神津 仁 院長
- 1999年
- 世田谷区医師会副会長就任
- 2000年
- 世田谷区医師会内科医会会長就任
- 2003年
- 日本臨床内科医会理事就任
- 2004年
- 日本医師会代議員就任
- 2006年
- NPO法人全国在宅医療推進協会理事長就任
- 2009年
- 昭和大学客員教授就任
- 1950年
- 長野県生まれ、幼少より世田谷区在住。
- 1977年
- 日本大学医学部卒(学生時代はヨット部主将、
運動部主将会議議長、学生会会長)
第一内科入局後、1980年神経学教室へ。
医局長・病棟医長・教育医長を長年勤める。 - 1988年
- 米国留学(ハーネマン大学:フェロー、ルイジアナ州立大学:インストラクター)
- 1991年
- 特定医療法人 佐々木病院内科部長就任。
- 1993年
- 神津内科クリニック開業。
「はじめてのThailand~謎の飲み物を探して~(Ⅱ)」
「タイは微笑みの国」というキャンペーンがあって、にこやかな女性の笑顔を期待したが、早朝着いたスワンナプーム国際空港の職員は、誰も皆無表情で、不機嫌な顔をしていた。朝の5時頃ということもあるが、眠そうに座っていた空港内の両替所の職員も、こちらの顔を見ないで、パスポートと紙幣だけを見ていた。韓国でもベトナムでもほんの少しだけ目を合わせてくれて、ありがとうございます、の一言と一緒に一瞬だけでも微笑んでくれたのに、これは期待外れだった。もちろん、レストランに行けばそれなりの笑顔でお客をもてなしてくれるが、それはどこの国でも同じだ。デパートでの対応はほとんど日本と変わりない。
「微笑みの国」というイメージ戦略に乗せられたこちらが悪いのだが、そうそう見ず知らずの人に笑顔を振りまく人間などいないのだと、現実を見せつけられた思いがした。
■バンコクの電車に乗る
バンコクは悪名高い渋滞都市だ。2013年にBBCが世界1位の渋滞都市だと発表して、タイの人々の物議を醸したが、2015年には渋滞が激しい都市のラキングは世界8位まで下がった(1位はジャカルタ)。とはいっても、バンコク市内は車での移動が難しいので、自ずから電車を利用することになる。
幹線道路の上には、BST(Bangkok Sky Train)という近代的な電車網が張られていて、市内の主な場所に移動するには大変便利だ。朝晩の通勤通学の時間帯には、日本と同じような混雑があり、ホームの上は人でいっぱいになるほどだ。さすがにすし詰めにはならないが、体が接触するほど混むことは当たり前のようだ。
BSTには日本のように時刻表はなく、4~8分間隔で順次列車が到着する。ホームはもちろん暑いが、車内は効きすぎるほどの冷房が入っている。国際観光都市だけあって、車内の乗客は色とりどりで、タイ人、中国人、韓国人、ロシア人、南米や北米、ヨーロッパ人など多様な人々が乗っている。ほとんどが若い人達で、平均年齢は30代くらいか。我々が立っていると、座っていた若いOLたちがさっと立って席を譲ってくれる素振りをした。私は「Next station」といって座ってもらったが、白髪というだけで我々夫婦に席を譲ろうとするのは、やはり年配者を敬う文化的な素地がこの国にあるからだろう。悪いことではない。
車両はドイツのSIEMENS社製で、車内も外見も機能美を持ったモダンな作りになっている。一日乗車券は140バーツで、日本のパスモのようなカードを売ってくれる。このことには後で気付いたので、我々はいちいち駅で硬貨を入れて乗車カードを買わなければならなかった。旅行者が多い観光都市だから、我々と同じように分けが分からずに発券機でまごまごしている人も多く、すぐに長い行列が出来る。渋谷や新宿ほどの乗降客はいないにしても、自由が丘や下北沢くらいの混雑はあるので、最初は多少焦りながら買っていた。しかし、3日目には駅の名前も憶え、乗り換えも出来るようになったから、習うより慣れろのことわざ通り、とにかく何でもチャレンジしてみることが大事だ。
上の図は市内の鉄道路線網を示したものだ。2010年にはエアポート・レール・リンク(Airport Rail Link)が出来て、スワンナプーム国際空港から市内まで15分ほどで行くことが出来る。BSTのカバーしていないところには、2004年に開通したMRT(Mass Rapid Transit)という地下鉄が伸びている。パープルラインという路線が開通したのは2016年8月6日だから、新しい交通網がバンコク市民の足を確保したということになる。
日本では駅ナカにお店がたくさん出来ているが、BTSの駅では、改札口から出たところに飲み物や食べ物の店がある。通勤客の利便性を考えてのことだろうが、観光客にも大変便利なサービスがあった。それは外国通貨の換金サービスだ。
日本円の場合には、羽田や成田空港で換金したり、到着先の空港で換金するのが一般的で、街中での換金はレートが不確かだったり、一部抜いて詐欺行為をする不逞の輩もいて信用できない。それが、バンコクでは公共の場である駅にあるので大変助かる。この日のレートは1万円で3375バーツ。空港よりも10バーツほど下がったが、安心して換金できるのが良い。
