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患者さんの身になって物事を考える

医療法人仁知会 竹内レディースクリニック

竹内  一浩 院長
 竹内レディースクリニックのある姶良郡姶良町は薩摩半島と大隅半島の結束点に位置し、鹿児島県のほぼ中央にある。鹿児島市に隣接し、市の中心部や鹿児島空港からも自動車で約20分であり、また高速道路へのアクセスも容易であるという、地理的に利便性が高い、人口約47,000人の町である。
今回は竹内レディースクリニックの竹内一浩院長に伺った。
 竹内一浩(たけうち かずひろ)院長 プロフィール

1955年鹿児島市姶良郡姶良町生まれ。1980年川崎医科大学卒業後、鹿児島大学医学部産婦人科に入局する。その後県立鹿屋病院(現 鹿屋医療センター)、鹿児島市医師会病院を経て1989年米国イースタンバージニア医科大学に留学し、Jonnes生殖医学研究所で体外受精と不妊治療の基礎研究を行う。1991年に帰国し、同年、医療法人仁知会 竹内レディースクリニックを設立する。

鹿児島大学医学部産婦人科非常勤講師
日本受精・着床学会評議員
日本不妊学会評議員
 ■ 開業前後
 竹内院長に医師になったきっかけを伺ったところ「父親が開業医で、長男である私は他の職業に就くこと自体、あまり考えることはありませんでしたね。産婦人科になろうと思ったのは父親が産婦人科医であったこともありますが、『ターミナルケア』の反対側にある『Reproduction』という新しい生命を誕生させる医療をやりたかったんです。赤ちゃんを生まれる手伝いをすることもそうだし、また赤ちゃんができない患者さんに対して生殖医療を通して生命を誕生させる喜びを感受したいこともありました」との返答を得た。

  鹿児島大学の産婦人科医局では受精卵の遺伝子診断を研究し、また顕微授精を行っていた。当時Jonnes生殖医学研究所が顕微授精ができる医師を探していたため、招聘があり、世界的権威であるJonnes医師のもとで研究を行う。「着床前遺伝子診断における基礎的研究」「ヒト卵管上皮細胞と初期胚の共培養について」の論文では学会賞も受賞している。

  竹内院長としては不妊治療の研究をアメリカで続けたかったので、お父様が突然亡くなっても、葬儀を済ませてアメリカに戻ったという。お父様の医院は鹿児島大学の医師が勤務することになったが、お母様から帰国を促され、医院の継承を決意した。

  「ただ不妊治療を研究していたので、地元ではなく都会で、産婦人科ではなく不妊治療専門のクリニックを開業しようと思っていたのです。しかしながら地元の方々には、先代、先々代とお世話になっていたし、不妊治療が成功して赤ちゃんが生まれて、患者さんに『よかったね』と声をかけてあげることができる喜びもあるので、産婦人科と不妊治療を専門とするクリニックを開業することにしました。」

 1991年に産婦人科と不妊治療を専門とする医療法人仁知会 竹内レディースクリニックを設立した。不妊センターも併設したが、お父様の医院の建屋で開業したため、不妊治療で来院する患者さんと産婦人科で来院する患者さんが一緒の待合室にならざるをえなかった。そこで2002年8月に敷地面積約1350坪の広い土地を取得して、そこに3階建ての建物を建設し、リニューアルオープンした。延床面積は約800坪で、緊急事態にも対応ができるように3階を自宅にした。内装には特に気を遣い、壁紙は患者さんが癒される色使いを考え、2階の床はフローリングを使用した。

  場所は従来のクリニックより約50m離れた所で、目の前にバイパスが開通予定であったため、竹内院長が以前より望んでいた立地だった。そこはもともと姶良町の図書館建設予定地であったが、幸いなことに図書館が別の場所に建設されたため、空地になった。そこで姶良町と従来開業していた土地を等価交換した。建設などの資金は約8億円必要だったが、銀行も事業計画に賛同し、融資してくれたという。

