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西出和幸院長 |
今月ご紹介する西出医院は大阪市淀川区にある。大阪の大動脈である地下鉄御堂筋線の東三国駅から徒歩10分ほどの立地であり、周辺人口も約15000人と恵まれた環境である。西出和幸院長は救急を専門として、卒後12年間の勤務医生活を送り、1988年に開業した。救急出身ならではの特性を生かし、内科、外科、整形外科、放射線科、小児科、リハビリテーション科といった多数の科目を標榜している。また最近では介護事業も積極的に展開する。
西出医院の盛業の理由は充実した病診連携にあろう。西出院長は大阪大学の関連病院で長く勤務したことから人脈が広く、それが病診連携を支える基盤になっていると思われる。
西出和幸院長にお話を伺ってきた。 |
西出和幸院長 プロフィール
1950年に大阪市で生まれる。1976年に大阪大学を卒業後、麻酔科、救急部、外科で研修を行う。その後、大阪大学医学部附属病院麻酔科、大阪府立病院救急部、市立川西病院、大阪大学医学部附属病院特殊救急部、済生会神奈川県病院外科、国立大阪病院(現 大阪医療センター)脳神経外科、大阪府立病院救急部に勤務し、1988年に西出医院を開業する。
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■ 開業前後 |
西出和幸院長は高校生の頃、友人の事故に遭遇し、救急医療を志したという。大阪大学卒業後は初志を貫き、救急を専門にしながら関連病院で研鑽を積んだ。当時は将来開業することを全く考えず、ひたすら臨床に打ち込んだという。
「ところが大学というところは学会主義なんですよね。にもかかわらず私は学会での発表や論文の執筆がどうも性に合わなかったんですね。やはり臨床が好きですし、研究者や教育者になるのは向いていないなあと感じていました。開業すれば、もっと臨床ができるんだという思いも出てきたんです。今、同級生を見ていますと、勤務医をしているものは管理職になってしまい、臨床からは遠ざかるをえないようですしね。」
そして勤務先の病院では勤務医の高齢化が徐々に始まっていた。1986年頃のことである。
「今の病院の姿が当時からある程度予測できていました。勤務医が高齢化していくと、若い医師がのびのびと働ける場所が狭まってきます。私が開業して一つのポジションを空けることも意味があると思いました。資金繰りも何とか目処がつきましたので、開業の場所探しをすることにしました。」
西出院長のこだわりは、半径500メートル以内に競合がなく、医師会へ円滑に入会できそうなところ、自宅から車で10分以内のところということで、実際に決定するまで1年ほどかかった。開業地は御堂筋線の東三国駅から近く、賑やかな商店街を少し抜けた場所である。新規参入のしやすい場所なのか現在では医院も多くなってはいるが、当時としては希少な医院であり、患者さんの獲得も比較的順調であろうという見込みがあった。
「ずっと救急をやってきましたが、開業にあたってまず決めたことは『救急の看板は上げない』ということでした(笑)。しかし当時としては珍しい開頭、開胸、開腹ができる医師でしたので、外科、内科、整形外科を標榜科目としました。」
開業に際し、西出院長が苦労したのは勤務先の病院を退職するタイミングであったという。
「容積率などの検査のために工事が遅れてしまったんです。医院が竣工した時点で開業の申請を出すのですが、開業後1ヶ月は保険診療ができませんので、そこを逆算して退職時期を探るのは難しかったです。結局開業の2ヶ月前に退職という形になりました。」
スタッフは看護師1人、看護助手1人、事務1人を新聞に募集広告を出したところ、すぐに決定した。
医院のスペースは144㎡と十分な広さがあり、西出院長も「できるかぎりの処置はしたい」と処置室を完備した。現在も小外科の手術に使用しているという。
「広さについてはこんなものだろうと思っていましたよ。私としてはコーヒーの香りが漂う診療所にしたかったんです。病医院の消毒薬の臭いって嫌なものですしね。ただ設計の方が高齢だったからか、コーヒーでなくて給茶器になってしまいました(笑)。まあ、『お茶でも飲んでいってくださいよ』といった気さくに入れる医院であればいいと思っていますよ。」
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■ クリニックの内容・運営 |
① 内科
西出院長は「開業当初は治療を主体とした『街のお医者さん』をやっていましたが、5年ぐらい前から検査を重視するようになりました」と語る。この背景には、患者さんや患者さんのご家族のニーズの変化があるという。
