「地域全体が病棟でナースステーション」という位置づけを目指して
医療法人社団双愛会 ファミリークリニック蒲田 |
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伊谷野 克佳 院長 |
ファミリークリニック蒲田のある東京都大田区は東京23区内では最南端の区であり、多摩川を挟んで神奈川県と接している。中小企業の工場が多いことでも有名であり、従業者9人以下の企業が約82%を占める「中小零細企業の街」となっている。とりわけ機械金属工業では高いレベルの技術が集積され、我が国の産業を支える屋台骨として20世紀初頭から京浜工業地帯の中核を担っている。
今回ご紹介するファミリークリニック蒲田はJR蒲田駅と京急蒲田駅に挟まれた商業地域にある。在宅支援診療所を標榜しており、24時間365日対応が特徴だ。大田区のみならず、近隣の品川区、川崎市川崎区、幸区もカバーしている。
伊谷野克佳院長は在宅医療に役立つ最新知識などを積極的に習得したいと考え、これまでの経験を他の医師に報告したいという意欲も高い。地域の高齢化が進む我が国において、一つの重要な医療サービスである在宅医療というテーマに臨む第一線の現場がここにある。
2005年11月に開院し、「地域全体が病棟で、クリニックが医局でありナースステーションであるという位置づけを目指します」と語る伊谷野院長にお話を伺った。
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伊谷野 克佳 院長プロフィール
群馬県桐生市出身。1972年6月3日生まれ。1998年に昭和大学医学部卒業後、昭和大学医学部第一外科学胸部心臓血管外科に所属する。その後、福島県や横浜市の附属病院外科を経て、2005年11月に医療法人社団 双愛会 ファミリークリニック蒲田を開院する。昭和大学医学部兼任講師、日本外科学会認定医、日本医師会認定産業医、介護支援専門員、大田区介護保険審査会審査員 |
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■ 開業前後 |
学生の頃は急性期医療に携わりたいと考えて外科を志した伊谷野院長だったが、さらに緊急性の高い救急性の高い心臓血管外科へと進路を定める。大学病院の心臓血管外科でキャリアとスキルを磨き続け、理想を追求してきたが、一つのきっかけで方向性が変わった。
「親戚にがんを患った人がいたのですが、自分の知識が役に立てなかったんですね。それが大きなきっかけになりました。もちろん一つの知識に特化して研究を進めるプロフェッショナルな存在はとても重要です。私自身もそれまでは心臓という循環器専門でやってきました。緊急性があり、緊張感のある仕事でしたが、全く嫌ではなかったんです。でも、そのきっかけから自分自身の視野が狭くなっていることを実感させられました。そこで今度はプライマリーケアのできる医師、幅広い知識を持って、いろいろな病気に対応できる医師に憧れを持つようになりました。私の両親も着実に歳を取り、さらに幅広い知識がこれから求められるだろうということも想像できましたね。」
ところで、伊谷野院長は医療とは縁のない家庭で育った。医師を目指した理由は「単なる憧れから」だという。
「両親は医療系とは全く異なる職業でした。私は子どもの頃、本を読んだり、テレビのドキュメンタリー番組を観たりして、そこに登場する医師に憧れたんですね。私も医者になって、人々を救いたいと思いました。それに医者の知識と技術さえあれば、どんな辺ぴな国や場所でも生きていけそうな気がしたのです。そうした専門性の高い職業だということに惹かれ、医者になるための道を歩んできました。」
また、在宅医療を目指したのは、自分自身の入院経験からだそうだ。
「腸炎で1週間、病院に入院したことがありまして、お恥ずかしいことなのですが、そのとき初めて患者さんの気持ちが分かりました。入院中の厳しい制限は医者の立場では当たり前だと思っていたのですが、実際に自分が入院してみると苦痛極まりないものでしたね。食事制限を守るから、ちょっとだけ家に帰りたいと言っても、帰してくれないんです(笑)。そんな体験から在宅医療に注目するようになっていきました。」
キャリアチェンジを決めてからは勤務する大学病院の他の部署ともより密接な連携を取り合い、それぞれの専門の医師と交流した。先輩医師や仲間からの厚い支援を受けたという。2004年からは1年間、在宅医療の診療所を開院した先輩のもとで働きながら勉強を続けた。
そして翌2005年11月に在宅医療を行う、医療法人社団双愛会ファミリークリニック蒲田を開院した。
「入院できる病院は日本には既にたくさんありますが、在宅医療はなかなかありません。ないなら自分でやろうという気持ちもあったわけです。でも資金がないので、なかなか踏み切れなかったのですが、先輩の開院のお手伝いをさせてもらって、勉強もさせてもらった1年間で思い切れました。自分の中ではここが2度目の開院という気持ちがありますね。」
開業地は自宅のある大田区の近隣を探して、JR蒲田駅と京急蒲田駅に挟まれた商業地域に決まった。
「開院は本当に一人でのスタートでした。真冬も真夏も自転車で走り回り、ホームページも自分で作りましたよ。さすがに今では専門の会社にお任せしていますが、最初は私しかおらず、何でも自分でやるしかなかったですね。」
在宅医療だけに、この蒲田という地域全体が病棟で、このファミリークリニック蒲田は医局でありナースステーションであるという位置付けになっている。
「クリニックでも診察を行っていますが、ここは単なる拠点に過ぎません。ただ場所さえあればいいので、施設内容にはコストをかけていません。手術などが必要な場合は近隣の仲間の開業医や大学病院と連携を取り合った協力体制で臨んでいます。」
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■ クリニックの運営 |
伊谷野院長は朝8時から夜10時まで診察と事務作業などを行う。1日に約15~20人の患者さんに対応しているが、365日24時間の在宅医療サービスだけに帰宅後、携帯電話で緊急のオンコールを受けることも多い。
