卒業、入学のシーズンである。たまたま私が日本大学医学部翠心後援会会長の職にあるため、卒業式、入学式に挨拶をさせて頂いた。卒業した学生たちは頼もしく、新入生は初々しかった。大学院の入学生の中には開業医も入っていて、ある整形外科の研究会で「あの時ご挨拶頂いた先生ですね」と声をかけてもらった。挨拶は短いほどよく、内容は濃いほど良い。短くて濃い挨拶をするにはどうしたらよいかと考えて作ったものだから、読者には多少の参考になるだろう。
【卒業式】卒業生の皆さん、そして、今日の良き日を6年間にわたってお待ちになっていたご父母、ご父兄の皆様、ご卒業おめでとうございます。また、卒業まで親身になってご指導頂きました教員の先生方、事務の方々には、厚く御礼を申し上げます。高い席から大変恐縮ではございますが、翠心後援会を代表いたしまして、一言、皆様に送る言葉を述べさせていただきます。
中国の哲学書であります「論語」に、ある一文がございます。
『曽子曰(のたまわ)く、吾、日に三たび吾が身を省(かえり)みる。
人の為に謀(はか)りて忠ならざるか、朋友と交わりて信ならざるか、習わざるを伝えしか』
これは、「私は毎日三回、自己反省する。他人の相談にまごころをこめて乗ってやらなかったのではないか、友だちとの交際に、約束をたがえたのではないか、先生に教わったことをじゅうぶんに復習せずに教えてしまったのではないか」
という意味であります。
この言葉は、人生訓として大変有名なものですが、我々臨床医の心得にも通じるものがあると思います。これを日常診療に言い換えますと、一つ、患者さんの相談にまごころをこめて聞いてあげただろうか、二つ、チーム医療がきちんと出来ただろうか、そして、三つ、EBMに基づいた医療を患者さんに提供できただろうか、という反省であります。私も、この「日に三省する」という事を、いつも考えて医療をして参りました。皆さんは、四月から新人医師として、ゼロからのスタートとなります。常に患者さんのそばにいて、良き医師たるよう、皆さんの人生をかけて、精進されることを望んでおります。
大変粗辞ではございますが、これをもって私のご挨拶とさせていただきます。
本日はご卒業、誠におめでとうございました。
【入学式】晴れて入学を許可された新入生諸君、そして、今日の良き日を心待ちにしていたご父母、ご父兄の皆様、ご入学おめでとうございます。-中略-
さて、入学された学生諸君は、聡明で心身ともに優れた資質の持ち主であると思いますが、六年間で自分から、自主的に勉強し、医師としての適正な人格を涵養する必要があります。今後病んだ人々のマイナスのエネルギーをプラスに転化するために、皆さんが自らの心身を鍛え、健康な人間になる必要があります。是非運動部にお入り頂き、スポーツで心肺機能と筋力を鍛え、飲酒はほどほどにして禁煙をしていただきたいと思います。
これから、皆さんは医学と医療についての教育を受けられるわけですが、消極的であってはいけません。本学に入ったことで安心することなく、自分の将来をこの大学とともに如何にあるべきか、考えていただきたいと思います。
1961年、米国第35代大統領ジョン・F・ケネディは、その就任演説の中で、
And so my fellow American,
ask not what your country can for you :
Ask what you can do for your country :
(わが同胞のアメリカ人よ、あなたの国家があなたのために何をしてくれるかではなく、あなたがあなたの国家のために何ができるかを問おうではないか)
と語りかけています。同じように、私は皆さんに、
「あなたが大学に何を求めるのか、ではなく、あなたが大学のために何が出来るのか、を考えていただきたい」と思います。
入学された皆さんには、今日のこの日から、日本一の良き医学生たるよう、6年間かけて精進されることを翠心後援会一同、切に希望いたしております。
本日は誠におめでとうございました。 |