ドクタープロフィール
ドクター神津
神津院長は昭和52年に日本大学医学部を卒業後、同大学第一内科に入局され、その後、神経学教室が新設されると同時に同教室へ移られました。医局長、病棟医長、教育医長を長年勤められ、昭和63年、アメリカのハーネマン大学およびルイジアナ州立大学へ留学。帰国後、特定医療法人佐々木病院(内科部長)を経て、平成5年に神津内科クリニックを開業された。神津院長の活動は多岐にわたり、その動向は常に注目されている。
2006年6月号  -「どう変ったか、在宅療養支援診療所になって2ヶ月」-
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「どう変ったか、在宅療養支援診療所になって2ヶ月」

  3月の終わりに東京都福祉局介護保険課から一通の封書が届いた。何だろうと開けてみると、その書類が「在宅療養支援診療所」の申請書だった。以前に出した医療連携の書類は、連携医療機関の名前を二箇所記載するだけの簡単なものだったが、今回はだいぶ変っていた。24時間連携をする医療機関の名前を書くだけではなく、連携する訪問看護ステーションの名前、そして連携する担当医や担当看護師の名前と連絡先が必要になった。それに加えて「癌患者」をどのくらいの数診療しているかを書き入れる書式が入った。早速私のところで日頃お世話になっている病院と有床診療所と訪問看護ステーションに連絡を取り、記入して提出した。
  申請書を作成する過程で感じたのは、今まで訪問看護ステーションとの関わり以上に、ある特定の訪問看護ステーションとの関係がさらに強まった、という印象だった。もちろん、いくつかのステーションとの関係は保たれたままであるのだが、連帯感がさらに強まった感がある。我々都市部では、医療機関が訪問看護ステーションを自前で持っているのは病院やごく一部の在宅医療専門診療所に過ぎず、独立して存在する多くの地域の訪問看護ステーションと患者さんを通じて、一緒のチームになったり、患者さんが入院したり亡くなったりした場合にはそのチームを解散したり、という関係の中で仕事をすることになる。訪問診療も、地方のように分散して長い距離を移動するというわけではなく、通常はクリニックを中心として半径約2km範囲内の患者さんを診療することになるので、その患者さんの居宅に訪問しやすい訪問看護ステーションを選ぶことになる。そして、その中で我々の「在宅医療チーム」として相応しい、フットワークが良く、気立ての良い看護スタッフのいる訪問看護ステーションが、自然淘汰されて「連携訪問看護ステーション」となる。当然、こちらとの相性の良い所長は働き者だ。働き者の医師には働き者の看護師が付いてくる。お役所から派遣されて、自分では在宅看護の経験もなく、やりたいとも思っていない所長の下では、働かない看護師が増えてしまう。そんな訪問看護ステーションのスタッフとはコミュニケーションも取れないし、頼まれてもご免被りたい。
 そういう意味では、きちんとした在宅医療を提供できる医療機関と、それにスタッフとしてチームが組めるきちんとした訪問看護ステーションとは、さらに良い在宅医療チームを作ることになるだろう。結果的に、こうした連携が出来ない診療所は淘汰されるだろうし、選ばれない訪問看護ステーションも診療報酬上淘汰されていくのではないだろうか。とすれば、もう少しこのシステムを広げて、良い連携をしている「チームとチームを結びつけるようなシステム」を作れば、質の良い在宅医療を提供するチームだけを地域のコミュニティーの人たちは選べば良いということになる。その時に必要なマンパワーを今から準備する為に、国はこうした良質なチームを資金援助する補助金あるいは基金を用意するなり、申請すればそうしたところにグラント(研究資金)を与えるなどということを用意することこそ国の仕事だと思うが如何なものだろうか。

 国はどうも、これからの日本の医療のある部分の中心的な役割を、在宅医療を提供する医療機関に担って欲しいと望んでいるようだ。欧米並みに人生の終末期、そしてピンピンコロリの最後は、患者の居宅で安心して家族や主治医に見守られて看取りが出来るようにしたいと・・・。それは我々国民の願いでもあり、医療者としての願いでもある。
  ここへ来て、入院ベッドを持つ病院と、外来医療を受け持つクリニック、それに在宅医療と在宅ケアを受け持つスタッフの三者が、より良い連携を取ってシームレスな医療を国民に提供するシステムがようやく出来上がってきたといえる。私は常日頃から「在宅チーム医療」の必要性を説いているのだが、その連携医療が国のお墨付きになったようでうれしく思う。これからの10年間、制度変更を行うことなくこの体制を維持していければ、必ずや日本の医療提供体制は飛躍的に良くなるだろう。今後に期待を寄せたいと思う。

図:実際に、3月の在宅医療にかかった医療費と、保険改正後の5月を推計したものとを表に示す。これを見ると、約33%の増加となった。しかし、これが、意図的に上げたり下げたりした結果であって、資本主義社会の成り行きとは全く異なる、医療管理社会であることを思うと、必ずしも手放しで喜ぶわけにはいかない。

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