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心の暖まる診療を…

ゆかりレディースクリニック

辻ゆかり院長
 神戸市の中心地である三宮に2004年に開業したゆかりレディースクリニックをご紹介する。JR、阪急、阪神のターミナルとなっている三宮駅から徒歩8分ほど、神戸市営地下鉄三宮・花時計前駅、旧居留地・大丸前駅からは徒歩6分の場所にあり、神戸随一の繁華街である元町駅からも徒歩圏内と非常に便利な立地である。

診療科目は婦人科がメインであるが、形成外科、美容と幅広いニーズに応え、人工妊娠中絶などの手術も積極的に行う。

「患者さんから『こんなクリニックを待っていた』と言われるような、女性による女性のためのクリニックでありたい」と話す、辻ゆかり院長にお話を伺ってきた。

辻ゆかり院長プロフィール

 沖縄県那覇市出身。1992年に琉球大学医学部を卒業後、沖縄県豊見城市の沖縄協同病院で研修を行う。1995年に大阪府堺市の耳原総合病院に移る。1997年に沖縄協同病院、1998年に耳原総合病院を経て、2004年12月にゆかりレディースクリニックを神戸市中央区に開業する。

■ 開業前後

 辻ゆかり院長は沖縄県那覇市で生まれ育った。医師を目指したきっかけは中学生の頃に読んだ「ブラックジャック」だったという。 「ブラックジャック本人もさることながら、ブラッククイーンという女性外科医に憧れましたね。何ともかっこよかったです。全巻揃えて、セリフも覚えてしまうほど熟読しました。」
 
琉球大学医学部に入学し、当然のように外科医を目指したが、「女性が外科に入局するのはきつい」と周囲から助言を受け、専門科の選択に頭を悩ませるようになった。
「しかしながら、やはりメスを持つ科の医師がいいと改めて思いましたね。外科への入局が叶わないのであれば、整形外科なども視野に入れて考えてみようと、当時まだ珍しかったスーパーローテートでの研修を行っていた病院を探しました。」

 辻院長は大学の持つ閉鎖的な雰囲気や教授を中心とした上意下達の人間関係には違和感があったという。当時の大学では研修開始時には専門科が決まっているストレート形式での研修だったが、沖縄協同病院では3年間に渡るスーパーローテートを行っていたため、研修しながら、じっくり時間をかけて専門科を選ぶことにした。この間、救急から老人病棟まで経験し、内科、外科、整形外科、小児科、麻酔科、脳神経外科を回った。最後に行ったのが産婦人科で、ここで専門科が決定する。
「産婦人科であれば、メスを持った手術もできますし、ホルモンなど内科的な疾患も多いです。そういった幅広さに惹かれました。なにより患者さんが女性ですから、女性である私が女性の患者さんを診ることに意義を感じましたね。」

 辻院長は産婦人科の魅力を「科学で割り切ることができない神秘的なところがあること」だと語るが、それが東洋医学への興味の原点だろう。ただ産婦人科の場合は産科と婦人科の領域に分かれるが、辻院長はがん患者との触れ合いから徐々に婦人科へと軸足を移していった。
「がんで亡くなる方は本当にいい方が多いんです。いい人に限って、若くして亡くなっていくことが寂しかったですね。産婦人科病棟には、そういう亡くなる方もいれば、出産で『おめでとう』と言われる方もいるという両極端があります。私はがんになる前に検診や予防を行っていくことが重要だという情報を発信していきたいと強く思うようになりました。」
そこで婦人科領域での疾患の症例数を増やすために、長年住み慣れた沖縄を離れ、大阪府堺市の耳原総合病院に勤務することになった。そして沖縄協同病院に一旦戻り、1998年に再び耳原総合病院に勤めたが、その後、結婚、出産と転機が訪れる。
「2000年に子宮内膜症になり、手術を受けました。専門医であり、毎年検診を行っていた私が子宮内膜症を患ったことはショックでしたが、私であっても病気になるのだから、一般の方へさらに検診の重要性を訴えていかなくてはいけないと思いました。手術したことで妊娠しやすくなったのか、2001年、2002年と続けて出産したんです。ところが、産休などで周囲に大きな迷惑をかけてしまいましたし、私も体力的に限界でしたので転科か開業を考えるようになっていきました。」

 辻院長は転科先の候補として美容の分野を挙げ、非常勤で美容外科などに勤務する。そこで、いわゆる「雇われ院長」のオファーも得たが、自分の好きな医療を十全に行える環境ではなく、転科するには至らなかった。そこで、もう一つの選択肢であった開業を本格的に考え始めたという。開業であれば、辻院長の理想とする医療が行える。それは西洋医学の型にはまった医療ではなく、オーダーメイドの医療であった。非科学的と言われる分野であっても、患者さんの身体を治すために必要なことを取り入れた統合医療を目指そうと決心する。

