クリニックの窓教えて、開業医のホント

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楽に受診ができて、楽に治療が受けられるクリニック
楽クリニック

藤田 定則 院長

 和歌山市は紀の川の河口に開けた街で、徳川御三家の一つである紀伊家の居城であった和歌山城や万葉集にも詠まれた和歌浦で知られている。和歌山市の人口の37万人は県全体の人口の40%にあたり、和歌山県の政治、経済の中心地である。
 楽クリニックは和歌山市に2004年に開業し、痔、胆石症、鼠径ヘルニア、下肢静脈瘤などの日帰り手術で注目を集めているクリニックである。院長の藤田定則先生は勤務医時代、手術や検査を控えた患者さんから「楽でっか」とよく尋ねられていたという。そこで「楽に受診ができて、楽に治療が受けられるクリニックを開業しよう」と、楽クリニックと命名したそうだ。楽クリニックは南海和歌山港線和歌山港駅から徒歩15分、南海本線和歌山市駅、JR紀伊本線和歌山駅からは車で10分と決してアクセスに恵まれた場所に立地しているわけではないが、開業以来、増患を続け、三重県や愛知県からの来院患者さんも少なくない。そのため現在は完全予約制にし、月に40例ほどの日帰り手術を行い、1日平均40人の外来患者さんを迎えている。
 楽クリニックの藤田定則院長にお話を伺った。

藤田 定則 院長 プロフィール

1962年に和歌山市で生まれる。1989年に大阪医科大学を卒業後、同大学一般・消化器外科に入局し、附属病院に勤務する。1996年に医学博士号を取得する。その後、大阪医科大学附属病院、大阪府三島救命救急センター、姫路中央病院などを経て、1999年に松原徳洲会病院に着任する。2003年に松原徳洲会病院外科部長に就任する。2004年に和歌山市に楽クリニックを開業する。
日本外科学会認定専門医、日本消化器内視鏡学会専門医、日本抗加齢医学会専門医、日本消化器外科学会認定医、日本短期滞在外科手術研究会世話人など。

■ 開業前後

 楽クリニックの藤田定則院長は1962年に和歌山市で生まれた。ご両親は学校の先生で、ご実家は現在も幼稚園を経営されている。そのご両親から「人の役に立ち、人からありがとうと言われる仕事だ」と医師への道を勧められたという。勧めに従い、医学部に進学した藤田院長は消化器外科を専攻することを選んだ。

 「実家が幼稚園を経営しているので、小児科も考えたのですが、やはり一番厳しいと言われていた消化器外科でトレーニングを積んでみたかったんです。実際に入局したら、本当に厳しかったですね(笑)。外科医として好きなことをしようとすれば、開業しかないというのは若い頃から気付いていました。厳しいところで技術を磨いて、将来は田舎に帰って開業できたらなと思っていました。」

 1999年に松原徳洲会病院に着任し、腹腔鏡手術やロボット手術も経験する。徳洲会全体でそういった手術に力を入れ始めた時期で、藤田院長も虫垂炎や鼠径ヘルニアのみならず、大腸がんや救急などの手術でも腹腔鏡手術を行った。さらに日帰り手術に興味を持ったのもその頃からだそうだ。アメリカや東京の執行クリニックにも足を運び、執行クリニックの執行友成院長と日帰り手術の研究会を立ち上げた。

 「サンディエゴの病院に併設されている日帰り手術センターを見学に行ったときにあまりにも綺麗な施設で驚きました。今でこそ日本の病院も綺麗ですが、当時はまだ汚い病院が多かったですからね。また執行クリニックでは鼠径ヘルニアの日帰り手術を見学させていただき、徹底的に管理された手術場に感銘を受けました。6畳一間ぐらいの空間でも、年間400例の手術を行っているんです。『これやったら、できるな』とも思いましたね(笑)。」

