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循環器専門医による在宅医療

中司内科

中司 昌美院長

 今回ご紹介する中司内科は山口県のほぼ中央部に位置する。“菅原道真”が九州に流刑される時に立ち寄ったえにしから造られた天満宮のある防府市にあり、JR防府駅から車で10分程で中心街からは離れてはいるが、昔は中関港という瀬戸内海の海上交通の要所として栄えた古い町並みと江戸時代からの塩田跡地に“マツダ”“ブリヂストン”の工場が進出し工場で働く人々の新興住宅街として新たに開発されつつある地域に位置している。
  中司内科の診療科目は内科、循環器科、呼吸器科、アレルギー科であり、地域に密着した在宅医療、病診連携を目指し、地域医療に貢献している。

中司 昌美(なかつか まさみ)院長のプロフィール

 山口県防府市出身。地元の高校を卒業後、1982年に日本大学医学部を卒業する。
同年、山口大学医学部第二内科に入局し、集中治療部での研修後、1983年には国立浜田病院(現 浜田医療センター)に勤務する。1985年に山口大学第二内科に戻り、ICU担当を勤め、1988年に徳山中央病院に循環器内科部長として勤務する。1998年から三田尻病院勤務を経て、2000年1月1日に開業する。日本内科学会認定医、日本循環器学会専門医、日本医師会認定産業医、日本体育協会認定スポーツドクター

■ 開業前後

 中司院長は日本大学医学部を卒業後、外科医を目指し虎ノ門病院の外科研修医に合格したが、当時は医局体制の真っ只中で2年間の研修終了後の身分保障はない状況であり東京の医局で長年研修勤務した後に地元に帰って一から始めることははなはだ難しい状況だったので山口大学の医局に入局することにした。
  「父親が建設業を経営する傍ら、防府市の市議会議員だったんです。父が地域の振興と活性化に長年努力している姿を見てきた私は医療というフィールドで地域の皆さんへの支援ができればと思っていました。私の身内や同級生、先輩、後輩のご両親もみな年を重ね、少なからず医療や介護の必要性も出てくるでしょうし、これまでの恩返しに医療という形で報いたかったんです。」

 しかし山口には殆どコネクションがなかったが、たまたま山口大学の第二内科に日本大学の先輩が勤務していることが分かって、その先輩から山口大学のそれぞれの医局の事情を教えてもらった結果、第二内科に入局した。
 「当時の多くの医者がそうであったように、特別な強い意志があったわけではないが、いろいろな偶然が重なった結果、専門を決めたということです。それが幸運な流れではあったのですが。」
 山口大学第二内科では、入局時の指導医の先生が循環器・心臓カテーテル専門であったため、心臓カテーテル班として研修を務め翌年には、いろいろな事情から医局のお膝元から遠く離れた山陰の国立浜田病院(現 浜田医療センター)に派遣されることになった。
  「結果として、そのことも幸運でした。当時は検査を積極的に行われている非常にエネルギッシュな先生がおられ、島根県中から患者の紹介を受けていました。またその頃から心臓カテーテルは検査方法というカテゴリーからカテーテルインターベンションという治療手段として変貌しつつあり、全国的に急速に広まる時代となっており、冠動脈インターベンション第二世代として技術の革新を実感しながら、技能の研鑽を積むことができ、それが医師としての基盤となっています。」