 「2003年の秋頃から、場所探しなどを始めました。阪神間に住む予定でしたので、開業地も大阪か神戸にしようと考えました。でも人が大勢いる梅田はどうしても好きになれなかったんです(笑)。一方で神戸は海に近く、三宮の人々の賑わいも程々で好感が持てました。そこで神戸のビルを中心に見て回ったところ、こちらの物件に出会い、決定しました。」
辻院長が入居を決めた理由は、ビルの審査基準が厳しく、消費者金融や雀荘などが入居できないという点だったという。女性患者がほとんどを占めるクリニックではそうした配慮が必要であろう。現在もビル内のクリニックはゆかりレディースクリニックだけであるが、税理士事務所などが入居し、上品なビルである。 内装は数多くのクリニックを手掛けてきたセブンスターデザインのハマダシンヤ氏に依頼した。女性が安心して受診できるような空間となり、各エリアの照度にも工夫が見られる。

 「クリニックらしからぬ暖かな空間にしたかったんです。ただ実際に開業してから、車椅子が通行できるドアに換えたり、待合室の患者さんの様子がよく分かるようにレイアウトを変更したりという調整を行ってきました。」
スタッフに関しては、求人誌やハローワークなどで募集を行い、苦労せずに集めることができたという。 「開業当初は患者さんの数も少なく、1人もいらっしゃらない日もあったんです。ですからスタッフも受付3人に看護師1人ぐらいの体制でしたよ。看護師すらいない時期もありましたから(笑)。」

  また辻院長のご主人である辻茂氏も事務長として、クリニックのマネージメントを行うことになった。辻事務長も「楽しく勉強した日々でしたよ」と今では開業当初の日々を懐かしく振り返るが、弁護士、税理士、社労士といった専門家のもとへ足を運び、労働基準法や雇用に関する勉強を続けたという。

  さらに辻院長は性同一性障害なども学び、開業医として幅広い知識を得る努力を重ねたが、「勉強に関しては、開業後の方が大変です」と話す。

■ クリニックの内容・運営

① 低用量ピル

辻院長がゆかりレディースクリニックの診療のメインに据えているのが低用量ピルである。日本では1999年に認可されたものの、ピルを取り巻く環境は好転したとは言えない。  
「『ピルは避妊薬にすぎず、ホルモン剤は副作用を起こす』などと、ピルについての偏見はいまだに強いものがあります。本来、ピルは疾患の予防や治療に使用する薬であり、避妊に『も』使えるものなのです。この『も』の部分をきちんと説明しながら、卵巣や卵の性質には影響を及ぼすものではないことをもっと周知徹底していきたいですね。」
ゆかりレディースクリニックでは、初診の患者さんには必ず検診を勧めたうえでピルを処方している。ピル専用の問診票はホームページからも記入できるなど、患者さんの利便性を考慮したものだ。
またピルには月経困難症の軽減、月経時の貧血改善、卵巣がん、子宮体がん発症リスクの低下、月経周期の安定、子宮内膜症の症状や進行の抑制、子宮外妊娠、卵巣嚢腫の減少といった副効用があることは意外に知られていない。さらに近年、注目されている副効用としては、にきびの改善といった美容領域が挙げられる。
「低用量ピルだけで全て解決できるわけではありません。漢方薬や整体、整骨院などと組み合わせて治療を行っています。若い方も多数来院されます。勤務医時代には高校生を診察することはあまりありませんでしたが、開業すると、そういった若者の姿が間近に感じられるんです。これからも正しい知識を持ち合わせない多くの若者に正しい知識を発信していきたいです。」

② 子宮頸がん

ゆかりレディースクリニックでは子宮頸がんの検診に注力している。子宮頸がんにはHPVウイルスの関与が認められるため、検診では細胞診が中心となっている。この中でも異形成であれば6か月以内に治癒可能であり、早期発見がより重要である。
「欧米ではワクチンが承認されていますが、日本ではまだ治験の段階です。子宮頸がんは高齢者の病気だという誤った認識も広まっていますが、若い方ほどHPVに感染する率が高いのです。早期発見、早期治療の意義を広める必要がありますね。」


③ 子宮、卵巣の腫瘍
  
検診により子宮や卵巣の腫瘍が見つかるケースも多い。超音波検査で異常があれば、手術を行う必要がある。最近では若年層の罹患も増加中である。
「子宮や卵巣の腫瘍は30歳を過ぎてから多くなると言われますが、ホルモンバランスの崩れから若年層にも増えてきました。先日は15歳の方がいらっしゃいました。若年層に対しては妊娠可能性を残すための処置が求められます。また親御さんへの説明も不安を取り除くために丁寧に行っています。」

