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ワンストップサービスの地域医療を

清水クリニック

清水 聖保 理事長

 今月ご紹介する清水クリニックは大阪市東淀川区にある。阪急京都線の上新庄駅から徒歩3分ほどの立地であり、周辺は賑やかな商店街となっている。清水聖保(みほ)理事長の専門は精神科であるが、ワンストップサービスを目指し、精神科、精神科デイケア、内科、整形外科、神経内科、リハビリテーション科、皮膚科など多くの標榜科目を掲げる。さらに介護部門も充実した内容となっており、開業当初から老人デイケア、在宅介護を積極的に行う。
清水聖保理事長にお話を伺った。

 清水 聖保 理事長 プロフィール

1965年に神戸市で生まれ、尼崎市、神戸市で育つ。1990年に兵庫医科大学を卒業後、兵庫医科大学精神科神経科医局に入局し、兵庫医科大学病院で研修を行う。1992年から財団法人仁明会仁明会病院赤い羽寮園に勤務する。1999年1月に清水クリニックを開業する。2001年に医療法人を設立し、理事長に就任する。
精神保健指定医、内科認定医、健康スポーツ医学認定医、産業医認定医、介護支援専門員(ケアマネージャー)

 ■ 開業前後
クリニック外観
 「第二のマザーテレサ」と親戚中から呼びならわされた女性こそ、清水理事長が小さい頃、憧れた伯母様、須藤昭子先生だった。その須藤昭子先生はハイチでの医療活動に携わり、清水理事長の親御さんが日本から援助を行っていた。
「お金を送金したところで、ハイチでは買えるものもありません。ですから医薬品を送っていたんです。ハイチでは結核などの感染症予防が第一ですが、抗生物質さえありません。そういった日本とは全く医療レベルの異なる場所で働く伯母の姿を見て、へき地医療に憧れ、医師を目指しました。」

兵庫医科大学に進学し、精神科医を志す。中でも児童精神の分野に強く惹かれたという。
「内科は小児科と分かれていますが、精神科では大人も子どもも同じ科です。アスペルガー障害や発達障害など、子どもの領域はなかなか解決に至りません。私が少しでも果たすべき役割を担えればと思い、専攻することにしました。」
2年の研修医生活を終え、1994年に兵庫県西宮市の仁明会病院赤い羽寮園に勤務することになった。赤い羽寮園は認知症などの重症老人ケアがメインであったが、内科も標榜していたため、内科の認定医も取得する。一方、兵庫医大の助教授であった牧原寛之先生が西宮市に開業されたことから、勉強会に参加するなどして、引き続き児童精神医学を学んだ。
「当時、院内禁煙に踏み切るかどうかで大論争があったんです。患者さんの中にも不安定になる方もいらっしゃいました。私は時間が許せば、患者さんと花見をしたり、病院で借りていた畑で畑仕事をしたり、お隣の北山学園のプールを借りて、患者さんを連れて行ったりしていましたが、何かとポケベルで呼ばれるわけです。私がやりたい医療、理想の医療を行うためには開業しかないなあと感じ始めました。すし詰めでも監禁でもない医療を行うこと、そして精神科に通院するという敷居の高さを低くしていこうとも思いました。」

ご主人の清水聡一郎先生も一足早く、JR兵庫駅前に整形外科を中心としたクリニックを開業するが、清水理事長のもとには友人から現在の物件の紹介があった。これまで、ずっと神戸や阪神間で生活してきた清水理事長だったが、上新庄駅前の風景には実家がある神戸・長田の風景に重なるところが多かったという。
「菅原や御旅といった長田周辺と同じ地名もあって驚きましたね。在日韓国人が多いところも似ていますし、親しみが持てる地域でした。」

開業の準備のために赤い羽寮園を退職したが、ちょうど子どもさんも4歳、3歳、2歳と手のかかる時期であり、阪神大震災の後で保育所選びも思うようにいかず、3か所の保育所に預けていたため、その送迎も重労働だった。さらにデイケアを始めるにあたっては行政との書面のやり取りなど、未経験の業務に追われた。