 そういった見学や準備を積み重ね、藤田院長は開業への意志を固めた。大阪市の税理士事務所で人事や労務を学んだり、コンサルタント数社に診療圏調査を依頼するなどした。
 「日帰り手術だけでは食べていけないと考え、抗がん剤治療や内視鏡、人間ドック的なことなど、今まで培ってきたものを全て出していこうと決めました。そのため病院に近い設備を入れ、何でもやりながら、専門性を出した日帰り手術を打ち出していこうとしたんです。」

 クリニックの名称は早くから「楽クリニック」と決めていたという。勤務医時代に手術や検査を控えた患者さんから「楽でっか」と尋ねられることが頻繁にあり、「楽というのはいい言葉だ」と思っていたからだそうだ。楽に受診できて、楽に治療が受けられるクリニックを目指し、開業地の選定に入った。地元である和歌山市で開業することを決め、南北や他府県からのアクセスのよいJR和歌山駅前の新築ビルへの入居を決意する。

 「その頃、たまたま実家に帰ったのですが、潮の香りがするんですよ。その香りから、実家の土地で開業しようと思い付きました(笑)。実家の幼稚園の横に保育所を併設していたのですが、保育所をクローズすることになったので、その後を改装してクリニックを開業することにしたんです。」

 開業地は市掘川と築地川に挟まれた中州の中であり、市街地からも離れ、最寄りの駅からも徒歩15分とアクセス良好とは言えない場所のため、診療圏調査でも好ましい結果は出なかったという。昨今、直前に勤務していた病院の近くでサテライト診療所的な開業をするケースが多くなっており、藤田院長が大阪府松原市で開業するなら、堺市も含めた100万人の診療圏が見込めたであろう。

 「診療圏調査の数字を見て、本当に後悔しましたね(笑)。それで、いつも元気をくれる焼き鳥屋に行ったんです。大阪市の我孫子にある店なんですけど、行列ができる店なんですよ。そうしたら、店の人が『都会や駅前で高い家賃を払っても仕方ない、いいものを出したら、人は集まる』と言ってくれて、与えられた環境でやっていこうと思い直せたんです。」

 もともとの保育所は2階建てで、建物はそのまま生かし、中を改装することにした。診察室、レントゲン室、処置室を1階に、2階には手術室兼検査室、点滴室兼回復室などを配した設計である。肛門科の患者さんも多く見込まれたため、プライバシーの確保にも気を配った。

 「60代女性に好まれる淡いピンクを基調にした内装にしました。診察室は当初は1室でしたが、患者さんが増えたので、2室に増やしました。そのような改良を繰り返しながら、今日に至っています。」

 楽クリニックでは開業当初から土曜、日曜も診療を行っている。土曜、日曜でないと来院が困難な患者さんには好評であるという。また、開業当初から知り合いの大腸内視鏡専門医が非常勤で診療に当たっている。

■ クリニックの内容

①日帰り手術専門外来
 楽クリニックのメインであり、下肢静脈瘤、鼠径ヘルニア、痔、胆石、皮膚のしこりなどが対象疾患である。術後は自宅で療養できるため、精神的負担を減少させ、また治療時間も少ないので、入院のための時間を取りづらい自営業者や主婦に人気の手術であるが、クリニックレベルで日帰り手術をメインに打ち出している施設はまだ少ない。藤田院長は日帰り手術のパイオニア的存在である徳洲会病院に長く勤務し、技術を磨いてきた。

 検査では超細径スコープによる経鼻内視鏡検査を行うほか、2005年当時は和歌山県内に一台しかなかった小腸内視鏡も完備している。そのうえで楽クリニックでは適応を絞り、施設の能力を充分に把握すること、術前の最新の病状の検索を怠らないこと、日帰りにこだわりすぎず、無理ならば近隣の病院を紹介することなどを方針としている。日帰り手術には高度で最新の技術や機器が必要なため、藤田院長も常に研鑽を積む姿勢を崩さない。

 流れとしては、1回目に検査を行い、手術対象かどうか判断を下す。2回目が検査結果の説明で、手術日を決定し、手術の説明を行う。3回目が手術当日で、退院可能なら次回の受診日を告知する。退院不可能であれば提携病院へ入院となる。手術翌日には経過を伺う電話をし、2、3日後には社会復帰となる。さらに1週間後に4回目の受診で術後の診察をするというものだ。

