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マタニティリゾートからマタニティシンフォニーへ

Ladies & Maternity Clinic SANTA CRUZ the SYUKUGAWA
(旧ヨシダ レディース&マタニティクリニック)
 



吉田 昌弘 理事長

 少子化が進み、女性にとってのお産は人生における一大イベントになってきていることから、「贅沢なお産」が望まれるようになって久しい。ホテルのような部屋やフランス料理などの豪華な食事を提供する産科も増えている。今回ご紹介するLadies & Maternity Clinic SANTA CRUZ the SYUKUGAWA
(旧ヨシダ レディース&マタニティクリニック) も無論、部屋や食事に贅を尽くすが、一方でEBMに基づいた確実な医療と、365日24時間の安心を提供し、熱いハートを持ったスタッフを揃え、患者さん一人一人を大切にすることで、真の「マタニティリゾート」が完成するとしている。

  今回は吉田 昌弘 理事長にお話を伺った。

吉田 昌弘 理事長 プロフィール

  1965年、京都市出身。
1990年に滋賀医科大学を卒業後、京都大学医学部産婦人科教室に入局する。京都大学医学部附属病院、大阪赤十字病院、大阪府済生会茨木病院、大阪府済生会野江病院に勤務し、1997年に京都大学婦人科産科学教室周産期研究室で子宮頚管熟化について研究を行う。2000年に関西電力病院に勤務し、2001年に兵庫県西宮市でヨシダ レディース&マタニティクリニックを開業する。2006年には院名をLadies & Maternity Clinic SANTA CRUZ the SYUKUGAWAに変更し、理事長に就任する。
2008年には兵庫県宝塚市にLadies & Maternity Clinic SANTA CRUZ the Takarazukaを開業予定である。

 ■ 開業前後

 吉田昌弘理事長は滋賀医科大学に入学当初は漠然と心臓外科医を目指そうかと考えていたそうだ。ところがポリクリで余命わずかな患者さんの姿を見て、ショックを受ける。そこでたまたまポリクリの順番が産婦人科に回ってきて、生命の躍動する現場に強い感銘を受けたという。
「産婦人科は足を踏み入れたときの匂いからいって違いましたね。本当に病院かと思いましたよ(笑)。人を助けてあげようという崇高な心があったわけではありませんが、面白そうでしたし、教授の勧めもあって、産婦人科を専攻することにしました。」
しかし同級生や周囲からはリスクの大きさ、多さから反対する声もあったという。
「お産はうまくいって当たり前だと考えられている中で、トラブルに対して医師の立場が弱いというのが反対の理由だったのでしょう。でもお産の喜びを感じたい気持ちの方が優っていましたから、反対の声を封じることができました。」
系列病院の多さに惹かれて、京都大学の医局に入局した。附属病院で1年半の勤務ののち、大阪赤十字病院、大阪府済生会茨木病院、大阪府済生会野江病院で研鑽を積んだ。


Ladies & Maternity Clinic SANTA CRUZ the SYUKUGAWA

Entrance

 1997年には京都大学婦人科産科学教室周産期研究室で研究生活に入る。
「研究生活で学んだことの中で最も大きいものは論理的な考え方を身につけたことでしょうか。臨床に直接つながらない研究も多いのですが、物事のプロセスを論理的に構築していく経験はかけがえのないものですね。開業志向の強い先生も、開業されたらなかなか研究やましてや留学の機会は持てませんので、それまでに研究をされることをお勧めしたいです。臨床の現場では得られない経験ができます。」
そして2000年から関西電力病院で勤務することになったが、徐々に開業へと心を固め始めた。開業にあたって吉田理事長は産科と不妊治療の両方をメインでいきたいという希望を持っていた。産科を標榜せず、婦人科だけの内容であれば、開業準備は比較的容易だとされている。一方、産科の場合は入院設備に始まる設備投資も大きく、従業員の確保も難しくなる。また開業後のリスクも大きい。
「産科をするべきか諦めるべきかを最後まで悩みました。でも生命の誕生といった喜び、そして産科の持つダイナミックな医療の魅力があり、産科を行うことを選びました。現在は婦人科よりも産科がメインとなっています。」
開業資金の調達も困難だったという。担保がないため、金融機関からは融資を断られることも多かった。「事業を起こすことの難しさを知りました。それまで自分がいかに井の中の蛙であったか気づかされましたよ。そこで精を出しました。」
関西電力病院への通勤のため阪神間に住んでいたので、開業地も阪神間で探すことにした。結果として、高級住宅街として知られる阪急神戸線夙川駅から徒歩3分の好立地を得た。また阪急甲陽線苦楽園口駅、阪神本線香櫨園駅からも徒歩10分ほどであり、JR神戸線芦屋駅からはバス路線もあるなど、交通アクセスは抜群である。
建物はリゾートホテルのような瀟洒な雰囲気で、建物の内外に花をふんだんにあしらっている。
「確かに建物や花を褒めてくださる方が多いのですが、私としては建物よりもソフトの充実に心を配ってきました。私どもは物販店ではなく、あくまでも医療のスキルやサービスを売っているわけですから、建物がぼろぼろになっても患者さんが来てくださるようなクリニックでありたいと思い続けています。」

