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自由診療の内視鏡専門クリニック

芦屋三戸岡クリニック
 



三戸岡 英樹 院長

 2006年4月、兵庫県芦屋市に全国でも珍しい自由診療での内視鏡専門クリニックが開設された。三戸岡英樹院長は内視鏡専門医として、神戸海岸病院、神戸海星病院などで活躍し、特に拡大電子内視鏡や経口色素カプセル法などを用いた最先端の技術では日本の名医の一人であるといっても過言ではない。
The Best doctors in JapanTM 2006-2007にも選ばれている。
今回は三戸岡英樹院長にお話を伺った。

三戸岡英樹院長 プロフィール
1953年、岡山市出身。1980年に神戸大学医学部卒業後、神戸大学付属病院第二内科研修医となる。1981年に須磨赤十字病院内科医員となり、内視鏡と出会う。1983年に神戸大学付属病院第二内科勤務を経て、1985年に神戸海岸病院に移る。神戸海岸病院では、内視鏡室を立ち上げ、内科部長となる。1994年に神戸海星病院に内科部長として迎えられ、副院長、消化器病センター長を歴任する。2006年4月、芦屋三戸岡クリニックを開業し、同時に神戸海星病院消化器病センター客員部長を兼務する。

 ■ 開業前後

 三戸岡院長は「治療した結果がすぐ表れる」ことから、もともと外科志望であったという。ところが、当時の外科医局では徒弟制度ともいうべき制度が残っており、若干の違和感を感じたことから第二内科の門をくぐった。そこでは糖尿病をメインに研究しており、さらに消化器内科、代謝内科など幅広い疾患が対象となっていたが、データをもとに確率で判断して治療する「内科的治療」には面白みがないと感じ始めていた矢先に、須磨赤十字病院に転勤となった。そこで内視鏡と出会ったことが人生の転機となったわけである。ちょうど治療内視鏡が始められた頃であり、診断と治療が同時にできるという低侵襲の医療の黎明期であった。
「指導して頂いたのは玉田文彦先生です。内視鏡を使って、ポリープを取り除いたり、胆管の石を引き出すといった治療をなさっており、若手にもどんどんチャンスを下さいました。目の前にある病変を、自分の技によって取ることができる外科的な手法は本当に面白かったですね。やればやる程、上達しましたから、楽しい研修医生活となりました。」
研修医時代に内視鏡で胃、大腸、胆道系など一通りの症例を経験するが、三戸岡院長がさらなる研鑽を積んだのが大腸内視鏡である。当時、アメリカで新谷弘実先生が鎮静剤を使い、一人で行う大腸内視鏡の挿入方法を考案したが、高い技術を要し、それにチャレンジすることにやり甲斐があったそうだ。大腸検査では身長の長さの管を7の字型に半分の長さに短縮させて挿入する。そのため患者様には非常に苦痛な検査であった。しかし、新谷先生の方法であれば、大腸が変形しているなど従来の検査には不向きであった患者様の場合でも4、5分で挿入でき、患者様も寝たままで苦痛がない。「患者様のための医療」を常に考えていた三戸岡院長の言をかりるなら「目からウロコのような気持ち」を抱かせる医療技術であった。

 この技術を存分に研鑚するため、三戸岡院長は大学を離れ、神戸海岸病院に移り、内視鏡室を立ち上げる。1994年には神戸海星病院に内科部長として招聘された。
「内視鏡メーカーと言えばオリンパスですが、当時フジノン(現在のFTS)が映像でのナンバーワンを目指し、解像度の高いCCDを開発していました。私はフジノンのアドバイザーをしており、神戸海星病院ではその最新型を導入し、高画素の拡大内視鏡で詳細な観察を行うという高度医療をさらに推し進めました。」
そのような体制であれば、患者様の来院が途絶えるわけがない。最先端の診療を受けようと、初診で2ヶ月待ち、再診では6ヶ月待ちという事態を迎えるに至った。それだけの待ち時間が発生すれば、診断の遅れから生命予後に支障を来たす。三戸岡院長も徐々に開業へと気持ちが傾いていった。
「夜中まで仕事していましたが、やればやるほど患者様が増えていきます。それに伴い、コメディカルスタッフの不満も多少はあったようです。ここに保険診療の難しさを感じました。患者様
に満足して頂くことが私の充実感につながるわけですから、限られた数ではありますが、一人一人に私の最高の内視鏡医療を提供しようと考えました。」