 「クリニックの名称のように楽に治療ができ、痛みが少なくて済むような体にやさしい治療を心がけています。麻酔も従来の下半身麻酔から全身麻酔へと変わってきましたし、それぞれの特徴を生かした麻酔にしていますが、救急での経験が役に立っていますね。この10年で手術の方法も劇的に大きく変わっていますので、学会や研究会などで勉強を続けています。」


②外科
 下肢静脈瘤は女性の患者さんを中心に多くの患者さんが来院している。藤田院長は広島の清水クリニックの清水康廣院長やお茶の水血管外科クリニックの広川雅之院長に教えを乞い、現在の体制を作ったという。また鼠径ヘルニアは執行院長のほか、福岡のおだクリニック日帰り手術外科の小田斉院長、札幌のみやざき外科・ヘルニアクリニックの宮崎恭介院長、市立四日市病院の蜂須賀丈博医師といった日本のトップクラスの医師のもとを訪れ、勉強を重ねた。

 「一生懸命やっている姿勢を持って教えを乞うたら、見学においでと誘っていただけるものです。そこでフットワークを生かして、見学に伺ってきました。レベルの違う先生方のお話を聞くだけでも勉強になりますね。」


③胃腸科
 内視鏡検査がメインであり、検査結果次第では和歌山県立医科大学附属病院や日赤和歌山医療センターなどに紹介している。

 「勤務医時代より開業後の方ががんの発見率は高いです。少ない外来人数ながら、月に1、2人の割合で発見し、紹介状を出しています。」


④肛門科
 痔で来院する患者さんがほとんどである。藤田院長は開業にあたり、大阪市の黒川梅田診療所の黒川彰夫院長や京田辺市の増田クリニック肛門科の増田芳夫院長のもとに通い、執刀数万例をこなしてきた神業のようなスキルに感動を覚えたという。

 楽クリニックでは開業以来、日帰り手術に合う、痛みの少ない治療を模索している。以前、何回も再発した患者さんにシートン法を用いたところ、良好な結果を得た。しかしシートン法で使用する糸が海外からしか手に入らないと諦めていたところ、日本の糸でも薬を染み込ませれば使用できることが分かり、藤田院長自らが休みの日に糸作りを行っている。以前ではPPH法を得意としていたが、術後の合併症で日帰り手術に適さないケースもあるため、楽クリニックでは古典的治療法と融合させた治療を行っている。

 「お二人のクリニックは伝説のクリニックですね。一般的な外科の常識を超えた手術で、無理と思われる疾患も治してしまわれます。私も肛門疾患の研究会には10年以上、出席し、術後の合併症などを勉強しています。経験も違いますが、今後も努力を続けたいですね。また地域への啓蒙活動も積極的に行っていきたいと考えています。」

■ クリニックの運営・経営方針

①増患対策
 現在は完全予約制で、手術は月に40例、一日平均外来患者数は40人を数え、年間症例数は500症例に上っている。駐車場が12台分とあまり多くないことや、手術などの説明に時間をかけたいという藤田院長の意向もあって、症状が安定していれば薬も2、3カ月分を投与するなどの工夫で、外来を減少させているところである。

 開業当初は主要幹線道路などに3枚の看板を出したり、新聞広告も出していたが、現在は看板は全て取り止め、新聞広告をわずかに展開しているにすぎない。その分、ホームページはかなり充実させているが、藤田院長は「口コミが一番の広告である」と信念を持っている。そこで口コミへとシフトさせるべく、力を入れているのが医療講演である。「楽健康友の会」という組織を作り、そこで公開医療講座として積極的に行っている。開業当初は院内のリラックスルームで行っていたが、参加者が増えてきたため、ホテルや公民館で開催している。

 「最初は手探りで、信託銀行の方に医療とは関係のない相続の話などをしてもらったりもしましたが、徐々に専門に特化したテーマにしました。しかしテーマによって70人ぐらいいらしたり、私とマンツーマンだったりもしました(笑)。最近は私のほかにも仲間の医師が講師を務めていまして、大勢の患者さんにおいでいただいています。」