 ■ クリニックの内容

① マタニティリゾート
吉田理事長が提唱しているのが「マタニティリゾート」構想で、これは母と子に特化した複合科のプロジェクトが中心を為す。Ladies & Maternity Clinic SANTA CRUZ the SYUKUGAWAでは常勤4人、非常勤6人の産婦人科医のほかに、小児科医、歯科医も常勤医を置く。さらに美容皮膚科医が非常勤で勤務し、エステサロンでバックアップしている。 「妊娠中は歯科の受診を断られることが多いと聞いて、歯科を併設することにしました。 歯周病は炎症反応ですから、歯周病を予防することは早産の予防にもつながります。そうしたエビデンスに基づく予防医学の面からも歯科は重要ですね。」 近年、周産期医療の充実を掲げている大きな病院が多いが、Ladies & Maternity Clinic SANTA CRUZ the SYUKUGAWAではそういった方向性とは異なる「ノーマルなお産をいかに楽しく、安全に行えるか」というコンセプトを持っている。しかしながら県立西宮病院、兵庫医科大学附属病院と連携し、ハイリスク分娩などの難症例に手厚い医療体制をとっている。
「産婦人科は365日24時間の対応をしなければいけません。厚労省も推奨するように、一人の産婦人科医が診るのではなく、複数の医師がチームとして行う医療が求められるようになってきたと思います。ノーマルなお産のセンター病院であるためには、そのチームの医療レベルを落とさないことが肝要であると考えています。」

② LDR室
陣痛、分娩、回復を同じ部屋で行うことができるのがLDR室である。患者さんの恐怖感を取り除くために、光、芳香、音楽を用いた五感に訴えた部屋づくりがなされている。分娩時にはアロマオイルが炊かれ、また家族のためのソファーも完備するなど、患者さんがそれぞれのペースで出産に臨めるような心配りをしている。
  一方、病室は全8室であり、今後増床予定もある。  Ladies & Maternity Clinic SANTA CRUZ the SYUKUGAWAでは経産婦が多いことが特徴で、最近では7割近くを経産婦が占めているという。

③ 4D超音波
Ladies & Maternity Clinic SANTA CRUZ the SYUKUGAWAは西日本で数番目の早い時期に4D超音波を導入した。これにより20週前後から、異常、奇形などを発見できるようになった。さらに臍帯の動きなども確認できるため、医学的なエビデンスの構築の一助になっている。 「赤ちゃんをリアルに見ることができますので、患者さんと医師が喜びを共有できるのがいいのですね。それに加えて、父性を育てることにもなっています。私どもではご主人と来院される患者さんが8割と多く、ご主人が来やすいクリニックであるということで選んで頂くこともあります。医師も赤ちゃんがお腹にいる間に、ご主人とお話する機会を頻繁に持っておけば、分娩で帝王切開に踏み切らざるをえないときなど円滑なコミュニケーションが取れますし、4D超音波はその意味でも導入してよかったですね。」


