①精神医療
日本の精神医療はアメリカに比べて20年の遅れがあるといわれる。精神科の患者さんとの関わりを避けたがる他科の医師も少なくはない。
「アメリカ映画を見ていますと、ランチの後などに『ちょっとカウンセリングに行ってくるね』というようなシーンをよく見かけます。精神科に通院することは恥ずかしいことでも何でもないという社会にしていきたいのです。」
清水クリニックではカウンセリングを重視し、遠方の患者さんには電話カウンセリングも行っている。遠くは北海道や新潟から飛行機で通院してくる患者さんもいるほどだ。
「継続医療を行っていくことが目標です。薬で治すのは簡単なんですよ。私は患者さんに病識を教えています。どうなったときにきついのかなど、順番に教えていきますと、最終的には自分で予防できるようになります。統合失調症の患者さんでも病識を理解できれば自分で薬も飲めますし、継続就労も可能です。」
②在宅介護
清水理事長は「訪問診療、訪問介護、訪問リハビリ」を常にセットで考えている。現在の規定では、要介護認定1であれば施設への入居は許されない。クリニック周辺には独居高齢者が多く、開業当初から在宅介護の高いニーズがあった。訪問リハビリに関しては、専属のOT(作業療法士)がおり、認知症、脳梗塞など幅広い疾患をカバーする。ニーズは高齢者だけでない。脳性麻痺の患者さんは通院に車椅子を使用する。身体が大きくなってくると車椅子に乗せる家族の負担も大きくなる。また手が硬直するため、注射も難しいが、OTがボール投げなどの訪問リハビリをすることによって、徐々に筋肉が柔らかくなり、注射などもしやすくなった。そして本人に笑顔が出るようになってきたという。
在宅介護ではPSW(精神保健福祉士)の活躍も見逃せない。うつで外出困難であっても訪問看護により薬の処方が可能となる。
「在宅にあたっては全てのケアを私どもで行うというのが目標です。現在、定期的に訪問しているのは72世帯ですが、限界に近いと思われますので、将来、開業をお考えの医師に是非いらして頂きたいですね。」
③キッズセラピー
2001年に医療法人を設立したときに開設したのがキッズセラピーである。精神科デイケアの中での子ども部門として、清水理事長がこだわりを持って展開する。保育士も3人を採用し、その中にはPSWの取得を目指して「医療としてのデイケア」へ関わりを深めたいと言うスタッフもいる。
対象は就学前で、軽度発達障害のある子どもである。昨今、アスペルガー障害、自閉症、ADHDなどの障害について、マスメディアなどで取り上げられることが多くなったものの、一般に認知が広まってきたとは言い難い。「何かおかしい」と思われる子どもが問題行動を起こすこともある。キッズセラピーではそういった子どもに適応能力をつける医療を行っている。
「アスペルガー障害があり、保育所の給食を食べられない子どもがいました。1年お預かりして、保育士と二人きりでお弁当を食べさせるようにしたんです。そうして少しずつ、他の子どもたちとの距離を狭めていきました。アスペルガー障害があると、予測できない事態に遭遇したときにパニックになってしまいます。学校に行っても、いじめられてしまう子もいます。ところが何かのきっかけでいじめる側に回ってしまい、事件を起こしてしまうこともあります。私はそういった社会的行為違反を仕向けているのは社会であると考えています。本当はできる子なんだということをセラピーを通じて証明していくことが使命ですね。」
障害がなくても、家庭でネグレクトなどの虐待を受け、キッズセラピーに通う子どももいる。そういう子どもの母親を呼び、愛情のかけ方など細やかな話をしている。また保育所の保育士、幼稚園の先生方にも来院してもらって、そうした子どもへの接し方などのアドバイスを送る。
「子どもたちが社会性を獲得していくためには社会の協力が不可欠です。そういった子どもたちとの関わり方を見直し、子どもたちのサポーターになれる人材を増やしていきたいですね。」
④アニマルセラピー
アニマルセラピーに取り組む医療施設が増えてはきたが、経営維持費などのコストがかかるため、1年あまりで撤退するところが多い。ところが清水クリニックでは3年継続しているそうだ。現在は犬2頭、猫2匹がセラピー犬、セラピー猫として、癒しの場を作っている。これらのセラピー犬、セラピー猫は動物愛護のNPO法人で、吠えない、指示された餌しか食べない、トイレも示唆するなど、非常に高度な訓練を受けてきたという。医療機関に動物が入ることで心配される感染などを予防するため、各種の保険に加入し、24時間以内のシャンプーも義務づけている。
「5歳の子どもが最初に犬を見て、どこにスイッチがあるのかと聞いてきました。そこで犬を近づけ、心臓の音を聞かせて、生き物なんだと教えました。半年後にようやく触れるようになり、スタッフ1人と子ども2人で散歩に行かせて、順番待ちなどの規則を学んでもらっています。動物との触れ合いを通して、社会性を伸ばしてもらうことが大切ですね。」
⑤禁煙外来 このほど保険適応になり、増患しているのが禁煙外来だ。ニコチン依存症には肉体依存と精神依存があり、まずは肉体依存から脱却しなければならない。ここでは一酸化炭素の濃度を測定し、清水理事長による動機づけを行った上でニコチンパッチが処方される。ほぼ8週で肉体依存は終わるという。その後、精神依存からの脱却を目指すが、身体からニニコチンが抜けているのに、なおタバコを求めるというのは意志の弱さに起因する。そこでタバコ以外の代償を示唆するなど、工夫されたアドバイスをしている。
転勤などで追跡できない患者さんもいるが、現在のところ8割の成功率を誇る。
⑥頭痛外来
「内科や耳鼻科で不定愁訴があると、精神科に行くように言われるみたいで、その中でも偏頭痛の患者さんが多いんですよ」と清水理事長は語るが、特に土曜日に多数の外来患者が来るという。
「月曜から金曜まで緊張して働いて、土曜の休みにホッとしますよね。偏頭痛はそういうホッとしたときに出るんです。現在の日本では800万人に偏頭痛があり、4人に1人の割合ですから高血圧や糖尿病と並ぶほどですが、通院する人は少ないんですね。市販薬をつい飲んでしまうようで、薬剤誘発性の頭痛につながることも多いです。偏頭痛薬が合わない人もいますし、薬の飲み方も指導しています。」
さらに、栄養の摂り方、音や光の調節の仕方など細かい指導をしながら、患者さん本人の知識を増やしていくことを狙いとしている。 |