「心臓外科医でしたので、これまでも24時間待機という生活をしていました。今は病院内ではなくて、自宅で待機できる分だけまだ楽ですね。蒲田はご高齢の方が多い地域です。町工場などを経営されていた方の中にはご夫婦二人きり、または一人暮らしという方も多いです。現在、患者さんの90%は70歳以上の方々です」
そんな患者さんたちの口コミで評判は広まり、サービスを求める患者さんの数が急増したため、看護師を増やした。現在は8人の看護師が在籍する。さらに外部の様々な専門医と相談し合いながら、1日1回はスタッフ全員でカンファレンスを行う。
「患者さんの中には認知症や統合失調症、鬱など、精神的な疾患や心の病を抱えていらっしゃる方もおられます。特にそうした精神科の分野は私どもの専門領域外ですので、近隣、または仲間の専門医のアドバイスを仰ぐ必要がありますね。」
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■ 経営方針 |
在宅医療のクリニックを経営するにあたっての経営方針を伊谷野院長に伺ってみた。
「まず大切なことは患者さんやご家族のニーズをヒアリングすることです。なかなか本音の部分を理解するのは難しいと痛感しています。それだけに患者さん本人としっかり話し合い、ご家族の方々とも毎日のように話し合う努力が必要です。それだけに今後は患者さんやご家族の方々へのインタビューをいかに深めていくか、そのシステムについても検討していきたいと思っています。患者さんの中にはご家族の所在が分からないというケースもあり、連絡先を調べるだけで大変苦労することもありますよ。」
現状としては、ご自宅で看取ってあげたいというターミナルケアに対する要望が多いという。伊谷野院長一人の意欲と情熱だけでは支えきれないため、スタッフ一人一人のスキルに絶大な信頼を置いている。
「終末期医療では看護師の力量が求められる場合が多いです。私が言うのも僭越ですが、私どもの看護師を始めとしたスタッフはどこに行っても恥ずかしくない優秀なメンバーです。それでもチーム制にしている理由は、一人ではどうしても自分が考える医療を患者さんに押しつけてしまうのではないかという懸念があるからです。特に若いスタッフは持ち前の情熱が空回りしてしまう傾向があります。こうした医療サービスでは専門性ばかりでなく、全身を診なければなりませんので、自分の知識の領域外についても幅広い知識が必要です。だからこそチームの皆で様々な見地から話し合い、本当に求められる在宅治療とは何かを常に話し合い、相談し合える環境が必要なのだと思っています。」
スタッフのリクルーティングも難しい問題である。現在も看護師を始めとしたスタッフ不足の状態が続いているが、スタッフは自動車3台、自転車3台をフル稼働させて、患者さんのご家庭への訪問を続けている。
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■ 今後の展開 |
在宅医療はチーム医療だと考えています。そのためには一人でも多くの医師・看護師の方々に参加していただき、地域全体を支えていきたいと考えています。また今後は老人ホームなどの介護機関への協力関係を広げていきたいと思っています。それゆえに人材確保は重大なテーマの一つです。 |
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■ 開院を目指す方へのメッセージ |
私の場合は先輩のもとで1年間、勉強させてもらった経験がやはり大きかったですね。また開院後もかつての外科の仲間たちや他の専門医の先生方というネットワークに大変助けられています。こうした先輩や仲間たちとの信頼関係がとても大切です。資金的にもあまり無理をせず、計画性を持った開業をお勧めします。
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■ 院長のプライベート |
たまに休みが取れると、家族と過ごす時間を大切にしています。妻も医療従事者なので、私の気持ちや立場は理解してくれています。まだ子どもが小さいので、子どものためにも、私にとっても家族と過ごす時間は心がやすらぎます。そのほかは映画を観たり、ジムで泳いだりでしょうか。そんな気分転換も大事ですね。
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勤務医時代 |
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現在 |
06:30 |
起床 |
06:30 |
起床 |
08:00 |
出勤 |
08:00 |
出勤 |
08:00~13:00 |
診察・病棟管理 |
08:00~12:00 |
往診 |
13:00~14:00 |
昼食 |
12:00~13:00 |
昼食 |
14:00~19:00 |
診察・病棟管理 |
13:00~18:00 |
往診 |
19:00~22:00 |
カルテ等事務手続き |
18:00~21:00 |
カルテ等事務手続き |
22:00 |
帰宅 |
01:00 |
就寝 |
01:00 |
就寝 |
0 |
0 |
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クリニック案内図 |
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医療法人社団双愛会 ファミリークリニック蒲田 |
理事長 |
院長 伊谷野 克佳氏 |
住所 |
〒144-0052 東京都大田区蒲田4-23-15 中島ビル2F |
診療科目 |
在宅療養支援診療所 内科 外科 循環器科 リハビリテーション科 |
医療設備 |
エコー 往診用自動車3台 往診用自転車3台 |
述べ床面積 |
35坪 |
物件形態 |
ビル診 |
スタッフ数 |
院長 非常勤医師5名 看護師8名 事務員3名 ドライバー1名 |
開業資金 |
約1,000万円 |
URL |
http://souaikai.webmedipr.jp/ |
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(終わり) |
2009.02.01.掲載 (C)LinkStaff |