LDR室

西日本初の4D超音波

赤ちゃんのベッドにはテンピュールのマットレスを採用

④ アメニティー
出産の様子をDVDに収め、メモリアルビデオとするなど「お金では買えない、出産した場所でないとできない」ものを患者さんの退院時にプレゼントしている。
そのほか妊婦、赤ちゃんのベッドにはテンピュールのマットレスを採用し、快適性を向上させている。
吉田理事長は呼吸法の分かりやすさからソフロロジーを勧めているが、自宅での呼吸の練習用にCDをプレゼントし、陣痛という恐怖感を取り除けるような配慮を行っている。
食事は院内にカフェがあり、家族と一緒にとれることが特徴である。
「私どもでは特に食事を売り物にするつもりはありません。いいものを出すというのは当たり前ですし、豪華なものというのであれば、院外のどこでも戴けますしね。そういった豪華な食事を一人で食べても美味しくないですから、身体にいいものを家族と一緒に食べることがいいのではないかと思っています。」

■ 経営方針

① 増患対策
広告展開に関しては、あまり細かいことまで紹介せず、イメージ広告にし、コンセプトなども全面に出さないようにしているという。また広告のみならず、院内での掲示なども英語表記を行い、イメージの統一に傾注する。
今年、院名を変更したが、院名にあるサンタクルスはスペイン語で聖十字架との意味を持つ。
「私自身は信者ではないのですが、幼稚園から高校までカトリックの学校に学んだので、奉仕の心で社会に貢献するというキリスト教の教えに共感しており、これまで法人名だったサンタクルスを院名にも使用することにしました。赤十字の発想にも似ていると思いますね。」

② スタッフ教育
吉田理事長は開業当初、労働基準法を勉強したという。吉田理事長自身、大学病院時代は24時間勤務、20万円ほどの月収、当直手当などが皆無であっても「勉強させて頂いてる間は当たり前だ」と思っており、開業にあたってはコメディカルスタッフとの意識のずれに悩んだこともあった。
「崇高な心映えの人たちばかりではありませんでしたからね。時間外手当を要求されて戸惑ったりもしました。でも、それは私の方がヘンだったんですよ。そこで労基法を学んで、経営者としての義務を果たそうと思いました。ただ最近の医療者は自らのQOLを大切にしようとしますが、なんらかの犠牲を払わないと医療は崩壊してしまいます。そこでチーム医療の充実を考えました。現在は情報の共有など、皆でモチベーションをあげていけるような教育をしています。」

③ 今後の展望
2008年には兵庫県宝塚市に分院を開業する予定である。分院は「マタニティーシンフォニー」をコンセプトに掲げ、7階建てのビル全体が「母と子に特化した、身体にいいことが全部揃う」ことになる。産科、婦人科、小児科、皮膚科、歯科のほか、アンチエイジングレストランやチョコレートブティックも入るという。
その開業に備えて、産婦人科医、小児科医を募集する。
「マタニティシンフォニーとは皆で曲を奏でようということです。日本一働きやすいクリニックとして、過重労働を避け、有休消化率100%、時間外手当100%を目指します。そのために無駄な時間を省き、スタッフの就業意欲を高めなくてはいけません。チームとして集結して、患者様だけでは無く、ここで働く医師のQOLも充実させながら、一緒に頑張ってくださる方に来て頂きたいですね。」

■ 開業に向けてのアドバイス

 産婦人科はリスクも高いですが、喜びもありますので、是非開業をなさったらよいと思います。医療とは異なる問題もありますが、それを楽しむぐらいのつもりで取り組んでください。医師はそのような問題への対処が分からないことが多いので、異業種の方々とのお付き合いを通じて学んでいくといいかもしれません。勤務医時代には見えていなかったことも見えるようになり、苦労もしますが楽しいですよ。

先生タイムスケジュール

 趣味はテニス、バイオリン、ゴルフですが、時間がないので最近ほとんどやっていません。
日帰りで温泉や岩盤浴に行く程度ですね。

クリニック平面図



Ladies & Maternity Clinic SANTA CRUZ the SYUKUGAWA
理事長 吉田 昌弘 氏
住所 〒662-0063
兵庫県西宮市相生町8-15
医療設備 LDR室、4D超音波(経腹、経膣)
延べ床面積 約340坪
物件形態 戸建て
スタッフ数 理事長、常勤医師4人、非常勤医師6人、常勤助産師5人、非常勤助産師2人、看護師11人、事務・受付9人、総務部長、ルームキーパー5人、駐車場スタッフ1人
開業資金 約5億円
HP http://www.santacruz.or.jp/


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(終わり)
2006.10.01掲載 (C)LinkStaff

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