神津 仁 院長
1999年 世田谷区医師会副会長就任
2000年 世田谷区医師会内科医会会長就任
2003年 日本臨床内科医会理事就任
2004年 日本医師会代議員就任
2006年 NPO法人全国在宅医療推進協会理事長就任
2009年 昭和大学客員教授就任
1950年 長野県生まれ、幼少より世田谷区在住。
1977年 日本大学医学部卒(学生時代はヨット部主将、
運動部主将会議議長、学生会会長)
第一内科入局後、1980年神経学教室へ。
医局長・病棟医長・教育医長を長年勤める。
1988年 米国留学(ハーネマン大学:フェロー、ルイジアナ州立大学:インストラクター)
1991年 特定医療法人 佐々木病院内科部長就任。
1993年 神津内科クリニック開業。
「Olive Japan 2016」
土曜日の外来はいつものように混んでいて、時間通りに終わらなかった。右腕にはめたi-Watchが「オリープジャパン2016(二子玉川ライズ・ガレリア)」と表示している。外は雨模様。クリニックから会場までは車で玉川通りを南へ向かう。土曜日のせいか車が多くて、会場手前のほんの数百メートルの距離を30分以上かかった。玉川高島屋の駐車場に入る車が左右の車道を塞いでいて、その先に進めないのだ。渋滞に巻き込まれているうちに、天候が回復する兆しなのか、薄日が差してきた。風が強かった昨年に比べれば、今日の展示会は良さそうだ。
Olive Japanは、一般社団法人オリーブオイルソムリエ協会が主催する日本で最大のオリーブをテーマにしたイベントだ。私がこのイベントを知ってから三年が経つ。日本で唯一となる国際的なオリーブオイルの品評会(OLIVE JAPAN International Extra Virgin Olive Oil Competition)が4月に開催され、その結果最優秀、金賞、銀賞に輝いたオリーブオイル生産者、オリーブ関連商品を取り扱う販売者が、7月開催の「オリーブマルシェ」(二子玉川ライズ・ガレリア)にて展示販売をするのだ。そこではそれぞれのオリーブオイルをテイスティングしたり、商品をお試しで味わったりすることが出来るので、オリーブオイル好きにはたまらない。欧米では「オイルバー」なるものがあって、いろいろなオリーブオイルをテイスティングする場所が多くあるらしいが、日本では聞いたことがない。だから、このOlive Japanは貴重な場所なのだ。
オリーブオイルに興味を持ち始めたのは、トム・ミューラーの「エキストラバージンの嘘と真実」を読んだのがきっかけだった。安いオイルには混ぜ物がしてあって、Extra virgin olive oilと書いてあってもその品質が保障されるものではない、ということにまず驚いた。
著者が取材して得た多くの当事者からの記録と共に、オリーブの木の育て方、オイルの搾り方、品質の決め方、味見の仕方、oilに含まれる多くの化学物質についての知識がぎっしりと詰まっていて、どの章も興味深いものだった。
マフィアや裏社会の人間が行う裏取引を介して、品質の悪いオリーブオイルが巷で横行し、それを世界中の人々がエキストラバージン・オリーブオイルと思わされて飲ませられているのだと証言するものが多くいた。「ワインだったらラベルに書かれていることを信じられる。ところが、オリーブオイルの瓶に貼られたラベルはまったく信用ならない。本当に優れたオイルなのか、それとも粗悪品なのかわかったものじゃない」とスーパーマーケットのオイル瓶をチェックしながら、「エキストラバージン?このくずみたいなオイルのどこにバージニティ(純情さ)があるっていうんだ」とオリーブオイル生産者組合長(ミラノ)のフラビオ・ザラメッツラがいうのにも驚いた。
こうしたことから、今ではフランス産ワインのAOCと同様に、EUが規定する食料品の原産地名認定・保護のための制度である「原産地保護呼称(PDO=Protected Designation of Original)」を適用し、品質管理委員会のチェックを受けてオリーブオイルも格付けされ認定されるようになった。国際オリーブ協会(IOC)は、①一連の化学的基準:遊離化したオレイン酸の割合が0.8%以下であること、過酸化物価が1キログラムにつき20ミリ当量以下であること、②テイスティングパネルによる官能評価試験:オリーブの果実風味を有し、味や風味の欠陥が1つもないこと、の両方に合格したものをExtra virginと称してよいとしている。
ちなみにVirgin olive oilの定義は、オリーブの果実から機械的方法だけでつくられたオイルのこと。つまり、化学的操作なしにオリーブの実の洗浄、粉砕、撹拌、抽出、遠心分離、ろ過を経て作られたオイルのことを指す。エキストラバージンがその中の最高品質であることはいうまでもない。
高品質のエキストラバージン・オリーブオイル内には、天然に生じるオレオカンタール(Oleocanthal)という有機化合物が出来る。これは強い抗酸化作用と、鎮痛剤に使われるイブプロフェンに似て、シクロオキシゲナーゼ(COX)を非選択的に阻害する抗炎症作用を持つ。毎日50g摂取すると、イブプロフェンの成人の服用量の1/10の服用と同様の効果があると考えられている。上質なオリーブオイルがのどを通るときにピリッと感じる胡椒のような刺激が、オレオカンタールによって生じることを、ユニリーバ(オランダとイギリスに本拠を置く多国籍企業)の研究チームが最初に発見したといわれている。
