クリニックの窓教えて、開業医のホント

バックナンバーはコチラ

人間の心そして表現

小宮クリニック
 



小宮豊院長

 小宮クリニックは博多駅近くのビジネス街にある3階建てのビルクリニックである。精神科・心療内科の外来診療と、併設している福岡臨床研究所でカウンセリング、音楽療法、遊戯療法を行っている。アイボリーの壁とライトグレーのカーペットでシックに調和された空間にはクラシックが流れ、テレビモニターには緑の木々や紺碧の海が映っていた。
今回は精神科医療に独自のポリシーを掲げる小宮豊院長を取材した。

 小宮豊院長 プロフィール
1949年 佐賀県佐賀市出身。ご両親の転勤で愛知県名古屋市に移る。1974年に名古屋大学理学部物理学科卒業後、奈良県立医科大学に入学し、1984年に卒業する。同年、九州大学医学部心療内科教室に入局し、1985年より済生会福岡病院(福岡市:内科)、久徳クリニック(名古屋市:内科、小児科、呼吸器科)、古賀病院(福岡県久留米市:内科、呼吸器科)、不知火病院(福岡県大牟田市:精神科、内科)などの勤務医を務める。1990年に精神医学をさらに深めようと福岡大学医学部精神科教室の研究生となる。1991年に日本心身医学会の認定医となる。1993年に福岡臨床研究所を設立し、同年小宮クリニックを開業する。また1996年に日本臨床心理士認定協会認定心理士を取得する。

 
 ■開業前後

 小宮院長は最初から医師への道を志したわけではない。光学望遠鏡の世界に憧れ、名古屋大学で天文学を専攻したという。ところが講義の中心が光学望遠鏡ではなく、コンピューターで解析する電波天文学の世界であったため、次第に興味を失っていったそうだ。ちょうどその頃、フロイトなどの精神分析学の本を読んだことをきっかけに「人間の心」に惹かれはじめ、精神医学を学ぶため、大学卒業後に奈良県立医科大学に入学する。大学に入学後は看板屋、牛乳配達、家庭教師など様々なアルバイトに勤しんだという。
「開業は最初から考えていました。勤務医だと15分程度の診察と薬物療法だけという診療上の制約があるので、自分の理想の精神医療を行うためにはクリニックの開業は必須でした。」
そのための準備として、大牟田市内の病院に勤務しながら、福岡市博多区にあるサテライトクリニックに週1回の勤務することにした。これで病院とクリニックの診療体制の違いを体感できたという。さらに、クリニックの患者層を理解したり、外来レベルで可能な治療についてなど多くのことを学んだ。
開業場所の選定にあたっては博多駅の近くというこだわりがあった。
「当時はまだ精神科や心療内科という分野は一般の患者さんが来院しづらい雰囲気があったので、気軽に通院して頂くためには大きな駅の近くが良かったのです。」
結局、博多駅から徒歩4分の好物件を選んだ。さらにカウンセリングを充実させるために福岡臨床心理研究所を併設する。精神科病院は総ベッド数の規制が行われ、入院が難しくなっている状況である。このため患者さんの治療では薬物療法だけでなく、精神療法やカウンセリングを併用した高いレベルの外来を整備する必要がある。そこで、小宮クリニックでは診察と薬物療法中心の保険診療を行い、福岡臨床心理研究所では臨床心理士も加わったカウンセリングを行うというシステムを構築した。

 ■ クリニックの内容

① 精神医療

 小宮院長にとってクリニックを開業することの意義は、保険診療の枠にこだわらず、自分の理想の診療を追求することにあった。豊富な勤務医でのキャリアから、重症患者の5人に1人はもう少し時間をかければ治ると思われる症状だったという。ところが、精神科での入院は長期間に及ぶことが多く、そうなると入院したことによる社会的な不利益も被ってしまう。したがって先述の福岡臨床心理研修所の役割が大きくなるのである。
「カウンセリングにあたっては、患者さんにもハードルがあります。病気に対する認識や、どの程度治りたいのかというモチベーション、医師やスタッフの説明への理解力などです。そういったハードルについて細かく説明し、納得して頂いた上で、カウンセリングを行っています。」
このシステムは功を奏し、約5人に1人の患者さんが入院せず、外来だけで完治しているという。臨床心理士は8人おり、手厚い体制になっている。

② 音楽療法、遊戯療法

 基本的にカウンセリングは言語によるものであり、それによって、患者さんの心を表現し、心を軽くすることが目的である。しかし、患者さんの年齢や性格によっては言語表現が乏しいことがあり、心や気持ちを豊かに表現してもらうために音楽療法や遊戯療法を取り入れている。
音楽療法とは、音楽療法士のもとで、より自由な自己表現やリハビリテーションのための楽器演奏、歌唱、リラックスチェアーなどの体感音響装置による音楽鑑賞を行うものである。一方、プレイセラピーとも言われる遊戯療法は、箱庭療法や絵画や粘土細工を製作する療法がある。患者さんが自分の気持ちを表現するための創作活動を作業療法士がサポートする。小宮クリニックには音楽療法士、作業療法士がそれぞれ1人勤務し、小宮院長とのチーム医療を行っている。

③ ストレス軽減のために

 待合室にはクラシック音楽が流れ、落ち着いた色調で統一された癒しの空間となっている。そして、患者さんの集中を避け、診療時間を確保するために、完全予約制としている。
「患者さんの中には不安が強くて、人が大勢いると来院できない方もいます。待ち時間が長くなるのもストレスになりますし、そういったストレスは軽減してさしあげたいですからね。

④ 増患対策

 開業当初の外来患者数は1日9人だったが、現在は30人であるという。この数字を達成するまで2年を要したそうだ。増患対策としては、開業当初は電話帳と看板での広告がメインだったが、1998年頃からはホームページでの展開を行っている。またクリニックの認知が広がるにつれて、口コミでの来院も増えている。
「精神科の患者さんは通院期間が長いことが特徴ですね。数年かかることもあり、長いお付き合いになります。外来頻度は月1回の方もいれば、2週間に1回の方もいます。月間延べで500人の患者さんを診察させて頂いています。」

 ■ 開業に向けてのアドバイス

 目的意識をはっきり持った計画的な開業をお勧めします。診療報酬の改定で医療業界も厳しい時代を迎えました。経営の経費としては最初は高価な医療機器の購入を最低限に抑えた方が良いでしょう。しかし、人件費は必要です。優秀なスタッフとのチーム医療によって患者さんを丁寧にサポートすることで、結果的に来院も増えると思います。

 ■ タイムスケジュール

 クリスチャンですので、日曜日の午前中は教会に行っています。趣味は自転車とウォーキングです。また阿蘇に自然農法をやっている友達がいるので、年に3回ほど遊びに行くのも楽しみの一つです。そこでは電気、ガス、水道のないワイルドな生活をしています(笑)。



クリニック平面図




小宮クリニック
院長 小宮 豊(医師・臨床心理士)
住所 〒812-0013
福岡市博多区博多駅東1丁目16番6号(小宮ビル)
医療設備 体感音響装置(リラックスチェアー)
スタッフ 医師1名・臨床心理士8名・作業療法士1名・音楽療法士1名
延床面積 148.5m2
物件形態 持ちビル、3階建て
開業資金 約2億円(内建物8千万)
HP http://www.komiya.gr.jp/




(終わり)
2006.06.01掲載 (C)LinkStaff

【クリニックの窓バックナンバーリストへ】

リンク医療総合研究所 非常勤で働きながら開業準備