 またNPO法人「ふれ愛協議会」を立ち上げ、地域密着型で医療や福祉を考える場として機能させている。

 「NPOはクリニックの内容とは離れ、介護・健康フェアを開催するなどボランティアの要素が強いです。インターネットにはかなり投資しましたが、最近は止めています。広告費は収益の1割が限度ですね。お蔭様で三重県や愛知県、京都府舞鶴市など、他府県からの患者さんが三分の一を占めていますが、地元にこそ患者さんはいらっしゃるんだと信じています。」


②スタッフ教育
 開業当初は日帰り手術の手術室に勤務したことのある看護師はおらず、頻繁にミーティングや反省会を行いながら、教育を重ねていったという。日頃はミスを防ぐために、術前術後の管理表を作成し、チェックリストとして活用している。また患者さんへは説明用紙を配布し、丁寧な説明を心がけている。患者さんからはアンケートを回収し、「手術中、寒かった」、「シーツに染みがあった」などの指摘を全てスタッフルームの壁に張り出している。

 また日本短期滞在外科手術研究会には毎年全員で参加するほか、日本大腸肛門病学会、日本消化器内視鏡学会などにもスタッフを伴い、教育の場としている。

 「スタッフにはチームワークを大切にということをいつも話していますね。また学会だけでなく、同業の他のクリニックにも連れて行き、刺激を与えています。自分たちが行っている医療が日本の中でどういうレベルにあるのかを常に考えてほしいと思っています。」


③今後の展開
 「ブランド化への挑戦」として、私どもの医療の質がどう評価されているのか、患者さんへのアンケートを徹底させたいと考えています。アンケートでは、楽だったか、辛いのか、感動したかということを中心に伺う予定です。直すべきところは直して、良い評価をいただけたところはさらに伸ばしていきたいですね。そういう姿勢がブランド化へつながっていくと思います。

■ 院長のプライベート

 手術が私の生活のほとんどを占めていますね(笑)。さらに究めていきたいと思っているんです。木曜日は1日中、古典的治療法の薬を作っています。また下肢静脈瘤のレーザー治療が注目されていますが、ハイブリッド手術として、それと従来の治療法を組み合わせることで、痛みを少なく、保険適用の治療を行えます。今は休みの時間にもそういった治療法の良さを学び直しています。

■ 開業に向けてのアドバイス

 「好きなことをしたい」なら、開業がベストですが、好きなことが特になければ、勤務医で腕を上げていく方がいいでしょう。勤務医として、自分の腕で病院の収益を伸ばしていくことも満足度はあります。開業したら、人事的なこと、労務的なことも勉強しなければいけませんが、好きなことを究めていくための技術の向上も必須です。開業前に尊敬できる先生のいる施設を積極的に見学させていただくこともお勧めします。

■ タイムスケジュール
勤務医時代   現在
05:30 起床 05:30 起床、家事、筋トレ
05:50 病院到着 08:00 出勤
06:00 回診 08:30 手術
07:00 手術 13:00 院内業務
09:00 外来 14:00 外来
12:00 昼食 18:00 院内業務
13:00 手術 19:00 帰宅
16:00 病棟業務 22:30 就寝
21:00 帰宅  
24:00 就寝
クリニック平面図
楽クリニック
院長

藤田 定則 院長

住所 〒640-8287
和歌山市築港3-21-2
医療設備 超音波検査機、レントゲン検査、血液検査機、電子カルテ、超音波メス、拡大スコープ付きデジタル内視鏡、小腸用ダブルバルーン内視鏡、超細径胃内視鏡、高精度精密検査用胃内視鏡、下肢静脈瘤レーザー治療機
物件形態 戸建
延べ床面積 24坪×2フロア
スタッフ数 院長、非常勤医師1人、常勤看護師2人、非常勤看護師3人、事務員4人、看護助手1人
開業資金 2000万円
URL http://www.rakuc.com/
(終わり)
2009.06.01.掲載 (C)LinkStaff

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