また、オリーブの果実と葉、オリーブオイルには、ヒドロキシチロゾール(Hydroxytyrosol)というポリフェノール類の一種で、強力な抗酸化作用を有する物質が含まれており、そのためDNAの損傷やLDLの酸化を防止する作用があることが示されている。さらに、血小板の凝集抑制、炎症誘発性酵素の抑制作用を有することから、心血管疾患の予防効果も期待されており、こうしたオリーブオイルの効能は、地中海食(Mediterranean diet)においても重要な位置を占めている。
2012年に始まったこのOlive Japanの初めての最優秀賞は5つのOilで、金賞は32だった。
・FOREST EDGE FARM 生産“Extra Virgin Olive Oil – FRANTOIO” (オーストラリア)
・ACEITES CAMPOLIVA, S.L. 生産“MELGAREJO DELICATESSEN” (スペイン)
・ACEITES CAMPOLIVA, S.L. 生産“MELGAREJO GOURMET” (スペイン)
・Almazaras de la Subbética S.L. 生産“BIOLIVA” (スペイン)
・LUCERO OLIVE OIL 生産“Arbequina” (アメリカ)
2016年今年の最優秀賞は11に増え、金賞は213となった。これだけ多くの審査をするのは大変だろう。主催者の苦労を察するに余りあるが、それだけ大きなイベントに成長したのだともいえる。それはそれで素晴らしいことだと思う。
・DON PASQUALE(イタリア)
・INTINI Bio Coratina(イタリア)
・Olio Extravergine di Oliva 100% ITALIANO NOCELLARA(イタリア)
・CASA DE SANTO AMARO PRESTIGE(ポルトガル)
・VIEIRU DOP GATA-HURDES(スペイン)
・FIRST DAY OF HARVEST PICUAL(スペイン)
・MELGAREJO HOJIBLANCA PREMIUM(スペイン)
・CENTENARIUM PREMIUM (スペイン)
・ORO DEL DESIERTO Picual(スペイン)
・PALACIO MARQUES DE VIANA(スペイン)
・Ascolano Extra Virgin Olive Oil(アメリカ)
このいくつかを試飲してみたが、どれも素晴らしいオイルだった。華やかな香りのものがあれば、香りは控えめだが力強い味で圧倒するものもあって、この場でしか味わえない嬉しさから、いくつものテントを巡って販売員との会話を楽しんだ。私にとっては、肉フェスより、オクトーバーフェストよりうきうきする時間だった。ちなみに、私の自宅でのoilは2012年に最優秀賞を取ったArbequinaをAmazonで購入している。
読者がoilに興味を持っていただけたら、是非いくつかtryして欲しい。その時には、ワインのテイスティングのように、ストリッパッジョstrippaggioをしてみたらいかがだろう?
※strippaggioとは、サンプルのオイルを口に含んで、音を立ててオイルをすする行為。口の両隅から空気を急激に吸い込むのがコツ。こうすることでオイルが空気や唾液と混ざり合って乳化し、舌の味蕾全体に均等に行き渡る。さらに、オイルの分子が鼻腔にも送られる。鼻の奥にあるレトロネイザル嗅覚により、単に口で食べるよりも幅広い香りを感じることが出来る。
<参考資料>
1) Olive Japan:http://olivejapan.com/
2) エキストラバージンの嘘と真実:トム・ミューラー(実川元子訳),日経BP社刊,2012.
3) オレオカンタール:https://ja.wikipedia.org/wiki/オレオカンタール
4) "Synthesis and Assignment of Absolute Configuration of (-)-Oleocanthal: A Potent, Naturally Occurring Non-steroidal Anti-inflammatory and Anti-oxidant Agent Derived from Extra Virgin Olive Oils." Smith, Amos B., III; Han, Qiang; Breslin, Paul A. S.; Beauchamp, Gary K. Organic Letters (2005), 7(22), 5075-5078.
5) Understnding the Pyramid:http://www.oldwayspt.org/system/files/atoms/files/NewMedKit_0.pdf
6) アルヴェキーナ エキストラバージン オリーブオイル:https://www.amazon.co.jp/gp/product/B004KPX4L8/ref=oh_aui_detailpage_o07_s00?ie=UTF8&psc=1