  「父親の時代からの信用もあっただろうし、来院数が多かったことも関係したのかもしれませんね。金額は大きかったですが、そんなに苦労したという思いもありません。」

  スタッフの確保については、看護師、職員についてはお父様の医院のときから勤めているスタッフばかりなので問題はなかったが、体外受精コーディネーターとエンブリオジスト(胚培養士)の確保に注力したという。不妊治療の場合には大変に重要な存在であるが、日本ではアメリカほど普及していないのが現状である。しかし竹内レディースクリニックでは現在3人のコーディネーターが活躍している。

  「どうしても患者さんは医師に対して自分の本当の意見を言ったりすることが憚れるみたいで、患者さんと医師との間に入って、調整してもらっています。」
  また検査技師は5人おり、エンブリオジストの資格取得に向けて頑張っているそうだ。
開業当初の来院数は、不妊治療では1日約120名、産婦人科では約130名あり、本当に忙しかったという。

  「産婦人科は父親の代からやっていたので、お蔭様で地元の方々に信頼されているからこそ、多くの患者さんに来て頂いたのだと思います。不妊治療については、体外受精が当時まだ珍しく、全国でも治療できる病院が限られていました。体外受精、顕微受精に成功するとニュースになるほどでしたから、経費をかけずに知名度が上がりましたね。」

  遠いところでは青森県から来られた患者さんもいたという。そのような状況が5年ほど続き、走り続けた竹内院長も限界を感じるようになった。これ以上患者数が増えると医療事故の心配もあるため、予約制にして1日の来院数を減らした。

  「それでも体外受精、分娩関係ともに今は約3ヶ月待って頂いており、ご迷惑をかけています。でも医師が増えないことには対策の施しようがないのです。」現在は不妊治療の外来は1日約80名、産婦人科は約60名の計約140名となっている。
 ■ クリニックの内容
①不妊センターの設立

 「あきらめないで下さい。希望の光を見つめて一緒に頑張りましょう」の言葉のもと、竹内レディースクリニック付設の不妊センターで、不妊症の治療や顕微受精・体外受精に積極的に取り組んでいる。このセンターでは最小限の治療方法で、なるべく自然に近い形で妊娠できるように考えている。そのために必要なのが十分な検査であり、個別の患者さんに適合した治療法を検討している。

  治療成績については、1996年から2002年までの6年間の妊娠例は1382例である。このうちタイミング法や人工授精などの「一般不妊治療」で妊娠したケースが6割、体外受精や顕微授精などの「高度生殖補助医療」を受けて妊娠したケースが4割となっている。そして2005年10月には「高度生殖補助医療」での妊娠数が1000例を超えた。院長をはじめとするスタッフの努力の賜物であろう。


②不妊サポート


  高度生殖補助医療などの高度な技術だけではなく、竹内レディースクリニックでは不妊サポートを開業時から行う。現在では多くのクリニックが取り入れているものであるが、プレマタニティビクスがその代表的なものだ。これは妊娠に適した体づくりの運動療法であり、全身の血液循環が高まって体の機能が改善されれば、卵巣の機能も高まったり、下半身の運動によって骨盤周囲の血行が促されたりする。また遠赤外線による温熱療法では、月経の3~4日目から排卵の期間に、週に2~3回、1回につき30分を目安にして、衣服の上から遠赤外線をあてて血流を改善する。

  また「たんぽぽの会」という会の存在も大きい。ここではコーディネーターを交えながらフリートーク形式での「お話会」を開催している。

  「不妊治療の患者さんにありがちな不安やストレスを取り除き、心の健康を保って頂きながら、治療を続けています。」

  竹内院長は「あきらめないであなたの赤ちゃん」とういう本を出版し、不妊治療にあたる心構えや、その方法などを分かりやすく説明しているが、患者さんにとっては何よりのバイブルとなろう。