「胃が痛い、吐き気がするといった訴えに胃薬を処方するだけではなくて、がんを疑えということです。あるいは便に血が混じっていれば大腸がんを疑うなど、病気を見逃すなといったニーズを強く感じるようになりました。そこで発見し、診断すべきは診断するといった方針へと転換していったのです。」
西出院長は診療には5つのレベルがあるとしている。1番目は「問診を行うが、投薬のみの応急的な治療」、2番目は「ある程度の検査を組み込んでいく治療」、3番目は「できるだけの検査をして、病気を見逃さないようにする治療」、4番目に「検診を含む予防医学」、5番目が「最高レベルの予防検診」である。その中で西出医院では3番目から4番目のレベルの診療を展開している。
「医院での検査には限界があります。そこで病診連携をして、患者さんにトップレベルの医療を提供していきたいのです。例えば狭心症の疑いのような循環器疾患であれば、桜橋渡辺病院でCTアンギオを受けて頂くなどですね。患者さんには年に1万円は検査に使うように話しています。5番目の予防検診に関しては自費負担も高額になりますが、医誠会病院や大阪回生病院のPETを含んだ検診をお勧めしています。」
このほか呼吸器疾患は大阪厚生年金病院、刀根山病院、がん全般は大阪府立成人病センターと厚い連携体制をとる。いずれも大阪大学系列の病院であり、西出院長の同級生が部長を務めるなど、豊富な人脈が可能にするところである。
一方、西出院長は現在の日本の医療は二律背反的なジレンマを抱えていると指摘する。
「厚生労働省は治療費を抑えようとしています。そうすれば見落としは出てくるんです。そして裁判所での司法の判断は『患者は最高の医療を受ける権利を有している』ということですから、難しい状況ですね。」
② 外科
医院という規模ゆえに、外科を標榜していても整形外科と重なる部分は多い。「外科」としては痔やヘルニアなどの手術、乳がんの診断などである。また小外科の外来でいぼを取るなどの処置も行うが、大きな手術であれば大阪厚生年金病院の形成外科を紹介している。そのほか乳がんに関しては大阪ブレストクリニックとの診診連携を行う。一般的な外科や泌尿器科は大阪医療センター、脳神経外科は大阪厚生年金病院との病診連携が特徴である。
③ 整形外科、リハビリテーション科
手足の骨折や捻挫などは西出医院で治療を行うが、複雑骨折などの難症例は大阪厚生年金病院へ紹介している。むしろ西出医院ではペインクリニック的な治療に力を入れている。例えば五十肩、腰痛、膝などの足の痛みに対して、関節内注射ではないトリガーブロックを有効な治療手段として用いる。
またリハビリに関しては大腿四頭筋の筋力維持を図り、予防的に行いながら患者さんの老化の進行を遅らせることを目指す。具体的には立ったり座ったりの過程で跪座の姿勢がとれれば、寝たきりの予防に大きな効果があるという。
「理学療法よりは本来のリハビリとして運動療法ではっきりと効果を出そうと思っています。ただし運動療法では点数がとれないのですが(笑)。片麻痺で退院後、車椅子生活だった患者さんが半年で杖歩行ができるようになりましたよ。」
西出医院のリハビリには看護師の果たすべき役割が大きい。他動運動を支えるのは医師と理学療法士だが、自動運動のそばでアドバイスを送るのが看護師だからだ。
「実際は看護師の努力で効果を生んでいるんです。このほか言語療法では歌を歌ってもらったり、九九を言ってもらったりしていますが、簡単なことを根気よく続けることが大切ではないでしょうか。高齢女性にはマニキュアなどのメークも効果がありますよ。」
④ 小児科
はしか、風疹、水疱瘡といった感染症などの応急的処置や予防接種が中心で、医院レベルの小児科でカバーできる領域を丁寧に診察している。
⑤ ホルモン補充療法(HRT)
西出医院では更年期障害や骨粗しょう症などの治療にホルモン補充療法を積極的に用いている。骨粗しょう症に関しては認可以前からエストラダームMの貼り薬を使用し、骨形成の促進を行ってきた。また更年期障害ではエストロゲンを使って、卵巣、卵管の機能を促進させている。さらにプロゲステロンを併用することでエストロゲンによって増殖した子宮粘膜を増殖浮腫状にしたり、エストロゲンとともに乳腺の発育増殖を促進する。西出院長は「休薬期間を置くなど、女性の本来のホルモンサイクルを重視しています」と話す。
⑥ 在宅医療
介護保険制度の開始を受けて、介護事業所を併設した。看護師である奥様がリードしながら、患者さんのニーズに合わせて地道に展開している。現在は専門の事務スタッフ2人、ケアマネージャー3人、介護職員10人という陣容で10を超える介護施設と連携している。