クリニックは3階建てで、ピンクの外観が印象的である。クリニックのロゴにもあしらわれているチューリップが内装のクロスにもふんだんに描かれ、医療機関らしからぬ温かな雰囲気を醸し出している。
 ■ クリニックの内容

①精神医療
日本の精神医療はアメリカに比べて20年の遅れがあるといわれる。精神科の患者さんとの関わりを避けたがる他科の医師も少なくはない。
「アメリカ映画を見ていますと、ランチの後などに『ちょっとカウンセリングに行ってくるね』というようなシーンをよく見かけます。精神科に通院することは恥ずかしいことでも何でもないという社会にしていきたいのです。」
清水クリニックではカウンセリングを重視し、遠方の患者さんには電話カウンセリングも行っている。遠くは北海道や新潟から飛行機で通院してくる患者さんもいるほどだ。
「継続医療を行っていくことが目標です。薬で治すのは簡単なんですよ。私は患者さんに病識を教えています。どうなったときにきついのかなど、順番に教えていきますと、最終的には自分で予防できるようになります。統合失調症の患者さんでも病識を理解できれば自分で薬も飲めますし、継続就労も可能です。」

②在宅介護
清水理事長は「訪問診療、訪問介護、訪問リハビリ」を常にセットで考えている。現在の規定では、要介護認定1であれば施設への入居は許されない。クリニック周辺には独居高齢者が多く、開業当初から在宅介護の高いニーズがあった。訪問リハビリに関しては、専属のOT(作業療法士)がおり、認知症、脳梗塞など幅広い疾患をカバーする。ニーズは高齢者だけでない。脳性麻痺の患者さんは通院に車椅子を使用する。身体が大きくなってくると車椅子に乗せる家族の負担も大きくなる。また手が硬直するため、注射も難しいが、OTがボール投げなどの訪問リハビリをすることによって、徐々に筋肉が柔らかくなり、注射などもしやすくなった。そして本人に笑顔が出るようになってきたという。
在宅介護ではPSW(精神保健福祉士)の活躍も見逃せない。うつで外出困難であっても訪問看護により薬の処方が可能となる。
「在宅にあたっては全てのケアを私どもで行うというのが目標です。現在、定期的に訪問しているのは72世帯ですが、限界に近いと思われますので、将来、開業をお考えの医師に是非いらして頂きたいですね。」

③キッズセラピー
 2001年に医療法人を設立したときに開設したのがキッズセラピーである。精神科デイケアの中での子ども部門として、清水理事長がこだわりを持って展開する。保育士も3人を採用し、その中にはPSWの取得を目指して「医療としてのデイケア」へ関わりを深めたいと言うスタッフもいる。
対象は就学前で、軽度発達障害のある子どもである。昨今、アスペルガー障害、自閉症、ADHDなどの障害について、マスメディアなどで取り上げられることが多くなったものの、一般に認知が広まってきたとは言い難い。「何かおかしい」と思われる子どもが問題行動を起こすこともある。キッズセラピーではそういった子どもに適応能力をつける医療を行っている。
「アスペルガー障害があり、保育所の給食を食べられない子どもがいました。1年お預かりして、保育士と二人きりでお弁当を食べさせるようにしたんです。そうして少しずつ、他の子どもたちとの距離を狭めていきました。アスペルガー障害があると、予測できない事態に遭遇したときにパニックになってしまいます。学校に行っても、いじめられてしまう子もいます。ところが何かのきっかけでいじめる側に回ってしまい、事件を起こしてしまうこともあります。私はそういった社会的行為違反を仕向けているのは社会であると考えています。本当はできる子なんだということをセラピーを通じて証明していくことが使命ですね。」
障害がなくても、家庭でネグレクトなどの虐待を受け、キッズセラピーに通う子どももいる。そういう子どもの母親を呼び、愛情のかけ方など細やかな話をしている。また保育所の保育士、幼稚園の先生方にも来院してもらって、そうした子どもへの接し方などのアドバイスを送る。
「子どもたちが社会性を獲得していくためには社会の協力が不可欠です。そういった子どもたちとの関わり方を見直し、子どもたちのサポーターになれる人材を増やしていきたいですね。」