 1988年以降は地域の中核病院の勤務医、循環器部長として当時年間400例の心臓カテーテル検査、治療を行い常時20名前後の入院患者、1日100人の外来患者を診るハードな勤務を続けていく中で、次第に強く疑問を感じることがあった。それは地域の高齢者医療の厳しい現実である。当時は今のような入院口数制限はないものの、限られたベッド数で治療・検査のための入院ベッドをやりくりしなければならないため軽症と思われる高齢者、入院が長引きそうな高齢者は選別せざるを得ない状況があった。たとえ長年外来に通院していた人でも、評判を聞いて我々に頼って受診してきた人でもいろいろと言い訳を考えて入院を拒否し他へ回っていただいた。冬場の多い時期には1ヶ月で20人以上の患者の依頼をことわったこともあった。
  「治ったであろう患者さんでも、診てあげることが出来ず、他院で亡くなってしまうこともあり、本当にジレンマでした。最新の医療を追う事は魅力的なことですが、私は患者さんの信頼に応える地道な医療を目指そうと思ったんです。」
  そのためには、いつでも自由に使えるオープンベッド的な病床が是非必要でしたが幸いに防府には医療法人三田尻病院があってその院長は同級生で山口大学の医局の同門で同じ心臓カテーテル班であったため、開業して同院との病診連携のもとに医療を行っていく構想を同院院長ならびに担当教授の松崎先生に話し、許可を得て1998年より三田尻病院に転勤させてもらい、同院での他科の医師との連携、入院、心臓カテーテル検査、治療のシステムに慣れ準備した後に2000年に開業した。
 親や親戚が開業医だったわけでもなく、基盤も全くなかったが、医局や地域の中核病院で急性期の勤務医として積み上げてきた数多くの苦労や実績、そして人との繋がりが自然に開業という流れをつくっていったという。
  開業地は実家に近く、近隣の病医院数や地域人口、バス路線ではなくとも広い駐車場が確保できる車のアクセスの良い地を選んだ。開業資金は土地、建物、設備、施設を併せ約2億円で、運転資金は1000万円を用意した。これは自己資金と両親からの借り入れ、銀行からの融資で何とか目処を立てた。スタッフの採用にあたっても、新聞の折込みで求人したところ、数10名の応募があり、その中から良い人材を採用できた。
  また開業前に、竣工した医院の「内覧会」を開催した。アーチ型の屋根、曲線的な建物の外観は当時近隣にはなかった建物で人目を引いた。またバリアフリー設計で、ベッドカバーや受付のソファーなどの色にもこだわった温かみのある内装も特徴である。
  「私たちが考えていた以上に多くの方が見学に訪れてくださいました。どんな医院なのか、そして院長はどんな人なのかと思っていらっしゃったことでしょう(笑)。」


 新しいスタートに相応しい日を選びたいと、2000年1月1日を開業日とした。元旦にも関わらず初日から29人の外来患者が訪れ、その月のレセプト枚数も800枚に上った。現在も、地域の医療ニーズや患者さん個々の信頼に着実に応えていった結果、1日の外来数が150名を超える日も多い。

■ クリニックの経営方針・運営内容

○地域のかかりつけ医として質の高い在宅医療を提供

 中司内科は現在、在宅療養支援診療所である。元々目指していた医療が、ゆりかごから墓場までではないが、自宅のベッドから集中治療室まですべての臨床の場面に付き合うことだったので、そのことが在宅療養支援診療所のコンセプトと一致した。
  通院困難な高齢者の在宅医療、在宅リハビリ指導、栄養管理などの生活支援から、癌末期患者の在宅緩和ケア、慢性呼吸器疾患患者、慢性心不全患者、神経難病患者の在宅人工呼吸など高度医療を行って、自宅ベッドで可能な限り病院と同じ医療が受けられるように務め、必要があればいつでも休日・夜間にかかわらず三田尻病院に入院させ主治医として治療したり、時には介護される家族の方々の休息のための一時的な入院ができる体制をとっている。
  そのために看護師が午前、午後と訪問看護へ回り、院長は昼休みや外来終了後の夜間21時頃まで、重症患者では診療開始前の朝6時頃から訪問診療、または三田尻病院の入院患者の回診を行っている。

○充実の「ひとり病診連携」

 地元のおじいちゃん、おばあちゃん、地域の方々一人一人の信頼に応えていく医療を目指したいですね。そのためには必要とあらばいつでも入院でき、いつでも退院して在宅医療に変えられる患者さん主体の姿勢が必要です。そこで私は現在の『ひとり病診連携』のスタイルを取っているんです。
  従来の入院のために紹介する場合は、入院するにしろ退院するにしろ医者同士互いにいろいろと遠慮が入ってしまうものですが、連携病院で主治医でやっていれば患者さんも自分のことを知っている医師にいつものように診てもらえ、患者さん一人一人の特性にあった治療・療養スタイルが選べ、仮に肺炎で入院しCRPが完全に陰性化しなくとも退院してひきつづいて在宅で治療を続けたり、高齢者で入院によりせん妄状態ができればすぐに在宅に戻して治療を続けるようにしており、結果として入院期間が短くでき、入院による廃用症候群を妨げるので非常に効果的です。困ったらすぐに電話一本で他の医師にお願いできるので患者さんも安心です。もちろんすべてを自分一人で出来るわけではありません。当院での病診連携としては、1ヵ月平均として入院治療を受ける患者さんが20~25人でそのうち連携の三田尻病院に入院する人が80%、地域の中核病院にお願いする人が20%です。
三田尻病院に入院する人の80%は主治医として治療を進めますが他は他科の先生にお願いしております。入院以外では1ヵ月平均40~50人の他科紹介、検査をお願いしておりますが、そのうち50%は三田尻病院でのCT、MRI検査、他科受診を当院からの電話予約で行っており40%が診々連携で他科専門医に、10%を中核病院にお願いしておりいずれも待ち時間のないように考慮させております。

