クリニックの窓教えて、開業医のホント

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子どもから高齢者まで幅広い医療の提供を
大和田ファミリークリニック
大和田 章 院長

 大和田ファミリークリニックのある千葉県柏市は県の北西部に位置し、県内の人口第5位の中核都市として、約40万人が生活をしている。東京のベッドタウンとして急速な発展を遂げてきたが、近年はつくばエクスプレスが開通し、さらに都心からのアクセスも向上した。Jリーグの人気チーム、柏レイソルのホームタウンとしても有名な街である。
 今回ご紹介する大和田ファミリークリニックは豊四季という新興住宅街にある。内科のみならず、泌尿器科、皮膚科、小児科を標榜し、訪問診療も積極的に行っているのが特徴だ。子どもから高齢者まで幅広い医療を提供しており、地域のかかりつけ医として信頼を得ている。
 大和田章院長は開業に際し、2004年当時、周辺にクリニックがなかったこと、また賃貸住宅に住む若年層が入れ替わりながら住んでいる一方で、昔から住む高齢者も多いという年齢層の幅があったことなどから開業地を選んだ。また診療科目や内容も、大和田院長の専門領域に加えて、新しく研修を行い、開業医として必要なものを揃えたという。そこには常に患者さんの視点を意識した分析があり、その視点から全てを考えていったことが成功の理由だろう。
「開業医は広範な知識が必要で、普段から広い領域を視野に入れていくべきだ」と語る、大和田院長にお話を伺った。

大和田 章 院長プロフィール

1983年に群馬大学を卒業後、東京医科歯科大学医学部第二内科に入局する。1987年にアメリカ・コーネル大学医学部生理学科に研究員として留学する。1989年に都立駒込病院を経て、1993年に取手協同病院に内科科長として赴任する。1999年に武蔵野赤十字病院に内科部長として着任する。2004年11月に大和田ファミリークリニックを開院する。

■ 開業前後

 大和田章院長は群馬大学医学部卒業後、東京医科歯科大学病院第二内科に入局した。その後、アメリカ・コーネル大学医学部生理学科への留学を経て、東京都立駒込病院、取手協同病院、武蔵野赤十字病院などを医局の人事ローテーションで回っていた。

「私は開業する意志はあまりなくて、ずっと勤務医でやっていこうと漠然と思っていました。しかし転勤に転居を伴うことなどがあって、妻から開業して落ち着きたいとの提案があり、決心しました。妻は現在は事務長をしています。」

 大和田院長は高校生の頃に体育の授業の柔道で怪我をし、かかった整形外科の先生がとても気さくで印象深かったことが、医師を志した最初のきっかけだったと振り返る。勤務医としては腎臓内科を専門に診療を行っていたが、開業医になるなら幅広く患者さんを診ていきたいと考えた。
 一般的には勤務医を辞めると一日も早く開業したいと考える医師が多いのだが、大和田院長は逆にゆっくりと時間をかけて開業に備えた。

「最後の病院を辞めてからここを開業するまでに約2年かかっています。その間はアルバイト医師をしながら、腎臓内科以外の診療科目を広げようと土浦協同病院に研修に行きました。土浦協同病院には以前勤務したことがあったので、お願いして週に1日伺ったのです。もともと開業を考えていなかったので、右も左も分からない状態で、開業する地域すら全く白紙の状態だったんですよ。アルバイトとトレーニングの傍ら、事務長とコンサルタントに協力してもらって開業準備を進めるような態勢で、そこに時間をかけられたのはよかったと思います。勤務していた病院の近くで開業するなら、患者さんの連続性もあるので開業を急ぐ必要があると思いますが、私のケースのように落下傘的に開業するなら、急がずじっくり進めることが可能です。」

 相談したコンサルティング会社の薦めで柏市豊四季という地域を選んだが、特に地縁があったわけではない。大和田院長の出身地である東京や現在住んでいる我孫子市は既に開業医が多すぎて閉塞感があったこともあり、ここに決定した理由である。
  しかし物件選びは難航した。当初、ビル診療は念頭になかったのだが、あまりに物件が出てこないために、コンサルタントがビル診療でもいいのではないかと提案したという。

