツ大学医学部内分泌教室に留学する。
帰国後、北兵庫内科整形外科センター内科医長、神戸大学医学部第三内科助手、非常勤講師、小西病院(大阪府豊中市)内科部長を経て、1995年に豊中市岡町北に南谷クリニックを開設した。1997年には医療法人 南谷継風会に組織変更して、理事長、南谷クリニック院長に就任する。その年には兵庫県伊丹市に伊丹分院も開設した。また2006年に豊中市小路に新分院を開業予定である。

 
 ■ 開業前後

 南谷院長は小学1年生のときに腕を骨折し、「痛みから解放してくれた」事をきっかけに、医師を志すようになったという。また大学受験前に腹膜炎を誤診されるという辛い思い出もあり、自身のそういう患者体験がその後の医師生活を支えるものとなっている。
神戸大学在学中は、頭と身体を結ぶ領域である心療内科を専攻したかったが、当時の神戸大学には心療内科教室はなく、九州大学に最先端の研究を見学に行くなどしたが、結局神戸大学第三内科で神経内分泌の研究を行うことになった。
南谷院長は言う。
「当時の教授は井村先生でしたが、私の卒業と同時に藤田先生に代わられました。研究を通して、概念的な心理療法より物質で現実を裏付けられる神経内分泌の面白さを学びました」
その後、大学院でも研究を進め、タフツ大学への留学を経験した。1987年に帰国し、88年には出身の第三内科で助手となった。そこに転機が訪れた。

「外来、病棟、研修医指導などの本来の業務に加え、中間管理職的な雑務に追われるようになったのです。とても研究に没頭できる態勢ではなくなりました。また、ちょうどその頃、父が亡くなりました。父は会社を経営していたため、従業員の方や営業権の問題など整理していかなくてはいけなかったのです。それで、事態の脱却を図ろうと開業に踏み切ることにしました。京都府立医大で整形外科を専攻していた弟(南谷哲司先生)も副院長として手伝ってくれることになりました」
そこから複数のコンサルタントに相談しながら、立地の選定が始まった。候補地は阪急宝塚線の岡町駅から徒歩2分の場所であるが、当時岡町駅はまだ高架になっておらず、「開かずの踏切」があるなど、あまり良い印象はなかったそうだ。しかし市場調査の結果は良好だったので、現在地に決定した。
南谷院長がこだわったのは「自分が患者だったら、どうしてほしいのか」という観点から導き出された年中無休の診療である。そして大学病院の外来部門と同等の検査機器を揃えて診断を行うことであった。
「開業するからには、いわゆる『パパママストア』を避け、一定のレベルで検査、診断を行うべきだと考えていました。検査機器を駆使して、パーフェクトとはいかないまでも結果を出して、患者さんを気持ち良く快適な状態にして差し上げられるために力を尽くそうと思いました」


クリニック外観
 ■ クリニックの内容

①標榜科目
南谷クリニックでは多くの科目を標榜している。岡町本院では内科、小児科、循環器科、消化器科、呼吸器科、放射線科、整形外科、リハビリテーション科である。
「開業したときから、当たり前の医療を当たり前に行いたいと思っていました。検査センター的な分院を作ることも念頭に置いていたので、車で15分ぐらいで行ける大阪府と兵庫県の境目あたりで候補地を探していたのです」
97年に開業した伊丹分院は阪急伊丹線の新伊丹駅の近くで、内科、小児科、整形外科、リハビリテーション科を標榜する。
岡町本院の開業当初は南谷院長が1日も休まず診療にあたっていたが、現在では常勤医師4人、非常勤医師約30人の体制である。副院長の南谷哲司先生は、膝関節を専門とする整形外科医であり、またJリーグの京都パープルサンガのチームドクターを務めるなど、スポーツ医療にも造詣が深い。



②検査
南谷クリニックの大きな特色は各種の検査機器を積極的に導入し、迅速で正確な診断を行っていることである。CT、電子内視鏡、ホルター心電図、眼底カメラなど、大学病院と同等の機器が揃っているが、特筆すべきは脳波図(API)であろう。これは動脈硬化の進捗状況を調べる検査で、手足の血圧を同時に測定し、血圧が血管を伝わる速度(PWV)と手足の血圧の比(API)を計測する。動脈硬化は脳血管疾患や冠動脈疾患の基礎疾患となることから、ニーズの高い検査であろう。
一方、病診連携にも意欲的である。主な連携先としては国立循環器病センター(大阪府吹田市)、市立豊中病院、大阪府済生会中津病院(大阪市北区)、北野病院(大阪市北区)、大阪脳神経外科病院(豊中市)などが挙げられる。さらに、地域の開業医から南谷クリニックを紹介されて来院する患者も多いという。