○循環器専門医のかかりつけ医

 中司院長は循環器専門医として冠動脈インターベンション、心不全を中心にこれまで約6500例の心臓カテーテル検査ならびに血管内治療を実施してきた。現在も連携病院の三田尻病院で年間100例の心臓カテーテル検査、約50例の冠動脈インターベーションを行っており時には急性心筋梗塞例の緊急冠動脈形成術を行うこともあり循環器領域での最新の治療や情報を提供できるように専門学会・研究会のみならず幅広い領域での研鑽を積まれている。入院患者を診て治療するためには最新のガイドライン、治療のための情報を得ることが不可欠であり、必要に迫られて得られた知識が結果的にその他の患者さんのセカンドオピニオンへの相談の助けになり、かぜのついでにちょっと聞いてみようとか家族のことで相談したいという患者さんに、今どんな治療をこの近くではどこで受けられるかアドバイスでき喜ばれている。

○今後の展開

 今後さらなる総合診療・検診の充実、在宅医療の拡大や充実を図るために、現在、消化器内科の医師を募集しています。女性外来(中高年女性の悩み相談)のために、できれば女性医師を希望しています。それに伴って設備拡張を行い、先端医療機器などの導入も予定しています。また在宅患者さんの栄養管理、在宅リハビリの充実のための人員補充をして継ぎ目のない病診連携医療を考えています。

■ 開業に向けてのアドバイス

 開業時にあたって大事だと思う点は、あまり不安に感じすぎず、けれども必要なレベルの設備投資をしっかりやるべきだということです。私も開業に際しては、最新のドップラーエコーを導入するかどうか悩みました。最終的に導入したのですが、より明瞭で正確な検査が可能となり、診断を受ける患者さんの評判も大変良いです。
  初期投資は大変だと思いますが、患者さんは地理的条件以外で医院を選ぶ時には専門性と口コミ評価で選んでいると思われます。日本の医療事情と患者さんの思いとしては総合医でアドバイスを受けるよりは専門医でよく検査してもらって安心したという方が多いので、的確な医療設備でニーズに応えていくことが、ひいてはその後の信頼に繋がっていくのではないでしょうか。
  在宅医療を積極的に行うことを勧めます。厚生労働省も在宅医療のためにいろいろと保険上の優遇をしており、私のようなスタイルでなくとも数人の医師グループとして対応するなどいろいろなスタイルで実施されているのを参考にして在宅支援をされてはいかがでしょうか。24時間いつでも良いですよと療養計画書を渡すとかえって夜間休日電話はかかってこないものですし、連携の訪問看護ステーションの看護師さんの対応でも安心されて当初思っていたほど大変ではありません。
  東洋医学を少し勉強されると良いと思います。漢方薬を使わない医師はほとんどいませんが、薬物療法だけでなく東洋医学的な患者の診かた病態の捉え方は、患者さんの訴えをどうとらえ病状を説明するかに非常に役立ちます。漢方のある先生は「不定愁訴というのは患者の訴えが不定というのではなく医者の知識が足りないために不定としているのだから本来不定の愁訴はあり得ない」と言われておりこのような診方は患者さんの信頼を得られると思います。
開業時だからこそ患者さんの病院に対する評価は厳しいものなのです。
的確な医療設備でニーズに応えていくことが、ひいてはその後の信頼に繋がっていくのではないでしょうか。

■ 院長のプライベート

 「趣味は何もないですね(笑)。実は私はいつもこの白衣を着ているんですよ。というのも患者さんから連絡があったとき、私服だとついつい何か理由を付けて断ってしまう気持ちが駄目なんです。常にこの臨床モードの白衣でいないといけません。それによる、高齢の一人暮らし、二人暮らしの人の家に行くのに白衣でないと誤解を与えますから。ですから残念ながら趣味の時間はないですね。それでも勤務医の頃に比べれば、精神的にずっと楽なんですよ。」

先生タイムスケジュール


医療法人 実昌会 中司内科
院長 中司 昌美氏
住所 〒747-0834 山口県防府市田島587-1
医療設備 ドップラーエコー、呼吸機能検査装置・睡眠時無呼吸検査装置、電子内視鏡、超音波診療装置他
敷地面積 650坪
延べ床面積 98.23坪
物件形態 2階建て
スタッフ数 院長、看護師5名(常勤4名・非常勤1名)、事務員5名(常勤4名・非常勤1名)
開業資金 2億円
HP http://n-naika.webmedipr.jp/


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(終わり)
2007.11.01.掲載 (C)LinkStaff

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