「私としてはトレーニングもできますし、のんびり構えていたんですけれどね。そうしましたら、あるビル物件が出てきて、妥協しかけていた矢先に現在の物件が出たんです。」

 そのような状況で決まったのは、地主が診療所を建てて、それを賃貸するというレントクリニック方式である。この方式は初期投資が少なくて済むので、開業資金は約1500万円に抑えられたという。
 レントクリニックとはいえ、造りには希望を採り入れることができる。大和田院長のこだわりは、吹き抜けで自然光も入る開放感のある待合室と2室の診察室を設けること、明るい雰囲気の色合いでまとめること、バリアフリーであることなどだった。完成した建物はそのこだわりが見事に反映されている。
 ロゴマークを大和田院長の顔をデザインしたものにしようというのは、大和田院長自らのアイデアだ。

「私は劇画調のものをイメージしていたんですが、デザイナーの提案を受け入れて練り直しました。今はとても気に入っていますよ。」

 開業に先立つ内覧会は、たまたま近隣で開業するクリニックがあり、日程が重なったため、大和田ファミリークリニックでは土曜と日曜の2日間行った。

「雨が降って寒い日だったのですが、300人以上の方にお越しいただきました。正直初めてのことで、翌日からのオープンの自信にはつながりませんでした。いらしたのはほとんどが大人でしたが、開院後は小児科の患者さんが最も多いので効果のほどは分かりません。」

■ クリニックの内容

「開業したら、一般内科だけでなく泌尿器科と皮膚科も診察したいと思っていたのですが、最後に必要を感じて小児科もトレーニングしました。新しい科目の研修は面白かったですし、勤務医ではできない経験ができました。結果的に小児科が患者数の6~7割を占めているので、経営戦略の上でも成功だったと言えますね。泌尿器科は腎臓内科の延長として当初から予定していました。また皮膚科は日本全体としても少ないのですが、やはりこの地域でも少ないので、効果的だとも考えていました。」

 名称を「ファミリークリニック」としているように、「子どもから高齢者まで幅広い年齢層に、幅広い医療を提供する」というのがこのクリニックのコンセプトである。実際、親子を同時に診察するケースも多いし、その祖父母が後日来院することもよくあるという。また、子どもを連れてきた父親がAGA(男性型脱毛症)の治療を希望することもあるそうだ。まさにファミリークリニックとして地域に親しまれており、大和田院長が「開業するなら」と選んだ診療科目は正鵠を射ている。
 来院患者は、風邪をはじめ前立腺炎や膀胱炎、皮膚科疾患などの急性疾患が中心で、慢性疾患では高血圧や糖尿病、高脂血症などが挙げられる。
 大和田院長の専門である腎臓疾患は少ないが、透析に入る前の食事療法の指導を行っているのをウェブサイトなどで知った腎不全の患者さんが遠方から訪れることもあるという。
「透析前治療が可能なのに透析を導入してしまうことが多いのが現状なのですが、透析は患者さんの負担が重く、日常生活に大きく影響しますので、透析に入らないような治療がさらに広がるといいですね。」

 特徴は日曜診療である。大和田ファミリークリニックでは火曜と祝日を休診にし、土曜・日曜の午前中を診療時間としている。日曜の診療はスタッフのやりくりが難しいが、休日でも確実に診療してもらえるクリニックとして頼りにされ、広い診療圏での認知度を上げている。
 また来院できない高齢者などには訪問診療も行っている。大和田院長が平日の夜と土曜、日曜に家庭を訪問し、新しく入った非常勤医師が近くの老人福祉施設を訪問している。


「頼まれてお宅まで行って診療するというのは、まさに医者冥利に尽きますね。家族に負担をかけて無理して病院に行くことなく、健康管理をしてもらえると喜ばれています。しかし件数としては思ったよりは増えず、微増という程度です。もっとも、あまり増えてしまっても対応できないので、多くて1日4軒程度という現在の数は適当といえます。老人福祉施設でも通院させるとなると人手が必要なので、往診に来る医師がいれば助かるのでしょうね。」