神戸海星病院

 勤務医から内視鏡専門のクリニックを立ち上げ、しかも自由診療を行うというのは西日本では初めてのケースであった。また、開業地はアクセスの良さにこだわりがあったとともに、神戸海星病院へも通いやすい場所を探した。ちょうど、神戸海星病院で内視鏡センターをリニューアルしたばかりであり、三戸岡院長も設計者として、その行く末を見守る必要があったためである。そこで考えついた芦屋駅前はJR神戸線の新快速の停車駅であり、大阪からも三宮からも10分ほどという抜群の立地であった。さらに神戸空港も開港し、遠隔地からの患者様も見込まれた。
「東京の方には三宮より芦屋の方が知られた地名ですし、富裕層も多いところです。それで探し始めてすぐに、芦屋駅に隣接するラポルテの本館に空き物件があったのです。見学に来て、即決しましたね。」
2005年10月のことである。従来のクリニックとはイメージを変えたものにするため、これまで著名人の別荘などを出掛けてきた大森雅俊さん(ア・ヴァン デザインインク)に設計を依頼し、開業準備を進めていった。

 ■ クリニックの内容

① 最新鋭の機器
芦屋三戸岡クリニックでの主な診療内容として上部消化管の内視鏡検査と日帰り手術、下部消化管の内視鏡検査と日帰り手術が挙げられる。三戸岡院長は前述の通り、FTS社のアドバイザーを務めており、自ら開発したトップレンジの内視鏡を駆使している。これは先端に顕微鏡がついている高画素拡大電子内視鏡で、病変を瞬時に200倍までにズームアップできる。最大解像度は7ミクロンであり、これは赤血球の直径に等しいという。このため詳細で、正確な診断が可能であり、確実な治療に結実する。
一方、検査と治療を別々の機会に行うことは患者様にとってメリットがない。三戸岡院長は常に「自分が患者であったときに、どうしてほしいのか」を念頭に置き、診療に取り組んでいる。一般的に5ミリ以下のポリープは放置してもよいという考え方が広まっているが、たとえ1ミリ、0.5ミリでも三戸岡院長が腫瘍性だと判断した場合には取っている。検査の際に治療を同時に行う場合には、患者様に承諾書の提出を依頼している。

② 経口色素カプセル法
三戸岡院長が発案したのが経口色素カプセル法という検査方法である。大腸内視鏡の検査は、前処置として、多量の腸管洗浄液を服用する。その液体は多少、消化管に残る性質を持つ。したがって、そこに着色すれば、病変自身の境界や表面の状態がよく分かり、詳細な観察が可能となる。検査前に食用色素が入ったカプセルを患者様に投与するという、この方法は1990年にアメリカの内視鏡学会で発表した。この色素は99%消化管に吸収されない非吸収性のもので、全く副作用がなく、通常の検査では発見が難しい微小大腸ポリープや早期大腸がんの発見、治療に役立っている。