④アニマルセラピー
 アニマルセラピーに取り組む医療施設が増えてはきたが、経営維持費などのコストがかかるため、1年あまりで撤退するところが多い。ところが清水クリニックでは3年継続しているそうだ。現在は犬2頭、猫2匹がセラピー犬、セラピー猫として、癒しの場を作っている。これらのセラピー犬、セラピー猫は動物愛護のNPO法人で、吠えない、指示された餌しか食べない、トイレも示唆するなど、非常に高度な訓練を受けてきたという。医療機関に動物が入ることで心配される感染などを予防するため、各種の保険に加入し、24時間以内のシャンプーも義務づけている。
「5歳の子どもが最初に犬を見て、どこにスイッチがあるのかと聞いてきました。そこで犬を近づけ、心臓の音を聞かせて、生き物なんだと教えました。半年後にようやく触れるようになり、スタッフ1人と子ども2人で散歩に行かせて、順番待ちなどの規則を学んでもらっています。動物との触れ合いを通して、社会性を伸ばしてもらうことが大切ですね。」

⑤禁煙外来
 このほど保険適応になり、増患しているのが禁煙外来だ。ニコチン依存症には肉体依存と精神依存があり、まずは肉体依存から脱却しなければならない。ここでは一酸化炭素の濃度を測定し、清水理事長による動機づけを行った上でニコチンパッチが処方される。ほぼ8週で肉体依存は終わるという。その後、精神依存からの脱却を目指すが、身体からニニコチンが抜けているのに、なおタバコを求めるというのは意志の弱さに起因する。そこでタバコ以外の代償を示唆するなど、工夫されたアドバイスをしている。
転勤などで追跡できない患者さんもいるが、現在のところ8割の成功率を誇る。

⑥頭痛外来
 「内科や耳鼻科で不定愁訴があると、精神科に行くように言われるみたいで、その中でも偏頭痛の患者さんが多いんですよ」と清水理事長は語るが、特に土曜日に多数の外来患者が来るという。
「月曜から金曜まで緊張して働いて、土曜の休みにホッとしますよね。偏頭痛はそういうホッとしたときに出るんです。現在の日本では800万人に偏頭痛があり、4人に1人の割合ですから高血圧や糖尿病と並ぶほどですが、通院する人は少ないんですね。市販薬をつい飲んでしまうようで、薬剤誘発性の頭痛につながることも多いです。偏頭痛薬が合わない人もいますし、薬の飲み方も指導しています。」
さらに、栄養の摂り方、音や光の調節の仕方など細かい指導をしながら、患者さん本人の知識を増やしていくことを狙いとしている。

■ 経営方針

①日本精神神経学会精神科専門医研修認定施設
 清水クリニックは2006年に日本精神神経学会精神科専門医研修認定施設に選ばれた。クリニックで認定施設になるのは全国的にも非常に稀有な例である。評価にあたっては、子どもから成人までを扱い、発達障害、うつや統合失調症、アルコールや薬物依存など幅広い疾患を診てきたことが大きかったようだ。
「私と同じ思いの医師を増やし、ワンストップサービスの医療機関を増やしていきたいと願っています。そこで医師を育てていくことを考えました。アメリカでは家庭医が社会に根付いていますが、日本はまだまだです。開業医を目指すなら開業医で研修することが一番でしょう。訪問診療も含めて地域医療に必要なことを教えたいですね。」
自立支援法が施行され、医師の診断書がなければグループホームの入所ができなくなったが、この診断書を書ける医師も少ないという。また精神科は警察、保健所、児童センターなど公的機関との関わりが深く、公的機関との連携までを含んだ幅広い研修が行えることが予想される。
「措置入院の事例も豊富ですし、早ければ3年で専門医を取得して頂けると思います。臨床研修制度が必修になり、精神科を学びたいという研修医も増えているそうです。医局制度が崩壊した今こそ、研修医に来て頂きたいです。また研修施設であればケースカンファレンスが充実しますし、コメディカルにとっても勉強になることが意義の一つだと思います。」