 そのほか、皮膚科の領域でピアッシングやAGAの治療も行っている。ピアッシングは院長のほか、研修を受けた看護師がいるため、施術可能である。若い人だけでなく50~60歳代の女性もおしゃれのために空けるケースが多く、気分が明るくなる効果もあるので、勧めている。

「AGAはプロペシアを1年以上使用した8~9割の人が満足しているというデータがあります。」

 開業して4年目の現在、患者数は1日80~130名ほどで、インフルエンザの予防接種ピーク時には200人近くを数える日もあるという。
 開院2年目ぐらいから採り入れた予約システムも好評だ。これはホームページと電話の両方から、その日の診察の順番を予約できるシステムで、朝6時からのアクセスが可能である。また診療開始後もサイトにアクセスすれば、予約番号何番目の人が診察中なのかをリアルタイムで確認できるため、待合室で時間を拘束されるストレスがなく、メリットも大きい。最近は中高年でもインターネットを利用する人が増えているので、このシステムの利用者数も伸びているという。

■ 今後の計画
「専門である腎疾患の予防治療を徹底していかなければならないと考えています。蛋白にしても糖にしても、検査で出てから治療を開始するタイミングがとても重要です。食事などの予防的な治療で対処できるのか、それとも投薬や透析が必要なのか、その判断を的確に行って、病院との連携も含めた効果的な治療を行っていきたいですね。
 皮膚科領域では、事務長の提案でケミカル・ピーリングやイオン導入などの美容分野を拡大していく予定です。この地域は賃貸住宅が多く、若年層の流動性は高いのですが、人口は一定している傾向にあります。そのような土地柄であれば、クリニックで安心してきれいになれるような治療は受け入れられるでしょう。
 また、この地域は小さな子どもがいる共働き夫婦も多いんです。今後、病児保育ができる体制作りをしていけば、地域のニーズに貢献できると考えています。」
■ 院長のプライベート
 休日やプライベートな時間には読書を楽しむことが多いですね。もともと歴史書が好きで、司馬遼太郎などの作品を数多く読んでいたのですが、最近ではそういう時代小説や歴史小説のさらに元になっている専門文献の古書などを読むようになりました。それを買いに神田の古書店などを回るのも楽しみなんです。医学とは180度違う世界ですが、その中にいると気分転換になり、リラックスすることができますね。
■ これから開業を考えている人へ

 まだ私も開業4年目なので僭越ですけれども、自分の専門を前面に出してやっていければいいのですが、現状はそういった専門性を病院が担っており、開業医には広く診られるプライマリーケアを求められています。そのため開業医は広範な知識が必要で、普段から広い領域を視野に入れていくべきなのではないでしょうか。勤務医として専門的な治療をしてきた後に開業する場合には、開業医としてのトレーニングや意識改革が必要です。そのような準備をどの段階から始めていくか、様々な条件を加味しながら考えていくといいですね。
 開業では診療スタイルと場所がとても重要です。しかし、誰でも開業するときには初めての経験になるわけですし、また一度開業したら基本スタイルと場所はなかなか変えられないので、実に難しいですね。したがって調査や準備をするための時間が必要です。慌てて開業して、失敗しないように、また自分が決めたアウトラインに対して妥協しないように、後悔のない開業をしてほしいと思います。」

先生タイムスケジュール
勤務医時代   現在
05:30 起床 5:30 起床
08:15 病院到着・勉強 7:00 出勤
18:30 退勤 9:00~12:00 外来
20:30 帰宅 12:00~14:30 休憩
23:00 就寝 14:30~18:00 外来
    18:00~20:30 在宅
    20:30 帰宅
    22:30 就寝
クリニック平面図
大和田ファミリークリニック
院長 大和田 章 氏
住所 〒277-0863 
千葉県柏市豊四季301-7
医療設備 スパイロメーター、心電図、エコー、検尿機器、レントゲン撮影機、尿流量計、顕微鏡
延べ床面積 50坪
物件形態 レントクリニック
スタッフ数 院長、非常勤医師1名、看護師6名、事務5名
開業資金 1,500万円
URL http://www.oowada-familyclinic.jp/
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(終わり)
2008.11.01.掲載 (C)LinkStaff

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