④ 性感染症

 性感染症ではクラミジアやトリコモナス、性病ヘルペスなどが目立つ。クラミジアは近年最も多い感染者が多い疾患であるが、感染した女性の約80%に自覚症状がなく、放置していれば子宮頸管炎や骨盤腹膜炎などを併発するリスクがある。
「性感染症にも誤解による勘違いが多く見られますね。喉にも感染症があること、潜伏期間の存在、薬の飲み方などを指導しながら、早めの治療を行っています。」
また神戸市で行っている無料のHIV抗体・STD検査への受診も、神戸市役所のホームページをプリントしたものを院内に置いて、勧めている。

⑤ 婦人科小手術、人工妊娠中絶

人工妊娠中絶を行わないレディースクリニックは数多いが、ゆかりレディースクリニックでは開業にあたって手術室を完備し、行っている。「中絶に関しては『あえて』行っている感が強いですね。こういった社会の闇の部分に目を向けていかなくてはいけないと思っています。婦人科小手術は小陰唇縮小術が中心です。」

■ 経営方針

① 病診連携

ゆかりレディースクリニックでは、神戸市中央区の神戸市立医療センター中央市民病院との病診連携を積極的に行っている。開業当初にクリニック内で急変した患者さんを搬送したところ、非常に手厚い対応があり、それ以来お互いに信頼関係が構築でき、紹介、逆紹介の体制が万全となっている。逆紹介の場合は、子宮頸がんや卵巣腫瘍などの術後の検診を任されることが多いという。
「神戸市北区や三田市などの患者さんの場合でも地域に受け皿となれる病院が少ないので、中央市民病院を紹介することになりますね。私自身も神戸出身ではありませんので、そこまで情報を持っているわけではありませんが、患者さんにふさわしい病院や医師をご紹介できるようリサーチを重ねているところです。」

② 増患対策

開業当初は患者数がゼロだった日もあったが、開業から2年半を過ぎた現在では1日100人を超える来院患者があり、昨年には常勤医師を迎えることができた。この増患を牽引したのがホームページの存在だろう。開業当初からサイトの充実に気を配り、辻院長も多くのメッセージを寄せている。
今年6月には人気雑誌「Hanako WEST」の企画で、イベントを開催し、辻院長、前述の常勤医師である上坂亜由子先生の講座が開講された。「女性の体の悩みについて」というテーマのもと、月経痛、女性の喫煙、ピルの安全性などについて講演し、150人の参加者を得た。
「Hanako WESTは働く女性のバイブルとして長く愛読しており、エステティックサロンを探すときなど活用させてもらっていましたので、今回のイベントの話は本当に嬉しかったですね。大阪で行いましたので、直接の増患につながったのかどうかは分かりませんが、参加された方から『もっと聞きたかった』と言って頂きました。

③ 今後の展開

ピル専門外来を近いうちに設置します。患者さんの年齢層も幅広くなってきましたが、更年期障害の患者さんに若いスタッフが応対するのは患者さんの安心感にはつながらない面もあるようですので、受付スタッフの年齢層も幅広くしていきたいと思っています。患者さんに気楽に来て頂いて、ピルをお渡しする外来が理想です。それから統合外来も始めたいと考えています。泌尿器疾患や痔などの勉強をさらに進め、ホメオパシーなど東洋医学の力を借りた治療を行い、患者さんの精神的な面までサポートしていきたいですね。

■ 開業に向けてのアドバイス

 employerとemployeeの1文字の差は大きいです。勤務医として働いていた頃は「不満があって、不安がない」状態でしたが、開業後は「不満がなくて、不安がある」状態へと変わりました。全てのスタッフを満足させることはできません。しかし、院長についていきたいと思うスタッフは必ずいますし、そういうスタッフはずっと残ってくれます。患者さんも同様です。私どもでは患者さんのカルテナンバーが9000番を超えたところですが、今も二桁番台の方もいらっしゃいます。そういう出会いの喜びは大きいですよ。

■ 院長のプライベート

 子どもは長男が6歳で、長女が5歳です。現在の趣味は海外ドラマを見ることです。特に「CSI:科学捜査班」、「デッド・ゾーン」、「LOST」などが好きで、ビデオに録画して欠かさず見ていますよ。

先生タイムスケジュール


クリニック平面図



ゆかりレディースクリニック
理事長 院長 辻ゆかり氏
住所 〒650-0021 神戸市中央区三宮町1-4-9ウエシマ本社ビル3F
医療設備 内診室(3台)、電子エコー、レーザーメス、骨密度測定器
延べ床面積 169㎡
物件形態 ビル診(9階建て3階)
スタッフ数 常勤医師2名、看護師6名(パート含む)、事務職9名(受付含む)
開業資金 9,000万円
運転資金 1,000万円
HP http://www.yukari-clinic.com/


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(終わり)
2007.08.01.掲載 (C)LinkStaff

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