③安心して赤ちゃんが産めるように

  妊娠中の各種相談・指導をするために母親学級を開催したり、心地よい音楽を聞き、リラックスしていい時間を過ごしてもらうためにレディースコンサートを開催している。また新しいLDR分娩室を完備して、アットホームな雰囲気の中、陣痛、出産、回復を一つの部屋で過ごすことが可能になった。

■ 不妊治療の課題
①患者様の経済的負担

 自治体により多少の違いはあるが、人工授精や体外受精などは保険が適用できないので患者さんの負担は大きい。しかし食生活の変化などで、不妊が女性だけの原因でなく、男性に原因がある場合も多くあり、不妊治療を希望する人は増加している。
「少子化対策の問題もありますし、例えば体外受精3回までは保険適用など、上限を決めて保険適用にもっていくべきでしょうね。」

②不妊治療で結果が出なかった場合


  「治療を続ける中でどこで線引きするかが問題です。妊娠する確率が低く、体外受精でも無理だろうという場合もありますが、そのときははっきりと言います。」
  その場合、竹内レディースクリニックでは医師やコーディネーターが患者さんの話をじっくり聞きながら、心のケアに努めている。
■ 経営方針
①不妊治療の増加に伴うスタッフの充実

 予約制で、患者さんの来院を制限しているほどであるが、不妊で悩む患者さんを一人でも救いたいとの思いは大きい。そのため多くの医師を確保して患者さんを診ることと検査技師、コーディネーターの質の向上を図りたい意向である。

②スタッフの教育


  竹内院長は「病院の質はスタッフで決まる。医師だけが頑張っても無理である」との信念を持つ。特に不妊センターで働く技師には常に技術のレベルアップを求める。学会にも積極的に参加を促し、発表もさせているという。その対価として人事での考課に反映させ、モチベーションを上げる工夫をする。スタッフには「患者様を笑顔で迎え、最善のケアをすること、患者様の身になって看護することを心がけるように」と話す。また患者さんに年に2回、アンケートを書いて頂き、そこでのスタッフに対するお褒めの言葉、お叱りの言葉も人事考課の対象にしている。


③今後の展望

  新しい不妊治療を模索するために、鹿児島大学農学部や鹿児島大学でクローンを作るような研究を行っている肉牛改良研究所の研究者と一緒に基礎的な研究を始めることにしました。今のところ仲間内での集まりなのですが、今後は臨床だけでなくこのような基礎研究も行っていきたいですね。

■ 開業に向けてのアドバイス
 ステップ・バイ・ステップです。奇をてらわずに順序よくすることです。最初から「莫大な設備投資をして、医師を雇って…」とは思わないことです。また最初は自分で患者さんを診ることです。特に田舎の場合には医師が変わることを嫌う傾向があり、同じ医師がずっと診ることが患者さんを安心させます。私も最初は不妊治療から分娩まで一人でしていました。大変でしたけれど、これが成功するコツです。
■ 院長のプライベート
 忙しくて自分の時間がないのが本当のところですが、最近は自宅でテナーサックスを吹いたりしています。また隣にフィットネスクラブができましたので、体を鍛えるために30分程ですが、水泳をしています。1日時間が空いたら時々ゴルフに行きます。
先生タイムスケジュール


クリニック平面図


医療法人仁知会 竹内レディースクリニック
院長 竹内 一浩 氏
住所 〒899-5421
鹿児島県姶良郡姶良町東餅田502-2
医療設備 LDR室、不妊センター(IVF、ICSI)
延べ床面積 800坪
物件形態 鉄筋3階建て
スタッフ数 常勤看護師2人、助産師7人、看護師16人、コーディネーター3人、検査技師5人、受付・その他16人
開業資金 約8億円
HP http://www.takeuchi-ladies.com


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(終わり)
2007.02.01掲載 (C)LinkStaff

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