神津 仁 院長
1999年 世田谷区医師会副会長就任
2000年 世田谷区医師会内科医会会長就任
2003年 日本臨床内科医会理事就任
2004年 日本医師会代議員就任
2006年 NPO法人全国在宅医療推進協会理事長就任
2009年 昭和大学客員教授就任
1950年 長野県生まれ、幼少より世田谷区在住。
1977年 日本大学医学部卒(学生時代はヨット部主将、
運動部主将会議議長、学生会会長)
第一内科入局後、1980年神経学教室へ。
医局長・病棟医長・教育医長を長年勤める。
1988年 米国留学(ハーネマン大学:フェロー、ルイジアナ州立大学:インストラクター)
1991年 特定医療法人 佐々木病院内科部長就任。
1993年 神津内科クリニック開業。
チョコレートは天の恵み
最近はいろいろなチョコレートが売られていて、国内のみならずベルギー王室御用達のチョコレートまで食べられるが、我々の子供時代はチョコチップ、マーブルチョコレート、それに明治の板チョコくらいしか食べられなかった。私が好きだったのは明治のブラックチョコレートで、試験勉強をするときには必ず食べていた。時には食べ過ぎて鼻血が出ることもあったくらいだ。子供の頃は乳糖不耐症だったので牛乳が飲めなかったから、ミルクチョコレートはあまり好きではなかった。チーズも苦手で、親戚の家に泊まりに行ってチーズが出た時には「僕は食べられないんです」とはいえずに、滝のように食べたものを吐いた記憶がある。それが二十歳を過ぎて急にチーズが食べられるようになり、今ではロックフォール(ブルーチーズ)もミモレットも好きで食べるようになった。腸管の学習能力は凄いものだと思う。
チョコレートが好きだからといって、バレンタインデーにもらったチョコレートをたくさん食べると太ってしまう。色とりどりの美味しいデコレーションチョコには、カカオだけではなく砂糖やバター、オイルや生クリーム、ラム酒などが入っているからだ。しかし、食べたい。食べるにはそれなりの理由がなくてはならない。実は、チョコレートは体に良いのだ、という理由があれば堂々と食することが出来るだろうと、文献を読むときにはそちらに目が行くことになる。
Franz H. Messerli, MDがNew England Journal of Medicineに載せた論文に目が留まったのも、こうした意識があったせいだと思う。この論文の題は、「Chocolate-Loving Countries Produce More Nobel Laureates」、つまりチョコレートを愛してたくさん消費する国からはノーベル賞受賞者がたくさん出ている、というものだった。この論文では、一人あたりのチョコレート消費量と、1,000万人あたりのノーベル賞受賞者の数には、直線的な相関関係(P<0.0001)が認められたというのだ。もしある国の一人あたりのチョコレート消費量を年間0.4kg増加させると、推計でノーベル賞受賞者が1人増えることになると。
ちなみに日本は2010年推計で1人2.1kgとあり、ベスト20からもれている。アメリカは年間12,500万kgを消費するという。ちなみに国別のノーベル賞受賞者数は1位がアメリカで326人、2位がイギリスで108人、3位がドイツで81人、4位フランス56人、5位スウェーデン31人と、なるほど消費量と何らかの関係がありそうに見えてくる。日本のチョコレート会社がこの論文を読んでいたら、「チョコレートを食べてノーベル賞を増やそう!」というキャンペーンをやりそうだ。
さて、チョコレートの効能はいくつもあるが、日本チョコレート・ココア協会のホームページにはこんな説明がされている。
がんや動脈硬化などさまざまな病気の原因といわれる活性酸素。今、その働きをおさえると注目されているのがポリフェノールです。ポリフェノールは赤ワインにも多く含まれていますが、チョコレートにはそれよりもはるかに多量に含まれているのです。
- 1.動脈硬化を防ぐ
- カカオ・ポリフェノールは、動脈の繊維にコレステロールがたまったり、LDL-コレステロールが酸化を受けて動脈硬化が進むのを防ぐことが、ラットや人によって確かめられています。
- 2.がん予防に期待