上の写真にある「Super Rich international exchange」は、1965年創業のタイで最も早くタイ王国から両替の許可を得た私的企業であり、その信頼度は高い。パスポートさえ持っていれば簡単に両替できるので、旅行者には有り難い。こうしたサービスは日本にはないもので、さすがに国際都市と驚く。ここで換金してバーツが手に入ったので、早速例の「アンチャン」ハーブティを探しに行くことにした。先日ホテル近くのスーパーマーケットで探した時には見つからなかったので、今度は地元の市場を見てみようということになった。
■いよいよ謎の紫色の飲み物を探しに
ネットで下調べをすると、近場ではラライサップ市場(Lalaisap Market)が良さそうなので、ホテルのコンシェルジェに地図で場所を教えてもらい、早速我々のホテルの近くのAsok駅からSiam駅で乗り換えてChong Nonsi駅まで行くことにした。
この市場は、周辺のサラリーマンやOLが食事をしたり買い物をする、いわゆる日常使いの市場だ。観光客目当ての市場とは違い、実用品や食料、惣菜、洋服や靴や下着等々、リーズナブルな値段で売っている。JTBのツアーガイドが「タイでは値切るのが当たり前。買い物をする時には、ロッダイマイ(lot dai mai=安くして)といってくださいね」といっていたので、750バーツの子供服を600バーツにして欲しいといったら、おばさんが急に不機嫌になって「とんでもない客だ」といわんばかりに商品を片付け始めた。子供用の靴を買おうとした時にも同じように売っているおばあさんが不機嫌になったから、どうもこの市場は市民が他のどこよりも安い値段で買い物をするところで、値踏みするのはご法度のようだ。家内が像のしっぽの毛で作ったリングを買った時にも、「他では3倍の値段するからね」といわれて納得して買わされた。確かに、ツアー客は見なかったし、ちょうど昼飯時の市場内の大衆食堂は、どこも会社勤めと分かるIDカードを胸に下げた人たちでいっぱいだった。
しばらく市場内を探してみたが、お目当てのButterfly pea、Anchan(アンチャン)が見つからない。照り付ける太陽はテントの下でも空気を熱くして、じわじわと噴き出すような汗になる。時折商店のエアコンが涼風を送ってくれるのだが、それも一時しのぎでしかない。だんだんと頭がぼーっとして考えがまとまらなくなる。家内がお土産にと買ったTシャツ屋さんに「この飲み物が欲しいのだけれども」とiPhoneにキャプチャーした写真を見せると、「ついてきなさい」と30mほど先の食堂のドリンク売り場を教えてくれた。親切に感謝はしたが、残念ながら目的のものではなかった。
「市場の中にmallがあるみたいだけれど」と家内がいうので、一度あきらめてラライサップ市場を出たのだが、もう一度気を取り直し、今度はテントではなく雑居ビルに入っているテナントを見て歩いた。すると、その地下にやや小さめのスーパーマーケットがあって、入り口に立っていたマネージャーらしき黒服の男性に「Butterfly pea、Anchanを探しているのだけれど、ありますか?」と聞くと、入り口のすぐそばの棚を指さして、ここにありますよ、と教えてくれた。ついに、あの謎の飲み物が手に入ったのだ!
それはきれいな瓶に入った可憐な花びらだった。50gとかかれた瓶は棚に20本ほど並んでいて、おそらく町の人々が普段使いに買っていくものなのだろう、特別の売り広告もなく静かにそこにあった。手に取ってみると、注意書きにこう書いてあった。
Benefits: Boosts immune system, stimulates blood circulation. Improved eyesight, and nourishes hair. Direction: Put two petals into cup and add boiling water. Let steep for 2 minutes. Put in glass add sugar, lemon and ice.
(効能:免疫系を高め、血液循環を良くします。視力を改善し、髪に栄養を与えます。入れ方:カップに2花びらを入れ、熱湯を注ぎます。 2分間浸します。グラスに入れ、砂糖、レモンと氷を加えます)
これが、タイの人たちを健康で美しい髪にしている秘密の飲み物なのだ。やっと出会えた謎の紫色の飲み物。我々はそこにあった瓶を10本ほど店のバスケットに入れ、レジに向かった。レジ打ちの女性はこちらのワクワクした気持ちとは裏腹に、何の感動も見せずに我々の獲物をビニール袋に入れてくれた。それはそうだ、感動しているのは我々なのだから。
ご想像通り、私は今もこの紫色の飲み物を毎日飲んでいる。あまり変わったところはないが、砂糖の代わりに山田養蜂場のはちみつを入れ、レモンのスライスを入れたAnchanは、我が家のテーブルの上でみんなを楽しませている。
<参考資料>
1) 【タイ】バンコクの交通渋滞、世界第8位に=ワースト1はインドネシアのジャカルタ:
http://www.globalnewsasia.com/article.php?id=1533&&country=2&&p=2
2) バンコク・メトロ:https://ja.wikipedia.org/wiki/バンコク・メトロ
3) 空港⇔市内ホテルまでの交通事情:http://www.bangkoknavi.com/special/5034049
4) BTS/MRT路線図:http://www.bkkzoom.com/bangkok_transportation.php