「今年から火曜日の午後には訪問診療を行っています。その間、医院の方は非常勤医師に来てもらっています。今後もこつこつとやっていきたい分野ですね。」 |
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■ 経営方針 |
① 無借金経営
西出医院では開業以来「無借金経営」を貫いてきた。薬品だけでなく、全ての業者への支払いを翌月に行う体制で健全経営を行っている。
② 職員が働きやすい環境を
このほど「職員のライフスタイル、働きやすさを第一に考える姿勢」が評価され、大阪府いきいき企業賞、大阪市きらめき企業賞を相次いで受賞した。西出医院では全職員に対し、年2回の個別懇談を実施し、職員の家庭事情などに対応した勤務体制を組んでいる。
また有給休暇の完全取得や、介護休暇、育児休暇も完備し、時間短縮などにも柔軟だ。さらにヘルパーや医療事務などの資格取得支援制度も整備している。
「こういった体制を構築するには人員配置を厚めにする必要があり、当然ですが人件費もかかります。しかしながら孫子や武田信玄の『人は城…』のように、人材には贅沢したいと考えてきました。就業規則を作り、当たり前のように守ってきただけなのですが、このような賞を頂けて、有難いですね。今後も男女の差がなく、女性が働きやすい職場環境を作っていきたいと思っています。」
③ 今後の展開
2人(複数)医療体制を構築したいと考えています。やはり医師が一人では私が病気したときのバックアップ体制が不十分ですから。そして医師の自由時間も確保できません。私どもは「一人医療法人」ですので、第三者を後継者として継承をお願いしたいと思っています。患者さんの診療情報を記したカルテを保存し、円滑に引き継いで頂けるような内科の医師においで頂きたいですね。「院長が65歳のときに買い取る」など、継承の方法についてはご相談に応じます。
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■ 開業に向けてのアドバイス |
自分の城を自分で築けるという面で開業には面白さがありますが、将来の医療システムはあやふやなところも多く、高額な投資にはリスクがあります。そこで「一人医療法人」となっている既存の医院をスムーズに継承するというのも選択肢の一つになるのではないでしょうか。「一人医療法人」の経営者のつながりもありますので、資金の調達が難しい方は気楽にご相談ください。また医師は人事や労務の知識に乏しいので、開業にあたっては勉強が必要ですね。それから病院の病棟には必ず師長がいます。この師長の大きな役割は女性スタッフを束ねることにあるわけです。医院程度の規模であっても女性スタッフを管理できるスタッフを確保することは大切だと思います。
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■ 院長のプライベート |
趣味は写真です。以前は妻を助手にして、三脚と重い一眼レフを担いで撮影に行っていたのですが、この頃はデジカメで気軽に楽しんでいます。風景をスナップ的に撮るのが好きですね。
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先生タイムスケジュール |
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クリニック平面図 |
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西出医院 |
院長 |
西出和幸氏 |
住所 |
〒532-0002 大阪市淀川区東三国6-10-10 グレースフル第2東三国(Ⅱ)1F |
医療設備 |
レントゲン、心電図、カラードップラー心エコー、重振動揺計、牽引器具、呼吸機能検査、ABR・SEP誘発電位検査 |
延べ床面積 |
144㎡ |
物件形態 |
ビル診 |
スタッフ数 |
院長、非常勤医師3人、看護師5人、レントゲン技師1人、事務員5人、柔道整復師1人、ケアマネージャー3人、介護職員10人 |
開業資金 |
7500万円 |
HP |
http://www015.upp.so-net.ne.jp/s24dhp/a1204top.html |
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拡大
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(終わり) |
2007.10.01.掲載 (C)LinkStaff |
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