- がんの発生メカニズムにはまだ不明なところが多々残されていますが、まず変異原物質が細胞のDNAに突然変異を起こし、次いで促進物質がかん化した細胞を活性化することによってがんが発生すると考えられています。しかし、試験管内に変異原物質と同時にカカオ・ポリフェノールを加えたところ、細胞DNAの突然変異が抑制されることが確かめられました。
- 3.ストレスに打ち勝つ
- 身体的にストレス状態にあるラットにカカオ・ポリフェノールを与えたところ、ストレスにうまく適応することがわかりました。また心理的ストレスにたいしても抵抗力が強まることが確かめられました。
- 4.アレルギーやリウマチにも効果
- アトピーや花粉症などのアレルギーは現代病のひとつとして大きな問題になっていますが、マウスにカカオ・ポリフェノールを与えたところ、アレルギーの原因となる活性酸素の過剰な働きが著しくおさえられました。さらにチョコレートを人に食べてもらったところ、おなじ効果がみられました。
- 5.ココアは病原菌をおさえ、傷の治療にも効果的
- ココアは胃かいようや胃がんとの関連が深いピロリ菌や重い食中毒で知られる病原性大腸菌O-157が増えるのをおさえるなど、細菌の感染に効果があるほか、毎日ココアを飲んでいる重症患者さんには傷の治りが早くなることが確かめられています。
- 6.チョコレートは太らない
- チョコレートは太る! こんなよくある誤解に挑んだ実験があります。標準飼料育ちのラットと、飼料の20%をチョコレートでおきかえたラットを比べた場合、カロリーがおなじなら体重の差はなく、肥満もみられませんでした。「何が」太るかの原因探しより「どれだけどう」食べたかのほうが大切なことが確かめられたわけです。
- 7.カカオ成分に虫歯を防ぐ効果
- ウーロン茶や緑茶には虫歯予防効果成分が含まれていることが知られていますが、カカオ成分にはこれら以上に虫歯菌をおさえる効果があり、しかも虫歯菌に感染したラットの虫歯の進行をおさえることも分かりました。
- 8.チョコレートの香りが精神活動を高める
- チョコレートの香りが集中力や注意力、記憶力を上げることが人の脳波や学習実験から 確かめられましたが、さらにチョコレートを食べたほうが、陸上競技の「ヨーイ~ドン」から スタートの反応時間が短くなることが分かりました。
- 9.チョコレートはミネラル豊富
- チョコレートはカルシウム、マグネシウム、鉄、亜鉛などのミネラル類を豊富に含む栄養バランスのとれた食品です。とくに注目したいのはカルシウムとマグネシウムのバランスがよいことです。一般にマグネシウム不足は心臓病の危険を増すことが知られています。
これを読むと良いことずくめで、本当かな?日本チョコレート・ココア協会がいっていることに科学的な根拠があるのだろうか?ラットの実験では臨床との解離があるのでは、と誰しもが思うところだ。しかし、チョコレートが多く食べられている国では、やはりその愛する対象に対しての科学的アプローチもまた多く行われているようだ。
私が毎日購読しているMedscapeに、「チョコレートの健康に関する7つの利点」という素敵なレビューが載ったので早速読んでみた。
このレビューの内容は、以下のようにまとめられる。
「人は血管から老いる」といったのはウィリアム・オスラーだが、その脳・心血管系にチョコレートは多くの利点を持っており、さらにメタボリック症候群や認知症予防にも効果がありそうだ。しかし、これらの利点を享受するためには、ある一定の量のチョコレートを食べる必要がある。最後に挙げたReferenceには、血圧を下げるためには、最低約6gのダークチョコレートを毎日食べることや、1週間に50g食べると脳卒中リスクを14%下げる事が出来る、といったデータを示した論文が列挙されている。
最初に写真で示した明治ブラックチョコレートが一枚58gだから、おやつに2-3ピース食べてもらえば、これらの利点は得られるはず。チョコレートは現代社会のために神が下さった天の恵みと考えてもよさそうだ。
References
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