③ ゆったりした時間の中で・・
芦屋三戸岡クリニックの受付はホテルのコンシェルジュをイメージしたものであり、待合室も大きめのソファーが配置されている。患者様はここで問診票を記入して、診察までの時間を過ごす。三戸岡院長は学生時代に軽音楽部に所属しモダンジャズに傾倒するなど、音響にもこだわりがある。院内には12個のボーズ製スピーカーがあり、ジャズが心地よく流れる。
個室は完璧にプライバシーを確保された3室、セミプライベートなものが2室完備してある。個室に備えられたチェアはパラマウント社製であり、個室から検査室にそのまま移動できる可動式となっている。患者様は個室で着替え、チェアに乗ったまま内視鏡室に入り、
鎮静剤注射後、検査を行い終了後、そのまま元の部屋に戻るというシステムで、快適に検査を受けることができる。
「20年以上、専門医をしてきて思うことですが、症状のある患者様の内、はっきりした病変を持っている方は10人のうち1人ぐらいです。ほかの8人から9人の方はストレスなどの機能的乱れなんですね。ゆっくり話を聞いてあげて、大丈夫だと伝えるだけで治療が終了することもあるのです。そういった心身症的な患者様にも、癒しの空間をさらに提供していきたいですね。」

待合室


パラマウント社製可動式チェア

 マネージャーを務める奥様にもお話を伺った。
「開業に備えて、JALの特別機で行っているという接遇マナーなどの講習を受けました。その上で、私どもでは患者様に対して、自分の大好きなおじいさまやおばあさまといった家族に接するのと同じ気持ちをどこまで持てるのかということを心がけています。だからこそ、心のこもった声がけになりますし、お茶もお出ししたり、緊張して検査結果をお待ちになる患者様に楽しい絵本をお見せするといった行動ができるのだと思います。」
芦屋三戸岡クリニックでは、ホームページのほかは特に増患対策を行っていない。三戸岡院長の「患者様は患者様が連れてこられるものだ」という信念によるものだ。現在のところ、平日は1日5人、土曜日は12人から15人の患者様が訪れている。ほぼ週に32人から35人の患者数は保険診療の医療機関から見れば信じられない数字であろう。
「私は3時間待ちの3分診療というのが納得できなかったのです。患者様の方が医師に怒られないよう気を遣っていらっしゃる節もあります。本来病んでいる患者様がなぜ、医師の機嫌を気にしないといけないのでしょうか。ここでは、ゆったりと寛いで頂きたいですね。」
芦屋三戸岡クリニックは東京や九州からだけでなく、海外からの患者様も来院する。そうした遠方からの患者様には隣接するホテル竹園芦屋を紹介している。また入院・加療が必要な患者様には三戸岡院長が客員部長として勤務する、神戸海星病院が提携病院となり、充実した病診連携の体制となっている。
「私どもでは病変を徹底して取りますから、大腸に関しては最低3年はいらっしゃる必要はありません。確かに価格は高いですが、一生のうちに何度も検査を受ける必要はありませんから、多くの患者様に信頼して頂いています。」

④ 今後の展望
三戸岡院長は、今後について「元気で、内視鏡が十分できるうちに、海外でも開業したいですね。そのために休診の水曜日を使って語学の勉強をしています」と語る。

 ■ 開業に向けてのアドバイス

 同業の藤井隆広クリニックの藤井院長が言っていたのですが、医者の中で有名であっても、患者様の中で有名でなければいけないということです。そして患者様をしっかりと診ること。シンプルなようですが、これに尽きるのではないでしょうか。開業も厳しい時代です。だからこそ、開業したら楽ができると考えるようではいけないと思います。

先生タイムスケジュール

趣味は音楽鑑賞の他は山歩きですね。自宅が六甲の麓ですので、六甲など神戸の山々を歩いています。



クリニック平面図



芦屋三戸岡クリニック
院長 三戸岡 英樹 氏
住所 〒659-0093
兵庫県芦屋市船戸町4-1-313ラポルテ本館3階
医療設備 電子内視鏡(拡大内視鏡、画像解析装置を含む)、
電子カルテ
延べ床面積 96.48㎡
物件形態 ビル診
スタッフ数 院長、マネージャー、受付、常勤看護師3人、非常勤看護師2人
開業資金 約1億円
HP http://www.mitooka-clinic.jp


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(終わり)
2006.07.01掲載 (C)LinkStaff

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