③充実のアメニティ
南谷クリニックの外観はレンガがポイントになったインパクトのあるものだ。これは南谷先生が留学していたボストン旧市街のイメージであるという。設計は神戸大学の先輩に依頼し、吹き抜けが設けられた斬新なイメージに仕上がった。吹き抜けを生かすために2階にあえて病室を設けず、空間を贅沢に使用している。この吹き抜けはデザイン性の高さをアピールするだけではなく、空気の滞留を抑制し、院内での感染防止の役割も担う。
このほか、患者の待ち時間の苦痛を和らげるために待合室には床暖房を完備し、プラズマテレビでは待ち時間についてのお詫びのメッセージも伝えている。また癒しのためのBGMも常に流すなど、「ただでさえしんどいんだから、少しでも、そのきつさを軽減したい」という南谷院長の思いが込められている。なお、床暖房は待合室のみならず1階、2階に全面システムを採用している。

 ■ クリニックの運営

①増患対策
南谷クリニックでは開業直後の1ヶ月目からレセプトが500枚になったほど、順調に集患してきた感があるが、当初はクリニックの認知度を高めるために折り込みチラシを活用するなど地道な努力をしてきた。
「年中無休を掲げているわけですから、年末年始や、お盆、ゴールデンウィークの前にチラシを入れると効果のある広告になりました。そういう大型の休みのたびに患者さんが増えていきましたね」
そのほか岡町駅構内にも看板を出しているが、駅のホームに沿う壁面には多くのクリニックの看板が並んでいるため、一つ一つのクリニックの名前が浸透しないことが懸念される。そのため南谷クリニックの看板は、そうしたホームから少し離れた場所に掲示している。
「阪急バスの吊り革やバスの中での放送なども使っていますが、やはり若い患者さんにはホームページの存在が大きいですね。今後はもっと充実したサイトにしていきたいと思っています」
南谷クリニックでは患者の住所分布を細かくリサーチしており、患者の来院が少ないエリアではチラシを投入するなどして集患につなげたいとしている。


②スタッフ教育
増患対策として広告展開について述べてきたが、南谷院長は「患者さんが増える要因はレベルの高いスタッフにこそある」との持論を持つ。
南谷クリニックでは、全職員に対して、勉強会やケースカンファレンスなどを定期的に開催している。
「特に医師はモラルを高く持たないといけません。ルーチンワークで十分だと考えないことです。そして、その他のスタッフもちょっとしたことで事故が起き、ごめんなさいでは済まなくなることを常に認識してもらいたいですね。そのためにはコミュニケーションが大切だと思っています。患者さんとの信頼関係が築けて始めて、薬も効くのではないでしょうか」
労務管理は当初、奥様が一人で担当してきたが、現在は銀行出身の理事や事務長が行っている。人事評価に関しては様々な部署からの観点を取り入れた公正な評価にしている。
「年中無休ですからスタッフへの人件費が大きいです(笑)。従来の診療時間であればスタッフの数も半分で済みますから。それでも患者さんのご期待に応える診療体制を取ることが理想だったので、今後もスタッフ教育には力を注ぐつもりです」
③今後の展望
「今年は豊中市に分院を開業します。大阪モノレールの小路駅の近くです。こちらでは『パパママストア』的な存在で、特別養護老人ホームやグループホームなどの管理を行う予定です。検査に関しては本院で行って、有機的なつながりを持つことが理想ですね。
私は南谷クリニックを自分や家族だけのものだと私物化する気持ちは全くありません。これからも社会のものであるという認識を持って、社会のお役に立ちたいと思っています」

 ■ 開業へ向けてのアドバイス

 昔のように誰もが開業すれば成功する時代ではなくなりました。したがって「なぜ開業するのか」という明確な理由を持つことが必要とされます。開業には医療技術や知識だけでなく、雇用や経営、患者さんとスタッフとのトラブル処理など様々なことが求められます。皆と同じではなく「こういう医療を行う」という使命感と熱意を持ってほしいですね。

先生タイムスケジュール

 趣味は音楽鑑賞です。特にバロック音楽が好きですが、ジャズもよく聞きます。年末などは「第九」に代表されるシンフォニーの良さを感じますね。旅行も好きなのですが、なかなか時間が取れません。来年、学会がボストンでありますので、何とかして参加したいです。



クリニック平面図

↑上の図をクリックすれば拡大表示されます。↑


南谷クリニック
院長 南谷直人氏
住所 〒561-0884
大阪府豊中市岡町北1-2-4
医療設備 CT、電子内視鏡、腹部エコー、心エコー、頚動脈エコー、甲状腺エコー、脈派・API、ホルター心電図、重心動揺計、骨塩定量、眼底カメラ、呼吸機能検査
延べ床面積 654㎡
物件形態 ビル、3階建て
スタッフ数 常勤医師4人、非常勤医師約30人、そのほか約100人
開業資金 約3億円
HP http://www.minamitani-c.or.jp


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(終わり)
2006.02.01掲載 (C)LinkStaff

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