清水理事長 著者・監修
書籍の紹介

②病診連携
清水クリニックがある東淀川区には医誠会病院、淀川キリスト教病院といった急性期病院が近接する。両院ともに在宅に力を入れており、清水クリニックは頼りになる後送施設である。
「医療と介護の連携は常に念頭にあります。私どもでは終末期、看取りまでをケアしていますし、ケアマネージャーの立てたケアプランにも私が積極的に口を出していますよ(笑)。」

③増患対策
開業日には30人だった外来患者数も今では1日150人を数える。高齢化が進む地域ではあるが、若い世代の世帯も多く、偏りのない患者層であるという。
増患対策として、キッズセラピーや専門外来などにはホームページが功を奏しているが、特筆すべきは「チューリップ通信」の存在だろう。毎月800枚の発行部数を持ち、遠方の患者さん、キッズセラピーの卒業生には郵送も行う。
「訪問診療先で楽しみにしてくださっているようで、有り難いですね。この通信がきっかけになって、口コミで増患していったように思います。」
また清水理事長が執筆し、監修した本も増患につながっている。執筆したのは「子どものストレス 母親のストレス」で、監修したのは「うさぎちゃんとおかあさん」という絵本である。

④今後の展開
このほど「いじめ・虐待ホットライン」を開設し、防止運動への協力を始めました。大阪府は虐待での通報件数が日本一です。幼稚園や保育所でスタッフの方にアンケートを取りましたら、半数の方が虐待を受けた子どもたちの扱いや家族への対応に困惑していらっしゃるようです。そこで私どもでは、子育て中の女性が気楽に入れるようなクリニックにしていきたいと思っています。そのためカウンセリングにはさらに力を入れていきます。そして人材育成ですね。社会の人たち同士がもっと関わりを持ってほしいのです。その指揮官になれるスタッフを育てていきたいです。

いじめ・虐待ホットライン
いじめ・虐待 ホットライン
■ 開業に向けてのアドバイス
 地域に根ざしたクリニックにするためには、机上で学んだことではなく実践あるのみです。地域の特性を早く覚えて、言葉遣いから変えていかなくてはいけません。もちろん専門を打ち出すことも求められますが、その打ち出し方を広告やホームページに頼るのではなく、口コミで広がっていくような実践が大事ではないでしょうか。痒いところに手が届くようなサービス、真のインフォームドコンセントが行えるように努めて頂きたいです。
■ 院長のプライベート
 趣味はダイビングです。音のない世界に癒されますね。子どもたちも10歳のときから始めさせました。徳島県の牟岐に行くことが多いです。日本海洋レジャー安全・振興協会(DAN-JAPAN)の登録医療機関にもなっておりまして、潜水病の研究もしています。また喘息の子どもさんがダイビングをするにあたってのご相談にも乗っています。
先生タイムスケジュール


クリニック平面図



清水クリニック
理事長 清水 聖保 氏
住所 〒533-0005
大阪市東淀川区瑞光1-4-26
医療設備 レントゲン、脳波、心電図、脈波図、低周波、中周波、ウォーターベッド、牽引器具、重振動揺計
延べ床面積 150坪
敷地面積 545㎡
物件形態 鉄筋2階建て
スタッフ数 理事長、非常勤医師8人、看護師10人、受付5人、リハビリスタッフ7人、PSW3人、保育士3人、ヘルパー4人、臨床心理士2人、カウンセラー6人、幹部職2人、運転手1人
開業資金 約2000万円
HP http://www.shimizu-clinic.com/


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(終わり)
2007.04.01掲載 (C)LinkStaff

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